レビュー

破天荒すぎる絵と人生!「へたくそなのに泣くほど笑える! カッラフルなエッッブリデイ」

クセが強めの絵とギャグに爆笑して、元気になれるマンガ

【へたくそなのに泣くほど笑える! カッラフルなエッッブリデイ】

ダ・ヴィンチWebにて連載中

著者:むめい

 SNSでバズって単行本化したマンガは数あれど、この作品ほど筆者の度肝を抜いたものはない。タイトルにもあるとおり、絵が、言いにくいが、 へたくそ 、なのだ。SNSがない時代には日の目を見ることはなかっただろう。こういうパンチの効いた作品に出会える時代に生まれて、筆者は幸せだと思う。

 「へたくそなのに泣くほど笑える! カッラフルなエッッブリデイ」、以下「カラエブ」と表記するが、この作品は、2021年に作者のむめい氏がX(旧Twitter)に投稿したマンガが10万いいねがつくほど大反響となり、すぐにダ・ヴィンチWeb(KADOKAWA)での連載が決定、ヴィレッジヴァンガードやAvailとコラボグッズを販売し、2023年には中京テレビでアニメ化もされた、まさにSNS時代のシンデレラストーリーのようなマンガである。

はちゃめちゃな小学生だった作者の日常を描いた抱腹絶倒ギャグ

 表紙を見ただけで絵のインパクトに腰を抜かすかもしれないが、マンガはその絵を活かした突飛な内容になっている。確かに絵はお世辞にも上手いとは言えないし、手書きの文字も読みやすいとは言えない。それでも、この絵の勢いと、きっと楽しく描いているのだろうなと思えるやかましい色使い、バランス無視の気ままな頭身やスタイル、細かいことなどどうでも良くなるむめい氏の、小学校時代から現在に至るまでの、はちゃめちゃな日常に、自由な笑いを感じてついついページをめくってしまうのだ。

【1巻「おばちゃんのマニキュア」】
脳内イメージのキラキラお姉さんも強烈な見た目だ

 最初にバズった、むめい氏が小学3年生の時にマニキュアを塗り、その手のまま学校に登校した話では、むめい氏は、マニュキュアを塗っただけでキラキラお姉さんになった気分になり、上機嫌で学校に行く。その脳内でイメージするお姉さんの絵が、それだけで笑わせてくるほど変なのだ。そして、気分はお姉さんになったためか、次のページから自分は5頭身ぐらい大きくなって、同級生は2頭身ぐらいに縮んでいるのもめちゃくちゃおもしろい。最終的に、紫外線で変色する特殊タイプのマニキュアだったため、外で遊んで紫色になった自分の爪を見て、腐ってしまったと盛大に勘違いするむめい氏。この爪の表現も背景が禍々しく、よっぽどショックだったのだろうということがヒシヒシと伝わって来て、筆者は椅子からちょっと浮くぐらい笑ってしまった。

背景の色使いが独特すぎる

 いやでも、小学生がマニキュアを塗って変色したら、爪が腐ったと思うなんて、そこまでおかしな内容でもないか、と思わなくもない。そこで、むめい氏が当時、近所の犬と戦った話を紹介したい。まず1ページ目から様子がおかしい。

【1巻「アホな小学生VS犬」】
犬の顔のギャップがすごすぎる

 こんなに顔が汚くて歯が剥き出しの目がイっちゃってる犬っているのかと、もうこの犬の顔だけでひとしきり笑ってしまうのだが、むめい氏の母親の前では犬は愛くるしく変化するのでさらに笑ってしまう。ページをめくると、犬が可愛い様子を擬音語で「ぷりぷりぷり」と表現しており、むめい氏の独特のセンスに脱帽する。

紙袋のイラストも怖面白いが、犬には見えない

 小学生のむめい氏は、自分にだけ吠えてくるこの犬が嫌いだったのだが、友達に「犬に変装したら仲間だと思ってくれて仲良くなれるかも」というアドバイスに従い、犬に変装することにする。その変装が、犬の顔を描いた茶色の紙袋をかぶる、というもの。悪意が感じられるほどいびつな顔を作ったむめい氏は、そのクオリティの低さに自分でも「バケモノに見えないかな?」と心配しながら放課後、犬の前で紙袋をかぶり、「ワンワンワン」と話しかけるのだ。当然犬はむめい氏を犬と思うはずはなく、母親には冷めた目でみられ、犬には怖がられて終わるのだが、紙袋をかぶって犬に変装するとは、小学生といっても、妙ちくりんで型破りに生きていたことが分かる。

大人になっても、むめい氏のフリーダムな日常はそのまま!

【2巻「はじめての就活」】
ピンクのワンピース姿が禍々しい

 とはいえ、小学生の頃にしっちゃかめっちゃかなことをしているなんて、よくあることのはず。むめい氏がすごいのは、そのままのメンタリティで成長していくことだ。中学ではソフトボール部の体験入部で部長にサッカーボールをぶん投げて直撃させ気まずくなり、高校では、ある日突然足が異常に臭くなって体操服で汚い足を拭き、その体操服を着たまま持久走を走って悪臭で気分が悪くなるなど、心配になるほど順調におかしいまま大人になっていく。専門学校生の時のエピソードも面白いものがたくさんあるが、仮免許の試験に2回落ちた話と、就職活動の初めての面接で周りはスーツなのに、一人だけピンクのフリフリのワンピースで参加した話が際立って変なのでお勧めだ。

【2巻「ブツブツ」】
自分の汚いお尻の絵を描く美容部員むめい氏

 そして、大人になってもむめい氏は、痺れるほど自由奔放だ。百貨店の美容部員として化粧品売り場で働いていたむめい氏は、ある日、幼稚園児の息子を連れた美人の母親を接客する。息子はとてもひょうきんで、店内に響きわたるほどの大きな声で「僕のお母さんねぇお尻に黒いブツブツいっぱいある」と叫ぶ。センシティブすぎる情報に、一瞬硬直するむめい氏と母親だが、華麗にスルーして、「元気いっぱいでうらやましいですな」とむめい氏はその場をなんとか切り抜ける。

 接客中は息子に画用紙と色鉛筆を与えてお絵描きに集中させるが、それで事なきを得ず、息子は完成した絵を見せて声高に叫ぶのだ、「ママのお尻のブツブツ」と。その汚らしい絵に母親は放心、その場は凍り付く。息子はその後も母親の心に風穴を開ける言葉を叫び続け、むめい氏はこの場を何とか切り抜けるために、自分も絵を描くのだが、信じられないことに、自分のお尻はもっと汚いと、よりいっそう気持ち悪い絵を描いて息子を黙らせるのだ。自分のお尻の醜い絵を描いて見せびらかす美容部員がこの世にいるのか、と吃驚しながらお腹が痛くなるほど笑ってしまう。

【1巻「結婚式ムービー」】
普通の大人がこのテンションで動画を撮るのはかなり難しいだろう

 他にも、親友の結婚式のお祝いムービーに、お笑い芸人の真似で露出が多い珍妙な格好をして、奇声を上げながら狂喜乱舞する動画を撮影したエピソードや、田舎の電車が鹿と衝突して遅延することを信じてくれない上司に、田舎がいかに過酷かを説明するために、一味唐辛子をクマよけ以外に使ったことないとか、魚肉ソーセージと同じサイズのミミズがいるとか、嘘に近いほど盛大に話を盛ったエピソードなどがある。なかなか普通の大人にはできなさそうなことばかりで、むめい氏がいかにフリーダムに生きているかが伝わってくる。

羨ましくなるほど、絵も人生もフリーダムなむめい氏に、元気がもらえる!

【2巻「初出勤の日」】
親知らずを抜いてできた内出血の表現が確かにゾンビみたいだ

 ここまで、「カラエブ」の主な内容、つまりむめい氏の破天荒な日々について紹介したが、その解き放たれた個性は、絵にもよく表れているのは、見ただけで分かってもらえると思う。逆にこの規格外のテンションのマンガを、綺麗な絵で描いてしまっては、何の魅力もないだろう。この、具合が悪くなった時に見る夢みたいな奇天烈な色彩と、コマごとに顔のサイズが違うトンチキな絵があってこそ「カラエブ」は唯一無二の輝きを放つ。

【3巻「じいちゃんの葬式」】
斬新な蜘蛛の姿

 特に筆者が気に入っているのは、むめい氏の描く虫や動物だ。むめい氏は、幼少期から今現在も、電車が鹿と衝突して遅延するぐらいの、ピザのデリバリーがないレベルの田舎に住んでいることもあって、「カラエブ」にはよく虫や動物が登場する。上記は葬式に乱入してきた巨大な蜘蛛なのだが、その紫色のたわしみたいなボディと、靴を履いているみたいな足は、絵面だけで面白すぎて心に強い衝撃を与える。蜘蛛以外にも、サルみたいなカエルとか、怪獣みたいなイノシシ、人間が全身タイツを履いたみたいなツバメなど、摩訶不思議で強烈なデザインの生き物がたくさん登場し、見た目だけで笑いをかっさらっていく。

【2巻「はじめてのTOKYO」】
新人研修初日に東京で迷子になったむめい氏のてんやわんやの1日を描いた屈指の爆笑エピソード

 そう、むめい氏の絵は、確かに一般的にはへたくその部類に入るのだろうが、だからこそ、その絵は強烈なインパクトを残す。正直一度見たら忘れられないレベルだ。むめい氏は、SNSに数多ある上手い絵に比べて、自分の絵がヘタであることに落ち込んだこともあったそうだが、そんなストレスが爆発して、何も気にせずもっと自由に描きたい!!と思って描き始めたそうだ。絵はうまいから良い、ヘタだからダメという考えをなくしたらとても楽しく描けたという。そんなむめい氏の、楽しく、のびのびと自由に描いた絵だからこそ、「カラエブ」は読んでいて楽しく、元気になれるのかもしれない。

 こんな風に、上手な他人と比べることなく、自分の好きなことを堂々と行うその生き様は、多くの人の憧れでもあるだろうし、なかなかできることではない。だから、「カラエブ」を読むと、ひとしきり爆笑した後に、笑い以上のパワーをもらっているような気がするのだ。是非読んでみて、むめい氏の元気とフリーダムさに、パワーをもらって晴れ晴れとした気持ちになってほしい。こんなパワフルなマンガが日の目を見るなら、SNSも悪いことばかりではないと、筆者は思う。