特別企画
タテ読みマンガ「Webtoon」がマンガ界にもたらす影響とは?
Webtoonスタジオと出版社の本格進出でマンガ市場は拡大へ
2024年2月19日 00:00
タテ読みマンガ・Webtoonとは、スマートフォンに最適化された縦にスクロールして読むフルカラーマンガだ。web(ウェブ)とcartoon(漫画)を合わせた造語で、韓国で爆発的にヒットしたウェブコミックである。スマホで縦スクロールしていくだけで読めるため、読む人を選ばず、海外でも注目と人気を集めている。
そこで本稿では、世界中で注目されるこの「Webtoon」がマンガ界にどのような影響をもたらすのか、考察していきたい。
Webtoonは一般名称だが、NAVER社(韓国)が「WEBTOON」を商標登録していることもあり、日本ではSMARTOON®︎(ピッコマ)、GIGATOON(DMMブックス)、Fliptoon(Amazon)といった各社独自の名称で展開されている。
2023年は日本発Webtoonが数多く誕生した「国産Webtoon元年」
日本では2018年頃から韓国の人気Webtoonを翻訳して配信を開始した。韓国Webtoonを代表する漫画家であるT.Jun(パク・テジュン)氏による「外見至上主義」や、1月よりアニメ化されている「俺レベ」こと「俺だけレベルアップな件」など、現在までに多くの韓国発の超人気作が誕生している。
一方、日本国内で制作される国産Webtoonも爆発的に数を増やし、昨年2023年は「国産Webtoon元年」と言われるほどに日本発のWebtoon作品が数多く誕生した。
「悪役皇女はバッドエンドを許さない」/STUDIO MIXER
2023年8月連載開始。実写ドラマ化もされた「サレタガワのブルー」で知られるミキサーの「STUDIO MIXER」が制作を手掛ける人気作。
「せっかく令嬢に憑依したのにすでにやらかした後でした!」/booklistaSTUDIO
2023年12月連載開始。ブックリスタのコンテンツ制作スタジオ「booklistaSTUDIO」によるアニメ化作家を原作に起用した話題作。
分業制を導入した「Webtoon制作スタジオ」の参入
国産Webtoon作品が増加した背景には、出版社ではない、Webtoon専門制作スタジオの参入によるところが大きい。
Webtoonの制作方法は、従来の制作スタイルとは異なり、「スタジオ制」が導入されている。スタジオ制とは、「原作」(シナリオ)、「ネーム」、「作画」、「着色」、「仕上げ」(演出)、これら工程を管理する「ディレクション」といった、工程別に分業化した制作方法だ。
従来のマンガ制作のように漫画家一人がほぼすべての工程を担うのではなく、工程を分業化して制作するため、出版社でなくともマンガ制作に参入しやすい。現在までで、電子書店が自社オリジナルのマンガを制作したり、アニメ制作スタジオと同様にWebtoon制作スタジオなどが登場している。
LINEマンガを運営するLINE Digital Frontierも、昨年2023年12月、Webtoon制作スタジオ「LINE MANGA WEBTOON STUDIO」を立ち上げ、(1)企画・脚本、(2)ネーム、(3)人物作画、(4)人物着彩、(5)背景、(6)仕上げ、の6職種においてクリエイターの募集を開始した。
分業によって作業が効率化され、作家一人に依存することなく、クオリティを保ちながらスピーディーに制作することで、作品の安定供給を可能にした。例えば、第一話の作画中に、第二話の脚本に着手できるといったように、各工程の作業が同時進行で進められるのだ。
さらに、分業制はクリエイターの活躍の場を広げる一役も買っている。
漫画家が全工程を一人で担うことを期待される一方で、実際には、絵は得意だがネームを切るのは苦手だったり、物語はつくれるが絵を描くのは不得意、などといった得意分野や苦手工程があるクリエイターが多いという。そういったクリエイターたちが分業制によって各自の得意なスキルを活かし、作品作りにかかわるようになっている。Webtoonはクリエイターのチャンスの幅も広げているのだ。
タテスクロール表現の魅力と課題
タテスクロールでのみ読み進めるWebtoonは、「タテスクロール」を最大限に活かしたテンポやリズム=「読み味」、フルカラーであることも含めた「演出」が独特の魅力である。以下で紹介する「入学傭兵」(LINEマンガ)などは、通路を奥へ奥へと進むスピード感と緊迫感がタテスクロールならではの演出で表現されている。
一方で、タテスクロールのために表現が制限されることもある。コマ割りマンガを読む際、コマの配置の通りに目線は「横」にも、ページが変わる際には「上」にもいくだろう。しかしWebtoonはひたすら「下」に読み進めていく。つまり、登場人物が上を見上げるような目線の動きだったり、読者の目線が次のコマで上にあがるような場合、たとえばバスケのシュートシーンなどはWebtoonでは表現が難しいのだという。
夏目義徳氏によるコマ割りのバスケットボール漫画。人一倍負けん気が強く、トラッシュトーク(悪口)が止まらない中学生バスケプレイヤー・嵐矢平人。 幼馴染のチームメイト・秋信優は、そんな平人と一緒に名門・黄金山高校に進み、全国大会に出場することを夢見ていた。しかし優だけが黄金山高校にスカウトされたことで二人の仲は決裂してしまう。 平人は打倒・黄金山を胸に、波南高校に進学。すべてが“並”の波高では、平人の望みは無謀かに思われたが……。
現在連載されているWebtoon作品は「異世界転生」や「西洋風恋愛ファンタジー」がほとんどで、Webtoonでのスポーツマンガのヒットは難しいとも聞く。こういったタテスクロールゆえの表現の難しさも要因のひとつかもしれない。
しかし、国産Webtoon元年を迎え、多くのWebtoon作品が誕生している今、作品の数だけ新しい表現方法も生まれている。今後はさらに新たな表現の誕生とともに、新ジャンルへのチャレンジにも期待したい。
コマ割りマンガ vs. Webtoonではない
現在、Webtoonは電子コミック市場全体の約1割の規模まで成長している。この1割とは、コマ割りマンガの市場を1割分浸食した結果ではなく、市場を1割分伸長させての結果である。新たな形態が登場すると、既存の形態の市場が奪われると懸念されがちだが、そんなことはない。Webtoonの登場は若年層を中心にコマ割りマンガを読まない層を呼び込み、電子コミック市場を伸長させているのだ。
電子コミックの市場が広がりはじめた頃を思い出してもらいたい。電子コミックの登場は、紙のコミック市場の一部を奪うと懸念されたが、結果としてコミック全体の市場を伸ばしたのである。
これと同様の状況で、Webtoonは新たな読者層を呼び込み、コミック市場を活性化し、市場を拡大している。今後はWebtoonの読者層がコマ割りマンガの読者になる可能性も考えられるだろう。
Webtoonは新しいマンガの形態であり、マンガの敵ではない。間もなくマンガの一形態として定着し、例えば「4コママンガ」のようにマンガのジャンルとして確立していくだろう。
出版社の新たな収益モデルとなるか
このようなWebtoon市場の拡大を鑑み、KADOKAWAや秋田書店、コアミックスなどの出版社がWebtoon制作をはじめている。なかでも注目は、大手マンガ出版社の集英社だ。Webtoon専門の編集部を立ち上げ「ジャンプTOON」を開始するという。大手出版社が参入することによって、さらなる作品の充実と市場の活性化が期待される。
さらに、Webtoonが出版社の新たな収益モデルとなり得るかにも注目だ。
従来、出版社の収益モデルは、マンガ雑誌で連載し、その後コミックス化することで制作コストを回収し、利益を得るという形である。雑誌の売上もあるものの、最大の収益源はコミックスの売上だ。
しかしWebtoonの場合、基本的にコミックス化は困難である。フルカラーな上、タテ読み形態のまま巻物のようなコミックスを出版するわけにもいかないため、コミックス化するにはコマ割りマンガに組み直す必要がある。これには大変な労力とコストがかかる。そのため、大きなコミックスの売上が期待できない作品ではコミックス化は現実的ではない。
逆も同様で、コマの目線の動きを前提に作られたコマ割りマンガは、単にタテにコマを並べても不自然で読みづらいため、Webtoon用に制作し直す必要があるという。これにチャレンジしているのが、累計発行部数1,500万部突破の人気作「終末のワルキューレ」だ。全コマWebtoon用に描き下ろしフルカラー・フルリメイクした「終末のワルキューレ 総天然色」を2023年10月より配信開始した。ストーリーそのものに加えて、Webtoonでの配信により、海外での人気獲得が期待される。
Webtoonは、コミックスでの収益は難しい一方で、連載時点で世界中に配信できるというメリットがある。この海外配信での収益を見込んだ、従来の単行本化の収益モデルとは異なるビジネスモデルが生まれる可能性がある。出版社のWebtoon動向に要注目だ。
一方で、ピクシブ・KADOKAWA・LOCKER ROOMが協業で創刊した、Webtoonを中心としたマンガレーベル「Pikalo」では、連載作品のすべてを電子コミック化・書籍化すると発表している。この展開も大いに注視する必要がある。労力とコストに見合うのか、それともさほど手間をかけずにコミックス化を可能にするのか、その行方に注目したい。
今年2024年、マンガの新ジャンル「Webtoon」がマンガ界にさらなるインパクトを与えることは間違いないだろう。Webtoon作品の成長はもちろん、Webtoonを取り巻く状況にもぜひ注目していただきたい。
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