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祝「瞬きのソーニャ」4年半ぶり連載再開!いまこそマンガ界のレジェンド弓月光氏の作品を楽しもう

【瞬きのソーニャ】
3月19日 連載再開

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 3月19日発売の「グランドジャンプ No.8(集英社)」にて、弓月光氏のマンガ「瞬きのソーニャ」が4年半ぶりに連載を再開する。「瞬きのソーニャ」は、旧ソ連の遺伝子操作によって生み出された少女ソーニャの逃亡劇を描いた作品。2012年の連載開始より不定期連載で続いており、現在は3巻まで発売している。

 この記事では「瞬きのソーニャ」のストーリーな主だった登場人物、そして面白さを紹介するとともに、1968年にデビューに現在に至るまでヒット作を生み出し続けている巨匠、弓月光氏の他作品についても紹介したい。興味があるタイトルをぜひ読んでみて欲しい。

□「グランドジャンプ」次号予告のページ

冷戦が生み出した人間兵器たちの生きざまを描くハードなアクションマンガ

 「瞬きのソーニャ」の主人公である少女ソーニャは、ソビエト連邦が極秘に開発した人間兵器。ベルリンの壁が崩壊し、世界が冷戦終結へと大きく動き始めた1989年に、警備主任だったヴィクトル・ザイツェフは、国家を裏切り、ソーニャを研究施設から連れ出す。

 人間離れした運動能力と反応速度、知能を持つソーニャが正体を知られることなく暮らせるように、ザイツェフは自信が持つ戦い方や世渡りの方法を教えていく。人の愛を知らなかったソーニャは、ザイツェフを父のように慕い、二人の生活を守るために戦う。

 どちらかというと柔らかいタッチが持ち味で、コメディ色の強い作品が多い弓月光氏だが、本作は非常にハードボイルドな世界観で、時には残虐なゴアシーンもリアルに描写する。可愛らしい絵柄にも関わらず、いつも死と隣り合わせであるという緊張感が、本作の魅力でもある。

 第1巻と2巻が子供時代、第3巻からは成長し、初めての学園生活を送ることになった少女時代が描かれている。3巻では新たな強敵も現れて、ストーリーが今後どう展開していくか気になるところで終わっており、連載再開が待たれていた。

「瞬きのソーニャ」の“ここ”が面白い

ソ連が崩壊し世界が混沌とする時代の世界感

 本作の舞台となる1990年代は、第二次大戦後に続いていた冷戦から民族紛争の時代へと時代が動いていく動乱の時代だ。ソーニャとザイツェフがソ連から逃れるために住んでいた九龍城も、この当時にはまだ法律の届かない超危険地帯として世界に知られる場所だった。まだインターネットはなかったが、世のテックギークたちはパソコン通信に熱中していた。

 本作にはそんな90年代の空気がリアルに描かれている。この時代を子どもの時に過ごした今40代くらいの人たちは、ちょうどソーニャと同世代ということになる。読者の世代によっては、懐かしさとともに楽しめるだろうし、この時代を知らない人たちにとっては、逆に新鮮さを感じるかもしれない。

リアルさを重視したアクションシーン

 ソーニャは超人的な反応速度と筋力を持っている。本作では、人の目では捉えられないスピードで立ち回るその戦闘シーンを、スローモーションのように丁寧に描いている。次の瞬間には全員が倒れていたという結果だけではなく、ソーニャがその刹那に何をしているのかが描かれることで、読者もソーニャの視点で超高速な戦闘に参加する事ができる。

 暗殺者やギャング、特殊部隊とソーニャの前には常に敵が立ちはだかる。そんな敵を超人的な能力で倒していくバトルシーンは必見だ。

ソーニャの孤独さと彼女に寄り添おうとする人々のドラマ

 ソーニャは人とは違う能力があり、常に命を狙われる逃亡者でもある。ザイツェフの教えもあり、普段は必要以上に他人と関係しないような生活を送っており、態度も大人びている。彼女の周囲には、中国マフィアからアメリカ大統領まで、様々な人物がそれぞれの思惑を持って近づいてくる。だが、どんな立場の人物でも彼女にとっては弱者でしかなく、圧倒的な力の差とクールな態度が読んでいる読者をドキドキさせてくれる。

 だが、そんなソーニャも時には感情的な戦いに身を投じることがある。常に孤独なソーニャだが、周囲には彼女になんの下心もなく、時には愛情をもって接してくれる人間がいる。そんな大切な人たちが傷つけられた時、ソーニャは怒りを爆発させて敵を倒す。

 ギャグどころか、ほのぼのしたシーンすらほとんどない非情な世界感だが、その中で人間らしく生きようとするソーニャを応援せずにはいられない。物語の中で少しずつ成長していく彼女を、読者も親のような気持ちで見守っている。ぜひ本作を読んで、一緒にソーニャを応援して欲しい。

少女漫画家から青年誌へ。弓月光氏の代表作を紹介!

 弓月光氏は1968年に少女漫画雑誌「月刊りぼん」でデビューし、その後少女マンガ家として多くの作品を発表した。

 1960年代から80年代にかけての少女漫画は、、SF、バイオレンス、サスペンス、ホラーとなんでもありだった。そのため、男性作家や男性の読者も多くいた。弓月光氏の初期の作品は少女漫画ではあるが、単に恋愛ものというだけではない、多彩なテーマや舞台のマンガがそろっている。

「僕の初体験」

 モテない高校生宮田英太郎が、マッドサイエンティスト人浦狂児の手で、脳腫瘍で亡くした妻人浦春奈の体に脳移植されてしまう、ラブコメディ。

「エリート狂走曲」

 兵庫県のド田舎から東京に引っ越してきた野生児中学生、片桐哲矢が、成績優秀な美少女美波唯とともに激烈な受験戦争に挑む、ギャグをはさみつつも受験戦争の中で生きる若者を描いたドラマ。

「トラブル急行(エクスプレス)」

 宇宙飛行士を夢見る少女アルコ・ファンタンが、意志を持つ生きた宇宙船チャイカと出会ったことで起こるドタバタSFアクション。

□「トラブル急行(エクスプレス)」第1話のページ

「ボクの婚約者(フィアンセ)」から少年、青年漫画へ移行

 1983年から「月刊少年ジャンプ」で「ボクの婚約者(フィアンセ)」の連載をスタート。ここかは少年誌や青年誌へと活動の舞台を移していく。

「ボクの婚約者(フィアンセ)」

 主人公久保竜児は、友人たちと訪れたスキー場で、不注意から起こした事故によって、大病院の一人娘、川原椎名の顔に傷をつけてしまう。その償いとして、竜二は椎名の婚約者となり、椎名家にふさわしい婿養子になるための地獄の花婿修行が始まる。

「みんなあげちゃう?」

 「週刊ヤングジャンプ」で連載されたエロティックなコメディ。貧乏な予備校生、地下中六郎の家に、間宮財団の令嬢、間宮悠乃が「処女いりませんか?」と訪ねてくる。超大金持ちの美少女に一目惚れされてしまったことで、六郎の人生は一変する。

「甘い生活」、「甘い生活 2nd season」

 ランジェリー作りに天才的な才能を発揮する江戸伸介と、大手下着メーカー、ピクシーに勤務する若宮弓香との関係を軸に、ランジェリーに関係する様々なトラブルを解決していくコメディタッチのドラマ。「ビジネスジャンプ」で連載がスタートしたが、途中同誌の休刊によって「グランドジャンプ」で「甘い生活 2nd season」として連載を継続。2024年6月に34年の長期連載が大団円を迎えた。

今も最前線で作品を作り続ける弓月光氏。その面白さをぜひ体験してみて

 上記に紹介した代表作以外にも、弓月光氏には様々なジャンルに数多くの作品がある。若い読者にとっては生まれる前になる古い作品も含め、多くの作品をネットで読むことができる。気になる作品があれば、ぜひ一読してみて欲しい。導入のうまさ、セリフ回しの妙でぐいぐい引き込まれ、気が付くと夢中で読んでいて、先が気になって仕方がない。

 デビューから57年の長きにわたって第一線を走り続けているその実力を、ぜひ漫画を読んで確かめて欲しい。