特別企画

ドラマ版「ちはやふる」メインキャラクター・大江奏の魅力を語りたい!

”競技かるた”の世界でひときわ輝く青春の群像劇

【ちはやふる-めぐり-】
7月9日10時 放送開始
「ちはやふる」主要キャラクターのひとりであり、ドラマ版で10年後の姿が描かれる大江奏

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 明日7月9日22時より、日本テレビにてドラマ「ちはやふる-めぐり-」がスタートする。

 その原作にあたる「ちはやふる」は、「BE・LOVE」で2008年より2022年まで連載された末次由紀氏によるマンガ。1人の少女・綾瀬千早が小学生のときに競技かるたに出会い、魅入られ、やがてクイーンになるまでを描いたこの作品は、2009年・第2回マンガ大賞受賞、2009年・「このマンガがすごい!」オンナ編3位、2010年・「このマンガがすごい!」オンナ編1位、2011年・第35回講談社漫画賞少女部門受賞、2012年・第16回手塚治虫文化賞マンガ大賞最終候補作となるなど高い評価を得た。

 実際その面白さに、アニメ化だけではなく小説・実写映画化と様々にメディア展開がされ、更に「ちはやふる plus きみがため」という続編の連載が開始されたほどである。

 そして今回のドラマ化である。事前情報によれば、舞台は原作の世界から10年後。原作の大江奏が高校のかるた部の顧問となり、大会に挑む部員たちを指導していくというオリジナルストーリーが展開されるという。

 原作マンガでは主人公の綾瀬千早が将来高校の先生、そしてかるた部の顧問になることを夢見て大学進学を果たしたが、ドラマにおけるかるた部の顧問になったは千早だけではなく、同じ高校のかるた部で共に全国優勝を目指した友人・奏もであった。

 奏は千早と2人が所属していた瑞沢高校競技かるた部を陰に日向に支えてきた、控え目であるが芯が強くいざという時に頼れる女性。千早ではなくそんな彼女の方にスポットライトが当たるのは驚いたが、同時にどんなストーリーになるのか楽しみだ。この機会に、「ちはやふる」という作品について、そして今回メインとなる梅園高校のかるた部の顧問である大江奏がどのような女性であるのかを紹介したい。

「ちはやふる」1巻
【ドラマ【ちはやふる-めぐり-】Perfume「巡ループ」入り予告初公開!7月9日(水)夜10時スタート】

かるたに魅せられた若者たちの熱血青春マンガ「ちはやふる」

 「ちはやふる」は、競技かるたに青春をかけた高校生たちを描いた作品である。まだ小学生の頃、福井から転校してきた男の子・綿谷新に競技かるたの存在を教えられた綾瀬千早はその世界に魅入られ、千早のことが気になっていた男の子・真島太一と共にかるたを始める。

綾瀬千早(以下、画像はアニメ版より)
真島太一
綿谷新
千早・太一・新

 府中白波会に入った3人はチームを組んで大会に出場するなどしてかるたにのめり込み、親交を深めていったが、小学校を卒業する頃に新は福井に戻ることになる。太一も私立中学へ進学することになったために3人は一度バラバラになるが、千早が進学した瑞沢高校で太一と再会。2人は小学生の時の大会で戦った西田優征と古典好きな女の子・大江奏と勉強ばかりしている努力家の男子生徒・駒野勉を誘い、競技かるた部を作り全国優勝を目指す。

大江奏
西田優征
駒野勉

 その中で千早と太一は途中挫折も経験しながらも再会した新と共にそれぞれ女性日本一の「クイーン」、男性日本一の「名人」の座を目指し、現クイーン・若宮詩暢と現名人・周防久志に挑んでいくというストーリーだ。

若宮詩暢
周防久志

 自分の才能の有無に苦しんだり、進路という問題にぶつかったり、恋愛の苦しさを味わったりしながらも、部の仲間と協力し合う熱い友情、他の高校の部員たちとの切磋琢磨。そしてクイーン・名人を目指す過程を応援してくれる大人たちとの出会いの中で3人が成長し、強くなっていく様子は、まさに若者の「青春」を見事に描き切っている。

瑞沢高校かるた部

 また「ちはやふる」ではひとつの問題提起がなされていた。それは「かるた」での経済的自立である。将棋にも囲碁にもプロはいるが、かるたにプロはいない。どれだけ名人やクイーンのように日本一の称号を得たとしても、それはアマチュアの話なのである。作中、クイーンであった詩暢は自分がかるた以外は何もできない不器用な人間であることを自覚し、かるたでは生きていけないことに憤っていた。そんな彼女は祖母のアドバイスを受け、最初のかるたのプロになるべくテレビなどのメディアに積極的に出演したり、企業とスポンサー契約を結ぼうとしたりする傍ら、YouTubeで配信を始める。

 クイーンとしてかるたの世界で何年もトップにいて、ある程度老成しているとはいえまだ高校生の詩暢が、陰口を叩く同級生に「かるたの先生をお給料のある仕事として募集してくれてるとこなんてない。うちはそれを変えたいんや」「うちは有名になりたいんやない。仕事を作りたいんや」と抗議し、必死に「かるたで」稼げるようになろうとする姿には心を打たれる。そして読んでいて心から応援したくなると同時に、かるた界の現状を目の当たりにさせられた。単なる熱血青春マンガというだけではなく、このようなシビアな側面を取り入れることにより、作品に深みが増している。

かるたで生きていこうとする詩暢

 ちなみに連載終盤にあたる令和2年には作者の末次由紀氏の提案で、競技かるたの発展等を目的とした「一般社団法人ちはやふる基金」が設立されている。実際の競技かるた界に貢献しているという点でも素晴らしい作品である。

ドラマで奏はどんな顧問になるのだろうか?

 前述のように原作のマンガは千早を中心とした競技かるた部の青春が描かれている。一歩、今回のテレビドラマではかつて千早に競技かるた部に勧誘された奏が、今度は顧問としてドラマの主人公となる藍沢めぐるを部に引き留めるところから物語は始まるようである。

ドラマ「ちはやふる-めぐり-」第一首ストーリー

 部への引き留めも一筋縄ではいかないようであるが、当時奏自身も千早に誘われてすぐに入部した訳ではない。百人一首の歌の内容を理解せず、札に書かれた文字を競技かるたで取る為のただの羅列としか捕えていなかった千早の姿に、古典文学を心から愛する奏は憤りを覚え、競技かるた自体に抵抗を感じずにはいられなかった。

 そんな奏が語る百人一首の素晴らしさに千早が感銘を受け、もっと百人一首のことを教えて欲しいと食いついてきた千早の態度に奏も心を許し入部に至ったのであるが、かつて自分も入ることを抵抗していた立場で、どのようにめぐるの心を変化させていくのかは非常に興味深い。そしてどのような顧問になっていくのかというのを高校時代の奏から考えてみたい。

互いを認め、親友となった千早と奏

 奏は高校時代、部活内では袴姿が定番となった瑞沢高校で、皆の着付けを行なったりと皆の世話を焼くことも多く、基本的に場の空気を和らげたり後輩の心に寄り添ったりと優しい存在であった。けれど先輩の話を聞かない後輩の態度を一喝したり、千早がかるたに集中できなくなってしまった時は千早に部から出ていくよう言い放ったりと、厳しさが必要な場面では誰より厳格な態度をとることができる。それだけではなく、クイーン戦に臨む千早の為に、勉と共に過去の動画から何人もの専任読手の読みの箇所だけを集めて切り取り、データにして千早に渡すといった、気の遠くなる作業も行なっている。

 また、奏個人としての人物像を表しているのは進路に関してだろう。前述のとおり競技かるたの世界は経済的に自立するのが難しいのだが、ほかにもうひとつ、物語の序盤から経済的に危機に陥っているという描写がなされ続けたものがあった。それは奏が属する着物業界である。現在、着物は特別なイベントでしか着ない人がほとんどだろう。現に、一般家庭における着物の割合は年々低下している。

文化庁「令和5年度 生活文化調査研究事業(和装) 報告書」内1世帯当たりの「和服」支出金額と被服支出金額全体に占める割合の推移のグラフ

 そのような中、袴が着られるからと弓道部に入り、試合には袴姿になることを条件にかるた部に入る。小学生の頃に十二単の構造を知るためにその模型を作ってしまうほどの奏は、古典と同じくらい着物が好きで堪らないのだ。そんな彼女は自身が着物を着る愛好家というだけではない。呉服屋の跡取りとして、ひとりでも多くの人に着物のよさを知ってもらいたい。そして誰もがもっと気軽に着物を着る世の中になって欲しいと願い、日々積極的に活動している。周りが皆Tシャツとジャージの中、ひとりだけ袴姿で大会に出たこともあり、その際は奇異の視線を振り払って堂々とした美しい所作で試合に臨み、着物もいいものであると周囲の認識を変えた。

 また、古来からの伝統を守るだけではなく、競技かるたの世界で知った「半襟Tシャツ」などの着る人がなるべく楽になるような商品も受け入れ、母と共に様々なサービスや催し・宣伝を常に考え、積極的に行なっている。「売るだけではなく着物を楽しむ方法をどんどん提案して」「着物をもう一度普段着に」と考える奏は、やがてひとつの選択をする。

 古典が好きで日本文学を学ぶのが当然だと思っていた奏は、高校3年生の後半、志望学部を変える。「私……古典は好きだからほうっといても勉強すると思うんです」「でも経済とか経営はその「場」に飛び込まないと学ばないなぁって」と、呉服屋の跡取りとしてもっと大好きな着物を広めていく為に、経営学を学ぶ決心をする。

 「好きなことをする為には、好きじゃないこともやる」というのは作中に出てくる言葉であるが、奏もまた、詩暢と同じく強く自立の為に行動するたくましい女性なのである。

 そして、高校生たちにとって重要なファクターである恋愛に関して、古典についてはマシンガントークを炸裂させたり、着物に対しては積極的に行動する奏であったが、こと恋愛に関しては奥手で控え目である。かといって興味がない訳でも鈍感な訳でもない。高校在学中は部長・太一が千早に寄せる想いに気づきそっと励ましたり慰めたりする。太一に想いを寄せる下級生の花野菫の心にも寄り添ったりと、作中の大半は敏感に人の恋心を察し、応援していた。

 また作中、同じ競技かるた部の同級生の駒野勉が奏を好きな描写は折に触れて出てきており、試験で1位になったら告白しよう、全国大会が終わったら告白しようと、幾度も告白しようとするが言い出せない様子が描かれていた。そしてやはり同級生の西田優征が勉の前でわざと奏に告白した時に我慢できずにようやく奏に告白するが、そんな勉に涙ぐみながら奏は「遅いよ、藻塩になっちゃうよ」と答えたのだ。

 読者として、初心者として入部した者同士、よく一緒に行動して協力し合っていたので奏もきっと勉のことが好きで、お似合いのカップルになるんだろうなと予測はしていたが、この奏の返答は驚いた。「藻塩」とは、権中納言定家の「来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや 藻塩の 身もこがれつつ」(山陽小野田かるた協会 久保氏による現代語訳:いくら待っても来ない恋人を毎日待っている私は、淡路島の松帆の海辺で夕 なぎどきに焼いている藻塩のように、じりじりと身も焦がれる思いでいます。)という歌からとった表現だろうことは明白で、古典を愛している奏ならではの返事で微笑ましく思ったが、同時にこの歌を口にするほど勉からの告白を身を焦がすほどの情熱で待ち焦がれていたのかと、人の恋の応援ばかりして自分のことはほとんど表に出さなかった彼女の奥にこんな強い想いがあったのかと、奏の意外な一面を垣間見た気がした。この告白の場面は、主役たち3人の告白シーンに引けを取らない名場面であった。

奏・勉・優征

 以上のことから1話ではめぐるの言葉に戸惑ってしまうようではあるが、持ち前の強さから生徒たちにとって優しく、出来る限りの協力をしながらも、必要な時には厳しく叱る。そして恋心にも寄り添う顧問になってくれると期待している。また、1話から勉と2人になる場面があるようだが、10年経った2人がどのような関係になっているかも気になるところだ。

ドラマの原作も楽しもう!

 小さめな身長で大人しめな外見をしていながら、厳しさもしっかりと持ち合わせている。古典と着物が大好きで、その普及の為に努力し、将来を切り拓いていける。そして部員たちから頼りにされ、笑顔でそれに応えていける。大江奏はそんな素敵な女性であった。

 そんな奏が顧問となり指導する梅園高校のかるた部は一体どんな部になるのか?今からとても楽しみでならない。そしてドラマと共に、ぜひ高校時代の彼女の活躍を原作「ちはやふる」で楽しんでもらえたら嬉しい限りだ。