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「仮面ライダーW」の後日談を描く異例のマンガ「風都探偵」が連載7周年。劇場アニメの公開も迫る本作の魅力を紐解く

【風都探偵】

2017年8月7日 連載開始

 脚本・三条陸氏、作画・佐藤まさき氏によるマンガ「風都探偵」が8月7日で連載開始から7周年を迎える。本作は2009年9月6日から2010年8月29日にかけてテレビ朝日系列で放送された特撮ドラマ「仮面ライダーW(ダブル)」の後日談を描いており、小学館の「ビッグコミックスピリッツ」にて隔週連載中。アニメやゲーム作品のアフターストーリーを展開しているマンガは数あれど、1年間テレビ放送された特撮ドラマのその後を描いているという点で、かなり特殊な出自の作品だ。

 今回は「仮面ライダーW」とのつながりや、マンガ版で生まれた変化。さらには、アニメ映画の公開が11月に決定するなどマンガ以外の多彩な展開についても交えつつ紹介する。

【風都探偵 第01話(プレビュー版)[公式]】

異例のマンガ作品を成立させた「仮面ライダーW」の人気

 「風都探偵」の説明の前に、まずは前日譚にあたる「仮面ライダーW」の概要について説明する。

 風都という街を舞台に、直情型で人情に厚い“ハーフボイルド”(ハードボイルド=固茹でタマゴから逆算して半人前の意)な私立探偵・左翔太郎と、その助手であり“地球(ほし)の本棚”と呼ばれる、地球に刻まれた情報のデータベースにアクセスできる能力を持った少年・フィリップの2人を主人公にしたバディものである「仮面ライダーW」。変身時にアイテムの力によって“二心同体”となるシリーズ初のユニークな設定や、2話完結型のスタイルで展開されるSF要素を盛り込んだ探偵ドラマの完成度、視聴者を物語へ惹き込む出演俳優陣の高い演技力などが高い評価を得た。本作での活躍が多くの特撮ファンの目に留まり、左翔太郎役の桐山漣さん・フィリップ役の菅田将暉さんそれぞれの出世作にもなっている。

テレビ朝日にて放送された特撮ドラマ版では左翔太郎役を桐山漣さん(右)、フィリップ役を菅田将暉さん(左)が演じた

 本記事の主役となる「風都探偵」は「仮面ライダーW」として一度は完結した物語の続きを描いており、翔太郎が記憶を失った謎の美女・ときめと出会うところから始まる。元々の設定として「仮面ライダーW」では敵役となる怪人をまとめ上げている組織はなく、様々な“地球の記憶”を収めたUSBメモリ型のアイテム・ガイアメモリがドラッグのように街に流通していて、それを悪用する個々人が起こす事件に立ち向かうストーリーが基本となっている。

 本作の脚本を担当している三条陸氏は「仮面ライダーW」のメイン脚本を務めた人物であり、同作チーフプロデューサーだった東映の塚田英明氏が監修に入っているという座組みで、パラレル展開ではなくドラマの正統続編として連載されている。

 TV放送された仮面ライダーのその後を描いている点など、他に類を見ないルーツを持つ本作だが、冒頭でも触れた通り連載7周年を迎えるほどファンから支持されている。その源となっているのは「仮面ライダーW」の人気の高さにある。

 ドラマ終了後も持続性がある世界観となっているのだが、翔太郎たちは前述のときめとの出会いによって、異空間・裏風都の存在と、そこを拠点として暗躍する人物たちがいることを知る。「風都探偵」で展開されるのは、その新たな敵・ハイドープたちとの戦いだ。

本編完結後も成長するキャラクターとリンクする新フォーム

 さて、「風都探偵」のあらましを紹介したところで、実写作品である「仮面ライダーW」からマンガへと媒体が変わったことで生まれた変化について言及したい。

 そもそもの話として、マンガになることでキャラクターを演じる俳優のスケジュールに左右されず継続的に作品が展開できるという大きな利点がまずあるのだが、ほかにも媒体を変えたことで表現の幅が広がった点がある。ご存知の通り、お茶の間の子どもたちに向けた“ニチアサ”というくくりの仮面ライダーでは、人体の欠損や殺人的な表現はご法度となっている。「風都探偵」では、第1話エピソードから怪人(ドーパント)の餌食になった被害者が腕のみになった状態で描写されるなど、実写では描くことができなかった部分にあえて触れることで、読者の注意を引きつけるような工夫が施されている。

 仮面ライダーシリーズにおけるこの手の過激な描写は、古くは「真・仮面ライダー 序章」から、Amazonプライムビデオのオリジナル作品「仮面ライダーBLACK SUN」、PG12指定の映画「シン・仮面ライダー」などに見られ、いずれもハードな世界観を演出するための要素となっている。個人的には、TV放送当時、画面に張りついて「仮面ライダーW」に夢中になっていたあの頃の子どもたちに向けて、新たな物語を提供するという制作サイドの意図を感じる部分だ。

 ほかにも「風都探偵」では、探偵モノでは定番なセクシーな女性の登場、また怪人のスーツを用意しなくてもよくなったため、怪人のデザイン(「仮面ライダーW」と同じく、寺田克也氏がクリーチャーデザインとして参加している)もより自由度が高いものとなっている。

 前段の内容を受けて、「風都探偵」という作品の最大のポイントは「仮面ライダーW」の媒体を変えた焼き直しではなく、実写ドラマで描かれた内容のその後を描くことについて、制作サイドが全力を注ぎ描いている点にある。様々な困難を乗り越え、強固な絆で結ばれた翔太郎とフィリップをはじめとするキャラクターたちの関係性はもちろん、翔太郎が使うジョーカーメモリの真の特性などドラマだけでは説明しきれなかった設定を折に触れて公開していることや、最強フォームであるサイクロンジョーカーエクストリームでも圧倒することができない新たな敵の登場など、「ファンがもっと見たかったもの」を見せることに余念がない。

 内容的なターニングポイントとしては、特撮作品では登場しなかった仮面ライダーの新フォームがお披露目された際には、ファンの間で大きな話題となった。成長し続けるキャラクターの姿を、新フォームとして視覚的に見せることができる点は実写でもマンガでも変わらないヒーローものの醍醐味だ。

 余談だが、「風都探偵」に登場した新フォームは公式からフィギュアやプラモデルといった商品化がされていない。しかし、基本的には既存品のカラーリングを変更するだけでそれっぽく再現することができるため、SNSなどでファンの手による力作写真が投稿されている。また同じく仮面ライダーWのいちファンである筆者としては、本作でサイクロンジョーカーエクストリームを超える新たなフォームの登場などは期待せざるを得ない。

こちらは作画を担当する佐藤まさき氏が公開したファングトリガーの姿を描いたイラスト。特撮ドラマ版では未登場のフォームになっている

実写からマンガ、マンガからアニメへ……多彩なメディアミックスという名の“フォームチェンジ”

 マンガ以外に目を向けると、実写作品のメディアミックスとして誕生した「風都探偵」だが、2022年には全12話でアニメ化がされている。さらにその放送中には「風都探偵 The STAGE」というタイトルで舞台化もしており、「仮面ライダーW」で翔太郎のライバル的な存在・園咲霧彦役を演じた君沢ユウキさんが敵の首魁である万灯雪侍役として出演したことや、実写作品から引き続き刃野幹夫役としてオリジナルキャストのなだぎ武さんが参加するといったファンサービス的なキャスティングが行なわれた。

 さらに2024年11月8日からは、翔太郎が“おやっさん”と呼び慕った故人・鳴海荘吉を主役としたエピソード「仮面ライダースカルの肖像」が劇場アニメとして公開が決定するなど、まだまだ盛り上がりを見せている。本作を未読の「仮面ライダーW」ファンはもちろん、完全初見の方にもぜひ読んでいただきたい作品だ。

【【特報】劇場版「風都探偵 仮面ライダースカルの肖像」11月8日(金)より期間限定上映!】
「仮面ライダースカルの肖像」は期間限定上映が決定した
Prime Videoで視聴