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映画「岸辺露伴は動かない 懺悔室」の見どころは? オリジナル展開に泉京香の相棒ムーブ……
原作は露伴が“本当に動かない”設定
2025年5月16日 00:00
- 【映画「岸辺露伴は動かない 懺悔室」】
- 5月23日 公開
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マンガ「岸辺露伴は動かない」シリーズを原作とした映画「岸辺露伴は動かない 懺悔室」が、5月23日より全国公開される。
これまで“実写化困難”と言われてきた荒木飛呂彦氏の世界観を見事に表現し、原作ファンからも高く評価されてきた同シリーズ。最新作となる今作では、一体どんな映像化が実現するのだろうか。
本稿では原作コミックスに収録された「懺悔室」の内容について触れつつ、実写版の見どころや注目ポイントを紹介していきたい。
漫画家・岸辺露伴はヴェネツィアの教会で、仮面を被った男の恐ろしい懺悔を聞く。それは誤って浮浪者を殺したことでかけられた「幸せの絶頂の時に“絶望”を味わう」呪いの告白だった。幸福から必死に逃れようと生きてきた男は、ある日無邪気に遊ぶ娘を見て「心からの幸せ」を感じてしまう。その瞬間、死んだ筈の浮浪者が現れ、ポップコーンを使った試練に挑まされる。
「ポップコーンを投げて3回続けて口でキャッチできたら俺の呪いは消える。しかし失敗したら最大の絶望を受け入れろ……」。奇妙な告白にのめりこむ露伴は、相手を本にして人の記憶や体験を読むことができる特殊能力を使ってしまう……。やがて自身にも「幸福になる呪い」が襲いかかっている事に気付く。
スタンドバトルじゃないのに面白い……「岸辺露伴は動かない」シリーズ
原作「岸辺露伴は動かない」は、「ジョジョの奇妙な冒険」の第4部「ダイヤモンドは砕けない」に登場する漫画家・岸辺露伴を主人公としたスピンオフ作品。単行本はこれまで2冊刊行されており、5月19日に最新3巻が発売される予定となっている。
大まかなストーリーとしては、露伴が自身の創作に使うネタ探しとして取材を行ない、奇妙な出来事の数々に巻き込まれていく……といった流れ。基本的な設定は「ジョジョの奇妙な冒険」本編と変わりがないが、スタンド能力によるバトルはほとんど描かれず、ジャンルとしてはサスペンスやホラーに近くなっている。
実写化が始まったのは2020年12月のことで、これまでTVドラマが不定期で制作されてきた。また2023年5月には、劇場版「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」も公開されている。
脚本は「仮面ライダー」シリーズなどで知られる小林靖子氏が手掛け、演出は渡辺一貴氏が担当。また主人公・露伴役のキャストには、一貫して高橋一生さんが起用されている。
露伴といえば、変わった登場人物が多い「ジョジョの奇妙な冒険」のなかでも屈指の変人。神経質でこだわりが強く、良いマンガを描くためなら常識も法律も気にしない破天荒な性格でありながら、不思議なカリスマ性がある……。そんな到底実写化できそうにない人物像を、高橋さんは見事な演技力によって表現している。
また実写版では、露伴の担当編集者・泉京香が“相棒”的なポジションを務めているのも特徴。京香はマイペースかつ朗らかな性格で、露伴に負けず劣らずの変人。その独特の存在感を飯豊まりえさんが見事に演じており、シリアスで重苦しい空気になりかねない作品世界に、ちょっとしたユーモアを添えている。
命を賭けた駆け引きに痺れる! 初期の名作エピソード「懺悔室」
今回実写化される「懺悔室」は、単行本1巻の収録作品だ。発表順としてはシリーズでもっとも早く、1997年に「週刊少年ジャンプ」で掲載されたものだった。
作者・荒木氏の単行本解説によると、執筆のきっかけは編集部からの依頼。「スピンオフ・外伝は絶対禁止」という条件を伝えられ、当初は露伴が出てこないバージョンを描いていたが、その後露伴の解説があった方がいいと判断し、現在の形へと変更したという。
荒木氏はこの禁止令がなければ同シリーズは以後描かなかったとも記しており、まさに「岸辺露伴は動かない」シリーズの“原点”にあたる。
作中で描かれるのは、とある男がかつて犯したという罪についての物語。その男は若い頃トウモロコシの食品市場で働いていたが、東洋人の浮浪者がやってきて食べ物を恵んでほしいと訴えた。しかし彼を怠け者の落伍者だと決めつけた男は冷たい仕打ちをして、結果的に命を奪ってしまう。すると浮浪者の怨霊が男の足にしがみつき、お前が「幸せの絶頂の時」に迎えにきて、酬いを受けさせてやると宣言する。
その後、男には奇妙なほどの幸運が重なり、億万長者となって妻と娘のいる暮らしを手に入れる。だがまさに幸せの絶頂を感じた時、浮浪者の怨霊が戻ってきて、娘に憑依すると、命がけの“運試し”を行なうよう要求。運試しの内容はポップコーンを高く投げ、三回続けて口でキャッチするというもので、怨霊は“失敗した瞬間に命を奪う”と男に迫るのだった……。
「男がこの窮地をいかにして切り抜けるのか」が大きな見どころとなっており、「ジョジョの奇妙な冒険」でもお馴染みの白熱した頭脳戦が繰り広げられていく。
京香の活躍に期待? 映画「岸辺露伴は動かない 懺悔室」の見どころ
原作の「懺悔室」は49ページで完結する短編。しかも露伴は教会の懺悔室で男の告白を聞くだけで、物語の内容には一切関わってこない。そのため実写映画版は、ある程度オリジナル展開を盛り込んでストーリーを膨らませることになりそうだ。
実際に4月10日に公開された映像では、原作にはないシーンが多数含まれていた。たとえば露伴がスタンド能力「ヘブンズ・ドアー」を使い、人を本にする場面が描かれているほか、露伴自身が「幸福という名の“呪い”に襲われる」という情報も明かされている。おそらく原作では傍観者だった露伴が、何らかの形で当事者の立場に置かれるのだろう。
また、もう1つの注目ポイントは、泉京香の活躍。原作には登場すらしていない彼女だが、予告映像ではイタリアの街ではしゃぐ姿が映し出されており、今回も相棒のようなポジションを担うことが予想される。
参考までに振り返っておくと、前作の映画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」もオリジナル展開が多数盛り込まれていた。原作は露伴がルーヴル美術館にある「この世で最も黒い絵」を見るためパリに向かう筋書きだったが、映画ではその前に美術品のオークションに参加する展開や、謎の刺客に襲われる展開などが追加されている。加えて、露伴の過去と深く関わる女性・奈々瀬にまつわるエピソードも掘り下げられ、より壮大な話へとスケールアップされていた。
さらに、原作では出てこなかった京香が、メインキャラクターの1人として登場。オークションはもちろん、パリにも同行し、共にルーヴル美術館の調査を行なう役どころで、露伴とのコミカルなやりとりに拍車がかかっていた。
原作の短さと映画の尺を考えると、やはり「岸辺露伴は動かない 懺悔室」も、オリジナル展開の配分が多いのではないだろうか。とはいえ露伴のパーソナルな部分が物語に関わってくる「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」とは違って、今回はほとんど“他人事”に終始する話だ。どんな風に露伴をストーリーに絡ませるのか、そしてそこで京香がどのような役割を担うのか。制作陣の手腕に期待が高まる。
そのほか、予告編などに登場している仮面職人・マリアの存在にも注目したい。映画「惡の華」の仲村佐和役や映画「地獄少女」の閻魔あい役などで知られる玉城ティナさんが演じるキャラクターで、露伴がヴェネツィアの迷宮に迷い込むきっかけを作り出すという。原作ではそのような役どころの人物は出てこないので、オリジナル展開に関わってくるのだろう。
これまで制作されてきた実写シリーズは、驚くほど原作理解度が高い作品ばかり。今作のオリジナル展開も、ファンの期待を裏切るものにはならないはずだ。
原作の最高傑作とも言われる「懺悔室」のエピソードをどのように実写化してくれるのか、気になる人はぜひ劇場に足を運んでみてほしい。
(C) 2025「岸辺露伴は動かない 懺悔室」製作委員会
(C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社