特別企画
電子書籍市場は”頭打ち”?DLsite comipo、BOOK☆WALKERとhontoが模索する生存戦略【IMART2024】
2024年11月22日 18:48
- 【IMART2024】
- 11月14日~16日開催
電子書籍市場は、2018年度から2021年度にかけて急成長を遂げた後、現在は成長率の鈍化傾向が見られている。この状況について、業界関係者の間では「次なる成長に向けた準備期間(踊り場)なのか、それとも市場の頭打ちを示す兆候なのか」という議論が活発化している。
こうした背景のもと、IMART2024にて実施された「国内電子書籍最新事情『本当に電子コミックは踊り場か?』」というセッションでは、各社の取り組みや電子書籍の新たな可能性について、深い議論が交わされた。特に注目を集めたのは、各社が展開する独自のプロモーション戦略と、それらがもたらした具体的な成果である。
本稿ではそのセッションのレポートをお届けする。
進化する各社のプロモーション事例
各社のプロモーション事例において、特に注目を集めたのがブックウォーカーの取り組みである。同社の山本氏によれば、若年層や女性ユーザーの流入は好調であるものの、購入への転換や顧客の定着については依然として課題が残されているという。
この課題に対し、同社はユーザーの属性と行動履歴に基づいたきめ細かなアプローチを展開している。具体的には、新規会員登録時のコイン付与や、長期離脱ユーザーへの最適化された特典の提供など、一人ひとりの状況に応じたカスタマイズされたプロモーションを実施している。この施策により、会員登録率の向上と新規顧客のロイヤルユーザー化に一定の成果を上げている。
一方で、hontoは異なるアプローチを採用している。同社は周年記念プロモーションとして「読書一生分のポイント(約110万円相当)」のプレゼントキャンペーンを実施した。このキャンペーンは新規顧客の獲得には一定の効果があったという。
その後は、このポイントを小分けにした「ポイント山分けキャンペーン」へと発展させ、より高いリテンション効果を実現しているという。
さらに、宮脇書店との連携による店頭でのしおり配布や、図書カードNEXTのプレゼントなど、オフラインとオンラインを融合させた新規会員獲得策も展開している。
後発組であるDLsite comipoでは、新規出版社の取り扱い開始を記念した際のクーポン配布などのキャンペーンを継続的に実施している。月間1,000本規模のキャンペーン対応体制を構築し、各ストアの特性に応じたプロモーションを展開しているという。
また、紙のコミックにQRコードを埋め込み、音声コンテンツを無料提供するという革新的な試みも成功を収めている。
失敗事例からの学びもある。ブックウォーカーでは、ランキング上位に男性向け作品が多く表示されることで女性ユーザーから「自分向けのストアではない」と離脱を招いた経験があり、ユーザーセグメント別の最適な作品編成の重要性を認識したという。
また、DLsite comipoは特定のクレジットカード決済停止による混乱から、決済手段の多様化の必要性を痛感している。これらの経験は、各社のサービス改善に活かされている。
こうした各社の取り組みからは、単なる価格訴求や一時的なポイント還元だけでなく、顧客との長期的な関係構築を重視する傾向が見て取れる。特に、ユーザー属性に応じたきめ細かな施策や、リアル書店との連携など、多角的なアプローチが成功のカギとなっていることが明らかになっている。
電子書籍だけに留まらない読書体験を提供することでさらなる成長を目指す
ブックウォーカーの山本氏は、コミック以外の書籍分野の強化を重要課題として挙げている。同社は「読書メーター」などのプラットフォームを活用し、読書愛好家層の取り込みを図るために、デジタルならではの読書体験の創出に注力する方針だという。
出版社のグループでもあるので、最初に作品にリーチする場所としては自社の連載サイトやニコニコ漫画。それぞれ役割を分けて、お客さんを育てるストアとヒット作を創出する連載サイト、定着させる部分、そこから好きになって購入してもらうという導線をしっかり行ないたいという。課金面でも分冊購入への対応強化で、増加する需要に応えるべく機能拡充を進めている。
hontoの小宮山氏は高齢者層の取り込みも新たな課題として認識しているという。小宮山氏によれば高齢者層にはスマートフォンでの読書における視認性の問題や、細かい文字の判読困難さなど特有の課題が指摘されているという。これを受け、アクセシビリティの向上や読書環境のブラッシュアップを検討しているという。
細山田氏は、先月リリースしたリーダーアプリの機能拡充を皮切りに、読書体験の質的向上を目指す。また、最後発ながらも、インパクトのある大規模プロモーションの実施も視野に入れており、後発ながらも独自の存在感を示す戦略を練っているという。
今回のセッションでは各社まさに三者三様のやりかたで、プロモーションや付加価値の提供により成長を目指していることが明らかにされた。各種の施策は実を結んでいるものもあり、なにより業界が成長すれば電子書籍のユーザーもより大きなメリットを享受することができる。伸びが鈍化した現況は頭打ちなのか、はたまた次の飛躍に向けた”踊り場”なのか。今後の動向にも注目したい。