特別企画

キーワードは”コミュニティ”。編集者/プロデューサーに捧ぐセッション「個人クリエイターの作品が切り開く未来」【IMART2024】

【IMART2024】

11月12日~16日 開催

 11月16日、IMART2024において、トークセッション「個人クリエイターの作品が切り開く未来」が実施された。本セッションは、デジタルツールの進歩により、大規模なチームでなければ制作することができなかったアニメやゲームを、個人クリエイターもしくは少人数のチームが完成させることができるようになったことを踏まえ、個人クリエイターと向き合うプロデューサーの存在も優れた作品のためには重要という考えのもとに開催された。

 現在進行形でアニメ・ゲーム業界の「インディー」に関わるプロデューサーが抱える悩みを、漫画家という個人クリエイターと向き合ってきた漫画編集者に相談しながら、アニメ・漫画・ゲーム業界におけるクリエイターとプロデューサーの理想的な関係を模索するという狙いで、登壇したゲーム編集者/プロデューサー/WSS playground代表の斉藤大地氏と、studio ALBLEプロデューサーのワタナベミズキ氏が、コルク代表取締役社長/編集者の佐渡島庸平氏に質問をし、その返答から話を広げる形で進行した。なお、モデレーターは、一般社団法人MANGA総合研究所 専務理事の中山英樹氏が務めた。

Peatix「IMART2024」アーカイブチケット販売ページ

トークセッションはZOOMにて行なわれた。登壇者は佐渡島庸平氏(左上)、斉藤大地氏(右上)、ワタナベミズキ氏(左下)、モデレーターの中山英樹氏(右下)
コルク代表取締役社長・編集者の佐渡島庸平氏のプロフィール
ゲーム編集者/プロデューサー/WSS playground代表の斉藤大地氏のプロフィール
studio ALBLEプロデューサーのワタナベミズキ氏のプロフィール

編集者と作家が歩み寄ることが重要

 本トークセッションは登壇者が佐渡島氏に質問をし、それに対する返答から話を広げる形で進行した。まず最初に、ワタナベ氏から「作品をチームで長く作り続けるために、クリエイターとどのようなコミュニケーションを心がけているか」「クライアントワークの場合、一時的かつ一方的なコミュニケーションになりがちで、クリエイターが苦しい思いをしているケースに出会うことがあり苦慮している」という質問がされた。

 これに対し佐渡島氏は「僕も答えを教えて欲しい」としつつも、「出版社の仕組みの中にいると、作家との関係が短く切れてしまう。それを寂しいと思ってエージェント会社を作ったが、同時に人は人生のフェイズが変わっていくので、『ずっと長くやる」と決めることはいい面もあるが難しい面もあると痛感している。そんな中で新人作家や編集者に対して言うのは、『編集者と考えが違うことをストレスに思うことをやめた方がいい』ということ」。

 「作家は『今この作品をヒットさせたい』と思い、今に集中し、作品の細かい部分を“虫の目”のように見る。一方の編集者は、その作品の5年語、10年後の将来や、著作権の管理といった先のことを“鳥の目”で見ている。こうした視点の違いのどちらかが正解というわけではなく、違うことそのものが価値であり、両方の視点から今何を選んでいくのかをお互いが話し合って納得しないと、作家は作品に打ち込めないし、編集者も納得していないとサポートを頑張りきれない。納得することでお互いが120パーセントの力を出せる、そういう関係を築けることが重要だと伝えている」と話した。

 これに対し、納得をお互い取れているかをどう確認するのかを聞かれた佐渡島氏は、「場を作ってあえて長く喋る。話し合うために時間を使ったというのは関係に繋がる」「編集者も自分がどんな作品を好きかや、何を大切にしていて、何を信念にして動いているのかをクリエイターに伝えておく必要がある」とした。

 更に佐渡島氏は、会社がフルリモートであることに触れつつ、トラブルになってから編集者と作家が会うことが多いが、早めに会うことで関係を築いてからオンラインの関係に移行した方がいいと述べた。これに対し斉藤氏も「会うしかない。会いに行くと皆機嫌がよくなる。誕生日だなんだと理由を付けて人を呼ぶしかない。オフィスとかサロンはそのためにある」と同意した。

 続いて、主体的に企画・制作・販売を考えることができる若手の編集者・プロデューサーの採用・育成方法について両名から質問された佐渡島氏は、「講談社にいたときは、電車の中で社員同士で会った時に、目だけで挨拶をするだけか、雑談をするかの人に分かれていて、ヒットを出す人は必ず後者だった。プロデューサーや編集者は作品や作家を色んな所に繋げていく人なので、人懐っこさがある人を採用するのはとても重要」とした。また、育成の環境については「自分の会社はベンチャーだったので、部署が明確になかった。それを作っていき、つまらない定型の業務がある部署が生まれ、その先にクリエイティブがある状態が生まれた。そうなると、定型の業務の中で自信を得て、会社への貢献を感じられている中でクリエイティビティが発揮されるようになった。こんな風に、社内の業務の定型化と、部署ごとの連携がうまくいくのと同時に、社員が育っていくようになった」と述べた。

 佐渡島氏曰く、社員のレベルアップのための業務の指示や進捗を管理することで、(クリエイティブの会社に入るような人材だからこそ)そうした業務を工夫してこなすようになり、その工夫を認めることで編集者として人材が育っていくそうだ。

 この話を受け斉藤氏は「自分がドワンゴにいた際は『ニコニコ超会議」のブース制作がちょうどいい場だった。こなすことで業務がわかるし、やらないとブースはない。責任はあるけどない、こういう仕事があるといいとは思う」とした。

 佐渡島氏に社員の人数を尋ねられた斉藤氏は、「自分は社員を雇っていない。“ヤクザの盃”のようなシステムでやっている。部下を持つことは自分に向いていない。ギルドのような対等なシステムはうまくいかないと思っているので、あくまで師匠と弟子ではある」とし、「クリエイターに会いに行くときの勝負服を見立てるような、昔気質な昭和のサラリーマンのノウハウを再生してみよう、というのが自分の育成テーマ」と語った。

 また、佐渡島氏は採用基準に関して「作品への理解が深いか」も重視するそうだ。編集者と作家の打ち合わせは作品のコンセプトを磨くためのものになるため、作品からコンセプトを読み取る読解力が必要になるとのこと。ただ、これを重視し過ぎると創作に向いている人間ばかりになってしまい、結果クリエイターとして成功して会社を離れる人が増えたために、現在は採用を役員に任せ、佐渡島氏本人はクリエイティブな人材と、業務を回すのに適した人材のバランスをみる役割に徹しているとのことだ。

雑誌が生み出すコミュニティと、これからの集団形成

 次に、「雑誌編集者は雑誌や編集部といった要素に支えられてきた側面があるが、(講談社からの)独立後も関係がある雑誌や編集部についてどう考えているか」という質問が飛んだ。

 それに対し佐渡島氏は、「雑誌は『この作品にはこういう作品が掲載されている』といったように、作品が見つけやすくコーナーわけされた、作ることと売ることがセットになっている媒体だと思っている。一方で、コルクではクリエイターを雑誌以外にも繋げ出している。クリエイターがAmazonで直接販売したり、LINEのアプリに出したり、Xのインプレッションで収益が発生したりといったことが起きだしていて、出版社の外でも作品が売れるようになってきている。そうした中で、どんなふうに作品を、どこに出していくのかが重要。

漫画の場合は、Amazonを使えば『toC(消費者との取引)』、『LINEマンガ』等に出したり、出版社と関わるなら『toB(企業との取引)』になり、卸し条件や独占機関など条件も取引先で変わってくる」とした。

 コルクでは著作権や二次利用に関する契約、利益の生み出し方など、各売り場の商習慣を理解することと、作家とクリエイティブを作ることの両方が必要になってきていており、社内業務の難易度が上がっているとのこと。佐渡島氏が出版社に在籍していた頃は、先輩たちが積み上げてきたものがあり、意識して努力せずとも雑誌編集者としての強みをもっていたが、現在では「社内でどう部署をつくり、社員が学ぶ場所を作るのか」を一番に考えているそうだ。

 これに対し斉藤氏は、「そもそも『toC』の変数を減らすために『toB』があったはずで、雑誌はそういうものだったはず。雑誌にはカラーがあり、そのカラーに読者がついていて、その中の差異を表出したり、取り込んでいったりすることで作家が楽になっていたはずだった。でも、現状は不快感が届きやすく、『toC』の雑音を『toB』でカットできる状態ではなくなってきていることが雑誌や編集部にとって大きな問題になっていると思う」と話した。

 佐渡島氏はこれに同意しつつ「XやAmazonで無料で読ませる漫画と、『ジャンプ』ブランドでアニメ化するような作品が強い中で、中間の作品が雑誌から出しても、信じられないような惨敗をすることがある」と市場の現状を語り、続けて「Amazonで売る場合はSNSのプロモーションが効くが、LINE等はプラットフォームの力が強く、そうはいかない。プラットフォームがどれだけプッシュするのかが重要になってくる。バナー広告の数は書店の平台よりも少ないため、一部の作品に売り上げが集中してしまう」。

 「集中した作品に似た作品に似た作品がアルゴリズムによって上位にあがりやすいため、作品を独自に考えるよりも、そのアルゴリズムに乗っかる作品を、廃れる前に作れるのかの勝負に変わってきている。その結果、創作の重要なポイントや、創作の意義まで変わってきている」と語った。

 最後の質問として、斉藤氏が、雑誌や漫画アプリなど、メディアが文化にはたしてきた機能の大きさと、SNSで個人が発信するコンテンツの限界が見えてきたことを踏まえつつ、「メディアを通すことで生まれる文化を再度つくる必要があると思えるが、どのような方法なら可能だと思えるか」という質問がされた。

 斉藤氏は質問の補足として「雑誌そのものの再構築というより、メディアがあることにより、編集部やメディアに集まるコミュニティができあがる。それがないことは作家にとっても取り組むべきカルチャーや、逆張りの対象がなくて辛く、こうしたある種のカルチャーを共有するコミュニティを作っていかないと次の世代は厳しいのではないかと思う」「こうしたカルチャーはインターネットによって消費されてしまって、過去にあった文化を消費することによって個人個人が成立していたけれど、このままだと栄養が切れてしまう」としつつ、そもそもこうしたコミュニティの再生が可能だと思うかを佐渡島氏に投げかけた。

 佐渡島氏は、商習慣における課金のポイントがインターネットの発展によって変化したのと同様に、コミュニティの在り方も時代とともに変わっていったとしつつ「テイラー・スウィフトの戦略が凄くいいと思う。『いいな』と思う人を自分のコンサートの前座に呼んで初速をつけてあげる。その後、その人が活躍することでフォロワーが増えていくと、新たなファンが生まれて、その人と一緒にSpotifyで歌ったりすることでテイラー・スウィフトも新しいファンを獲得できる。だから彼女は結構な数の若手の面倒をみている」。

「それを参考に僕たちは漫画の学校を作っていて、同期が50人ずついる。6か月の間に共通のハッシュタグで呟き合うことで、SNSのAIが把握しているソーシャルグラフが出来上がる。そうすると、その中の誰かがバズったりすることで、他の同期の漫画もオススメに出てきやすくなる。そこの卒業生から、コルクと継続的に仕事をしているや、専属になった人もいる」。「同期でグループを作ってもらって、一緒に勉強会や、発信・活動を一緒にやっていくよう促すながれを作ろうとしていて、明確な『雑誌』という形にはなっていないが、コミュニティをSNSの中でどうつくるのかということをかなり意識してはやっている」と答えた。

 これに対し斉藤氏は「人が育つコミュニティの条件は、2つの柱があることなんじゃないかと思っている。『24年組』の竹宮恵子と萩尾望都のような、カラーが異なる二本の柱がある時、それを巡って考えることで人間が成長するのではないか。そうした二本の柱になるような人を、どうやって揃えていくかを考えている」と語った。

 佐渡島氏も斉藤氏の意見に「すごくいい」と賛同し、同時に「コミュニティは共有されている中心となる概念と、作法と道具がそろっているときによくなる。自分たちだけの仕草や言葉遣いなどを残していくことは重要だと思う」とした。

 ワタナベ氏は、インディーアニメが過渡期にあることや、「indie_anime」での個人クリエイターの投稿と、そこで生まれている集団的なものの存在、先日行なわれたイベントの成功等に触れた上で、「『インディーアニメ』というものが、先程出たグループでしか共有していない概念になっている。でも、最近はイベントの成功や、見てくれた人が増えた結果、『より多くの人に届けたいと』いう人たちが出てきていて、この概念を解明しようという人が増えている」「テレビの取材などが極端な例だが、伝え方が難しい。1つの仕草や専門的な言葉の伝え方をミスると、変な形で世の中に届いてしまうのではないかという危機感がある。そうした中で、外部のメディアと、どんなコミュニケーションを取って、概念を守りながら広げていけばいいのかに悩んでいる」と悩みを吐露した。

過渡期にあるインディーアニメのこれから

 ワタナベ氏によるとインディーアニメの収益はミュージックビデオや広告の動画制作など、アニメスタジオでは受けてくれない案件が多いとのことで、他にもクリエイター個人の作品発表が収益に繋がることがあるという。

 また、斉藤氏は、コストの安さからくる差益からインディーアニメも収益が得られているが、映像の特性上、インディーアニメそのものが単品の商品として売ることが難しいとしつつ、一方でインディーゲームはSteam等の登場で販路が民主化され、メジャーと共通の販路で売り出せることが大きいとした。また、漫画の場合は、漫画もSNSによって民主化がされ、かつては漫画にもネットでしか読めないインディーと呼べるような、出版社で仕事をしていない漫画家が伸びることもあったものの、今ではそうした手法を、商業の漫画家に編集者がついてやるようになったので、そうした点での区別がされなくなった、と分析した。

 この話を受け佐渡島氏は「最近、縦型ドラマが流行っているので、インディー作家による縦アニメドラマがいいと思う。tiktokでフォロワー増やしていき、最終的にはネットフリックス等が資金を提供すればいい」と持論を展開し、それに対しワタナベ氏は、「メイクアガール」の安田現象氏は、縦型ショート動画から始まり、アニメの劇場公開まで持っていったので、事例として劇場公開後が楽しみだと思いを語った。

 続けてワタナベ氏は「商業やインディーといった区分を無くしたい。Steamには『モンスターハンター』もあれば、名前も知らないようなゲームもあるが、どれも同じランキングに入る。でも、インディーアニメが戦う場所はアニメだけの場所ではないYouTubeになってしまう。そんな中で『インディーアニメとは何か』と聞かれることが煩わしい」と話し、これに対し斉藤氏は「『これです』といえる商品がないのが原因ではないか。インディーアニメは、インディーゲームにおける『UNDERTALE』のような作品がないから説明が難しいのではないか」と持論を述べた。

 佐渡島氏が、先程名前がでた安田現象氏のような事例が、そうした作品になるのではないかと語り始めたところで、残念ながらセッションの時間が終了してしまった。

 最後に一言求められた佐渡島氏は「アニメーターもゲーム制作者も、漫画を作る人も同じ職業で、協力し合う仲間だと感じた。数年経ったら、それぞれの制作物を『ゲームにしてください・漫画にしてください』とAIに頼んだらシンプルなものができあがるような感じになっていくのだと思っている」「クリエイターは孤独だ、というが、そもそも孤独になりやすい職業環境だと感じているので、それを変えたいと思っている。今回は声かけいただいてよかった。またリアルでも会いましょう」とセッションを締めた。