特別企画

実は鬱展開!? マンガ「ちいかわ」の魅力とは?

なんか小さくてかわいいやつ=通称「ちいかわ」たちの、可愛いとは真逆の物語

【ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ】

Xにて連載中

 イラストレーター・ナガノ氏による「ちいかわ」は、X(旧Twitter)で連載されており、1ページ単位でストーリーが展開していくウェブマンガである。単行本は2024年4月現在で、講談社から6巻まで発売中。22年4月からフジテレビ系『めざましテレビ』内でアニメ化されている。Xのフォロワー数は300万を超え、ひとたびマンガが投稿されると、瞬く間に20万いいねが付き、コラボカフェやコラボグッズも次々発売されてもすぐに完売になるなど、今やその人気は破竹の勢いである。

【【公式】『ちいかわ』第1話「かためのプリン/ホットケーキ」】

 その人気の理由はどこにあるのか。もちろん、キャラクター達の見た目の可愛さは言うまでもない。すぐ泣いてしまう気弱で健気な主人公「ちいかわ」、いつも明るい「ハチワレ」、自由で気ままな「うさぎ」。個性あふれる3人(匹!?)の2頭身のまん丸フォルム、つぶらな瞳にピンク色のほっぺは、癒しと可愛いがたくさん詰まっている。

【ちいかわ】

 他にも、ちいかわ達のあこがれの存在「ラッコ」、瞳が大きくてしっぽがふさふさの「モモンガ」、頑張り屋の「シーサー」、全身ピンク色の「古本屋」、マンガではいつもお酒を飲んでいる「くりまんじゅう」など、魅力的なキャラクター達がたくさん登場する。

 そんな「ちいかわ」ファンの中には、このキャラクター達の愛くるしさに射抜かれ、毎月何十種類も発売される新作グッズを集めているが、マンガやアニメを見ていない層が一定数いる。そのような現象は何も珍しいことはない。スヌーピーを好きな人が、スヌーピーの原作マンガを全部読んでいるとは限らないし、それはハローキティやミッキーマウスだってそうだろう。ディズニーランドに行く人が皆、ディズニー映画を観ているとは考えにくい。「ちいかわ」という作品はまさに、そういったキャラクターと同様の流行り方をしているのである。

 だが、筆者は、そんな「ちいかわ」の可愛い一面だけを愛するのはもったいないと思っている。何故なら、「ちいかわ」はマンガがめちゃくちゃ面白いからだ。しかも、見た目のキュートさとは裏腹に、物語はダークな世界観が影を落としている。ここからは、「ちいかわ」を、ストーリーの怖さに焦点を当てて紹介していく。

のほほんとしているちいかわ達は実は「労働」をしている。

 ちいかわ達のような2頭身の種族を本記事ではちいかわ族と表現しよう。ちいかわ族は、童話の中のような、森や草原、川がある世界の中で生活しているが、そこは、炊き立てのご飯が入っている炊飯器が埋まっていたり、パンのなる木が生えていたり、アツアツのお味噌汁の川、ソフトクリームが出る木、地面から湧き出るフエラムネがあったりなど、夢のあるファンタジーのような場所である。

 ご飯系もスイーツ系も自然に湧くのだから食うに困らない……と思いきや、これらは何の因果か、突然涸れてしまうことがあるのだ。そのため、ちいかわ族は、草むしりやシール貼り、時には命の危険がある討伐などの労働をして、身銭を稼いでいる。稼いだ金で、食堂で定食を食べたり、食品を買ったりするわけだが、他にもカメラやポシェットなども購入したりしている。普通にコツコツ働くキャラクター達なのだ。

そして「管理社会」に住んでいる

 「労働」をして、生活費を稼いでいるちいかわ族だが、実はその「労働」のシステムは、ちいかわ族が自前で作り上げたものではなく、「鎧さん」という人間に近い種族が取り仕切っている。「労働」を用意しているのも、その報酬を渡すのも、「鎧さん」達なのである。しかも、「鎧さん」達は「労働」はしない。また、その「労働」に資格やそれを取得するための検定も用意している。「草むしり検定」や「スーパーアルバイター」など、検定の等級や資格の種類によって報酬の金額が上がったり、酒を飲んだりすることもできるのだが、こちらも「鎧さん」達が試験を受けている様子はない。

 つまり、ちいかわ族は、「鎧さん」達が管理している社会システムの中で生活しており、両者の間には、支配-被支配に似た関係があるのだ。「ポシェットの鎧さん」など、ちいかわ族に優しい「鎧さん」も存在はするが、上司にあたる「偉い鎧さん」が仲良くしすぎと注意する場面もあり、あくまで「鎧さん」達はちいかわ族を管理する側なのである。

ちいかわ族を食べる敵の存在。死と隣り合わせの生活。

 そんな管理社会に生きるちいかわ族は、日々「労働」に勤しみ、さらなる収入アップを目指して資格の勉強をしている……なんだが我々の日常とあまり変わらないような気がしないでもないが、決定的に違うのは、ちいかわ族はなんと、ちいかわ族を食べる敵(本記事ではでかつよ族と呼ぶことにする)が、すぐそこにいる環境で生活しているのだ。更に恐ろしいことに、「鎧さん」達が斡旋する「労働」には、このでかつよ族を倒すという危険な討伐も含まれている。2頭身のちいかわ達より、4~5頭身の「鎧さん」達の方が大きいのだから「鎧さん」達が討伐をすればいいと筆者は思うのだが、管理者である「鎧さん」達はそんなことはしない。

 一応、討伐には、「リタイアのやつ」が用意されていて、それを使って討伐を諦めることも可能だが、タイミングが悪いと、食べられてしまう。その上、わざわざ討伐に出向かなくても、ハチワレが住んでいる洞窟の家にはよくでかつよ族が襲いに来るし、コミック4巻描き下ろしエピソードでは、ピクニックに出かけた先でもでかつよ族に遭遇している。こんなに敵がうようよいる状況、どう考えても恐怖でしかない。

討伐対象の敵は、実は元ちいかわ族だった!?

 更に不気味なことに、このでかつよ族の中には、元ちいかわ族だったものもいる。喫茶店のアルバイトが突然でかつよ族に変化したり、モモンガとでかつよ族が入れ替わっていたり。ちいかわがシール貼りの「労働」で仲良くなった、あのこが急にでかつよ族になっていたという例もある。しかも、あのこ、はちいかわ族だった頃の記憶は薄れてしまったのか、今ではちいかわ族を食べている。

 この入れ替わりについて、ちいかわ族側が気付いているかどうかは、まだ分からない。喫茶店で現場を目撃したシーサーはもしかしたらこの残酷な事実を知ってしまったかもしれない。だが、どうやら「鎧さん」達はこのことを知っているらしいことが、喫茶店の事件の後の会話から推測できる。知っていながら、討伐をちいかわ族にだけやらせていると考えると、背筋が寒くなってしまう。

不穏で不気味な、日常に潜む鬱展開

 「労働」、資格試験の勉強、捕食者でかつよ族の存在。それだけでも、可愛いからは程遠いのだが、「ちいかわ」の世界にはまだ、不穏な怪奇現象のようなことが日常に潜んでいる。例えば、黒い流れ星にいつまでも全く同じ1週間を永遠にループさせられたり、ゴブリンに捕らえられ洞窟に投獄されてしまったり、不思議な旅館でうさぎやハチワレが石に変えられたり。この旅館のエピソードでは、他のちいかわ族も石に変えられた挙句、他のちいかわ族がその石を削る描写があり、ちいかわ族が同族殺しをする、という衝撃があった。

 ほかにも、リサイクルショップで買ってきた不思議な杖で、でかつよ族を彷彿とさせる巨大な怪物に変化してしまったり、突然何の前触れもなく頭に巨大キノコが寄生してしまったりするのである。この巨大寄生キノコは、数日で宿主が死に至る程の成長力があり、寄生されてしまったちいかわも、わずか数日で意識が朦朧なり、「ぼそぼそ」としか喋れなくなってしまっている。他にもダークなエピソードは枚挙にいとまがないほどあるのだが、とにかく、あんなに可愛いちいかわ達がとんでもなく酷い目に遭うのが、この「ちいかわ」という作品のおぞましさである。

ちいかわ達の反応=読者の反応!?

 ここまで、「ちいかわ」のダークな側面にスポットを当てて紹介してきたが、作品は今も続いているので、まだまだ謎も多い。例えば、「鎧さん」達は何故ちいかわ族を管理しているのか。ちいかわ族は何故、「鎧さん」達の管理を素直に受け入れているのか。また、食べ物が湧く「湧きドコロ」が、湧いたり枯れたりするのは、何か原因があるのか。もしかしたら、今よりもっと深い闇がまだあるのかもしれない。

 可愛い2頭身のキャラクター達が日常生活の中で遭遇する不条理。この相反する2つの要素に、作者には何か伝えたい強いメッセージがあるのではないか、と勘繰るかもしれない。ファンの間では、マンガ「ちいかわ」は人間が滅んだ後の世界だ、とか、食料が石油エネルギーのメタファーになっている、など、考察もさかんに行われている。

 だが、ナガノ氏はインタビューでこう話している。

“何かメッセージを伝えたかったり、重いテーマを描いているというよりは、何かが起こった時の反応や表情を描きたいという気持ちの方が強いです!”

 まるでファンの熱い考察を袖にするような答えである。ナガノ氏にしてみれば、このようなダークな世界観は、あくまでキャラクター達の魅力を引き出す舞台装置にすぎないのだ。

 我々読者は、「ちいかわ」の世界観の深さに思いを馳せるのではなく、振り回されるキャラクター達の悲喜こもごもを味わうのが正しい楽しみ方なのかもしれない。いや、もしかしたら、我々も、ナガノ氏にとっては、ちいかわ達と同じように、「何かが起こった時の反応」を楽しまれている存在なのかもしれない。

 だったら、筆者はちいかわ達と一緒になって、今後の展開に驚いたり喜んだりして、ナガノ氏に反応を楽しまれたいと思う。マンガが更新される度にビックリばっかりしている筆者としては願ったり叶ったりである

。 マンガ「ちいかわ」の最新話は、X(旧Twitter)で更新されている。是非一緒に、見た目の可愛さとは裏腹な物語に、驚いたり喜んだりしてみてほしい。

プライムビデオで視聴する