特別企画
園児って可愛くておもしろい! おちゃめな保育士のユーモアあふれる日常を描いた「ただいま! 保育士でこ先生」
愛され保育士が主役の日常ギャグマンガ「実録 保育士でこ先生」シリーズ待望の第2弾!
2024年11月27日 00:00
- 【ただいま! 保育士でこ先生】
- Xにて連載中
- 著者:でこぽん吾郎
でこぽん吾郎氏がX(旧Twitter)で連載している「ただいま! 保育士でこ先生」は、2023年に大人気の内に幕を下ろした「実録 保育士でこ先生」の新シリーズだ。「実録 保育士でこ先生」は2018年のXでの投稿が大反響となり、わずか1年足らずで累計1億いいねを超すほどの人気作だった。
新シリーズ「ただいま! 保育士でこ先生」も前作同様、元保育士のでこぽん吾郎氏の経験を元に描かれる、保育園での日常ギャグ漫画だ。茶目っ気たっぷりの主人公・でこ先生と、元気いっぱいの園児たちが繰り広げる何気ない日々は、笑いと癒しがたっぷり詰まっている。
笑いと感動の内に幕を下ろした前作「実録 保育士でこ先生」のおもしろさは健在!
「ただいま! 保育士でこ先生」は、前作「実録 保育士でこ先生」の続編として、保育士目線で保育園の毎日の生活を描いている物語だ。作者のでこぽん吾郎氏は女性で元保育士だが、でこ先生は男性保育士として描かれている。これは、でこぽん吾郎氏が学生時代に描いていたマンガのオリジナルのキャラクターを、お気に入りだから採用したということらしい。
現実には、男性保育士は数パーセントほどしかいないレアな存在なので、それがこのマンガの目を引くところではある。大げさなぐらいおちゃめで、ガタイはいいが運動と虫が苦手なでこ先生が男性であることで、この作品はよりいっそうコミカルになっているように思う。
たとえば、母親に保育園に送り届けられた園児が、先生嫌いママがいい!と駄々をこねるという、保育園あるあるが描かれた話がある。園児がでこ先生への悪口として「先生のデカケツ!」と叫ぶので、母親が去り際にチラリとでこ先生のお尻をチェックしてしまうのだが、これに気兼ねなくフフっとと笑えるのは、でこ先生というキャラクターの強みだろう。
そんなでこ先生は、新人ではないがベテランでもない、中堅といった立ち位置で、日々の保育に奮闘している。ピュアな子供の、予想できない言葉と行動は、時に面白く、時にほっこりする。そして前シリーズは、ギャグばかりでなく、ついつい手を上げてしまう園児の手に笑顔のイラストを描いて宥めたり、下の子が生まれて急に兄になったことを受け入れられずに荒れ狂う園児の対応をしたりする、ちょっぴり泣ける感動回もある。前シリーズは、でこぽん吾郎氏が保育漫画を描くきっかけとなった、優しい父親とのエピソードと、悲しい最期の別れが描かれ、笑いと感動の内に幕を下ろした。その後、しばらく筆を置いていたでこぽん吾郎氏だが、他にももっと「伝えたいこと」「楽しいこと」が色々あったな、と思い出し、新エピソードを描き始めたという。そんな本作は、前シリーズと同じ流れを汲み、ほとんどがクスっと笑えるギャグなのだが、冒頭と巻末には、しんみりと心に残る話が収められている。
幼い子供たちは自由で無邪気で予測不可能!その言動に学ばされることも
当たり前といえば当たり前なのだが、幼い子供たちは、泣く時も怒る時も笑う時も全力だ。おじいちゃんが夜中に転倒して救急車で運ばれたという園児が、その際に大泣きしてしまったというので、でこ先生は、きっとおじいちゃんのことが心配だったんだな、考える。だが、実際の園児の本心が「俺も救急車に乗りたかった!」なのには、思わず吹き出してしまう。他にも、月齢が小さい子供が、クリスマス会に現れたサンタクロースが怖くて泣きながらバイバイしたり、ズボンがお尻に引っ掛かって履けない子が自分のお尻を全力で叩いてお尻に怒ったりする話などがあり、大人からすると予測不可能な子供たちの全力は、本当に微笑ましく思える。
元保育士の作者が描くだけあって、子供たちの突拍子もない言動や表情も、とてもリアルで、説得力がある。純粋だからこそ、子供たちの自由な発想に時に学びがあるのも、園児たちを近くで見てきたが故だろう。
椅子取りゲームで、最後の椅子1脚を巡ってでこ先生と対決した園児は、最終的に同時に椅子に座ってしまい、引き分け状態になる。そこで、でこ先生は「先生の負けでいいよ」と勝ちを譲ろうとする。だが、園児は「そんなの俺が納得てきねぇ。もっかいやろうぜ」と提案するのだ。安易に勝利という結果に飛びつかず、勝負のやり直しを求める姿は、かっこいいだけでなく、小さなことであっても曖昧にせず、勝負に妥協しないという、大人が見習わなければならない学びがある。筆者は幼少期の記憶では、こういう時必ず大人に勝利を譲ってもらっていたので、余計にそう思う。
「めちゃかわネイル」をしてあげる、と園児に可愛い絵柄の折り紙をつけづめのように細長く切って、指にテープで貼ってもらう話では、でこ先生は「こんな可愛いネイル、先生にはもったいないなぁ」と遠慮する。すると、園児は「おしゃれは自分のためにすんだって!ガンガン盛らなきゃ!」とでこ先生を励ますのだ。そう、自分にはもったいないなどという、謙遜など不要、自分のために自分が好きなおしゃれをする、そういう自分を大事にする精神が既に身についていることに、感心せざるを得ない。
保育の仕事に奮闘するでこ先生を応援したくなる
子供が大好きで、保育の仕事に邁進しているでこ先生だが、保育士という職業は、こんなにおもしろいマンガでもやはり大変そうだ。その奮闘ぶりは、読んでいて本当に応援したくなるし、それと同時に感謝の気持ちでいっぱいにもなる。
園児のお昼寝中に事務仕事などをこなすのは普通なのかもしれないが、でこ先生が考えている業務量がかなり多く、園児の面倒を見ながらその業務をこなすのはかなり無理があるのでは、と心配になってしまう。他にも、ホワイトボードに、ねんど遊びやお片付けなど、園児たちの一日のスケジュールを書いているのだが、でこ先生はその横にイラストを描いている。絵を見ただけでもやることが瞬時に分かるように工夫されているのだ。これは単にでこ先生が絵が好きだからではなく、視覚支援という、立派な保育。マンガのオチ自体は、でこ先生自身が混乱してパニックにならないように描いているということだったが、園児たちもホワイトボードを確認しており、他の先生からも見やすいと褒められているので、ちゃんとした仕事、その丁寧さには舌を巻く。
また、子供たちがおままごとに興味がないことに悩むでこ先生が、先輩にアドバイスをもらって、あらかじめおままごとのセッティングをする話がある。子供たちの成長に合わせた、保育の環境構成だが、きめ細かいところまで子供たちのことを真剣に考えているでこ先生には頭が下がる。そういった仕事をこなしつつ、日中は園児のお世話をしながら、お漏らしした園児の衣服を洗ってあげたり、発表会のためにピアノの練習をしたり、新しい遊戯として導入するコマの練習をしたり、目が回りそうなぐらい、忙しそうである。その上、子供一人一人のことをきちんと把握しており、迎えにきた保護者に今日できたことなどを伝えるなど、保護者対応までこなしていて、でこ先生の保育士としてのスーパーマンぶりに驚嘆するばかりである。それをでこ先生は、持ち前の明るさで、園児に負けないぐらい元気にこなしているのだから、応援する気持ちは高まっていく。
でこ先生が、保育士としてひたむきに頑張るのは「子供が好き」だから
そんな、何でもできるでこ先生にも、当然だが新人の頃はある。誰でも最初から上手くいくわけではないのは、自明の理だが、でこ先生も1年目の時は大変だったようだ。記念すべき「ただいま! 保育士でこ先生」第1巻の巻末描き下ろしは「失敗」がテーマ。新人の時に失敗をしてしまうのは、社会人として通過儀礼ではあるが、保育士は幼い子供を預かる仕事。一歩間違えれば取り返しのつかない事故になりかねない緊張を伴う。
子供が好きだから保育士になったでこ先生は、1年目に1歳児4人を1人で預かる担任になった。実習の時と違い、実際の保育はてんやわんや。4人同時にギャンギャン泣きわめいても、全て1人で面倒を見なければならないのだから、無理もない。一生懸命仕事をしていたでこ先生だったが、ある時、ふと目を離した際に、1人の男の子が転倒し、頭を強打してしまう。男の子は泣き叫び、起き上がることもできず、でこ先生はパニックになるが、すかさず隣のクラスの先生が駆け付けてくれ、保育所の所長先生にも来てもらい、保冷剤で頭を冷やすことができた。だが、頭部の怪我ということで、でこ先生は保護者に連絡し、すぐに病院に連れて行ってもらうことになったのである。
幸いなことに、男の子は、脳に異常はなく、たんこぶだけで済んだ。保護者である母親も激昂することもなく、「家でもよくこけるんで、気にしないでください」と気遣う言葉をかけてくれた。だが、それは運が良かっただけ。頭部の傷ということで、市役所の子育て支援課に、所長先生と一緒にでこ先生は報告に行く。子育て支援課長に謝罪し、すっかり意気消沈したでこ先生。「どんなにいい保育をしても、子供の安全より大切なものはない」と所長先生は言うが、それと同時にこう告げる。「子供が好きなだけじゃ保育士はできない。だけど、子供が好きじゃないと保育士はできない」と。何より子供が好きなでこ先生は、その言葉を肝に銘じ、保育の仕事にいっそう励むことになる。
保育所内の研修で改善点を話し合い、ベテランの先生に環境構成のアドバイスをしてもらい、所長先生にも普段の保育を見てもらったでこ先生。毎日自分用に保育の指導案を作ったでこ先生は、正直、自分の失敗に向き合うのはかなり苦しかったと振り返る。それでも、でこ先生は、子供が好きという気持ちに、嘘は吐きたくなかったのだ。
そして、少しずつ保育にゆとりが持てるようになった頃、怪我をさせてしまった男の子のトイレに付き添った際に、たんこぶの腫れは引いていたが、青あざになっていることに気付いて、でこ先生は再度落ち込んでしまう。思わず暗い顔をしてしまったでこ先生に、今度は男の子が「しぇしぇ(先生)?」と首を傾げて気遣うので、でこ先生は慌てて「なんでもないよ!」と取り繕う。が、こういう時、子供って、不思議なくらい相手の心情を慮ることができるようで、「よしよし、いいこいいこ」と男の子が逆に、でこ先生の頭を撫でるのだ。本来なら、子供を励ますのは先生なのに、逆に子供に励まされるという、子供の優しさに、でこ先生は涙を滲ませる。真面目に保育に取り組んでいるでこ先生を知っているからこそ、一連のやりとりはジーンと読者の胸を打つ。
どんな仕事でも、失敗しないことは不可能だし、起こした失敗をなかったことにはできない。とはいえ、園児の怪我が、たんこぶで済んだのは運が良かっただけかもしれない。でこ先生が己の失敗と向き合い、苦しみながらより良い保育を目指す姿には、どんな人も勇気づけられる説得力があると思う。
このマンガを読んで、おもしろおかしく笑っていられるのも、でこ先生が失敗の中に学びを得て、真面目に保育に取り組んでいるからなのだなと、改めて思い知らされる。是非、「ただいま! 保育士でこ先生」を読んで、元気で明るい園児とでこ先生のおもしろおかしい日々に笑いながら、でこ先生の保育に対するひたむきさと、園児に対する大きな愛情を感じ取ってほしいと筆者は思っている。