特別企画

男のカッコよさとは“痩せ我慢とちょっとのユーモア”。不朽のスペースオペラ「コブラ」を読んでほしい

ウィットに富んだキレッキレな名言が心を掴む!

【「コブラ」コミックス1巻】

1979年8月15日 発売

 齢30も半ばになってきて、“男のカッコよさ”とは何かということを改めて考えることがある。見た目が整っていること? 社会的なステータス? 女性に対するスマートさ? 豊富な人生経験からくる余裕? ──漠然とした命題だけにきっと明確な答えはなく、これからもその正体を探りながら生きていくことになるだろう。しかし今の自分は、そんな数多ある要素のなかでも「痩せ我慢とちょっとのユーモア」は欠かせないと確信している。そう思い至ったのは、漫画家・寺沢武一氏による不朽のスペース・オペラ「コブラ」によるところが大きい。

 「コブラ」は1978年から1984年にかけて、集英社の「週刊少年ジャンプ」にて157話を断続的に連載。その後は同社の青年誌「スーパージャンプ」でも連載した後、メディアファクトリー(現・KADOKAWA)のコミック雑誌「コミックフラッパー」へ移籍。KADOKAWAのWEBコミックサイト「COMIC Hu」では「COBRA OVER THE RAINBOW」と題した新エピソードを発表していたが、作者の寺沢氏が2023年9月に没したため現状未完となっている。

 本記事ではコミックス第1巻の発売から45周年を記念し「コブラ」序盤のストーリーと、作者である寺沢武一氏のハイセンスな言葉選びについて触れていく。

【【本編プレビュー】スペースアドベンチャー コブラ(コブラ 劇場版)|” SPACE ADVENTURE COBRA:The Movie” (1982)】

トリップ・ムービーがきっかけとなり危険な世界へ逆戻り

 物語は、とある貿易会社に勤めるうだつが上がらなそうなサラリーマン・ジョンソンが退屈な日常に嫌気が差し、好きな内容の夢をオーダーできるというトリップ・ムービーを見に行くところから始まる。その夢のなかでジョンソンは、自身が左腕にサイコガンを持つ2枚目の宇宙海賊・コブラとなって、波乱万丈でスリルに満ちた冒険の日々に明け暮れる夢を見る。

 その夢のなか、正統派の海賊であるという自負があるコブラは、残虐非道な行ないをするマフィア的な組織・海賊ギルドが気に食わず、ひとり反旗を翻す。海賊ギルドの船に出会っては撃墜していくコブラだが、その最中、交戦した船に乗っていたギルドの幹部、キャプテン・バイケンを取り逃がしてしまう。生き延びたバイケンはコブラを目の敵にし、それ以来全宇宙の海賊から追われる身となったコブラ……そこでトリップ・ムービーは終わり、上機嫌で帰路につくジョンソンは、夢で見たバイケンそっくりの人物に出くわすことになる。

画像は2019年に発売された画集「ARTWORKS OF COBRA」

 第1話のあらすじとしては以上だが、言うまでもなくジョンソンが夢に見たコブラは自分自身で、戦いばかりの毎日にうんざりした過去のコブラが、自身の顔と記憶を変えてジョンソンとして過ごしていたのだ。運悪くバイケンとトラブルになり、とっさに左腕のサイコガンを使ってしまったことで、ジョンソンは自身こそがコブラであったことを思い出していく。ギルドの回し者たちを始末した後、平凡な生活に飽き飽きしていた彼は、またコブラとして危険な世界へ舞い戻っていく。

 先に紹介した通り、コブラは宇宙海賊というアウトローな存在ではあるが、一般的なイメージや作中に登場するその他の海賊とは異なり、私利私欲のために残虐非道な行ないをすることを良しとしない。身にまとった軽薄極まりない雰囲気によって普段は鳴りを潜めているが、己の信条を曲げず、それを貫くために戦う男というのが彼の本質だ。マンガ「コブラ」の見どころは、そんなコブラというキャラクターの魅力を様々な角度から楽しめるところにある。

 「コブラ」が連載開始になった1978年は、その前年にSF映画の金字塔「スター・ウォーズ」シリーズの第1作目である「エピソード4/新たなる希望」が公開された(日本では1978年6月公開)タイミングであり、船ひとつで広大な宇宙を股にかけるスペース・オペラの機運が高まった。そんな世相もいち早く取り込んだ本作──寺沢氏は当時まだ珍しかったCGを用いた作画手法も取り入れるほど先見の明があったが、それはまた別の話──では、コブラの健在を知った海賊ギルドの面々や、彼の力を借りようと依頼を持ちかけてくる警察機構・銀河パトロールなどを軸に、実に多種多様な宇宙人や勢力との関わりが描かれる。

 そのなかで自身の信条を貫くことを第一とするコブラは基本的に逆境に立たされることになるのだが、それをウィットに富んだ軽口とともに、意にも介さず打破していく姿にシビれるのだ。

ハイセンスな言葉選びと“痩せ我慢”というスパイス、大人にこそ刺さるコブラの名言

 ここまで紹介してきた「コブラ」だが、単行本が幾度も再販売されたり、アニメ作品も「SPACE ADVENTURE コブラ」、「スペースコブラ」、「COBRA THE ANIMATION」と3度にわたって発表されるなど、非常に人気の高い作品となっている。

【[1-3話]スペースコブラ(1982)│寺沢武一の大人気コミック原作 アクションスペースオペラ│TMS60周年】

 それ故に本作を読んだことはないものの、作品の存在自体は知っているという人も多そうだが、それ以外にもコブラが発するシニカルでユーモアに富んだセリフがSNSなどを中心に話題になることがあるので、そこから作品を知ったという人も少なくないだろう。

 「腹をたてると何をするんだ? ウサギとワルツでも踊るのか」、「神か……最初に罪を考え出したつまらん男さ」など、コブラの軽口(=名言)はそのフレーズの良さからSNSなどでも度々話題になる。(一番有名なのはコブラとジェフというキャラクターのやり取り「夜が明けるとどうなる?」、「知らんのか」をモジッた構文だろうか。こちらのセリフを変えた投稿がSNSなどで散見される)どんな緊迫した状況でもキレッキレのジョークを一発かまして事に当たる、この作品を通して漂う飄々とした空気感がコブラというキャラクター最大の魅力であり、本作の代名詞的なファクターだ。

画像は4月に開催されたイベント「【『COBRA』連載開始45周年記念展~Memory of 寺沢武一~POP UP STORE in大宮」のもの。名言を集めたキーホルダーが発売された

 そんな作品を彩る名言の数々については枚挙にいとまがないが、筆者が特に好きなのはコブラが「運てものは力ずくで自分のほうへむかせるものさ」と持論を語った後、「その運てえやつに負けた時はどうするんだ」と返された際にウインクしながら発した「笑ってごまかすさあ!」というセリフ。自身の固い意志はありながらも、それに意固地にならない余裕があり、コブラというキャラクターを端的に表現している名台詞だと感じる。

 寺沢氏によるハイセンスな言葉選びはもちろん、コブラの軽口は逆境になればなるほど切れ味が増すような、“痩せ我慢”的なスタンス(その後キッチリと自身の力で状況を打破するので、厳密には痩せ我慢ではないのかも知れないが)が見え隠れするのがそのカッコよさを際立たせるスパイスになっている。このピリリと効く名言の数々は、思春期を過ぎた大人にこそ刺さるのではないだろうか。ジョンソンのように刺激に飢えた諸兄たちにこそ、読んでほしい作品だ。