インタビュー

かわいくて、“ゴリッゴリ”に強い、ゆかりくん誕生秘話「ゆかりくんはギャップがずるい」作者あんどうまみ氏インタビュー

【ゆかりくんはギャップがずるい】
コミックシーモア「恋するソワレ」連載中
価格:200ポイント

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 「かわいい」と「強い」のギャップが読者の心を掴んで離さないラブコメディ「ゆかりくんはギャップがずるい」。あんどうまみ氏の少女漫画デビュー作となる本作は、コミックシーモアのオリジナル少女マンガレーベル「恋するソワレ」の連載作品として配信が行なわれており、現在は11巻まで発売されている。コミックシーモアでは3巻まで無料で読むことができる。

 さらに2月5日からは、TOKYO MXやTVerなどで実写ドラマがスタートする。今回は、今まさに盛り上がり中の本作の作者あんどうまみ氏にメールインタビューで、作品が生まれたきっかけや作品作りの裏話などを聞くことができた。

 あんどうまみ氏自身の経験と、徹底した取材に基づいたリアリティ、そして自身の想いを作品のどの部分に託したのか、作者の熱い想いをインタビューから感じ取ってほしい。

「ギャップ」を最大化するための舞台装置としての学校

――アナウンスの講師と警官という、あまり類のない舞台設定ですが、この業界を舞台に物語を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

あんどう氏: 担当さんの「理想の男の子を描きましょう」という提案からはじまりました。私は「かわいいけれど実はゴリッゴリに強い」という少年漫画のキャラクターが大好きなので、それを少女漫画に落とし込みたいと思い生まれたのが「葉山 縁(はやま ゆかり)」です。「かわいい」からのギャップの振り幅を大きくするために、「年上」「刑事」という要素も足していき、じゃあそんな“ゆかりくんのギャップ”が最大限に活きる舞台ってなんだろう?と辿り着いたのが、今の舞台設定です。

ヒロインの森 芽衣子はアナウンサー専門学校の講師

――ご自身のタレントとしての経験も反映されているとお聞きしました。

あんどう氏: 私は地元北海道で情報番組のレポーターなどのタレント活動もしています。その時の所属事務所の先輩に、大学で非常勤講師としてアナウンスを教えている方がいて。その方のキャリアが印象に残っていました。週1回の「“非常勤”講師」なら生徒のパーソナルな部分を深く知らなくてもおかしくはないこと。かつ「生徒」と思っていたら実は……という振り幅で、ゆかりくんのギャップを魅力的に表現できるのではないかと考え「これだ!!!」と繋がりました。

 当初はコミックシーモア毎月マンガ賞への投稿用の読み切りとして作っていたので、非常勤講師として何を教えるかは違う案も出していました。ですが、ストーリーラインが固まっていくうちに、担当さんから「連載を意識しましょう」と言っていただけたので、先の展開を見据えて、自分のタレントとしての経験も活かせるであろう「アナウンス」に決めました。

――「ゆかりくん」というキャラクターはどのような着想から生まれたのでしょうか?

あんどう氏: 最初の質問と重複してしまいますが、私は緋村剣心(るろうに剣心)とか、緑谷出久(僕のヒーローアカデミア)とか……そういう「かわいいけれど実はゴリッゴリに強い」という少年漫画のキャラクターが大好きで大好きで……。それを私なりに少女漫画で表現しようと「葉山縁」が生まれました。

 私が魅力を感じるキャラの要素を一言で表すなら「ギャップ」だろう、と。
そのため、ゆかりくんは「かわいい」けど「かっこいい」。「優しい」けど「厳しい」。「柔らかい」けど「頑固」。「強い」けど「弱い」。そんな相反するものがたくさん共存しているキャラクターにしたいとイメージを固めていきました。その後、私の三次元の好みもかけ合わせていって今のゆかりくんになりました。ゆかりくんには私の愛と希望と夢と理想がたっぷり詰まっています。

――あんどう先生ご自身が考える「ギャップ萌え」の魅力を教えていただけるでしょうか。

あんどう氏: 自分の想像の外側に連れて行ってくれる衝撃でしょうか。
普段知らず知らずに固定観念に囚われてしまっていると思うんです。そこから外れる瞬間の驚きがときめきに似ているのかもしれません。そんな風に自分の世界の見方に少し変化をくれる人を、実生活においてもとても素敵だと感じています。

優しさと強さのギャップがゆかりくんの魅力!

取材から生まれるリアリティ。「カメラを洗う」という刑事の日常

――作品を作るための資料集めや取材などで苦労したことがあれば教えてください。

あんどう氏: 自分の経験も活かせるだろう……と先ほど答えましたが、実際には、私自身は話す仕事をしていても、それを「教える」経験はなかったので、芽衣子の仕事のイメージを膨らますのに苦労しました。非常勤講師をしている事務所の先輩や代表にご協力いただいて取材し、イメージを固めていきました。第1話で「鍛えてるんで」というゆかりくんに対し、芽衣子が「あ~発声いいもんね」と言う会話は、先輩から「体を鍛えている人は発声で分かる」と聞いた話が元になっています。

 ですが、もーっと苦労したのはゆかりくんの仕事です。かっこいいからという結構短絡的な理由で刑事にしたので……(笑)。ここを膨らませるために、警察について詳しい方に定期的に取材をさせていただいています。

――どんなことを取材しているのですか?

あんどう氏: 例えば、作中で出てくる「カメラを洗う」というフレーズは取材中の雑談の中に出てきた言葉です。「刑事っぽーい!」とメモしていました。第3話では、芽衣子が親友・マキとすれ違ってしまうのですが、その問題はゆかりくんの手は借りず芽衣子自身に解決してもらいたかった。でも、ゆかりくんの存在意義も出したい……と頭を抱えていた時に「防犯カメラ!」へと繋がって、狙い通りの流れを作ることができました。

「カメラを洗う」が登場するシーン。取材が作品のリアリティを生み出す

――特殊詐欺のような現代の犯罪も登場しますね。

あんどう氏: 第7話と8話で特殊詐欺に関わる生徒が出てきます。担当さんと2人で調べた情報によると、この生徒は逮捕されてしまうだろうと思い、その覚悟を持ちながら描いていました。ですが、取材の結果「逮捕されない」ということが分かり、心底ほっとしました! その時の感情が、そのまま8話の芽衣子の反応にも活きています。

――取材の中で重視している事はありますか?

あんどう氏: 文献を調べるだけではなく、「人と話す」取材の重要性を感じています。雑談の中から得た知識が思いがけず繋がったり、お話を聞いて得た自分の感情そのものが作品に活きたり……。色々な方にお力添えをいただいたおかげで、展開が読めない独自のストーリーになっているのではと思っています。なぜなら私が一番びっくりしながら描いていますから!(笑)。

テーマは「人生のままならなさ」への肯定

――主人公の森芽衣子は夢に敗れた経験を持ちながらも前向きな女性として描かれていますね。

あんどう氏: 芽衣子は本気で目指した「アナウンサー」という夢を叶えることができませんでした。でも、夢は叶わなくとも人生は続きます。むしろそこからの方がうんと長い。「なれなかった」後の人生のひとつのモデルとして芽衣子を描けたら、と思っています。新しい夢を見つけるかも知れないし、忘れた頃に昔の夢が叶うかも知れない。芽衣子のこの先にだって、まだまだ色々な可能性がある。でもそれは目の前のことにひとつひとつ真剣に向き合い続けているからこその可能性だと思うんです。

 もし今、「うまくいかない」と感じている方がいたら、うまくいったっていかなくたって本気で頑張ったなら人生は面白い! と芽衣子の人生を通して、少しだけ前を向いてもらえたら嬉しいなあと思っています。芽衣子は私が「友達になりたい子」と思って描いています。決して完璧じゃないし弱音だって吐くけれど、へこんでも傷ついても自力で立ち上がる強さのある子。その人間らしさが愛らしいと思っています。

――作品全体から感じる「人生はままならない」というテーマに込めた想いを教えてください。

あんどう氏: ロックバンド「スピッツ」の『かなり思ってたんと違うけど 面白き今にありついた』という歌詞が根底にあります。スピッツが大好きなんです……!

 ゆかりくんの「ギャップ」からはじまり、物語自体も「ギャップ」に主軸を置きたいと考えました。理想と現実のギャップ。素敵な人を羨んでしまうけれど、その人の辛さはその人じゃないと分からない…そんな表面的な印象と、実際のギャップ。テーマが定まった時、自然と自分の中で流れたのが「スピッツ」の「手鞠」という曲でした。

「かなり思ってたんと違うけど 面白き今にありついた」

 このフレーズがめちゃくちゃ大好きでして、思っていた場所と違う場所にたどり着いても、それを面白がれるのって、頑張ってきたからこそだと思うんです。人生は常に「ままならないこと」とどう向き合って、折り合いをつけて、乗り越えていくのか、その連続なのかなあ、なんて思っています。でも、それは決して悲観することではなく、その過程で得られることもあるし、だからこそたどり着ける場所もある。理想通りの結果を得られなくても、本気で頑張った日々は決して無駄になんてならない。そんな風に人生を面白がれる感覚が、40年近く生きてきてやっと備わりました(笑)。

 芽衣子とゆかりくんは、「ままならない」過去と向かい合うために辿りついた学校で出逢います。そんな2人を通して、読者のみなさま自身の「頑張ってきた日々の積み重ねの今」を愛おしく思ってもらえたら嬉しいです。

「ままならない」というシーンが物語中で何度も登場する

――「人生はままならない」と感じた、あんどう先生ご自身のエピソードがあれば教えてください。

あんどう氏: 「ゆかりくんはギャップがずるい」は少女漫画家としてのデビュー作なのですが、実は10年前にコミックエッセイで一度デビューしているんです。でも、全く売れず、続けることができず、かつ自分の実力に限界も感じて漫画家の夢は一度諦めました。「ままならないなあ」ってめちゃくちゃ思いました!!!

 でも漫画を描くことは変わらず好きで趣味で描き続けていました。その内に時代が変わりまして。連載中のシーモアコミックスをはじめ、配信メインのレーベルも主流になり、漫画家の間口が広がりました。私は筆が遅いのですが、シーモアコミックスは作家にあわせて配信ペースをフレキシブルに対応してもらえます。デジタルも隆盛して、作画も昔より楽になりました。今の時代なら、もう一度漫画家を目指せるのではとシーモアコミックスに投稿したのがはじまりでした。

 一度諦めた夢が10年経って叶うんだなあと驚いています。でもそれは、漫画家を目指すための直接的な努力ではないけれど、ずっと描き続けていたからこその巡り合わせだと思うんです。私自身芽衣子とおなじ「なれなかった」側でしたけれど、10年という月日を経て叶えることができた。「人生っておもしろ~!」と実感する日々です。

作画環境とこだわりの「クリスタ素材」

――作画に使っている素材やシステムについて教えてください。

あんどう氏: レポーターというもうひとつの仕事柄出張が多いので、出先でも作業のできるiPad PROで、CLIP STUDIOを使って描いています。素材はその都度マイブームが変わるんですが、最近はクリスタ素材の「チューリップ風のはなブラシ(コンテンツID:1773939)」がお気に入りです。

――例えばどんな箇所で使われているのですか?

あんどう氏: 第9話と第11話に登場しています。間の抜けたゆるっとした空気を出したい時にぴったりでかわいいです。第1話から一貫して困った時に使っているのが「ボケ_六角cs(ID:1672125)」。グレースケールで拡大縮小も自由なので、きらきらさせたい時にめちゃくちゃ使っています。便利!

お気に入りだという「チューリップ風のはなブラシ」

今後の展開と、ファンへのメッセージ

――今後の展開について、こんなことをやってみたい、入れてみたいというものがありましたら、ネタバレにならない範囲で教えてください。

あんどう氏: 今までは芽衣子もゆかりくんも自分自身の「ままならなさ」とそれぞれ向き合っていました。でも夢が叶っても、想いが通じてもそこがゴールじゃない。ステージが変われば、また新しい葛藤が生まれてくる。ゆかりくんの過去や、芽衣子の進路など…今後は2人で生きていくための問題に、2人で寄り添い合いながら、たまには衝突しながら、向かい合ってもらいたいです。……と今は思っておりますが、ケセラセラな精神で2人に引っ張ってもらいながら、最終的に面白い場所に辿りつけたらそれでいいじゃん!な気持ちです。要するに、ふわっとしています!

――先生がいまハマっているものや沼っているものがあれば教えてください。

あんどう氏: ドラマ版に出演してくださっている高尾颯斗さんも所属しているダンス&ボーカルユニットの「ONE N’ONLY」さんです。原作者として距離感は保とうという葛藤からあまり個人のSNSでは騒がないように頑張っているんですが……! キャスティングをお聞きしてから色々と動画を見まくった結果、見事にハマっています。

 バッチバチにかっこいいパフォーマンス時と、オフの時の無邪気な雰囲気のギャップがとても素敵で、日々「ギャップ萌え」の引き出しが増えております~! 今までボーイズグループにハマったことがなかったのですが、ドラマ化を機に素敵な出会いをいただいて新しいときめきを知ることができて、今後の創作にも活きそうです!

――今、一番欲しいものを教えてください。

あんどう氏: スケジュール管理能力でしょうか……。もっとこう効率よく作業をして早く作品をお届けしたいのですが、日々作業時間が伸びていきます…なんでだ……。

 アウトプットばかりしていると出涸らしになってしまうので、プライベートも充実させてインプットを増やして創作に繋げたいです。ベネチアに行きたい。そのためにもスケジュール管理能力をください……。

――最後にファンへのメッセージをお願いします。

あんどう氏: たくさんある漫画の中から「ゆかりくんはギャップがずるい」を見つけてくださって、ありがとうございます。読者の皆さんに「届いた」と感じられる瞬間が何よりの活力です。今後とも芽衣子とゆかりくんを見守っていただけたら嬉しいです~!漫画もドラマもどちらもよろしくお願いいたします!

――ありがとうございました!