特別企画

アニメトレンドを生み出す“個人アニメーター”最新事情「より自由な映像表現としてのアニメ」【IMART2024】

【IMART2024】

11月12日~16日 開催

 11月16日、IMART2024において、トークセッション「アニメーターが考える「より自由な映像表現としてのアニメ」」が実施された。本トークセッションは、最近増えつつある、個人もしくは少人数でMVやWEB作品としてアニメを制作するクリエイターに着目したもので、個人作家として最前線で活躍中のアニメーターが登壇。

 NEE「不革命前夜」や、「ずっと真夜中でいいのに。」、「綺羅キラー」などで知られる、アニメーターのこむぎこ2000氏(以下こむぎこ氏)と、「Ryan’s World Ninja Adventures Animation」などで知られるアニメ監督/ディレクター/研究者/教育者のりょーちも氏の2人がアニメに関わったきっかけやお互いの作品に対する印象、および現在のアニメの制作環境について感じていることについて語った。また、本セッションではモデレーターをアニメライターの太田祥暉氏が務めた。

「IMART2024」アーカイブチケット販売ページ

セッションはZoomにて行なわれた。登壇者したのはアニメ監督/ディレクター/研究者/教育者のりょーちも氏(左上)、アニメーターのこむぎこ2000氏(右上)、モデレーターを務めたアニメライターの太田祥暉氏(下)

アニメをつくるきっかけや、お互いの作品についての感想を語る

 まず「アニメを作るうえでのきっかけや、目標点」を質問されたこむぎこ氏は、目標として新海誠監督の名前を挙げ、アニメーションを作り始めたきっかけは「君の名は。」であることや、絵を描き始めた日が同作の公開日であることを語った。「『君の名は。』の音楽と映像の演出から感銘を受け、映画館を降りたところにある書店で文房具と技法書を購入し、そこから自身の制作がスタートした」「本作から、『音楽と映像の融合』を受け取ったので、今アニメーションMVを作っているのかな、と思う。音楽と映像が同じ方向に向かって、重なった時の浮遊感が好きで、そこに感銘を受けた」と話した。

 他方、りょーちも氏は、「アニメ業界に入る切っ掛けとなった、小林治監督に声をかけられる以前から、業界に入る気持ちはあったのか」を質問され、「実はもっと前にアニメ業界に入っている」。「大阪の下請け会社で8~9か月ほど原画トレスをしていたが、教えてくれていた先輩から『才能がない』と言われて業界を諦め、その後東京のゲーム会社で働いた」。「そんな中で小林治監督に『描いてみる?』と声をかけられた」と話した。

 その上で目標については、特定の監督になりたい・憧れているということは無いが、昔関西で放送されていた「アニメだいすき!」(読売テレビ。学休期間にOVAやアニメーション映画を中心に放送していた)を見ていたことから、1980年代~1990年代の名作OVAの雰囲気を醸し出す作品を制作してみたいという思いがあるとのことだ。

 次に、「お互いの作品についてどう思うか」を聞かれ、こむぎこ氏は「りょーちもさんの『作画MAD』みたいなものを見て、模写して練習していた。ひたすら絵がうまいという認識です。3Dになっても好きです」「自分は3Dを熱心に追っている人間ではないが、3Dだと重みを感じる印象を受ける。でも、りょーちもさんの3Dは軽やかな3Dだと感じる」と話した。

 りょーちも氏はこむぎこ氏の作品に対し「まず色。色でここまで世界観を制御してしまうのかと気持ちがよくなる。自分が描くかわいいキャラクターは等身が低かったり、萌えにいってしまうが、こむぎこさんの作品は高校生くらいのキャラクター像の、『誰かであってこの人じゃない』というバランスの作り方、『等身大のあなた』という感じを特徴的に捉えている」「作品のなかでキャラクターにフォーカスするんじゃなくて、『頭がおかしいんじゃね?』というような世界観を出してくる。浮遊感を含めたトリップした感じを等身大の中に落とし込めるバランスと、色合いで見せられるパッケージングの強さが凄いなと思っている」と語った。

 こむぎこ氏は、自身の作品の色合いに関して「色合いは大事にしている。色は画面の占有面積が大きいので、色のことを考えるだけで画面が大きく変わる領域」とした。

「一緒に遊んで作っている」「身内ノリ」で制作

 セッション中盤には現在のアニメーションの「尺」に関するトークが展開。「テレビシリーズの尺は60年以上変わらないが、web配信作品は尺が明確に決まっていない。尺のフォーマットが今、変わりつつあるが、どのようなフォーマットのアニメが視聴者にとって最も見やすいものだと思うか。それによって制作の手法はどう変わってくるのか」と質問が投げかけられた。

 これに対しりょーちも氏は、尺ではあまり考えておらず、プラットフォームの視聴者層に合わせた長さで制作すると述べた上で、「テレビの30分枠の型はアニメ業界というより、テレビ局の仕様で、テレビ局の問題」「もう少し営業をかけて、テレビの特集枠を掴んできたらいいと思う。そうしたらもっと自由にやれるのに」と話した。

 加えて、海外のyoutubeチャンネル「Ryan's World」で、英語のアニメーションを制作しているりょーちも氏は「他の言語の作品となると、日本語のショートアニメを制作するのと尺間は変わってくるのか」と聞かれ、「今探っている真っ最中ではあるが、最初は日本語で作っているものをコンバートして英語で作っていたが、英語にすると文章の長さが違う上に、セリフが伸びてしまいカットが合わなくなるため、英語のセリフに合わせてアニメを制作する形にした」「第二シリーズでは英語のレベルを上げ、第三シリーズでは英語のギャグのテンションなどがわかったので、もう一度日本語で作って海外の声優さんに声を入れてもらうことを試してみる」と試行錯誤の制作の様子を話した。

【Ryan’s World: The Movie | Official Trailer | In Theaters August 16】

 りょーちも氏は続けて、「自分はアニメを丁寧に作り続けるのにそんなに向いていないとわかってきた。最近は『一緒に遊ぶか、遊ばないか』で組む人を決めていて、『Ryan's World』も一緒に遊べるかと聞いて、いいよ、といって貰えたから始めた」「『Ryan's World』では、ライアン君にゴーグルをかぶって貰って、演技をしてもらい、その録画データをベースにカットを作っていた。こんな風に、自分はアニメ制作をしているというより、アニメで『キッザニア』をやっている感覚」と自身のスタイルについても言及。アニメーターだけでなく、作品に関わる様々な人と「一緒に遊んで作っている」とのことだ。

 こむぎこ氏は、こうしたりょーちも氏のスタイルについて、「そういう作り方を目指したい。そういう作り方のほうが当事者意識を持ってくれるかなと思う」と話した。また、こむぎこ氏は最近は一人で制作する場合も多いとのことだが、誰かに頼む場合は同じインディーの畑にいる気の合う友人等に動画や着彩を任せるとのことで、「かなり身内ノリで作っている」と話し、りょーちも氏も「身内ノリは大事」と頷いた。

 こむぎこ氏は更に、「自分は当事者意識を大事にしている。自分一人だけが志が高く、周りがついて来ない状況は孤独になってしまう。なので、技術的に覚束ない部分があったとしても、自分のやりたいことに楽しんで付き合ってくれる人と一緒にやりたいと常に思っている」と語った。

 それを受け、りょーちも氏は、自分たち二人のやり方は、恐らく基本的に個人作家にお願いしていると思う。一個の作品を一人で作れる人で組んでいるのでやりやすく、「わかるよね」「うん、わかる」で話が進んでいく。これが「身内感」の正体なんじゃないか、と持論を述べ、更に「少人数でアニメーションを作っている人たちの特徴は、『それぞれが自分一人で動ける』ってことなんだと思う」と続けた。こむぎこ氏も「インディーの界隈でも、自分ひとりでやっていける人たちが集まっていて、ある人がリーダーの時は手伝って、その人も手伝い返すといったことがある」とりょーちも氏に同意した。

マーケットを絞らず、やりたい方向で攻める

 その後、こむぎこ氏が設立したstudio ALBLEの話題や、アニメ業界、「ウェブ系」といったワードでトークは盛り上がる中、「時代の変化を受けつつ、どのように今制作している作品は変化しているのか。新しい試みをしているか」という質問がされた。

 こむぎこ氏は「今は何もやっていない。やりたいことはボンヤリあるが、言ってもやらないことが多くいので、手を付ける前に言うのは気が引ける」としつつ、「長期的な目標として、脚本を書いて、キャラが喋っているようなアニメは作りたい」と答えた。

 こむぎこ氏はさらに、「インディーの短尺の映像をどうお金にするか。どこに流すのか、どうパッケージングして売るのかを悩んでいる」「MVはパッケージが完成されているし、続けていれば生活はできる。5分というパッケージで、アーティストの力があれば多くの人に見てもらえることができる。そこから出て行って、インディーで10分アニメを制作するのも大変なのに、誰にも見られずに寂しく思うのも嫌だな……という葛藤がある」「具体案はないが、短い尺の映像を、見られる形で、お金にもなるような仕組みを考えられないかな、とは思っている」と自身の現在抱えている葛藤や、今後についても語った。

 こむぎこ氏への助言を求められ、りょーちも氏は「世界にいこう。『アヌシー国際アニメーション映画祭』とか、アメリカのフェスに実際に足を運んで、プレゼンテーションができる人と組んだりしながら、やりたい方向で攻めればいいと思う」「マーケットの場所をネットに絞らず、もっと攻めていけば大きくなっていくんじゃないか」とアドバイスを送った。

 また、「海外の映画祭等はステータスとしても意味があるので、出すだけでも意味がある」「日本のアニメは市場として成熟していて、文化として定着している。だから、そこに価値があるのは間違いない。それに、コロナでインドア系の文化が花開いて、家で何かを視聴するのが当たり前になったことで、映像のプライオリティが上がった。なのに、年収200万の人がいたりして、その価値と収益が繋がっていない。そう考えた時、自分の年齢だと焦るけど、こむぎこさんの年齢なら外にアタックすればいいんじゃないか、と僕には見える」と続けた。

 こむぎこ氏はアドバイスを受け、「自分は完璧主義なので、外堀から埋めがちで、結局なにも出来上がらないことが多かった。それを振り返って、今は昔の自分を取り戻そうと思い、ラフでもなんでもいいから、作品を出さないとマズいと感じているので、ちょっと頑張ろうと思いました」と返した。

 一方、自身の新しい試みを聞かれたりょーちも氏は「破天荒みたいな傾向なので、自分が監督をやると、みんなで遊んでしまい、作品をぐちゃぐちゃにしてしまう。なので最近は別の人を監督にしている」「これまで最終的に映像をまとめてくれてた人に監督をやってもらっているから、自分は自由に遊ぶ場所を作って、監督にまとめてもらって、といったキャッチボールで遊びながら、制作をやれている」。

 更にりょーちも氏は、「昔話になるが、CG業界に入った時に『亜人』という作品を通じて、ハリウッドやディズニーでやっているワークフローを学ぶ機会があった。初期段階で何をするか、何を準備すれば映像として成立するか、といったプロダクションとしての概念を1から勉強でき、作品をどう作るかを、骨子から組み立て、どうプロジェクトの中に落とし込めるかを討論してやったおかげで、ベースの考えとして定着した。こういう自分の持っているプロダクション概念をバッファとして持っているから、一緒にやる人と好きに暴れて、最後にワークフローを使って整えることで、最後まで事故らずにできている」と語った。その後、自身の既存の枠に囚われない自由な制作スタイルを話した上で、「自分はスタッフロールに監督や、総監督ではなく、『研究者・教育者』といった肩書で乗ると思う」と話し笑いを誘った。