特別企画
マンガがもっと面白くなる! 書泉グランデに聞くコミックス「特典」の世界
イラストペーパー、アクリルコースター、複製原画プレゼントなど、店舗限定激レア特典も
2024年3月5日 00:00
- 【書泉グランデ】
- 住所:東京都千代田区神田神保町1-3-2
- 営業時間:11時~20時(平日・土日祝)
毎月1000冊以上のコミックスが発売されている昨今。書店やネット上でコミックスを購入する際に、コミックスにおまけが付いてくることがある。「コミックス購入特典」というものだ。
筆者が特典と聞いてぱっと思い出すのは、子どもの頃、夏に地元の書店で集英社のコミックスを買うと、ランダムで缶バッジなどがもらえた「ナツコミ」だ。家族で経営している個人経営の書店だったが、本を買うと付いてくるおまけが楽しみだった。大人になった今、書店でよく見かけるのは、コミックスと一緒にシュリンクされているイラストや漫画家のコメント入りのペーパーである。これも特典の一種だ。
よく目にする一方で、特典がどのようにしてできているのか考えたことはあるだろうか? 今回、神田の街を代表する大型書店である「書泉グランデ」の経営企画・鈴木さんと、コミックリーダー・関根さんに特典の定義からその取り組みについて伺った。
書店特典で築かれたコミュニティ
コミックスの特典は1970年代には存在していて、既に半世紀近くもの歴史がある取り組みである。
書泉グランデのコミックリーダーである関根さんも、小学生の頃から小学館のコミックスに付くポストカードなどの特典を目当てに、お小遣いを貯めてコミックスを買いに行っていたそうだ。まだインターネットやSNSもない時代には書店がコミュニティの場となっていて、別の小学校の子と仲良くなったり、特典を交換したりという場にもなっていたという。
今ではネットなどを介して共通の趣味をもつ人たちと出会うことができるが、少し前まではこうした書店などでコミュニティを広げていたことが窺える。
無償/有償、共通/限定など4種類の特典がある
書泉グランデでは大きく分けて4つの種類の特典をコミックスに付けているという。
1つ目は出版社が付ける無償特典だ。シュリンク掛けのコミックスと一緒に入っているイラストペーパーや、該当のコミックスの購入者にランダムでレジで配布されるカードやしおりなどだ。
これらは出版社が全書店共通に用意するもので、書店で最もよく見かける特典だ。その中でも最もメジャーな特典であるイラストペーパーは、出版社からデータをもらい、各書店でコミックスの入荷数分をプリントアウトして、コミックスとともにシュリンクしているのだという。書店での作業負担が多いため、書店ごとに実際にコミックスに特典を付けるか付けないかの判断は任されているそうだ。毎月約100点のコミックスに特典が付くというから、書店ごとに特典を付けるコミックスは厳選されることが多い。
ちなみに書泉グランデでは、特典が用意されているコミックスすべて(!)に特典を付けて対応しているという。書泉グランデに行けば特典が必ず付いている、と思うと大変心強い。
2つ目は出版社が用意するコミックスとセット販売する有償特典だ。数量限定でレアなものが多いため、発売日には開店前にお客さんが列を作ったり、問い合わせが多くあるという。
3つ目は書店限定の無償特典だ。「〇〇店様」といった店舗名と、その書店用に描き下ろされたイラストなどを使用したペーパーやカードなどがこれにあたる。複数の書店で限定の特典がある場合には、書店ごとの異なるイラストを求めて、書泉をはじめ、「アニメイト」や「とらのあな」、「メロンブックス」など、各書店をまわって集める読者もいるという。
書泉グランデの限定特典は、コミックスの担当書店員が出版社と数カ月かけて交渉し、描き下ろしのイラストや露出の少ないイラスト、4コママンガや店舗向けのコメントなどをもらうのだそうだ。
今回見せていただいたのは2023年マンガ大賞に輝いた、とよ田みのる氏による「これ描いて死ね」の書泉グランデ限定の特典ペーパー。本作には書泉グランデが作中に登場していることもあって、第1巻が発売される前から担当者が熱心に出版社と交渉をして、ペーパーや色紙などをとよ田氏に用意してもらったという。
4つ目は書店が用意するコミックスとセット販売する有償特典だ。各書店で出版社の許可を得た上で独自のアイテムを作り、コミックスとセットで販売する。コミックス価格にアイテム価格がプラスされた値段になるものの、特定のマンガの書店限定のグッズのため、非常に貴重である。書店ごとにクリアファイルやマグカップなどが多いが、書泉グランデではアクリルコースターが人気でよく有償特典で作るそうだ。
ポイントは、市販されるグッズは基本的にアニメの絵を元にしたものが多いなかで、書店の作る特典は、マンガのイラストを使用して作られる点だ。その書店でしか手に入らないことに加えて、マンガのイラストを使用したグッズとなるとかなりのレアアイテムだろう。なかには、コミックス全巻セット+キャンバスボードといった豪華なセット販売もあり、数量限定のためすぐに売り切れてしまうものもあるという。
特典とは、出版社が用意する一律なものだけだと思っていたが、このように書店側からの企画で書店ごとに異なる特典が付いていたのだ。作品のファンにとってはすべて手に入れたくなり、いくつもの書店を回るコレクターがいるのも納得だ。同時に、特典からは、この作品を知ってほしい、この作品が好きなお客さんに喜んでほしい、という書店員の作品愛が強く感じられる。
書店独自の取り組みが光る
特典への取り組み方に関しては書店独自かつ書店側に任されることも多いため、書泉グランデでは独自の取り組みが光る。
まずは前述した、用意された特典イラストがある作品には、すべてイラストペーパーを付ける(1ヶ月に約100点!)という驚きの取り組みだ。次に、書店店頭にはよく漫画家の色紙や複製原画などが飾られているが、これらの展示期間が過ぎた後、コミックス購入者に抽選でプレゼントする、というもの。これは購入者に大変好評だという。その他にも、コミックスとセット販売する有償特典アイテム以外に、オリジナルグッズ販売も行っている。書泉限定であることに加え、マンガイラストを使用しているため、激レアグッズだ。
さらに驚くべきは、特典というと書店店頭でしか手に入らないイメージだが、書泉グランデでは、「書泉オンラインショップ」でコミックスを購入した場合でも、一部商品を除いて特典付きで届くのだそうだ。オンライン購入でも特典の楽しみを享受できる。
□書泉オンラインショップ
※一部商品は、店頭販売時のみ特典付きでオンライン販売では付かない場合もあり
また、何種類かのキャラクターのカードなどがランダムに配布される特典の場合でも、実際にランダムに配布するかは書店側に一任されることが多いという。例えば裏向きにしてキャラクターがわからないように特典を付属させたり、逆に表向きにしてあえて見せることで好きなキャラクターを選べるようにしたりと、書店ごとに特典の配布方法は異なるそうだ。
同じ書店でも作品によっても都度異なるだろうが、特典そのものはもちろんのこと、その「入手方法」にも注目して楽しんでみてほしい。
特典に注目して、もっとマンガを楽しむ
このように一口に特典と言っても、さまざまな種類があり、そこには、マンガを読む前から楽しめる世界が広がっている。また、特典の展開には、書店の努力と情熱が込められており、書店ごとの独自性もかなり反映されていることがわかった。
コンビニやネットですぐにコミックスが購入できるのも魅力的だが、時には書店で独自の取り組みに注目しながら購入してはいかがだろうか。
なかでも特典は、その配布方法から、無償イラストペーパーの付属方法まで、書店ごとに異なるものが楽しめるはずだ。かなりレアなアイテムにも出会えるだろう。好きなマンガの世界をもっと楽しむためにぜひ注目してほしい。
今回取材協力いただいた書泉グランデは、「趣味人専用」と謳うだけあって、階段にずらりと貼られた複製原画に、他では見ることのないマンガ作品のグッズ、担当者愛が爆発する特設コーナーに、カレーで有名な神保町ならではの「北斗の拳」コラボカレーまで並び、一日居ても飽きないテーマパークのような書店だった。
神保町を訪れた際には、ぜひ「特典」を意識しながら、書泉グランデ店内をまわってほしい。
(C)とよ田みのる/小学館
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