特別企画

「serial experiments lain」や「灰羽連盟」などの生原画を展示!「円環帰点 安倍吉俊画業30周年記念展」が開催

【円環帰点 安倍吉俊画業30周年記念展】
会期:
7月5日~8月3日(前期)
8月7日~8月31日(後期)
会場:Deesse space caiman shibuya
開場時間:12時~20時(最終入場19時45分)
入場料:ステッカー付き入場料:1,000円/アクリルスタンド付入場料:1,800円

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 プレイステーション用ゲームソフトやアニメなどで有名な「serial experiments lain」や「灰羽連盟」「TEXHNOLYZE」「NieA_7」などを手がけてきた、安倍吉俊氏の画業30年の歩みを見ることができる展示会「円環帰点 安倍吉俊 画業30周年記念展 『serial experiments lain』『灰羽連盟』から現在まで」が、7月5日より8月31日まで渋谷のDeesse space caiman shibuyaにて開催される。

 会場には、1990年代当時から現在に至る多数の貴重な下絵や設定画等の原画に加え、“いま渋谷に存在する玲音”を等身大で描き下ろした巨大な新作原画、最新の印刷技術を使用した特殊加工作品などを展示。展示会場内は、「serial experiments lain」のエリアと「灰羽連盟」エリア、そして「TEXHNOLYZE」「NieA_7」「ですぺら」のエリアに分かれ、それぞれで約100枚に及ぶ線画や原画を鑑賞することができる。

 さらに、会場では今展のための新規グッズだけでなく、1点ものの原画や特別な下絵、設定画の販売も行なっており、ファンにとってはたまらない展示会といえるだろう。

 今回、展示会開催のタイミングで取材することができたので、その模様をお伝えしよう。

通路の左右にギッシリと展示された原画や設定画の枚数に驚かされるばかり

 コンパクトにまとまった会場は複数のエリアに分かれており、入ってすぐの場所では原画や線画を展示・販売している。その隣は、ソニー・マガジンズ(当時)から発売されていたアニメ雑誌「AX」で、毎回見開き2ページで「serial experiments lain」の絵を掲載した連載企画にて使用されたイラストを展示。カラー原画だけでなく、下絵も見ることができる。独特の、儚げな色合いながらもどことなく温かい感じが伝わってくるカラー原画は、見ていると吸い込まれそうな感覚を覚えるほどだ。

実際に掲載されたイラストを囲むように、下絵も合わせて展示されている。線画の細かさに、出るのは感心のため息ばかりだった

 その反対側には、「serial experiments lain」で使われたイラストやパッケージ画などが下絵と共に展示されているほか、特殊加工されたカラー複製原画の販売も行なわれている。下絵と完成イラストで、どこが変わったのかを見比べる楽しみもあり、このエリアだけでもあっという間に時間が過ぎてしまった。

左端は「serial experiments lain」のパッケージイラストだが、下描きの線画と見比べるといろいろ変更されているのがわかる。これら展示されているカラーイラストは、カラー複製原画としても販売。大きさを3種類から選べるが、最大サイズは数に限りがあるので注意したい

 更に進むと、通路の左右に「serial experiments lain」に関する大量のスケッチや設定画が展示されている、同作の設定画エリアとなる。ここでは企画初期の構想段階での世界観設定画や、広告などのスケッチなどを見ることができるのだが、キャラクターデザイン画には文字が書き込まれているのがわかるだろうか。これは、安倍氏がキャラ像を固めるためのものだそうだ。

 展示スペースは少々窮屈ではあるが、そこに“これでもか”と言わんがばかりに原画が並んでいるのが圧巻の一言。数の多さに見ていて圧倒されてしまう。

映像ソフトに使用されたジャケットイラストや設定画など、約100枚が展示されている

 隣のエリアは、2002年にフジテレビ系列の深夜枠で放映されたアニメ「灰羽連盟」の展示スペース。元は「オールドホームの灰羽達」という同人誌からスタートしており、その生原稿も展示されている。カラー原画は、アニメがDVD化された際のジャケットイラストで、線画とセットでの鑑賞が楽しめる。

 世界観に関しての設定画はもちろん、オリジナルサウンドトラックで使用されたジャケットイラストの下描きも豊富に展示され、じっくり見ていくことで「灰羽連盟」の世界をより深く感じることができた。これだけ濃密な展示を見られる、こんなチャンスはまたとないだろう。

漫画や線画、ジャケット原画、世界観設定画にカラー原画など、「灰羽連盟」の魅力が詰まったエリアを堪能できる

 一番奥のエリアには、「TEXHNOLYZE」「NieA_7」「ですぺら」の原画や設定画、カラーイラストが展示されていた。片面は「NieA_7」で、これは「serial experiments lain」と制作期間が被っていたテレビアニメとマンガ作品。テレビアニメは2000年にWOWOWで放映され、漫画は1999年から2001年にかけて連載されている。ここでは漫画第1話の原稿だけでなく、こちらも線画とカラー原画、設定画が鑑賞できる。

他の作品と比べると、明るい配色が目立つ「NieA_7」の展示物。それでも、随所に安倍氏らしい色使いも見て取れる

 反対側の壁面には「TEXHNOLYZE」と「ですぺら」の設定画や世界観イラスト、カラー&線画が展示されている。「TEXHNOLYZE」は、2003年にフジテレビにて深夜に放映されたアニメ作品。「灰羽連盟」とほぼ同時進行だったが、”おっさん”を多数キャラクターデザインしなければならなかったので大変だったそうだ。設定画のほか、ジャケットイラストの下描き、完成画などを展示している。

 「ですぺら」に関しては現在も企画進行中のものということで、展示してあるのは2009年に一度書籍としてまとめたものとなっていた。とはいえ、並んでいる線画などは非常に高いクオリティで、そのままでも十分に完成品になるほどの出来映えに思えた。作者の情熱が、線の1本1本から伝わってくるようにも感じられた。

「TEXHNOLYZE」の展示エリアは少々小さめだが、ジャケット用のカラーイラストなどを間近で鑑賞できる。渋いイラストが多く、おっさん好きにはたまらない
現在企画進行中の「ですぺら」。カラーイラストや下描きには、舞台となる大正時代が色濃く反映されているのが見て取れた
3エリアを行き来する通路部分には、雑誌の表紙や小説のカバーイラスト、ポスターなどのカラー絵や原画も展示されていた。ここを見れば、氏が幅広い活躍をしていることがわかる

 最深部のドアがある部屋に入ると、安倍氏が東京藝術大学大学院の修了制作で描いたという、大型のイラストが目に飛び込んでくる。当時住んでいたマンションのベランダから見た風景とのことだが、大きさだけでなくそのリアルさや迫力に、見ていて言葉も出なくなるほど。展示会を訪れたなら、ぜひ間近で見てその凄さを感じてほしい。

本作品は展示だけでなく、販売もされている
この3点は、いずれも学生時代に描いた作品とのこと。こちらもかなりの大きさがあるので、近寄ってじっくりと鑑賞したい
展示会会場中央ではグッズ販売も行なわれている。種類も豊富なので、いろいろと欲しくなってしまうことだろう
グッズ販売スペースに飾られている、“いま渋谷に存在する等身大玲音”のイラスト。背景が現在も工事中の渋谷というのが、生々しさを感じさせてくれる
会場に入ってすぐの通路は、1点ものの原画が展示・販売されているスペースとなっている。生原稿を手元に置ける、またとないチャンスだ。額装された作品もあるが、もちろん鑑賞だけでもOK

枚数もさることながら、描き込まれた設定などで各作品の世界をより深く知ることができる展示会

 安倍氏の代表作である「serial experiments lain」や「灰羽連盟」「TEXHNOLYZE」「NieA_7」などの、本来であれば制作段階でしか見られない貴重な線画や下絵といった原画を、大量に鑑賞することができる本展。オーソドックスな展示会と比べると会場はコンパクトであるものの、そこに並べられた枚数はまったく引けを取らない多さのため、ボリューム感満点になっているのが嬉しい。また、設定が書かれた世界観のイラストなどを見ることで、改めて各作品の奥深さを知ることができたのもありがたかった。

 展示されているのはどれも尖った作品のため万人受けするというものではないが、それゆえに”当時ハマって今もファンです”という人も多いのではないだろうか。そんな人たちなら絶対に見逃せない内容となっているので、ぜひ足を運んでほしい。