レビュー
1人と1匹の出会いからうまれる、心温まる物語「同居人はひざ、時々、頭のうえ。」
2025年12月14日 00:00
- 【同居人はひざ、時々、頭のうえ。】
- 原作:みなつき
- 漫画:二ツ家あす
- 連載:COMICポラリス(フレックスコミックス 2015年~)
- 既刊:ポラリスCOMICS 11巻
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年の瀬が近づく12月になると、「同居人はひざ、時々、頭のうえ。」の季節が来たな、と思う。
Webコミック「COMICポラリス」にて、2014年に読み切りが掲載され、翌年2015年から連載が開始された原作・みなつき氏、漫画・二ツ家あす氏による作品「同居人はひざ、時々、頭のうえ。」は、5巻以降毎年12月に新刊が出ており、今年も12月15日に12巻が発売される。
今年で連載10周年を迎える本作は、人嫌いの小説家と世話焼きの猫、それぞれの視点が交差するドタバタハートフルコメディだ。その可愛くほっこりする作風に2017年には「全国書店員が選んだおすすめコミック2017」で3位を獲得。2019年にはアニメ化し、コミックスも205万部突破している。主人公の1匹である猫の陽(ハル)がとにかく可愛く、もう1人の主人公・素晴を取り巻く人々がつくる優しい世界も微笑ましい。この寒い冬に、温かな気持ちで年末・年始を迎えたいと思う人、特に猫好きや飼い主にはぜひ読んでもらいたい作品だ。本稿では、そんな本作について紹介したい。
人嫌いで偏屈な小説家を変えた運命の出会い
主人公の朏素晴(みかづきすばる)は、こぐま出版の小説誌「北極星」に「三日月」というペンネームで活動する23歳のミステリー作家。幼い頃から本と空想する世界だけを愛する素晴は、それを邪魔されるのを嫌い、極力人と関わらない生活を送っていた。売れっ子作家として編集は素晴を丁重に扱うが、彼の偏屈さに前担当編集者が胃炎で入院してしまうほどであった。
そんな素晴だが、新作ミステリーのネタに行き詰っていたある日、たまたま見つけたハチワレの野良猫にインスピレーションを受け自宅へ連れ帰る。猫の行動を参考に“殺し屋の猫”を題材とした新作の構想を立て、執筆を始める。当初は猫の一挙手一投足から新しい着想を受け喜んでいた素晴であったが、やがて理解不能な猫の行動に戸惑い、混乱し、振り回されていくようになる。しかし、それと同時に頑なだった心が和らぎ、素晴の世界は少しずつ広がっていく。
ストーリーの中で、最初は、「実際にいたら絶対にお近づきになりたくない」と思うような、頑固で偏屈な主人公だった素晴が、猫との暮らしを通じて様変わりしていく様子が面白く、そして微笑ましい。
外出も買い物も嫌いな素晴だが、猫の餌がきれてしまい、渋々近所のペットショップに行かざるを得なくなる。餌の種類が多く、何を買ったらいいのか迷う素晴にペットショップの店員・押守に話しかけられ、その際にペットの名前を尋ねられるが猫に名前をつけるなんて考えてもみなかった素晴は、思わず自分の名前を答えてしまう。これをきっかけに、素晴は押守から名づけや首輪などについて助言を受けるようになり、ハルを通じて親しい間柄へとなっていく。
また、素晴にとって唯一の友人であった大翔は、ハルと遊ばせる為に弟妹達を連れてくるようになり、彼が子どもたちと交流を持つきっかけをつくる。更に、素晴が拾った4匹の子猫の里親を探した関係から、隣人の奥さんや老夫婦とも親しくなり、本を借りる関係になるなど、ハルをきっかけに素晴の人間関係はどんどん広がっていった。
中でも最も変化があったのは、担当編集者・河瀬との関係だろう。素晴に積極的に連絡を取り、なるべく外に出て欲しいと思う河瀬と、出来る限り他人との接触を拒絶したい素晴との相性は最悪だった。しかし、猫好きな河瀬がハルを目当てに頻繁に訪れるうちに2人は自然と会話を重ねていく。次第に2人の仲は深まっていき、ハルについての悩みを打ち明けたり、一緒に取材旅行をするほどの関係になっていった。自分の弱みをさらけ出せるようになった素晴と、素晴の心を軽くする言葉を与えられる河瀬は、公私ともかけがえのないパートナーになったといえるだろう。
また、この物語の中で世界が広がっていくのは素晴だけではない。ハルの世界もまた、少しずつ豊かになっていく。素晴の元に訪れる人々に加え、病院で出会った臆病な猫や、野良時代に世話になっていた猫たちとの再会。隣家の友好的な犬、突然素晴の家にやってきた4匹の子猫とその里親となった家に先住していた気難しい柴犬。そしてなにより、押守の家で再会できた、もう二度と会えないと思っていた弟・はちと、はちと一緒に飼われている兄貴分のろく。どれも素晴と共にいたからの出会いで、この動物同士のやり取りもまた心が和む。
今日は「#犬の日」🐶
— 同居人はひざ、時々、頭のうえ。原作公式 (@DOKYONINWAHIZA)November 1, 2023
「同居人はひざ、時々、頭のうえ。」にも
タローやきなこたち、ご近所ワンコも登場します!
最新話「とある素敵な一日」より。https://t.co/mIHjrgCy4Kpic.twitter.com/yLZtpxHofg
素晴と一緒にいた柴犬・きなこに嫉妬してしまうハル
すれ違っている思い込みが最高に面白い!
本作の軸は素晴の人としての成長ではあるが、この作品の一番の面白さはハルの視点が描かれていることだ。1つのエピソードに対し、素晴編とハル編の2つがあり、素晴編が“猫あるある”に翻弄される素晴のおかしさを描き、続くハル編で、ハルが何を考えて行動していたかが明かされる。素晴編でみたエピソードで想像していたことと、ハルが実際に考えていたことが全然違っている“ずれ”が楽しくて、素晴編を読んでいるときからワクワクしてしまう。
例えば、ハルが自分の餌を何度も素晴の部屋の前に運んだのは、締め切り前で食事を全くとっていなかった素晴を案じてのことで、素晴の両親の位牌を収めた仏壇を荒らしたのは、素晴が心配で漂っていた両親の人魂(ハルから見たら得体のしれない人魂に見えた)から素晴を守る為であったり。押守の家のキーホルダーに執着したのは、生き別れた弟の匂いがしていたからだった。
名付けの場面も印象的だ。押守の助言で名前を付けようとした場面では、素晴が思いつくままに候補名を口にしても無反応だったのに、「陽(ハル)」と呟いた途端に素晴に近づき、鳴き声をあげる。素晴はハルが自ら名前を選んだと思っているが、実は野良猫時代に餌を貰っていた中華料理屋の娘が「春(はる)」という名前で、餌を貰う度に「春」という言葉を聞いていたため、「ハル」というワードを“ご飯を貰える合図”だと勘違いして反応しただけであったりする。
アニメ版本PVでは、素晴とハルの行き違いが描かれている
互いの温もりは「なくなってはならない」存在
素晴はハルによって、ハルは素晴によって世界が広がった。だが、何より大きかったのは、この1人と1匹の出会いそのものだ。
ハルは4匹の弟たちと共に捨てられ、そのうちの1匹は自分が弟の餌を探している間にカラスに襲われ、命を落とした過去がある。横たわる弟の体の冷たさを経験しており、守れなかった痛みを抱え続けていた。そんなハルにとって、食事もろくに取らず、倒れてしまうような素晴は弱々しく見え、過去の後悔を払拭する為に必要な存在になっていると筆者は考える。物語の序盤、素晴の元をすぐに去る予定だったハルを引き留めたのは「この弱い人間を守らなくっちゃ」という使命感で、この意識は今もなおハルの行動原理となっている。
一方の素晴は、「ハルが自分を守っている」とは思いもしないが、精神面でその温かさに支えられている。たとえば、ハルが暴れたことで偶然床に落ちた、死別した両親の旅行アルバムを通して、自分に注がれていた両親の愛情を知り、その思いに報いることができない現状に嘆いた際には、自分を慰めるように顔を舐めて寄り添うハルに救われる。
素晴もハルも、後悔の残る別れを経験している。そんな1人と1匹が出会ったからこそ、今、自分の隣にいる存在を全力で守り、愛情を注がずにはいられないのだろう。
「人間のくせになんかほっとけないんだから…」1#漫画が読めるハッシュタグ#世界猫の日pic.twitter.com/qOce2gejon
— 同居人はひざ、時々、頭のうえ。原作公式 (@DOKYONINWAHIZA)August 8, 2024
素晴を放っておけないハル
運命的な出会いが起きてから、今年で10年が経つが、現在も胸が熱くなる展開は健在だ。2025年11月27日に「COMICポラリス」にて更新された最新話「step.35 見守りたい【素晴編2】」で玄関を見つめるハルの後ろ姿は切なくて堪らなかった。また、「step.34 君のいない日【素晴編2】」では、ほかの猫を撫でながら「ハルがここにいればいいのに」と考えてしまう素晴の姿に「そんなにハルが好きなのか……」と笑ってしまった。きっとこれから先の10年も、素晴とハルは私たち読者の心を温めてくれるだろう。
“猫あるある”エピソードも満載なので、猫を飼っている人はもちろんだが、1人と1匹の“ズレ”や、心温まる関係性はペットの有無を問わず楽しめる作品なので、ぜひ読んでもらいたい。そしてハルの可愛さに心を奪われたなら、公式ストアからハルのLINEスタンプが3種類出ているので使ってみてほしい。
(C)みなつき・二ツ家あす・COMICポラリス







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