特別企画

不良からバスケ選手へと変貌を遂げる桜木花道の軌跡「SLAM DUNK」33周年

たった4カ月という時間に込められた高校生たちのきらめきを感じる王道バスケマンガ

【「SLAM DUNK」1巻】

1991年2月8日 発売

 今から33年前の1991年2月8日にバスケットボールマンガ「SLAM DUNK」の1巻が発売された。「SLAM DUNK」は週刊少年ジャンプで井上雄彦氏によって1990年から1996年まで連載されており、1993年にはテレビ朝日系列でTVアニメ化、2022年には原作者の井上雄彦氏が自ら監督と脚本を務めた映画「THE FIRST SLAM DUNK」が公開され大きな話題となった。

 コミックスも連載時に発売されていたもののほかに、2001年に発売された完全版や2018年に発売された新装再編版もある。

【映画『THE FIRST SLAM DUNK』予告】

 「SLAM DUNK」は神奈川県立湘北高校バスケ部が舞台だ。不良の主人公桜木花道が惚れた女性にバスケ部を薦められたことでバスケ部に入部する。ド素人の桜木花道だが、その身体能力と基礎練習を地道に積み重ねていくことで、徐々に才能を開花させていく。

筆者と「SLAM DUNK」の出会い

 筆者が本作と出会ったのは小学3年生の時だ。本作というよりは毎週土曜日にテレビ朝日系で放送されていたTVアニメが本作を知ったきっかけだった。当時はそこまで筆者はのめり込むことは無かったが、そこから数カ月後に行った床屋で本作のコミックスと出会った。そのときは年末シーズンで混んでおり、床屋で順番待ちの間と家族のカットが終わるまでひたすら読んでいた。ただその当時は思い入れがあったというよりかは、アニメでやっていた作品がマンガで置いてあったので読んでいたというだけだ。さすがに小学生には少し高校のバスケの話はスケールが大きすぎた。

 本作のおもしろさに気が付いたのはそこから10年ほど経過した大学生になったころだった。大学生になって1年目の秋、用事があり実家に帰った時にふと目に入った本作の完全版を手に取った。この時は懐かしい作品があるなぁ程度だったが、読んでみると小学生の時に抱いた印象とは少し違っていた。自身が中学生や高校生を経験したからこそわかる真剣に部活に取り組むということと、本作が描かれている花道たちの時間の短さを実感した。そこで感じた本作の魅力は熱中できるものを見つけた主人公と、その仲間たちとの一瞬のきらめきをマンガを通して感じられるところだ。全部読んで思い返すとかなり儚さを感じるのも本作の特徴といえる。「今」という時間を大事にしている高校生たちの情熱を熱く感じられる作品だ。

筆者が実家で手に取った完全版

たった4カ月の出来事とは思えない濃密な時間

 本作はバスケットマンガの王道とも言われる作品だ。しかし、描かれているの主人公の桜木花道がバスケットボールと出会い、1年の夏のインターハイ終了までしか描かれていない。とてつもなく短い期間の物語となっている。その中で不良だった花道がどんどんバスケットボールにのめり込んでいく姿と一緒にプレイするチームメイトたちとの奮闘がとても印象的な作品だ。

 「SLAM DUNK」の主人公・桜木花道は、中学生の時から女の子に告白しては振られまくっており、最後に振られた女の子がバスケ部の人が好きと言っていたためバスケットボールが大嫌いだった。そんな時に「バスケットボールは…お好きですか?」と赤木晴子に廊下で声を掛けられた花道は、晴子に一目惚れして晴子目当てに湘北高校バスケ部に入部する。花道は晴子が恋心を抱いている同じバスケ部1年の流川楓にライバル心を燃やしながら、地道な基礎練習や試合を経験しながらバスケットボールのおもしろさに目覚めていくというものだ。

 キャプテンの赤木やマネージャーの彩子、監督の安西先生の指導の下、メキメキと吸収して成長していく姿はたった4カ月の物語とは思えないほどだ。この4カ月は花道たち1年生が夏で引退してしまう赤木たち3年生と過ごせる期間であり、この限りある時間の中で経験する何物にも替え難い青春と成長の時間となっている。

 本作では神奈川県立湘北高校が舞台となっており、そのバスケ部が物語の中心だ。今回は桜木花道とともにバスケ部を彩るキャラクターたちを紹介したい。

桜木花道(さくらぎはなみち)

桜木花道

 湘北高校1年。赤い髪の毛とリーゼントが特徴の主人公。はじめは女の子に告白しては振られまくる不良の高校生だが、赤木晴子に声をかけられたことで不良から徐々にバスケット選手になっていく。ちなみに晴子に声をかけられた際に一目惚れをしており、その晴子が好きな流川に嫉妬とライバル心を燃やしている。

赤木晴子(あかぎはるこ)

赤木晴子

 湘北高校1年。桜木花道をバスケ部に勧誘した本人。桜木花道の容姿に物怖じすることなく「バスケットは…お好きですか?」と声をかけた。バスケ部のキャプテン赤木の妹で、バスケ部の流川に恋心を抱いている。

流川楓(るかわかえで)

流川楓(画像上)

 湘北高校1年。中学時代から有名なバスケット選手。いろいろな強豪校から声をかけられるが家から近いという理由で湘北高校に進学した。花道とは犬猿の仲であり嫌っているようだが、バスケットに関することでは花道にアドバイスをしたり、鼓舞することもある。

赤木剛憲(あかぎたけのり)

赤木剛憲

 湘北高校の3年生。湘北高校バスケ部のキャプテンでポジションはセンター。身長190cm越えの長身から繰り出すダンクシュートは圧巻。バスケットボールにとても真摯に向き合い、本気で全国制覇を目指している。花道たちが粗相をした時にはげんこつで熱い指導が入る。通称はゴリ。

木暮公延(こぐれきみのぶ)

木暮公延

 湘北高校3年生。湘北高校バスケ部の副キャプテン。赤木とは同じ中学出身で後輩に対して面倒見がいい。誰に対しても見下すことなく、花道が頭に血が上っても優しく諭す。三井や宮城がチームに復帰してからは控え選手になったが、ここぞというときに活躍する選手でもある。通称メガネ君。

三井寿(みついひさし)

三井寿

 湘北高校3年生。膝のけがと赤木に対する嫉妬心から挫折してしまい、一転不良となってしまったバスケ部員。一つ下で目立っていた宮城リョータに暴行を働く。その後バスケ部を廃部させようと乗り込んで大暴れしたが、体育館に現われた安西先生の姿を見て自身のバスケに対する思いがあふれ出す。その事件の後心を入れ替えてバスケ部に復帰する。

宮城リョータ(みやぎりょーた)

宮城リョータ

 湘北高校2年生。三井によってケガを負い一時バスケ部を離れていた。花道とよく似ていて女の子に告白しては振られまくるが、実はマネージャーの彩子に思いを寄せている。花道と気が合うようで名前で呼び合う仲。

安西光義(あんざいみつよし)

安西光義

 湘北高校バスケ部の監督。過去には大学で鬼監督として名を馳せた名将。昔の教え子の事故を悔やんでいる。ふくよかな顎を花道によくタプタプされている。

彩子(あやこ)

彩子

 湘北高校の2年生。バスケ部のマネージャー。入部したての花道に基礎をしっかり教えてくれた人。キャプテンの赤木同様チームの空気を締めるのが上手い人。

バスケットに真剣に向き合う高校生たち

 本作では桜木花道を中心としてC(センター)でキャプテンの赤木、F(フォワード)の流川楓、SG(シューティングガード)の三井寿、PG(ポイントカード)の宮城リョータ、F(フォワード)の木暮公延といったチームメイトと監督の安西先生をメインとして描かれており、不良だった花道が短い期間でバスケット選手として成長していく物語だ。

 本作を改めて読み返してみると花道自身の性格の良さと花道を取り巻く人たちがどれだけいい人かがわかる。最初は花道をよく思っていなかった赤木も流川も割と面倒見がよく、花道に対しての邪険な態度もほんの序盤だけだ。むしろ花道が少しでも真摯な態度でバスケに向き合えば、赤木は表立ってしっかり面倒を見ているし、流川は屋上で殴り合いの喧嘩をして以来犬猿の仲ではあるが、ツンとした態度のなかでも的確でどストレートな言葉で花道をうまく鼓舞していく。

 逆に女の子が好きで告白しては振られて続けていた宮城とは花道は性格的に共通点も多く、先輩後輩の間柄ではあるが、くだらないことをワイワイ楽しめる友人のような関係性だ。

 また、花道には中学時代からの悪友たち(通称:桜木軍団)がおり、彼らの存在も大きい。彼らは時に花道の背中を押し、バスケ部が危ない場面では体を張って助け、花道の特訓にも一緒に付き合う。彼らがいたからこそ花道はバスケット選手として成長していったといっていい。コミカルなシーンも多く本作の中でいいアクセントとなる彼らは本当にいい友人たちだ。

バスケ部ではないが桜木軍団がいてこそ本作はおもしろいと感じている

 これだけ周りの人に恵まれるのも偏に桜木花道という人物の性格が大きいと感じている。不良で喧嘩は強いものの基本的に性格に屈託もなく裏表もない。少し頭に血が上りやすいのが玉に瑕だが、お調子者でいじられキャラかつ単純な性格の愛されキャラクターだ。それ故にいろいろな人が寄ってくるし、おもしろいと思うのだろう。バスケット選手として素人らしい動きをする花道ではあるが、それでも周りがあいつは仕方ないとしっかり許容されているのも花道のキャラクターによるものが強い。

 周りの人間に愛されながらバスケット選手として成長していく姿は読み進めて行くほど強く感じられる。

数々の名セリフがある作品

 本作には本作を読んだことがない人でも知っているような名セリフがいくつもある。例えば怪我を理由にバスケットから離れグレてしまった三井が安西先生を目の前にして思わず口を吐いた「安西先生…!!、バスケがしたいです……」や、本気で負けそうな雰囲気が漂っていたインターハイの第2回戦山王工業との試合中に安西先生が花道に向かって言った「あきらめたらそこで試合終了ですよ…?」などだ。ちなみにこの安西先生の「あきらめたら」というフレーズは2回目であり、1回目は当時中学生だった三井にかけた「あきらめたらそこで試合終了だよ」という言葉だ。この言葉で三井は湘北高校へと進学を決めた。

 「SLAM DUNK」において筆者にも好きなセリフがある。それは「オヤジの栄光時代はいつだよ…全日本の時か? 俺は……俺は今なんだよ!!」だ。これは最終31巻で山王戦の途中で背中にケガを負った花道が安西先生に再び試合に出してほしいと懇願する際に言うセリフだ。このセリフは4カ月という短い期間ながら一生懸命バスケットに取り組んできた花道が、自身の選手生命を賭けてまでコートに戻りたいと強く望んだ決意の言葉だと思っている。

 何より不良だった彼がもしかしたら今後選手生命を断たれるかもしれないというリスクを背負ってでもコートに戻りたいと思うほど、バスケとチームが大きな存在になっているからこそ出た言葉だと感じている。そこまで大切に思うものができたということが花道にとって大きな成長であり、羨ましさすら覚える。この仲間たちと戦って勝つということに心血を注いているからこそ出るいい言葉だと感じている。

筆者が好きなセリフが登場する31巻

 本作が連載されていたのは34年前、平成の初期だ。しかし今読んでも色あせないのは、純粋にバスケットボールに向き合っている姿がスポーツマンとしても素晴らしく、それと同時に登場するキャラクターたちがとてもリアルで共感しやすいからだと感じた。共感するからこそ様々なセリフが読んでいる読者に刺さると感じている。

 またバスケットボールがよくわからない人でもわかるように試合の内容が解説されているため、バスケットボールのルールも読みながらすんなりと入ってくる。バスケットボールマンガの入門としてもおすすめのマンガだ。ぜひ熱い高校バスケの世界をぜひ楽しんでほしい。