特別企画
人の”闇”を独特の切り口で描く。CLAMPの「xxxHOLiC 戻」が約8年ぶりに連載再開!「xxxHOLiC」シリーズを振り返る
2025年4月21日 00:00
- 【連載再開】
- 4月21日(週刊ヤングマガジン21号)
4月21日発売のヤングマガジンより、約8年ぶりに「xxxHOLiC 戻」の連載が再開されることとなった。
「xxxHOLiC」は大川七瀬、いがらし寒月、猫井椿、もこなの4人からなる日本の女性漫画家集団・CLAMPによる漫画作品で、対価さえ払えばどんな願いも叶うミセの主人の元に、様々な悩みを抱えた客が訪れる、ファンタジー作品となっている。「xxxHOLiC」は、単行本全19巻。「xxxHOLiC 戻」は、2025年4月現在で単行本4巻(未完)となっている。
「xxxHOLiC」シリーズは人の闇の面を色濃く描いているのが特徴の作品で、ドロリとしたなんともいえない後味の悪さがありつつも、その後味の悪さを美しい絵柄で魅力的な作品へと昇華させ、さらに登場人物らの持ち前の性格などでもって、読了感はさっぱりとなるように仕上げられている。
本作は週刊少年マガジンで連載されていた「ツバサ -RESERVoir CHRoNiCLE-」と物語がリンクしている。「ツバサ -RESERVoir CHRoNiCLE-」は、「xxxHOLiC」以外のCLAMP作品ともコラボした作品ではあるが、「ツバサ」シリーズと「xxxHOLiC」は特に関係が深く、切っても切れない関係となっているので、「ツバサ」シリーズを読んでいない人は、ぜひ「ツバサ」シリーズのほうも読んでみてほしい。なお、「ツバサ」シリーズは既に完結済みで単行本全28巻、「ツバサ -WoRLD CHRoNiCLE- ニライカナイ編」は全3巻。
本稿では、「xxxHOLiC」と、その続編「xxxHOLiC 戻」について振り返っていく。なお、ネタバレが多く、特に記事の後半では単行本にまだ収録されていない話についても触れているので、まだ読んでいないという人は注意してほしい。
「xxxHOLiC」は、主にミセの女主人侑子と、そのバイト四月一日を巡る物語
主人公である、アヤカシを見てしまう体質の男子高校生、四月一日(わたぬき)君尋は、ある日、対価を払えばどんな願いでも叶える店(ミセ)に迷い込み、そこでミセの女主人である次元の魔女・壱原侑子と出会った。
「アヤカシが見える体質を治したい」という四月一日の願いに対して、侑子は対価として四月一日にミセでバイトをして、そのバイト料が願いの対価に見合った時に願いを叶えると約束する。こうして、侑子と四月一日、ミセにいる不思議なふたりの少女マルとモロたちの、ミセでのドタバタ生活が始まるのであった。
本作は、「ツバサ -RESERVoir CHRoNiCLE-」の世界で次元が歪んでしまったことからを発端とする物語なので、「ツバサ -RESERVoir CHRoNiCLE-」を読む前と後とでは全然違った印象になる作品だ。
四月一日がバイトを始めて少し経った頃、ミセの庭に異世界から小狼、サクラ、ファイ、黒鋼(「ツバサ -RESERVoir CHRoNiCLE-」のメインキャラクター)が現われた。彼らはそれぞれの事情によって異世界を旅することを願い、四月一日の力によって目覚めた白いほうのモコナ=モドキと共に、再び異世界へと旅立っていった。
四月一日たちの世界に残された黒いほうのモコナ=モドキも侑子、四月一日、マル、モロの4人の中に加わり、ミセは一層にぎやかになる。
四月一日は、毎日犬猿の仲である百目鬼(どうめき)や、大好きなひまわりとの3人での学校生活を送りつつ、そんな日常を経ていく中で、自身の持つ力に徐々に目覚めていく。やがて夢を渡り、夢の世界へと行くことができるようになった四月一日は、夢の世界で既に亡くなっている百目鬼の祖父・遙や、異世界を旅するサクラと会うことができるようになった。
そして四月一日は、自身の正体が、小狼が時間を巻き戻したことによって生まれたもので、異世界の小狼のために自分を無意識に消して対価にしようとしたり、自分の大切な記憶を対価に差し出していたことを知るのだった。
そんな最中、「ツバサ -RESERVoir CHRoNiCLE-」の黒幕である飛王(フェイワン)・リードが抱く「時空を越える力を手に入れて遠い過去に死んだ侑子を生き返らせ、自身が兄クロウ以上の魔術師だと証明する」という願いによって、侑子は闇にとらわれ、消えてしまった。
以上、ここまでが「xxxHOLiC」の内容となり、186話からは「xxxHOLiC 籠」(ロウ)と題名を変えた。(単行本では、そのまま「xxxHOLiC」として続刊)
「xxxHOLiC 籠」では、闇の中へと消えた侑子と再会するまで、ミセで待つことを決めた四月一日が、「アヤカシが見える体質を治したい」という願いのために貯めてきた対価を願いの成就に使わずに、店主として必要な魔力を強めることに使うことにしたところから始まる。
また侑子を待つその対価としてミセを継ぎ、さらに魔力を高めるためミセから一歩も出ないことを選択し、毎日のようにミセに訪れる百目鬼を介して依頼を受けたり、ミセに訪れた客の依頼を受けていく。
最終回では、四月一日がミセに篭り始めて100年ほどが経過したことがわかる。老化しない四月一日の隣には百目鬼がいるが、それは百目鬼の曾孫だった。100年が経ち、ついに四月一日の魔力は侑子と同等にまでなり、四月一日はミセに囚われずに自由の身となったのだが、四月一日は侑子との再会にこだわり続けるのだった。
「xxxHOLiC 戻」はどんな話?
「xxxHOLiC 戻」は、四月一日が侑子のミセでバイトをしていた時代に戻る。
一見、「xxxHOLiC」の時代に戻ったのかと思えるが、実際には強大な魔力を手にした四月一日が、夢を渡って、過去の時代で小狼に頼まれた旅に必要なものたちを手に入れていたのだった。(「ツバサ -WoRLD CHRoNiCLE- ニライカナイ編」につながる)
単行本既刊4巻のうち大半を四月一日の学生時代の話(小狼からの頼まれごと)に費やしているため、まだ詳細はまったくわからないものの、単行本の4巻では四月一日が百目鬼から謎の琥珀を受け取ったこと、八尾比丘尼が昔作った紅い真珠を四月一日に渡したこと、そして雨童女が「座敷童を消さないために紅い真珠を譲ってほしい」と四月一日を尋ねる。雨童女を通じて、百目鬼が持ってきた琥珀は「竜の使いの卵」だということが判明した。こうして四月一日の下に、紅い真珠と竜の卵が揃った。
そんな四月一日のところへ訪れたのは、情報通の猫娘。座敷童が清廉な気の中でないと生きていけないのに、もう世界にそんな場所はほとんどなく、座敷童は体の中に毒を溜めて、その毒が座敷童を「呪謌(しゅか)」にしようとしていること、呪謌とは己そのものを呪いの元とするもの、呪謌は手に入れたものの願いを拒めず毒で願いを成就させてしまうこと、そして呪謌を狙っているものの中に「次元の魔女」がいる、という情報を伝えたのだった。
……というのが、「xxxHOLiC 戻」の4巻までの話である。果たして次元の魔女とは侑子のことなのか?
単行本派の人は、ここで物語が止まってしまっているため、もしも本当にこれが侑子なのならば、何故侑子が呪謌を狙っているのか、侑子が本当にそんな呪いを手に入れたがっているのか、ドキドキしながら待っていることだろう。なお、侑子とミセ、四月一日らについては「ツバサ」シリーズのほうで判明していることが多いので、ぜひとも「ツバサ」シリーズを読んで、「xxxHOLiC」について、より理解を深めてほしいところだ。
この繋がりがわかると、一層「xxxHOLiC」という物語が抱える謎もわかるようになり、ワクワクが止まらなくなる。
ちなみにここから先は、単行本に収録されていない4巻の先、53~56話に触れるので、絶対単行本で読みたいという人は注意してほしい。
53~56話では、四月一日は夢の中で遥に次元の魔女の話をし、遥は「次元の魔女と呼ばれるのは、侑子しか知らない」と応じる。侑子であるならば、何故呪謌を狙うのか。そんな四月一日に、遥は「誰がどうするのかではない、自分がどうしたいのかだ」と答えるのだった。
夢から覚めた四月一日。その時、ミセに客が訪れた。その客は、なんと座敷童にそっくりだった。しかし、どうやらその少女は座敷童ではないようだ。その少女は不思議な夢を見るというのだが、それが座敷童を助けたいと四月一日を頼ってきた雨童女の願いを叶えてあげた内容に非常に酷似していること、そして少女は「夢で蝶の帯をした綺麗で髪の長い女性が、自分を殺そうとした」と話す。
恐怖で怯える少女を、自宅で休ませてあげることにした四月一日。すると少女が寝ている部屋の障子に、侑子らしき人影が少女の首を絞めている姿が、写ったのだった。しかし、どこを探しても侑子はいない。
だが、モコナは侑子の残り香を感じ取っていた。百目鬼とモコナは、もし本当に侑子であれば、四月一日はそれには勝てないと悟ってしまう。
ここまでが、単行本化されていない部分の話となり、この続きが、恐らく4月21日発売のヤンマガにて綴られることになるのだろう。なので、単行本派のひとは空白の4話分があるため、あらかじめこれを了承しておいてほしい。
【ニュース】『xxxHOLiC・戻〈レイ〉』連載再開が決定
— CLAMP公式 (@CLAMP_news)January 9, 2025
2025年4月21日〈月〉発売の「ヤングマガジン」第21号より連載開始
ヤングマガジン
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オカルトチックなストーリーと魅力的な絵柄、CLAMP的哲学の融合
本作は、「こっくりさん」の亜種のような「エンジェルさん」が流行った高校の物語や、自分は強運だと信じている大学生がなんでも願いが叶うという「猿の手」を手に入れた末路、「百物語」を実際にやってみるとどのようなことが起こるのか……といったようなオカルト的な題材を多く扱っており、それを「CLAMP風に味付けしている」といった作品になっている。他作品でも「物事は偶然ではなく必然で動く」という世界観を強く打ち出しているCLAMPだが、本作ではより一層その色が強く出ていると言えるだろう。
本編の構成は基本的にいくつもの短編が折り重なっているようにできており、本筋は一本の長編ではあるものの、ミセを訪れる客の依頼内容をいくつもかなえていく中で、徐々に四月一日や侑子に迫っていく、或いは「ツバサ」シリーズとリンクしていく……というような内容になっており、非常に読みやすい。内容や雰囲気はCLAMPの初期作品である「東京BABYLON」に近い感じがある。前述の「全ての出来事は必然である」といったCLAMP(大川七瀬氏)独特の物の見方をしている作品は数多くあれど、CLAMPの哲学がキャラクターを通して反映されている作品が「xxxHOLiC」だと思う。
そして「ツバサ」シリーズとのリンクは本当に見事。「ツバサ」シリーズはゴリゴリのファンタジー作品で、異世界を舞台に「サクラの記憶の羽根」を求めて、様々な異世界を冒険する冒険活劇なので、「xxxHOLiC」とは全く異なる世界観なのだが、このふたつの作品を見事に融合させ、現実世界のような「xxxHOLiC」と異世界ファンタジーが同時に進行していくというのは、CLAMPだからこそ為せる業といったところ。
また、「xxxHOLiC」シリーズで特徴的なのは絵。CLAMPといえば、デビュー当初から絵へのこだわりが半端ではないのだが、「xxxHOLiC」ではあえてスクリーントーンを全く使用しないという作画にチャレンジしている。
だからこそ、少し切り絵のような雰囲気の絵になっており、それがより一層「xxxHOLiC」の世界を際立たせているのだ。このビジュアルについては個人の好みもあるとは思うのだが、筆者は最初に見た時に、これまでのCLAMPと全く違う方向性で、大層おどろいたものだ。
スクリーントーンを一切使用しないかわりに、掛け線やベタなどで丁寧に、本当に丁寧に描かれた世界は、芸術品の域である。この絵柄こそが、人間の闇を描くのに一番相応しいのではないかと思わせてくれる。侑子や四月一日の煙管から漂う煙ひとつ、着物の裾の乱れ方まで妖艶さに溢れており、さらっと描いているように見えて、ミリ単位でこだわった作画がされているのではないだろうか。
筆者は比較的幼いころからCLAMP作品に深い影響を受けていたのだが、それはCLAMP作品には大抵何かしらの気づきがあるからだと思っている。本作で特に感じ入ったのは、「願いを叶えるのには、それに見合った対価が必ず必要になる」という点だ。現実世界でもそうだ。例えば、願いを叶えるために相応のお金が必要だったり、相応の努力が必要だったりする。そんな当たり前のことを、本作では「対価」として物品やら何やらで受け取ったりするわけだ。例えば人を殺せば、自分がつぶれてしまうほどの対価が必要となる。それくらいに人の命を奪うということは重いことなのだ、と侑子は語る。こういう「願いの重さ」と「釣り合う対価」については、つくづく考えさせられるものがあった。
「ツバサ -WoRLD CHRoNiCLE- ニライカナイ編」は完結したものの……
「ツバサ」と「xxxHOLiC」は非常にしっかりと伏線が張られているので、今ここで「xxxHOLiC」について振り返ったが、可能であれば「ツバサ」シリーズも読み返すといいだろう。四月一日は小狼と対で生まれた存在で、小狼とは深い関係性にあり、あまり記さなかったものの、ここまでにも四月一日は何度も異世界にいる小狼の姿を見る場面や、小狼と話す姿も作品内では描かれている。
現状考察を出すにはあまりに難しい状況ではあるため、張られている伏線について触れておこう。
百目鬼が「xxxHOLiC」にて侑子に渡された「使う時がきたら使ってくれ」と言われた卵は、「xxxHOLiC 戻」でもいまだに百目鬼は持ち続けたままで、この卵についての詳細は何も判明していない。また、「xxxHOLiC 籠」の最終回では侑子が戻ってこないまま100年がすぎているが、「xxxHOLiC 戻」はその最終回よりも前の時間軸となっている。つまり、「xxxHOLiC 戻」は「xxxHOLiC 籠」とは別のパラレルワールドということになるのだろうか。
侑子も、次元の魔女であり、実は既に死んでいる存在である、という以外はあまり語られていない。そもそも侑子という名前も偽名だというし、本名もわかっていない状態だ。自分を生んだ両親以外の全てを不幸にするというひまわりは、「xxxHOLiC 籠」では結婚していたが、果たして彼女の夫は不幸にならなかったのか? あれほどひまわりを大好きだった四月一日ですら不幸に陥ったのに、ならばその理由は語られるのだろうか?四月一日のことを訪ねてきた少女は何者なのか?
謎が謎を呼ぶ、「xxxHOLiC 戻」。幻想的な世界観と、独特のタッチの絵だけでも引き込まれてしまうが、ストーリーを知れば知るほど、あちこちに張られた伏線に舌を巻くことになるはずだ。
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