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板タブ「Wacom Intuos Pro」に8年ぶりの後継機種登場!「Wacom Pro Pen 3」対応と”ダイヤル”新設、どこにでも持ち運べる薄さ・軽さに

【新型「Wacom Intuos Pro」】

発売日:未定

価格:
41,580円(Sサイズ)
62,480円(Mサイズ)
82,280円(Lサイズ)

 ワコムは2月12日、2017年に発売された「Wacom Intuos Pro」の後継機種となるプロフェッショナル向けペンタブレット新機種を発表した。

 今回発表されたのは、「Wacom Intuos Pro」としては1998年以来7年ぶりとなる、後継新機種のプロフェッショナルペンタブレット。こちらの新機種は漫画やイラスト、3D、写真、編集、アニメーションなど、さまざまなジャンルのクリエータに向けて設計されており、前機種と同じくSmall(S)、Mideum(M)、Large(L)の3種類を用意。それぞれのユーザーが、使いやすいモデルを選ぶことが可能だ。

 発表に先駆けて新製品のメディア発表会が行なわれ、発表会では司会進行をプロダクトマーケティングマネージャーの小幡幸結氏、解説を新機種の企画製作に関わったEMR Module, Software Engineering, Senior Managerの加藤龍憲氏がそれぞれ担った。また、後半はマーケティングの豊田美奈氏とともに、イラストレータ/背景アーティストの吉田誠治氏が実機の手触りを語ってくれた。

加藤龍憲氏(左)と小幡幸結氏(右)
用意されたモデルは3種類。ノートPCの前に配置してみたが、こうして見ると大きさの違いが際立つ。アスペクト比は前モデルが16:10だったが、新機種は16:9に変更された

移動先でも手軽に使いたいというユーザーからの声を受け、楽に持ち運べる軽さ・薄さへと進化

 本製品最大の特徴は、ワコムの最新ペンテクノロジを搭載した「Wacom Pro Pen 3」に対応したこと。「Wacom Pro Pen 3」は液晶タブレット(液タブ)の「Wacom Cintiq Pro」で初導入された、3つのサイドスイッチと高いカスタマイズ性を備えたモデルで、このときに“液タブだけではなく板タブでも使いたい”という需要があったため今回の新機種で同梱が決定したという。

 このペンは、ワコム史上最も高精細で正確なペン性能を実現しており、ペンのサンプリングレートが向上しただけでなく遅延を抑え、高い描画性能で快適な体験を提供している。またカスタマイズパーツも同梱され、好みや作画スタイルに合わせて都合36通りのカスタマイズが可能となった。ペン先についても、構造改良によって芯の遊びをより小さくし、さらにペンの中で芯が回転しにくい構造に見直されている。

 なお、新機種では「Wacom Pro Pen 3」だけでなく、馴染みのある文具メーカーとコラボしたデジタルペン(UDペン)にも対応している。

ペン先は、以前のバージョンとなる「Wacom Pro Pen 2」と比べて長く、さらに白色になったことで視認性もアップしている
ペンは、各パーツが細かく分かれている。グリップを取り替えたりボタン部分をマスクするなど、使う人の用途に合わせてのカスタマイズが可能だ
ペンスタンドの中には、替え芯と芯抜きを収納できるようになっている。予備の芯をどこに置いたのか忘れてしまうことが筆者自身もよくあったが、これならば芯をなくす心配も無用だ

 ワコムがアンケートを取ったところ、タブレットをさまざまな場所に持ち運んで使うというユーザーも多かったことから、新機種は前機種にも増して軽量コンパクトなデザインを採用した。このリデザインにより、手前側の最薄部では厚み4mmを実現。これにより、机などの平らな場所に設置したときに、タブレットとの段差がほとんど気にならなくなっている。薄くなると簡単にズレたり動いてしまったりしやすそうでもあるが、しっかりとしたグリップがついているため重さに頼らず動きを止められるようになっている。

 その重量だが、前機種ではSで450g、Mが700g、Lは1,300gあったものが、新機種ではSが240g、Mが411g、Lは660gと、ほぼ半分と言っていいほどの大幅な軽量化に成功。このおかげで、より気軽に持ち運ぶことができるようになった。

発表会終了後、実物を触れる機会が設けられたのだが、筆者も持ってみてその薄さと軽さには驚かされた。これは前モデルと比較した写真だが、こうして重ねてみると下の前機種と比べて上の新モデルの薄さが際立っているのがわかる

 また作業効率向上のために、前機種では横に付いていたExpressKeyを本体上部へと移動させている。合わせて、新機能となるダイヤルも搭載した。こちらは、回転させたときに“カチカチ”という触角的なフィードバックがあり、ブラシサイズの変更や拡大縮小、さらには動画のタイムライン移動などでダイヤル部分を見なくても手応えが返ってくるため、操作を簡単確実に行なえる。

 ExpressKeyやダイヤルといった操作系をタブレット上部に配置した理由だが、ワコムがユーザーからの意見を聞いたところ「タブレットの上側にキーボードを置き、そこで左手でショートカットなどを操作しながら右手でペンを動かすという話を聞いたので、手の動きを最小限に留めつつアプローチできる場所を考えた結果、タブレット上部に配置するということになりました」と加藤氏が解説してくれた。MとLサイズにはダイヤルとExpressKeyが中央を挟んで左右対称に1組ずつ配置されているので、右利き左利きにかかわらず使いやすいようになっているのも特徴だ。

タブレット上部に見える、十字にわかれているのがExpressKeyで、歯車状の模様が付いているのがダイヤルだ。ダイヤルは回すとカチカチという感触があるので、見なくても操作感がわかるようになっている。ExpressKeyも実際に押下するので、こちらもほぼ間違えずに操作可能だ

 さらに、新しくUSB/Bluetoothセレクタも搭載。これにより、ケーブルを抜き差しすることなくUSB接続×1とBluetooth接続×2を切り替えることが可能になっている。この機能を搭載した理由について加藤氏は「クリエータの皆さんは、家だけでなくスタジオや出先などでもペンタブレットを使います。また、人によっては作業によってPCを使い分けている人もいます。その都度タブレットを接続し直すのは、コードを抜き差ししたりすることでコネクタ部分の耐久性などに影響を与えるので具合が良くない。そこで、USB接続はそのままに、Bluetooth側で切り替えることで接続先を変えるようにしました。前機種では2台までの切り替えが可能でしたが、特定のPCを狙ってやる方法がなかったので、新機種に搭載しました」と解説してくれた。

前機種との比較表。読み取り範囲と質量の部分を見比べると、新機種では大幅に広く軽くなったのが読み取れる

 現行品と比べてサイズと重量はコンパクトに、描画スペースはより広くなり連続駆動時間が延びた新しい「Wacom Intuos Pro」は、Sが41,580円、Mが62,480円、Lが82,280円で発売される予定となっている。

 なお、製品を購入するとソフトウェアとしてCLIP STUDIO PAINT EX(3カ月ライセンス)と写真編集ソフトのCapture One(3カ月ライセンス)、リモートデスクトップ下でワコムの液晶ペンタブレットとペンタブレットのペン入力を最適化するWacom Bridge。サービスとしてはファイル転送サービスのMASV(3カ月ライセンスまたは250GB、英語版のみ)と、見えない固有IDを埋め込み著作権保護を行うWacom Yuifyベータ版がバンドルソフトウェアと対応サービスとして提供されるとのことだ。

吉田氏、「物理ダイアル」を激推し!実機の手触りが語られる

 新製品発表会の後半では、司会進行をワコムJPマーケティングの豊田美奈氏が担当し、イラストレータ/背景アーティストの吉田誠治氏が、その場で新機種を使いイラストを描きつつ、事前に貸し出されていた新機種を1週間ほど使ってみての感想を述べてくれた。

 豊田氏から「一番気に入ったポイントは?」と聞かれた吉田氏は、「物理ダイヤルです」と即答。「左右で2つ付いているので、右は拡大縮小回転、左はレイヤに使っています。今までの静電式は、触っただけで誤作動が起きて困ったのでオフにしていたんですが、今回のは誤操作の心配がないので快適に使うことができました」と、前機種では使用しなかった機能を、新機種では積極的に使っているという。

 ExpressKeyについても「いろいろと設定できるので、キーボードを触らなくても作業ができるようになりました。以前はキーボードがないと作業にならなかったが、今回は一般的な左手デバイスもいらないんじゃないかな、と思ったほどです」とも。

 吉田氏が液タブではなく板タブを選ぶ理由も語られ、「背景を描くのが主な仕事にしているので、描くときには作業が細かくなります。ザックリとしたブラシ運びで絵を描くから、細かい作業をしたいときには手元が隠れてしまう。その点、板タブなら画面が手で隠れないのが利点です」と解説した。

新機種を使用して、絵を描きながらその使い心地を答えていた吉田氏(右)は、2003年よりフリーの背景グラフィッカーとして活躍しているイラストレーター。代表作には、東京ゲームショウ2023 VRのキービジュアルのほか、月刊「建築知識」表紙イラストや「美しい情景イラストレーション」表紙イラストなどがある。現在は、京都芸術大学講師、京都精華大学講師も務める。写真左は、後半の司会進行を務めたワコムの豊田氏

 仕事柄、ゲスト講師として招かれることもある吉田氏は「講演先で、一番小さなタブレットしかないと言われることがありまして……その時はそのサイズで作業しますが、やはり大きなタブレットがありがたいです。通常は大きいと重いですが、新機種は体感で前機種の半分の重量になっています。描画スペースも大きくなって、前機種ではいったい何をやっていたのかと!」と思ったそうだ。

 新機種の厚みについても「これまでは厚みのため(前機種は最薄部で約8mm)机との段差があったので、その隙間を埋めるべく薄い本を置いて解消していましたが、新機種はそもそも薄いのでほとんど気にならずに作業ができています」とした。しかも「借りて一週間使っていたのですが、返却して以前のモデルに戻したら、使いにくくてしょうがないんです。これ(新機種)持って帰っていいですか?」と豊田氏に聞くなど、新機種にべた惚れだった様子。

 「Wacom Pro Pen 3」の使い心地を尋ねられると「これになったのはありがたくて、板タブユーザとしては液タブの『Wacom Cintiq Pro』に先行導入されたのを見て『いいなぁ』と羨望のまなざしだったのですが、これで解決です。センサの性能が高くペンの位置をよりキャッチアップできるようになっただけでなく、芯の遊びが減ったのが絵描きとしては快適!さらに、芯が中で回らなくなったことで、これまで以上に細かい作業ができるようになった感覚があります」と、芯先の進化は吉田氏にとってバッチリとハマったという。

 続けて、芯先の強度やラバー芯について問われた吉田氏は「タブレット表面にペンがこすれる回数が多く、前モデルでは1日に2回も芯を取り替えていたことがあったため、削られにくい芯を取り寄せて使っていました。しかし今回のはデフォルトで使いやすいし、一週間使ったのに芯先も全然削れてなくて驚いています。ラバー芯も試してみましたが、気持ち柔らかいので、少し描き味が欲しい人には良いと思いました」と、やや興奮気味で回答してくれた。

 ラバー芯については加藤氏が「描画だけでなく、映像編集ソフトで狙ったところに止まることをターゲットにしてラバー芯を開発しました」と付け加えると「狙ったところで繊細な作業をしたい人には良いですね」と吉田氏も同意。

 そして「新機種はWork + Flowをテーマにしていると聞きましたが、キーボードを極力使わなくなったことで集中できるようになりました。これまで面倒だったのは、テンキーを触らないといけないときに手がクロスしてしまうことだったのですが、新機種ではショートカットを割り当てられて、しかも板タブの上部にあるので、余分な行動をしなくてよくなったのも大きいです」と、吉田氏。普段からPCを使用して絵を描いている人にとっては、このあたりは大きく同意できるところではないだろうか。

ExpressKeyには使いやすいショートカットを、ダイヤルには頻繁に使う機能を割り当てることができる。このおかげで、キーボードを使う機会が激減したとのこと

 最後に、豊田氏から「新機種を使って欲しい人は?」を問われた吉田氏は「今、板タブを使用している人は、全員使った方が良いです!」とキッパリ。オススメサイズについても「買うならLサイズです。今までのMサイズがLサイズで、SサイズがMサイズの感覚で使えます。なので、今まで使ってたのよりワンサイズ上を買って欲しいです。画面と同じサイズになると本当に快適に作業できるし、センサ面が大きくなると絵の精度が上がるので上手くなります。絵の話ですけれど、拡大して作業するとバランスが崩れることがありますが、全体を見ながら作業すれば、そういったことも防げます。板タブのサイズが小さいと少し厳しいですが、大きくなれば拡大せずに作業できるので、とにかく大きいのがオススメです」コメントして、新製品発表会は終了となった。

 新機種の「Wacom Intuos Pro」に関しては、現時点での発売日はアナウンスされていないが、板タブを持ち運んで使用していた人や用途ごとに接続先のPCを切り替えていた人、また精度の上がった「Wacom Pro Pen 3」が使いたかったという人には、発売が待ち遠しいものとなるだろう。