特別企画

ミステリー×バディ×特殊能力×古武術×陰謀!「ギフテッド」は天樹征丸氏の真骨頂!

「なかよし」連載でも恋愛なし!天才刑事と特殊能力を持つ高校生のバディ×ミステリー!

【ギフテッド】

なかよしにて連載中

著者:雨宮理真

原作:天樹征丸

 「ギフテッド」は、「金田一少年の事件簿」や「BLOODY MONDAY」を手掛けた大ヒットメーカー・天樹征丸氏プロデュースのオーディション企画で、100名以上の応募者の中から雨宮理真氏が抜擢されたという「なかよし」一大プロジェクトから生まれた。主人公・天草那月(あまくさなつき)が20歳にして警視庁の星と呼ばれる刑事で、バディとなるのが、「視る」だけで殺人犯が分かる特殊能力を持つ高校生・四鬼夕也(しきゆうや)。四鬼がその目で視てターゲットを絞り、天草が捜査と推理で犯人のアリバイを崩し、事件を解決していくミステリー作品だ。現在7巻まで刊行されている。

 2023年8月には東海テレビ×WOWOW共同製作でドラマ化もされており、2024年6月にSeason2が地上波初放送となる。マンガにないオリジナルストーリー部分も、原作の天樹征丸氏がプロットを監修した本格クライムサスペンスだ。

【6月8日(土)23時40分から放送スタート!『WOWOW×東海テレビ 共同製作連続ドラマ ギフテッド Season2』】

「なかよし」的美形バディと盛りだくさんの設定

 「ギフテッド」は、「なかよし」で連載されているだけあって、天草那月も四鬼夕也も、美形で王子様みたいな容姿をしている。小学生の読者も多いことから、殺人現場のグロテスクな描写も控えめだ。だが、男女の恋愛要素は一切なく、ボーイズラブもガールズラブも全くない。それでも、このマンガが少女マンガと言えるのは、雨宮理真氏の透明感のある、麗しい絵のテイストからくるのだろう。

 主人公・天草那月は、20歳の刑事であるばかりか、17歳でマサチューセッツ工科大学の大学院を首席で修了した超天才で、ついでに在学中に起業してバイアウトしたから金融資産が30億円ある、食事に山盛りのスイーツを食べる大の甘党でお調子者という属性もりもりのキャラクターだ。

 対する四鬼夕也も、特殊能力を持つだけでなく、今は道場を閉鎖しているが古武術・四鬼神流(しきがみりゅう)の惣領であり、大名屋敷のような邸宅に純和風の老齢の家政婦と二人で暮らしていて、10年前に父親を亡くし、5年前に母親が何者かによって殺され、その謎を追っている。

 さらにこのマンガはミステリーなので、殺人事件もよく起き、加えて四鬼神流の対抗勢力である裏四鬼神流も登場し、裏四鬼神流は何かの陰謀のために暗躍しているのだ。キャラクターの属性や物語の設定が、過剰すぎるのだが、天樹征丸氏のストーリーと雨宮理真氏のマンガの構成が上手く融合し、理路整然としていて読みやすい。主人公バディ同様、最高のバディと言えよう。

「殺人犯が視える」だけの特殊能力が、ミステリーを面白くする

 鳴り物入りで始まった「ギフテッド」だが、「殺人犯が視える」=人を殺したことがある人間に黒いモヤが視える、という特殊能力は、ミステリーにおいて、ズルなのではないか、と筆者は正直思った。色んなミステリー作品があるが、基本は犯人が誰か分からないから楽しめるコンテンツのはずだ。だが、そこは数々のミステリーを手掛けてきた天樹征丸氏である、心配は無に帰す。

 最初から犯人が分かっていても、アリバイがあるパターン、死因の特定ができないパターン、共犯者が不仲など、一筋縄ではいかない事件ばかりが起きる。中には、明らかにこの人が犯人だ、と思われる状況なのに、誰も人を殺しておらず、実は交通事故だったという事件まである。とはいえ、四鬼夕也にできることは「誰が犯人か」という特定だけで、証拠や動機までは分からない。そこで、天草那月が天才的頭脳で捜査と推理をして、逮捕に至るというわけだ。

 いや、だったら天草那月一人だけで事件を解決できるんじゃないか、と筆者は思うのだが、証拠や状況に時間制限があってスピードが要求されたり、犯人ではないのに容疑者が真実を隠そうとしたりするなど、天草一人ではどうにもならない局面が多々あり、四鬼夕也の協力が必要不可欠になる。

 たとえば、4巻の「演劇殺人事件」では、深夜の劇場内で著名な演出家の死体が見つかるのだが、その劇場に寝泊まりしていた役者達の一人、大女優に殺人の疑いがかけられる。朝になれば、マスコミがやってきて事件をスキャンダラスに報道し、彼女の天才女優としての名声が失墜することは避けられない。それこそがこの事件の首謀者の狙いだったのだが、四鬼夕也が彼女が殺人犯でないことを瞬時に見抜いていたため、夜が明けるまでの短時間で天草那月が真犯人を突き止め、事件を解決することができた。誰も役者としてその名に傷をつけずに済んだのだ。

 効率的ともいえる方法で、二人がバディとして協力して鮮やかに事件を解決していくのは、実に小気味よい。

母親の謎の死と「四鬼神流」

 そんな特殊能力と天才的な推理の組み合わせで話が進んでいくのだが、四鬼夕也が天草那月に、母親を殺した犯人捜しを依頼することで物語は大きく動く。

 5年前に殺された四鬼夕也の母親・四鬼舞歌(しきまいか)は、自宅である屋敷の床の間で何者かに殺された。凶器となったのは、その床の間・「四鬼神の間」に飾られていた日本刀で、四鬼神流の門弟たちの留守の間に押し入った強盗が母親に出くわしてしまい、殺害して逃げたような状況だったという。だが、警察が捜査していくうちに、そのような偶発的な殺害にしては、不自然な点が多いことが分かった。母親は、殺害された時に「四鬼神の間」の襖に血塗られた手形を残しており、それがダイイングメッセージではないか、と捜査方針が変わっていったのである。

 その襖には、四鬼神流古武術の象徴とされる伝説の4つの鬼の絵が描かれており、それぞれ金鬼(きんき)、風鬼(ふうき)、水鬼(すいき)、隠形鬼(おんぎょうき)の名前がついている。その<四鬼(よんき)>は、四鬼神流の師範代の高弟4人に与えられる称号でもあり、手形が残された金鬼にあたる金田那由他(かねだなゆた)が疑われることとなった。容疑を決定づけたのは、金田那由他が警察に任意同行を求められた際に、2人の刑事をあっという間にねじ伏せてその場を立ち去り、そのまま行方をくらましてしまったことにある。

【5年ほど前の高弟<四鬼>、左から水鬼・金鬼・隠形鬼・風鬼】

 だが、四鬼夕也は、金田那由他には、黒いモヤが見えないので、母殺しの犯人ではないと確信している。逆に、他の高弟3人には子供の頃から黒いモヤを見えていたといい、事件以前に殺人の経験があるというのだ。四鬼は、その3人のうち誰かが犯人ではないかと疑っているが、証拠はない。話を聞いた天草那月は四鬼と共に3人に直接会いに行き、事件の謎を紐解こうとする。

裏表がありすぎる<四鬼(よんき)>の3人

 二人が最初に会いに行ったのは、道場の閉鎖後、華道家として活躍する水鬼・林秘影(りんひえい)35歳だ。清楚でクールな正統派イケメンの容貌でありながら、4年半ぶりに四鬼夕也に再会すると目を潤ませ、はわわ、と可憐な少女のように感激する。かと思えば、要所要所で冷酷な表情を見せ、フラワーアートには毒花のトリカブトを使用したりするなど、腹の底が知れない人物である。

【水鬼・林秘影(りんひえい)】

 二人目は、風鬼・弓月兵馬(ゆづきひょうま)36歳だ。彼は、古式舞踊の宗家の出で、天才舞台役者として日本を代表する演出家にも認められている。天草と四鬼が会いに行った際も、役者として舞台に出ていた。ただ、彼は性別は男だが、舞台にはドレスを着て女役として出演しており、見た目や私服、言動もフェミニンで、とても古武術の師範代の男性には見えない。林秘影同様、四鬼夕也と再会した際には少女のように感激し、べったりと抱き着く。だが、可愛らしい見た目に反して、四鬼神流の高弟として、関節技を得意とし、風のようにすれ違う瞬間に、人間の手足すべての関節をバラバラに外すことができる。そして、高校生のような、きゃぴきゃぴした言動とは裏腹に、時折何か企んでいるような怖い顔をすることがあり、こちらも水鬼・林秘影同様、何を考えているか分からないおぞましさを秘めている。実際、劇場内で起こった演劇殺人事件では、証拠はないながらも、天草の推理を思い通りに誘導したような気配があり、得体のしれない人物だ。

【風鬼・弓月兵馬(ゆづきひょうま)】

 最後に会いに行ったのは、隠形鬼・長曾我部新(ちょうそかべあらた)28歳だ。弓月兵馬とは逆で、外見は男性そのものだが、身体は女性の、メジャーデビューしたばかりのバンドのギタリストだ。何百年もの古くから続く琵琶の家元でもあり、四鬼神流の古武術では、気を集中させて剛力を引き出す使い手である。称号の隠形鬼は、何者にも姿を変える鬼とされており、まるっきり男のような見た目でバンド活動をしているが、絶世の美女にも成りきれる。四鬼夕也いわく、一番裏表がある人物で、目をかっ開いて四白眼の怖い表情で四鬼に迫ったかと思えばそのままキスするなど、言動の予測ができない傾向にある。

【隠形鬼・長曾我部新(ちょうそかべあらた)】

 金鬼である金田那由他は、古武術の師範代らしい威厳とリーダーシップに溢れたそれっぽい人物なのだが、他の3人の鬼は上記のとおり、裏表があり、かなり癖も強い。その中で、隠形鬼・長曾我部新は、水鬼・林秘影を母親殺しの犯人ではないかと疑っており、四鬼夕也に「母親の二の舞になるなよ」と忠告する。そして、四鬼が<四鬼(よんき)>の誰にも話していない、「殺人犯が視える」目のことを知らないはずなのに、別れ際にこう問いかけるのだ。その「鬼の目」に今何が視えてる?、と。

「四鬼神流」と「裏四鬼神流」

 隠形鬼・長曾我部新に、目のことを「鬼の目」と言われた四鬼夕也は、そのことについて記述があるにちがいない、「四鬼神流」の奥伝を読むことを決意する。奥伝は、屋敷の地下の倉庫に厳重に収蔵されていて、開かずの鉄扉に閉ざされていたが、天草那月と協力して先祖が仕掛けたからくりを解き、奥伝を読むことに成功する。

 奥伝によると、古武術・四鬼神流は、戦国時代の忍者、つまり暗殺やスパイを行う闇の集団が源流だった。そして戦国時代が終わっても、四鬼神流はその闇の活動を続けてきたことが記されていた。戦国時代に政敵を殺すために暗躍していた四鬼神流は、徳川幕府にも同じように扱われ、時の権力を左右してきたという。その後は、暗殺と諜報の部分を封じることで、単なる古武術としてほそぼそと道場を営んで今に至る。

 しかし、実は1824年に四鬼神流は表と裏に分裂しており、四鬼夕也が宗家の表の四鬼神流とは違い、裏四鬼神流は現代になってもなお、人殺しを生業としていることも記されていた。そして、四鬼夕也の「鬼の目」は、四鬼神流の創始者が持っていた「人を殺した者にまとわりつく黒いモヤ」が視える目と、中興の祖が持っていた「人の悪意がまとわりつく汚れた蟲(むし)の姿」に視える目、両方を備えていることも分かった。

 その中興の祖によると、2024年に四鬼夕也の「鬼の目」を巡って、数十万人規模で死者が出る争いが、表と裏の四鬼神流の間で起こると予言があったのである。

「裏四鬼神流」の陰謀

 四鬼夕也が奥伝を読み、裏四鬼神流について知ってほどなくして、逃走中の金田那由他から連絡がくる。軽井沢で会って話がしたいということで急ぎ向かう四鬼だったが、時を同じくして、投資家が脅迫されている事件の捜査に天草那月も軽井沢に向かうことになる。

 2人は用事が済んだら落ち合う約束をしたが、四鬼の元に金田那由他は来ず、代わりに娘の金田薫がやって来て、危険に巻き込みたくないから今後は直接電話もできない、と言伝を聞かされる。彼女が言うには、金田那由他本人も命を狙われているということだった。

 その後、四鬼夕也は天草那月のいる脅迫されている投資家の別荘に向かうのだが、その別荘で投資家が殺害される事件が起きる。

 事件自体は、四鬼夕也が「鬼の目」で犯人を特定し、犯人が証拠隠滅をはかる前に天草那月がトリックを解明して解決する。犯人は、投資家の妻だった。妻が罪を認め、自供し始めた時、最初は殺すほどの恨みはなかったが、何者かに殺人を教唆されたと話をしたところで、窓の外から放たれた鉄の弓矢で殺されてしまう。その鉄の弓矢が、四鬼神流に伝わる武器であったため、殺人教唆をし、妻を鉄の弓矢で殺害したのが、裏四鬼神流の者であると四鬼夕也は直感する。

 東京に戻った天草那月と四鬼夕也の二人は、そのことを天草の上司である、警視庁捜査一課の警視・竜崎美都(りゅうざきみと)に報告した。殺人計画を授ける裏四鬼神流の存在や、表と裏の争いで数十万人単位の死者が出るかもしれない話に、最初は荒唐無稽と信じていなかった竜崎だったが、四鬼夕也の「鬼の目」の事例を天草那月から聞かされていたが故に、無視できないと考えを改める。

 四鬼夕也は、裏四鬼神流が大規模な陰謀を企てていると見抜いており、自分達表の四鬼神流は、惣領の四鬼夕也と<四鬼(よんき)>の4人しかおらず、その4人も母親殺しの犯人が紛れている可能性が高く、一枚岩ではないので、壮大な戦いには警察の協力が必要だと考えているのだ。

 物語は、母親殺しの犯人を捜すフェーズから、合わせて裏四鬼神流との戦いに備えるという新たなフェーズにスケールアップした展開になっていく。

【裏四鬼神流の一人・逆神破流馬】

天樹征丸氏の真骨頂とも言うべき「ギフテッド」

 ここまで長々と熱弁してきたが、天樹征丸氏の作品のファンなら、「ギフテッド」の内容の随所に既視感があるのではないだろうか。

 ミステリーなら「金田一少年の事件簿」が有名だが、トリックの巧妙さや分かりやすい解説などは「ギフテッド」でも健在だ。また、特殊能力者とのバディといえば、「GetBackers-奪還屋-」(名義は青樹佑夜)と「サイコメトラーEIJI」(名義は安童夕馬)を想起させるし、裏四鬼神流の大規模な陰謀は、「BLOODY MONDAY」(名義は龍門諒)を彷彿とさせる。

 古武術の宗家の設定や、親族の死の真相の追跡、女性らしい男や、男性らしい女などはいくつかの作品に共通してみられるし、裏四鬼神流が殺人計画を授ける殺人教唆は、「金田一少年の事件簿」の高遠遙一や「探偵学園Q」の冥王星という犯罪グループを思い起こさせる。

 それら、天樹征丸氏の作品群に散りばめられた珠玉の要素がこの「ギフテッド」に集結しているのだ。まさに真骨頂。それを、マガジンなどではなく、「なかよし」で連載しているのがまた挑戦的で面白い。

 「ギフテッド」は、たった7巻にこれまでの内容が詰め込まれていることからも想像できると思うが、毎号毎号、怒涛の展開が繰り広げられている。最新号では、四鬼夕也が<四鬼(よんき)>を集結させたり、天草那月が裏四鬼神流が殺人教唆を行った可能性がある事件を洗いざらい調べたりしている最中だ。「ギフテッド」2章とも言うべき話が始まっており、天樹征丸氏の作品だけに期待も高まるが、それをゆうに上回る物語が繰り出されている。是非、そんな天樹征丸氏の真骨頂ぶりを「ギフテッド」を読んで体感してもらいたい。その目くるめくストーリーとテンポの良さに骨抜きにされること請け合いだ。