特別企画

社会現象にもなった悲しくも美しい兄妹の物語「鬼滅の刃」連載開始から8年

炭治郎を取り巻く多彩なキャラクターたちが読者の心をわし掴む

【鬼滅の刃】

2016年2月15日 連載開始

 集英社のマンガ雑誌「週刊少年ジャンプ」で2016年から2020年にわたって連載されていた剣戟奇譚マンガ「鬼滅の刃」が連載開始から本日2月15日で8周年を迎える。

 漫画家の吾峠呼世晴氏が描く「鬼滅の刃」は大正時代の日本を舞台としつつも、人を食べる鬼がいる世界となっている。その鬼たちと鬼の始祖である「鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)」を討伐するため、鬼を狩る組織「鬼殺隊」が組織されていた。刀を使って鬼を討伐していく彼らはお館様と柱と呼ばれる強い鬼殺隊たちを中心に構成される。その鬼殺隊と主人公の竈門炭治郎と仲間たち、そして鬼たちの物語となっている。

 2019年にアニメ化され、その人気がより加速し、2020年に公開された映画「「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は日本の興行収入400億円を突破するなど社会現象になった。当時すでに連載がほぼ終盤に差し掛かっていたこともあり、コミックスが手に入りにくい状況にまでなっていた。ちなみに筆者はマンガこそ読んでいたものの、アニメは2021年にテレビで連続放送されるまで見たことは無かった。家族が見るというので一緒に見ていたが、善逸の叫び声を聞いてすごく納得感があったのを覚えている。

 本作の魅力は主人公の炭治郎と関わるキャラクターの人間性だ。多彩なキャラクターたちの心情がしっかり描かれており、鬼たちも例外ではない。そのため読んでいて様々なキャラクターに共感や感情移入しやすいと感じている。

 そんな社会現象となった本作の魅力をあたらめて振り返っていきたい。なお、本記事では物語終盤の展開について言及する部分があるため、ネタバレには注意してほしい。

妹のために自ら困難に立ち向かう主人公

 本作は炭焼きを生業としている竈門家が鬼に襲われるところから物語が始まる。主人公の「竈門炭治郎」が炭を売りに家を空けた一晩の出来事で、母親と弟妹が全員犠牲となる中、炭治郎のすぐ下の妹「竈門禰豆子」だけが鬼となった状態で見つかった。

 炭治郎は鬼となった禰豆子に襲われていたが駆け付けた鬼殺隊の「冨岡義勇」によって難を逃れるも、鬼となった禰豆子を富岡に殺されないよう命懸けで守る。その炭治郎の強い意志や、禰豆子の兄を守ろうとする鬼とは思えない行動に富岡は剣を収める。富岡は妹を救うために鬼殺隊士になることを炭治郎に薦め、自身の師である育手「鱗滝」を紹介する。

 炭治郎は禰豆子を人間に戻すために鱗滝の元で鬼を滅するための剣術と呼吸法と呼ばれる操身術を身に付ける。ここで炭治郎が身に付けたのは鱗滝や富岡が得意とする「水の呼吸」で、鬼の攻撃を利用する、いなすなどあらゆる状況に応じた臨機応変な技で鬼の首を斬る呼吸となっている。

 その呼吸法を使いながら鬼殺隊の選別試験を突破した炭治郎は、同期で雷の呼吸を使う「我妻善逸」や獣の呼吸を使う「嘴平伊之助」、花の呼吸を使う「栗花落カナヲ」たちに出会う。鬼殺隊の中心である柱たちとともに鬼の始祖で禰豆子を鬼にした本人である「鬼舞辻無惨」を追い求めて、様々な鬼たちと対峙していくという物語となっている。

 今回はそんな中で炭治郎と同期の鬼殺隊士たちと序盤で登場する柱など一部ではあるが登場人物たちを紹介したい。

竈門炭治郎(かまどたんじろう)

竈門炭治郎(かまどたんじろう)

 本作の主人公。鬼の始祖・鬼舞辻無惨に家族を襲われ、妹の禰豆子を鬼にされる。そんな禰豆子を鬼から人間に戻すために鬼殺隊に入隊する。嗅覚が優れており、相手の感情も匂いとして嗅ぎ取ることができる。性格が非常に優しく情に厚い人間であり、たとえそれが鬼であっても例外ではない。大人数の兄弟の兄だったこともあり面倒見もよく観察眼も優れている。

竈門禰豆子(かまどねずこ)

竈門禰豆子(かまどねずこ)

 鬼舞辻無惨に襲われた際に無惨の血が傷口から入り鬼となる。ただ普通の鬼とは違い兄の炭治郎をかばう。鬼化したことで強い戦闘力を持ち鬼との戦いでも活躍することもある。通常の鬼と異なり、人間の肉を食べずに睡眠で体力を回復する。

我妻善逸(あがつまぜんいつ)

我妻善逸(あがつまぜんいつ)画像右

 炭治郎と同時に鬼殺隊に入隊した隊士。雷の呼吸を使うが、使える技は1つだけ。金色の髪の毛をしているが、元は黒であり雷に打たれたことで現在の色になる。劣等感が強く逃げ腰気味だが、緊張から解き放たれるととても強い。最初のうちはプレッシャーからよく気絶し無意識に鬼を倒していた。

嘴平伊之助(はしびらいのすけ)

嘴平伊之助(はしびらいのすけ)

 炭治郎と同時に鬼殺隊に入隊した隊士。獣の呼吸を使うが、師匠はおらず独学。赤ん坊の頃母親に捨てられ、そこから猪に育てられる。その後、育ての母の頭をお面として被っている。女の子に見間違えるほど綺麗な顔をしている。好戦的で負けず嫌いだが、純粋な一面もある。炭治郎たちと行動を共にしてだんだんと人間としての情緒が芽生えてきている。

栗花落カナヲ(つゆりかなお)

栗花落カナヲ(つゆりかなお)

 炭治郎と同時に鬼殺隊に入隊した隊士。花の呼吸を使う。選抜試験前から胡蝶しのぶの後継者である継子として生活しており、鬼殺隊の中での生活は長い。幼いころ実の親から虐待された感情を閉じた上、人買いに売られており、胡蝶姉妹に人買いから助け出された。

不死川玄弥(しなずがわげんや)

不死川玄弥(しなずがわげんや)

 炭治郎と同時に鬼殺隊に入隊した隊士。呼吸を使うことができない鬼殺隊士でもある。柱の1人である風柱・不死川実弥の弟で兄には強く鬼殺隊を辞めるよう何度も言われている。母親が鬼となり家族を殺された過去を持つ。呼吸法を使えない代わりに鬼を食べ鬼の力を一時的に使うことができる能力を身に付けている。

冨岡義勇(とみおかぎゆう)

冨岡義勇(とみおかぎゆう)

 炭治郎が禰豆子に襲われているときに助けに来た鬼殺隊士。鬼殺隊の中心的な柱の1人であり、水の呼吸を使う水柱。炭治郎を鬼殺隊に入るよう促し、育手の鱗滝に預けた。炭治郎の後援となっており、鬼の禰豆子を連れた炭治郎をよく思っていない他の柱に鱗滝とともに「禰豆子が人を喰ったら切腹して詫びる」覚悟があることがあることが知らされている。

鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)

鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)画像右下

 鬼の始祖であり、禰豆子を鬼にした本人。千年以上前から生きており、人間だったころは体が弱い人間だった。治療にあたっていた医者が回復のための新薬を使ったことで鬼化する。その後様々な人間に自分の血を与えて鬼化させてきた。全ての鬼を支配しており、炭治郎に出会うまで鬼殺隊に接触されることが無かった。日光の下に出ることができないため、日光を克服し不老不死になることが目的であり、その目的達成のため鬼を増やしている。残忍な性格であり、かんしゃくを起こすなど子どもっぽい一面もある。

炭治郎の周りで色とりどりに描かれるキャラクターたち

 本作では炭治郎と関わる多彩なキャラクターたちが登場する。鬼殺隊の同期の善逸や伊之助だけでなく、柱たちはもちろん、鬼のキャラクターに関しても各々の背景がしっかり描かれているのが魅力だ。

 また、本作では炭治郎と禰豆子という兄妹が持つ思いやりや絆について多く描かれている。さらに、柱たちの兄弟の関係性も作中に登場し、炎柱の「煉獄杏寿郎」と弟の「千寿郎」、蟲柱の「胡蝶しのぶ」と姉の「胡蝶カナエ」、霞柱の「時透無一郎」と兄の「有一郎」、そして、風の呼吸を使う風柱「不死川実弥」と弟の「不死川玄弥」だ。

 特に筆者は不死川実弥と不死川玄弥のお互いを思う気持ちについて書かれている、無限城編の上弦の壱「黒死牟(こくしぼう)」との戦いのエピソードが印象に残っている。

風柱の不死川実弥はの弟が不死川玄弥であり、兄妹で鬼殺隊に入隊している

 不死川一家は過去に鬼となった母のせいで家族を失い、実弥は母を手にかけたというエピソードがある。また、作中では風柱で兄の実弥が弟の玄弥に対し、かなり強い言葉で鬼殺隊を辞めるよう迫るシーンが描かれていた。そんな2人が一緒に戦うことになるのがこの黒死牟戦だ。

 この戦いでは先に黒死牟と戦っていた弟の玄弥が深手を負ってしまう。傷ついた弟の姿を見た兄の実弥は、玄弥にだけは危険な目に合わず長生きをしてほしかったと、弟思いの本当の理由を語る。そんな兄の言葉と戦う背中を見て、玄弥は最後の力を振り絞り黒死牟討伐に貢献するというものだ。

 この話は胡蝶姉妹や時透兄弟のように死んでしまった姉や兄に思いを馳せ、自身のトラウマと向き合っていく物語とは異なり、生きているが故のお互いへの思いを描くエピソードとなっている。一方で主人公の炭治郎と禰豆子も家族を鬼に襲われた兄と、鬼の力を使う妹という関係性であり、竈門兄妹と似た境遇のこの2人の戦いは読んでいていろいろな感情が掻き立てられる。兄としてどんな時でも弟を守り、強くあり続けようとした実弥だけでなく、兄に助けてもらったから今度は自分が兄を守りたいという弟の玄弥の気持ちも理解しやすい。

 ただ、ボタンを掛け違って進んできたこの兄弟は結末として玄弥が鬼化しすぎたことで、死とともに塵として消えてしまうという悲しい最後を迎える。ある意味炭治郎と禰豆子が迎えてもおかしくない結末なだけに、最初に読んだときはこういう別れもあったんだなと感じた一瞬でもあった。

 正直この時の実弥の叫び声は何物にも形容しがたいし、このシーンだけはアニメ化されても見られる自信がない。ただ、このエピソードはエンディングに向かう中で筆者の中にトゲとしてしっかり残ったものであり、無惨を倒して鬼が消えるからといってハッピーエンドではないと強く感じた部分でもある。

筆者が好きなエピソードが載っている19巻から21巻

 本作は炭治郎たちが成長する物語であるが、それ以外にも炭治郎と関わる登場人物たち1人ひとりのエピソードがしっかりしているため、マンガの読者やアニメの視聴者に刺さると感じている。筆者は不死川兄弟を見て共感する部分があったが、共感するキャラクターや惹かれるキャラクターは読んでいる人それぞれに違う気がする。

 既に原作コミックスは完結しているがアニメが続いており、今後の展開としては2024年春から新シリーズにあたる「『鬼滅の刃』柱稽古編」がTVアニメとして放送が予定されている。

 「鬼滅の刃」のアニメは見たことあるけど、マンガは未読という方にはコミックスをぜひ手に取ってみてほしい。マンガでは炭治郎と関わるキャラクターの人間性が力強く描かれている。まだ結末を知らないという人にもおすすめしたい作品だ。

「『鬼滅の刃』柱稽古編」は2024年春に全国フジテレビ系にて放送開始予定。初回は1時間スペシャルになる