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「ジークアクス」完結! いまこそマンガ版で「機動戦士ガンダム」の解像度を上げる時!

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 「機動戦士Gundam GQuuuuuuX(以下、ジークアクス)」が第12話「だから僕は…」でついに最終回を迎えた。

 本作は、初代「機動戦士ガンダム」で描かれる一年戦争で、「もしジオン公国が勝っていたら?」というIFストーリーが描かれている。新キャラと共に、ファーストガンダムのキャラも多数登場する。そういった事情が一切隠されていた劇場版公開当時には、「ガンダムを見に行ったらガンダムが始まった」という秀逸な表現が生まれるほど多くの人に衝撃を与えた。

 TV版も毎週毎週がサプライズとサービスショットの連続で、「機動戦士ガンダム」を熟知している人にとっては、SNSでの考察が本編といえるくらいの盛り上がりを見せていた。

 この記事では、「ジークアクス」を視聴し終わった人に向けて、謎を解明するヒントとしてぜひ読んで欲しい「ガンダム」のマンガを紹介したい。ネタバレは最低限にしているが、念のためネタバレが嫌な人は注意して欲しい。

「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」

ファーストガンダムを知っているか否かで楽しみ方が変わる

 古い作品の要素を使って新しい作品を作るという技法は、和歌の技法である「本歌取り」を思わせる。本歌取りは、(その時代の教養人なら)誰でも知っている有名な和歌の一部を使って、新たな解釈のもとに新しい歌を作る技法を意味している。新古今和歌集の編纂に携わった藤原定家が好んだ技能としても知られる。

 和歌の場合は、万葉集など過去の和歌集になるが、「ジークアクス」では当然過去のガンダムシリーズということになる。ここで重要なのは、本歌取りは元ネタを知っている人間相手でなければ成立しないということだ。

「ジークアクス」では非常に重要な役割を担ったシャリア・ブルはファーストでは1話だけのゲストキャラだった

 しかし、記念すべき第1作目となる「機動戦士ガンダム」が放送されたのは1979年。現在では無数のシリーズ作品やスピンアウトが生み出されている。毎週毎週放送終了後に古のガノタ(ガンダムの熱心なファンたちを指すスラング)たちが大騒ぎをしているのをみて、ガンダムに興味を持ったとしても、どこから手を付ければ「ジークアクス」の元ネタが理解できるのかと迷うこともあるだろう。

 TVシリーズの「機動戦士ガンダム」や、「機動戦士ガンダム(劇場版)」、「機動戦士ガンダムII 哀・戦士編」、「機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙(そら)編」の映画3部作を見てもいいが、実はここでは語られないストーリーもある。例えばシャアの子供時代の話や、一年戦争が始まる前の地球連邦と各コロニーの立ち位置など、TVシリーズ以前の世界観を知ることでより物語を深く楽しむことができる。

 そこで、今回、ガンダムの概要を知るもっともおすすめの入門書として紹介したいのが角川書店から出版されている「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」だ。本作が数あるガンダムのコミカライズ作品なのかでも特別なのは、「機動戦士ガンダム」のキャラクターデザインを担当した安彦良和氏が描いているということだ。

「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」

 安彦良和氏は「機動戦士ガンダム」でキャラクターデザインと作画監督を務めた他、「クラッシャージョウ」や「無敵超人ザンボット3」などサンライズの作品を多く手掛けている。マンガ家としてはギリシア神話にモチーフをとった「アリオン」を皮切りに、「クルドの星」や、「虹色のトロツキー」など実在の人物や民族を舞台にした物語を多く手掛けている。

 「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」はそんな安彦氏が2001年に雑誌「ガンダムエース」の創刊号から連載を始め、全24巻で完結した一年戦争前後を舞台にしたもう1つのパラレルワールドガンダムストーリーである。

宇宙世紀世界を形作るもう1つのアナザーストーリー

 基本はTVシリーズのストーリーラインを追いながらも、随所にオリジナル要素が盛り込まれており、それがうまくTVシリーズを補完する形になっている。

 例えば、第1巻ではTVシリーズ第1話のストーリーが展開するが、TVシリーズでは避難中のアムロが偶然見つけた極秘ファイルをパラパラっと読んだだけでガンダムを操縦できてしまう。「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」では、アムロは父親のシステムに侵入してガンダムの存在や操縦方法をすでに知っていたという、より説得力のある設定に変更されている。

 物語は大きくTVシリーズに基づく現代編と「THE ORIGIN」で初めて語られる過去編に分かれる。過去編では、ジオン公国が独立を宣言するまでの道程やコロニー落とし、モビルスーツの開発、シャアが赤い彗星と呼ばれるきっかけとなったルウム戦役など、設定としては存在していたが、TVシリーズでは描かれなかった過去の出来事が詳細に綴られている。

 各巻でどんなシーンが描かれているのかは、概ね以下のようになっている。

機動戦士ガンダム THE ORIGIN

1巻「始動編」
2巻「激闘編」
3巻、4巻「ガルマ編」
5巻、6巻「ランバ・ラル編」
7巻、8巻「ジャブロー編」
9巻、10巻「シャア・セイラ編」
11巻、12巻「開戦編」
13巻、14巻「ルウム編」
15巻、16巻「オデッサ編」
17巻、18巻「ララァ編」
19巻、20巻「ソロモン編」
21巻、22巻「ひかる宇宙編」
23巻「めぐりあい宇宙編」
24巻「特別編」

 多少前後している部分もあるが、1巻から8巻は映画3部作の「機動戦士ガンダム(劇場版)」と「機動戦士ガンダムII 哀・戦士編」までのストーリ。9巻から14巻は「THE ORIGIN」で初めて描かれた過去の物語。15巻から23巻は「機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙(そら)編」の内容に、過去編で語られた内容を追加したオリジナル色の強い完結編。24巻は、後日談などを集めた短編集という構成になっている。

テレビシリーズでは一瞬の回想シーンとして登場するようなシーンも前後のストーリーがしっかりと描かれている

 マンガというメディアの特性を生かし、TVシリーズではわかりにくかった各軍の戦略や、その中でのホワイトベースの位置づけといった大局的な部分をよりわかりやすく整理した形で読むことができる。

 漫画内には、映画のテーマソングがモノローグ的に使われている部分があったり、アニメの名セリフが逐一丁寧に拾ってあったりと、映像とリンクすることで白黒のマンガを読んでいるはずなのに、脳内にフルカラーの映像が見えるような気になる。ララァとアムロの宇宙空間での邂逅シーン(ジークアクスで言うところのキラキラ)のシーン、マンガでは「La」という効果音で表現されている、「ジークアクス」でいう所のララァ音も、映像として知っていればそのまま脳内に響く。

「ジークアクス」だけでは分からない人間関係の醍醐味

 「ジークアクス」は12話1クールの作品であり、そこで宇宙世紀世界の複雑な人間関係をすべて語るのは難しい。実際、ギレンなど登場シーンの長さが本編と予告編であまり変わらないのではと思えるほどあっという間の退場となった。

 この辺りも「THE ORIGIN」を読むことで、2人がまだ10代だった頃からの確執、それぞれの思想や信条をしっかりと把握することができ、より物語が楽しめるはずだ。

「ジークアクス」ではあっさり退場したギレンもじっくりと人となりを知ることができる

 緑のおじさんことシャリア・ブルは「THE ORIGIN」でもブラウ・ブロのパイロットだが、TVシリーズとは違った形で登場する。「THE ORIGIN」でも可哀そうな役回りだが、TVシリーズよりは若く見える。マ・クベやガイア、マッシュ、オルテガの黒い三連星、ドレン、デニム、マリガン、シムスらジオンの士官たち、ギレンの愛人セシリア・アイリーンやサイド6の大統領補佐官に出生していたカムランなど「ジークアクス」ではチラっと出てくるだけの人たちも「THE ORIGIN」にもちゃんと登場している。

 ちなみにマチュが住んでいたサイド6は、TVシリーズや「THE ORIGIN」ではアムロとララァが初めて出会った場所でもあるのは示唆的だ。ルナツーやア・バオア・クーなどの地球外の基地も、その戦略上の意味合いなどがTVシリーズよりもわかりやすく描かれている。

 映画3部作を見て「THE ORIGIN」を全巻読破すれば、とりあえず「ジークアクス」の一年戦争部分はすべてどういうことなのか理解できるはずだ。

「Zガンダム」もお忘れなく! コミカライズは現在連載中!

「機動戦士Zガンダム Define」

 だが「ジークアクス」の本歌取りをすべて理解するには、ファーストガンダムだけでは足りない。実は、続編である「Zガンダム」からも要素が持ち込まれているのだ。「Zガンダム」はガンダムの続編としてガンダムのメンバーが再結集、さらに藤田一己氏や永野護氏ら新たなスタッフが参加して制作された。

 「ジークアクス」は宇宙世紀0085年が舞台であり、「Zガンダム」はその2年後の0087年が舞台と、時代的に近い設定となっている。そのため世界線こそ違う世界だが、「Zガンダム」に登場するキャラクターや設定が「ジークアクス」にも登場する。例えば第6話と第7話に登場したゲーツ・キャパは「Zガンダム」にも登場しているし、同じムラサメ研究所の強化人間として「Zガンダム」ではフォウ・ムラサメが、「ジークアクス」ではドゥー・ムラサメがサイコ・ガンダムを操縦している。

 「Zガンダム」はエゥーゴ、ティターンズ、アクシズ、カラバなどたくさんの組織と多くの登場人物がいる複雑な物語で、アニメを観ただけでは把握しきれないところもある。ここでもそんな複雑さを補完してくれるコミックスがある。それが北爪宏幸氏によるコミカライズ「機動戦士Zガンダム Define」だ。こちらはまだ連載中で、現在は21巻まで発行されている。

第三者的な視点で最終決戦を語る「機動戦士ガンダム 光芒のア・バオア・クー」

「機動戦士Zガンダム Define」

 「蒼き鋼のアルペジオ」の作者Ark Performance氏が描いたガンダムサイドストーリー。最終決戦の場となったア・バオア・クーの戦いを時間軸にしたがってレポート形式で振り返るオムニバス形式のコミックス。第三者的な立場から、最終決戦を振り返る。メカの表現力に定評のある作者だけに、モビルスーツの細かな書きこみは驚嘆するレベルだ。

 本作の冒頭にはア・バオア・クーでの戦闘が時系列にまとめられており、ソーラ・レイ発射からアムロの帰還までの流れが非常にわかりやすくなっている。ザビ家終焉の場となったア・バオア・クーで何があったのか、シャアやギレン、キシリアたちが正史ではどのようにこの場を迎えたのかを、また違った視点から楽しむことができる。

 もしこちらを読んで気に入ったら、ぜひ同じ作者による「機動戦士ガンダム ギレン暗殺計画」も読んでみてほしい。

ファーストと「Z」を繋ぐ「機動戦士ガンダム0083 REBELLION」

「機動戦士Zガンダム Define」

 ここからは、さらにガンダムを深堀りできるマンガを紹介したい。「ジークアクス」に直接のつながりはないものの、「ジークアクス」でもちらりと示唆されていた「逆襲のシャア」へと続く宇宙世紀の正史を理解する助けになるはずだ。

 夏元雅人氏によるマンガ「機動戦士ガンダム0083 REBELLION」は、OVA「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」のコミカライズ。全18巻で完結している。

 「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」は、なぜ一年戦争後の地球連邦が「Zガンダム」の時代には腐敗していたのか、その空白の期間が描かれている。各組織の前進など、「Z」を理解するための助けになるはずだ。

一年戦争後のもう一つのアナザーストーリー「機動戦士ガンダム サンダーボルト」

「機動戦士Zガンダム Define」

 「機動戦士ガンダム サンダーボルト」は 太田垣康男氏によるガンダムのアナザーストーリー。一年戦争末期の激戦地サンダーボルト宙域と、一年戦争直後の地球を舞台に、オリジナル要素を加えたパラレルストーリー。現在は最終章に突入しており、作者がXへイラストなどを投稿する「プレイバック」企画が進行中だ。

ちょっと息抜きに異色のガンダム「トニーたけざきのガンダム漫画」

「機動戦士Zガンダム Define」

 「岸和田博士の科学的愛情」などで知られるトニーたけざき氏による、安彦氏のタッチを限りなく模倣しつつ、キレキレのギャグがくせになるガンダムパロディマンガ。サクサク描ける簡単モビルスーツ「サク」や、「サイコ・ミュ」など何年経ってもクスリと笑えるギャグが詰まっている。

広がり続けるガンダムワールド。飛び込むなら今!

 最終回も「うおおお!」と「マジか!」と「そうきたか!」の絨毯爆撃だった「ジークアクス」。その全貌を楽しもうと思ったら、ここに書いたものだけでは足りないかもしれない。

 「機動戦士ガンダム」が世に生まれて46年。その魅力に取りつかれた多くの人たちによって、日々生み出される物語によって世界は拡張を続けている。映像、マンガ、小説、ゲームから大阪万博まで入口はあちこちに開いている。

 6月26日にはYouTubeのガンダムチャンネルで、アニメ「機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星」がプレミア公開される。ぜひ、「ジークアクス」を機会に、広大な「ガンダムワールド」を共に楽しめる同士となって欲しい!

【第1話|THE ORIGIN(TV)【ガンチャン】】