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「かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜」が連載開始10周年!「告白させる恋」が話題を呼んだラブコメ作品
ラブコメの共通認識を裏切りながらも恋愛の普遍的なテーマを描く
2025年5月19日 00:00
- 【かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
- 2015年5月19日 連載開始
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2015年から「ミラクルジャンプ」(集英社)で連載を開始し、2016年からは「週刊ヤングジャンプ」(集英社)に掲載された赤坂アカ氏による漫画「かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜」が、5月19日で10周年を迎える。
本作は、かつて貴族や士族を教育する機関として創立された歴史を持つことから、財界関係者や富豪、名家の子どもたちが多く通う超名門校・私立秀知院学園を舞台に、生徒会で起こる出来事を描いた青春ラブコメディ。
原作コミックスは全28巻、2019年にTVアニメ第1期が放送された後は2020年に第2期、2022年に第3期、2023年には4話構成のTVスペシャルと複数回にわたってアニメ化されたほか、橋本環奈と平野紫耀(King & Prince)をメインキャストに据えた実写映画も2度制作されるなど、その人気の高さがうかがえる大ヒットタイトルだ。
この記事では、そんな「かぐや様」の10周年にあわせて、多くのファンに支持された作品の魅力について触れていく。なお、終盤のストーリーに関する内容も記載するためネタバレには注意してほしい。
舞台は富豪名家の子、将来日本を背負うことになる人材が集う私立秀知院学園
本題に入る前に、まずは主要キャラクターとなる秀知院学園高等部の生徒会メンバーについて紹介したい。なお、本作は生徒会会長の白銀御行(しろがねみゆき)や副会長の四宮かぐや(しのみやかぐや)といった生徒会幹部が2年生の時点から卒業するまでを描いているため、作中で学年がひとつ繰り上がる。
・四宮かぐや
本作主人公のひとりである、秀知院学園高等部2年生。総資産額が200兆円にも及ぶ巨大財閥・四宮グループの息女であり、本作タイトルにある“かぐや様”その人。容姿端麗で勉学はもちろん、あらゆる分野において秀でる才能の持ち主で、学園内の生徒から羨望を集めている。
普段はその出自に相応しく、余裕ある優雅な態度を崩さないが、生徒会会長の白銀御行と日々繰り広げている“恋愛頭脳戦”では恋愛に疎く、パニックに陥る様子も(読者には)たびたび見せている。生徒会では副会長を務める。
・白銀御行
本作主人公のひとりで、かぐやと同じく高等部2年生。幼稚園から大学までの一貫校であり、名家の子が多く通う秀知院学園において、一般家庭の出身かつ、高等部から編入してきたという異例の存在。さらに偏差値77と非常に高い学力レベルを誇る学園内で、試験では常に1位を獲得し続けるほど勉学に秀でている。
しかし、それは毎日欠かさず10時間を勉強に費やすという極限の努力によって保たれており、生徒会の業務に加えて、空いた時間でアルバイトもこなす超ワーカホリック気質の持ち主。3時間ごとにカフェインを摂取しなければ寝てしまうほどの寝不足状態が常であり、その影響でしばしば“目つきが悪い”と評される(本人も気にしている)。
・藤原千花(ふじわらちか)
かぐや、御行と同じく2年生。生徒会では書記を務める。緩やかなウェーブがかかったピンク色のセミロングヘアーと豊満なバストが特徴的で、人当たりがよく朗らかな雰囲気の持ち主。いわゆる天然キャラ的な立ち位置だが、曽祖父が元総理大臣、叔父が現職の省大臣と政治家一家の出身で、外交官であった母の影響で5カ国語を話すことができ、さらにはピアノの全国大会で金賞を獲得するなど類まれなる音楽面の才能を持っている。
好奇心旺盛なため、生徒会室では話題を提供したり、テーブルゲーム部に所属していることからアナログゲームを持ち込むことがあり、そのやりとりや勝負を通じて、かぐやと御行が恋愛頭脳戦へともつれ込む展開も多い。
・石上優(いしがみゆう)
高等部1年生。長い前髪で片目を隠し、常にヘッドホンを首にかけている気だるげな印象の人物。親が零細玩具メーカーを経営しており、その経理にも触れていることから数字に強く、生徒会では会計を担っている。実務能力も高く、御行からは「石上なしでは生徒会は破綻する」と評されるほどの信頼を得ている。
控えめな性格で、人の輪からは一歩引いたところにいることが多く、それ故か観察力に優れ、周囲の人間の機微に触れる(その結果、無用な怒りを買ったり自身の評価を下げたりと損をする)ことが多い。中等部時代にとある暴力事件を起こしており、不登校になっていたところを御行に見出される形で生徒会入りする。
・伊井野ミコ
石上と同じく高等部1年生。3年生になった御行が再度生徒会会長に就任するため、校内選挙に臨むエピソードで対立候補として現れた(この時点では2年生)。父親は高等裁判所裁判官、母親は国際人道支援団体職員という家庭に生まれ、両親が公務で家を空けがちな家庭で育った。
「世の中には悪い人がいっぱいいるから両親が忙しくしている」という考えから“正しさ”にこだわる傾向があり、風紀委員としても活動するが、それ故に周囲からは煙たがられている様子。3年生の御行が会長になってからは、会計監査として生徒会に入る。
ラブコメのコンセンサスを裏切るテーマ「恋愛は好きになった方の負け!」
ひとえにラブコメといっても、主人公に対して複数の人物が好意を向けるハーレムものや、学校や会社といった閉鎖的なコミュニティに属する男女の思惑が絡み合う群像劇など、そのパターンは様々だ。
しかし「好きになった人と気持ちが通じ、付き合えたら幸せだろう」という共通意識が読者側にうっすらとあり、その結末を目指して(時には裏切って)進んでいく物語を楽しむという点については、これまで世に送り出されてきた多くの作品によって、ある程度のコンセンサスとして形成されてきたはずだ。
恋愛をテーマとしている作品にとって大きなクライマックスとなるのは、やはりキャラクター同士の想いが通じ、それまでとは異なる特別な関係になること……一般的にいえば、彼氏彼女の関係になることだ。それ故に読者の立場からは「付き合うまでがゴール」という見方をしがちで、実際にその山場を迎えた勢いで完結する作品も少なくない。
だが、「かぐや様」は、今まで我々がぼんやりとゴールに据えていた「付き合えたら幸せだろう」というところから一歩踏み込み、搾取する側とされる側、尽くす側と尽くされる側といった、「恋愛にも明確な力関係がある」ことをテーマにしている。恋愛は戦であり、好きになった方の負け……俗に言う“惚れた弱み”を見せてはならない、という主張が垣間見えるというわけだ。ラブコメというジャンルにおいて、この切り口の新しさが多くの読者の目を引いた。
「高度なことをしているのに、その動機がしょうもない」というギャップ
そんな新しい切り口で演出された本作の面白さの根底には、「なんかすごく高度なことをやっているのに、それに反して動機がしょうもない」というスタンスがある。高校生が使いこなすには少々似つかわしくない専門的な理論や、思わず膝を打つような瞬発的な機転を利かせながら、表面上は優雅に、しかし内情は激しく丁々発止のやり取りを繰り広げるかぐやと御行。
その一方で、恋愛経験の少なさや疎さがにじんでしまっている(お可愛いこと!)2人というギャップをコミカルに描き出している。読者は登場人物に感情移入するというよりも、初心な恋愛を傍観者としての視点から眺めることになる。そういった性質から、ナレーションによる状況説明やキャラクターの独白が多くなっているのも本作の大きな特徴だ。
「相手に告白させたい」恋愛の普遍的なテーマが隠れた、その本当の動機
基本的にはそんなラブコメディとして進行していく本作だが、要所要所で重めなシリアス展開が差し込まれていく。日本有数の財閥の令嬢として生まれ、自身も数多くの才能を持つ、逸脱した天才であるかぐや。
歪な家庭の事情や、彼女を利用しようと近づく者も少なくない生育環境で、彼女がどんなパーソナリティを形成するに至ったのか。普通の高校生として生徒会メンバーとの何気ない日常を過ごしたいだけなのに、思うようにはいかない四宮家のしがらみなどが徐々に浮き彫りとなり、作品後半ではそういった問題が物語の軸になっていく。
ここで少し余談だが、シリアスな展開が増える本作後半の清涼剤となるのが藤原千花の存在。朗らかでノリが良く、かわいらしくて女性的な魅力も備えている……TVアニメでは担当キャストである小原好美氏の好演も相まって、「かぐや様」を代表する人気キャラクターだ。
人前では完全無欠な生徒会長を演じているものの、スポーツや音楽など勉強以外はからっきしな御行をコミカルにコーチングするエピソードや、好物のラーメンを食べに行った先でマニアたちの注目を浴び、振り回す様など、息が詰まりそうな展開が連続する物語の流れをリセットしてくれる。個人的に赤坂アカ氏から出力されるコメディ描写が好きな身としては、後半に不足しがちな栄養素を補ってくれる存在だ。
本作ではかぐやのパーソナリティと四宮家という少し浮世離れした課題が横たわる傍ら、これまではコミカルに処理されがちだった御行の超ワーカホリック体質の由来や、暴力事件を起こした石上の過去と再起といった、読者にとって比較的身近に感じられる問題も描かれていく。
その中で、「恋愛は好きになった方の負け!」と打ち出された作品の根幹テーマに隠れていた、「かぐやと御行はなぜ相手から告白されたいのか?」という動機も明らかにされる。本作の根幹である「告白させる」というゲーム性を帯びた2人の目的や行動は、一貫してコミカルに、ときにシリアスに描かれてきた。そんなキャッチーなテーマが先行する一方で、かぐやと御行が「なぜそうしたいのか?」という真意については、ぼやかされているところがある。
その本心が明かされていくドラマには、男女が特別な関係になる際に、当たり前に存在する問題や恐怖心について触れられている。
このように、本作の主役である2人のアイデンティティにも密接に関係する「本当の動機」は、恋愛における普遍的なテーマと直結する。これもまた、本作が多くの読者に支持される理由のひとつだろう。
赤坂アカ氏は本作の連載中、さらなる大ヒット作「【推しの子】」を原作者として手がけることになる。「かぐや様」完結後、漫画家としての引退を表明し、漫画原作者としての活動に専念することを発表した。
そんな同氏原作の最新作「メルヘンクラウン」が、同じく「週刊ヤングジャンプ」にて3月19日からスタートした。稀代のヒットメーカーとしての地位を確かなものにしつつある赤坂アカ氏は、今度はどのような物語を紡ぐのか。最新作の動向からも目が離せない。
(C)赤坂アカ/集英社