特別企画

生き残るための知恵はマンガで学ぼう「サバイバル・防災」マンガ6選

3月11日の東日本大震災から本日で13年

 今年も3月11日がやってきた。2011年に発生した東日本大震災からすでに13年が経つが、いまだに震災の傷跡は拭えていない。さらに今年は元日に発生した能登半島地震や、千葉県沖のスロースリップによる群発地震など、地震関連のニュースが続き、不安を感じている人も多いだろう。

 そこで今回は、サバイバルを乗り切るための知識を得られるマンガを新旧の名作からセレクトした。知っていれば生死を分けるかもしれない知識や、極限まで追いつめられた人間の心理状態をマンガから読み取り、日頃の防災への備えに役立てて欲しい。

彼女を守る51の方法

出版社:新潮社
著者:古谷兎丸
既刊5巻(完結)

【あらすじ】

 テレビ局の会社説明会に参加するためにお台場を訪れていた大学生・三島ジンは、中学時代の同級生・岡野なな子と偶然再会する。だがその直後、2人は突然発生した直下型の大地震に襲われる。交通がマヒしたお台場から、家のある早稲田を目指すが――。

 ベストセラーになった「彼女を守る51の方法 都会で地震が起こった日」を原案に、大地震が発生した都心で帰宅困難者が遭遇するトラブルと解決方法を描いたマンガ。

 家に防災バッグを置いて万全な備えをしていたとしても、地震はいつ発生するかわからない。主人公三島ジンは会社説明会に参加するために、ジンの中学時代の同級生、岡野なな子はゴスロリ姿でバンドのライブに参戦するためお台場を訪れている時被災する。

 緻密な筆致が特徴の作者だけに、地震の描写は恐怖を感じるほどにリアルだ。発生直前のプラズマ光など地震前に記録された実際の状況も反映されている。

 ろくな装備も心構えもない状態で家を目指す2人の前には、液状化やがれき、火災、交通のマヒ、食糧不足など地震で起こりうる最悪の状況が次々に発生する。そんな困難を乗り越えていくためのヒントをこのマンガが与えてくれる。

ピッコマで読む

いちえふ 福島第一原子力発電所労働記

出版社:講談社
著者:竜田一人
既刊3巻(完結)

【あらすじ】

 東京住まいだった竜田一人は、高給と好奇心、それに被災地のためになるという少しの義侠心から福島第一原発の作業員となる。原発での作業に入るための入念な準備や、作業員の日々の生活を克明につづったルポタージュ。

 「いちえふ」とは、福島第一原子力発電所の通称。このマンガは、2012年から2014年にかけて、福島第一原発で断続的に作業員として働いた著者が、自分の体験をもとに描いている。マンガに描かれている年代は震災の翌年から4年後まで。福島第一原発の周辺には、まだまだ津波の被害が生々しく残っている、Jビレッジや、崩壊した原子炉建屋など当時テレビで何度も目にした光景が、あの時の緊迫した空気を思い起こさせる。

 現在でも作業の終わりはまだまだ見通せていないが、当時はそもそも本当にどうにかすることができるのかと悲観せざるをえない状況だった。この時代に、被ばくの恐怖を乗り越えて作業に当たった作業員の方々には感謝の言葉しかないが、彼らの実際の作業や生活を見る機会はほとんどない。それだけに、本作は発表されてすぐに話題を呼んだ。

 現在は、少しずつ周辺の整備が進み、このマンガに描かれている時代に比べれば作業は着実に進んでいる。だが、いまだ燃料デブリの取り出し作業を始めることができていない。それだけに本作は貴重な時代の記録であり、本作を通して現在の「いちえふ」にも興味を持って欲しいと思う。

ドラゴンヘッド

出版社:講談社
著者:望月峯太郎
既刊10巻(完結)

【あらすじ】

 修学旅行から帰途、主人公青木テルらが乗る新幹線は突然発生した大地震によってトンネルに閉じ込められてしまう。生き残ったテル、アコ、ノブオの3人は、何とか生き残り脱出しようとする。

 本作は大きく2つのパートにわかれている。前半にはトンネル崩落事故に巻き込まれた3人が、真っ暗な閉塞空間での恐怖で変容していく様が描かれ、後半はトンネルを出た後の崩壊した街が舞台となる。前半の濃縮した恐怖と狂気の描写は評価が高いが、後半は少しトーンダウンが否めず、最終回には賛否がある。

 だが、災害を描いたマンガとしては、前半の崩落したトンネルの中で起こる3人のやり取りを見て欲しいと思う。人は視覚から多くの情報を得ているため、視覚が機能しない暗闇では不安を感じるのだという。

 だれだって暗闇は怖い。強がりを言ったり、泣いたり、叫んだりしてなんとか恐怖と戦おうとする。だが最も簡単なのは、自分が恐怖と一体になってしまうことだ。次第に狂気に取り込まれていくノブオの姿は、本作を象徴する強烈なインパクトとして読者の心をわし掴みにした。

 いまから20年前のマンガだけに、コンパクトCDで音楽を聴いていたりと今となっては懐かしい描写も出てくるが、そういった時代の空気も合わせて楽しんで欲しい。

め組の大吾

出版社:小学館
著者:曽田正人
既刊20巻(完結)

【あらすじ】

 幼いころに火災から助け出されたことで、消防士を志す朝比奈大吾は、地元の中央消防署めだかヶ浜出張所、通称「め組」に配属される。最初は勢いが先行していた大吾だが、災害に関する天性のカンを発揮しつつ、人間としても成長していく。

 幼いころに消防士に命を救われ、憧れの消防士になった朝比奈大吾は、現場での活躍を夢見て仕事に就く。しかし配属された中央消防署めだかヶ浜出張所は、やる気のないだらけたムードが蔓延しており、大吾をいらだたせる。しかし、初めての出場で大吾は、そんな認識が間違っていたことを知る。そして、消防士という仕事が憧れだけでは勤まらないという厳しさも。

 「め組の大吾」では、消防だけではなく、救急やレスキューなど消防士の様々な仕事が描かれる。絶対にあきらめない大吾が、極限状態を発想と卓越した能力で乗り切っていく姿からは、消防という仕事の大変さと重要さを学ぶことができる。

 大吾のライバル甘粕士郎との掛け合いも見逃せない。天才型の大吾に対して、甘粕は頭脳型の消防士。正反対の性格の2人はレスキューという同じ道を志していく。

 現在は「め組の大吾」の次の世代を描く続編「め組の大吾 救国のオレンジ」が連載されている。

小学館eコミックストアで試し読み

太陽の黙示録

出版社:小学館
著者:かわぐちかいじ
既刊26巻(完結)

【あらすじ】

 2002年に突然発生した大地震とそれに続く富士山の噴火により、日本列島は2つに断絶してしまう。15年後、日本はアメリカが実質支配するサウスエリアと、中国が支配するノースエリアに分断統治される傀儡国家となってしまう。

 本作は「三国志」と小松左京の小説「日本沈没」にモチーフを得たマンガ。大災害によって分断国家となってしまった日本を、三国志の魏呉蜀に見立てて、そこに起こる騒乱を描いていく。

 災害は物語が始まるきっかけとして登場するだけではあるが、復興の過程で分断してしまった日本が、様々な支配構造に翻弄されていく様子は、そういった未来もありうるという意味ではリアリティがある。

 三国志を下敷きにしているだけに、劉備や関羽、諸葛亮といった三国志キャラクターをイメージしたキャラが多く登場する。三国志好きは別の意味で楽しめるはずだ。

小学館の「太陽の黙示録」のページ

天獄大魔境

出版社:講談社
著者:石黒正数
既刊10巻(現在連載中)

【あらすじ】

 外とは隔絶された世界で暮らすトキオは、ある日「外の外に出たいですか」という不思議なメッセージを受け取る。一方、未曽有の大災害で廃墟となった日本では、キルコとマルが人食いという化け物と戦いながら旅をしている。2つの世界のストーリが同時進行で1つの結末へと進んでいく。

 本作は、人食いという化け物が徘徊する地獄のような廃墟の日本を旅するキルコとマルのパートと、閉ざされた学園で暮らしているトキオやコナ、クク、ミミヒメら少年少女のストーリーが切り替わりながら同時進行していく。

 綿密に張り巡らされた伏線の中、一体何があったのかという事実が少しずつ明らかになっていく。読んだその場では気づかなくても、あとで読み返すと「そういうことだったのか!」という驚きと、新鮮な感動を覚える構成が秀逸だ。

 大災害前に大人だった人たちは、昔の思い出を胸に復興を目指しているが、災害後に育ったキルコやマルたちにとってはそれが日常である。災害に責任を感じている大人たちに対して「僕らの世代を憐れむな」と言い切る。実際、災害後に生まれ育った「無法世代」たちはたくましく、したたかに時代を生きている。

 ストーリーはそろそろ佳境に差し掛かっているが、本作にはまだ多くの謎が残されている。今から読み始めれば、すべてが明かされた時のカタルシスをともに味わうことができる。ぜひ一読してみて欲しい。