レビュー
激しくぶつかり合う乳と尻!少女たちが繰り出す技にただひたすらに笑いと元気がもらえる「競女!!!!!!!!」
2025年4月2日 00:00
- 2013年~2017年 週刊少年サンデーにて連載(小学館)
- 既刊:18巻(完結)
- 著者:空詠大智
2013年、週刊少年サンデーでとんでもない漫画の連載が始まった。空詠大智氏の描く「競女!!!!!!!!」である。この漫画は2013年~2017年の4年間に渡って連載され、途中アニメ化もされた作品であるが、“競女”という架空のスポーツを扱ったその設定がとにかく奇抜で、バカバカしく、そしてどうしようもないほどにおかしいのだ。新しい年度を迎える今、これからの1年を明るくするためにこの漫画をぜひ知ってもらいたい
ふざけた言葉を真顔で語る姿。そのギャップがおかしくてたまらない
「競女!!!!!!!!」は、競艇や競輪、競馬と同じく公営ギャンブルとして「競女」というものがある世界の物語だ。競女とは、プールの上に浮かんだ様々な形態の「ランド」の上で水着姿の女性たちが互いの胸と尻をぶつけ合い、相手をプールに落としたら勝ちというスポーツである。やっていることはいわゆる尻相撲なのであるが、派手な立ち回りと多彩な技の数々は見ている観客を熱狂させるほどで、選手は時に負傷したり事故による死者が出たりするほどの過酷なものである。
主人公の神無のぞみは体操の有力選手として期待されている高校3年生の女の子だ。有名なコーチのいる大学から推薦もきて、オリンピックに出る可能性もあるほどであったが、のぞみはその道を選ばず、競女選手として生きていくことを決める。何故なら彼女の家はトイレが壊れても自力で直さなければならないほどに貧しいからだ。
体操選手として活躍するには費用がかかる。そのわりにオリンピックで金メダルをとっても300万、アジアの大会で優勝しても10万円しか手に入らない。けれど競女選手として活躍し、賞金女王になれば裕福な生活が待っている。のぞみとその弟妹たちは、そんな生活を夢見ていた。
そんなのぞみを中心に、競女になる為の瀬戸内競女養成学校への入学試験(1巻~4巻)、養成学校での日々(4巻~10巻)、そしてプロになってから活躍(10巻~18巻)の様子が18巻に渡って描かれているのだが、その中で最初にツッコミを入れたくなってしまうのは、あまりにバカらしかったり通常では口にしないようなことを真面目に、真剣に行なったり語ったりしていることだろう。
空詠氏の前作「揉み払い師」も、クールなキャラデザインの無口な主人公が妹と共に邪霊を払っていくという退魔ものであったが、その払う方法が胸を揉むという突飛なもので、主人公が真顔のまま淡々と、邪霊を払う以外の意図を持たずに女性たちの胸を揉む姿のギャップが面白い作品であった。「競女!!!!!!!!」では、そのギャップから引き出されるおかしさが何倍にも増幅されている。
例えば、入学試験にも出題され、養成学校でも日常の訓練として取り入れられている「尻8の字」。これは尻付近の筋肉と操作性の為に言葉の通り臀部を突き出して8の字を描くように動かすトレーニングであるが、その絵面からしておかしいのに誰も笑うことなく懸命に尻を振り続ける。
ほかにも訓練で尻パンチング・尻ウォーキング・競女式タイヤ転がし、座学で尻学・胸学と冗談のような科目もあるが、本人たちは至極真面目だ。また、実際の競女のレース場では「尻展示」という競馬でいうところのパドックのようなものがあるが、そこでも観客たちは真剣に胸の張りや尻の引き締まり具合をチェックしている。
そして「尻知をらずして勝利なし」や「尻の限りを尽くすのです」「乳首、立たざる者、選手にあらず」「名尻、危うきに近寄らず」「怒れる者、尻乱れり」等の名言が真顔で格言として語られる。こんな場面が出てくる度に、読んでいて思わずそんなバカな!とツッコミを入れてしまう。
「競女!!!!!!!!」はアニメ化もしているが、このおかしさはアニメスタッフもわかっているようで、「競女を科学的側面から分析する」というタイトルで、女性アナウンサーと大学教授が作中の技「真空烈尻」がどのような原理で音速を超えてソニックブームを引き起こすのかを真面目に解説する動画が作られてしまうほどだ。
「尻キャノン砲」に「真空烈尻」!笑わずにはいられない技の数々
そしてこの漫画のおかしさが本領を発揮するのは、養成学校以降、実際にレースが行なわれるようになってから出てくる各選手の技の数々だろう。とにかくひとつひとつの技がおかしいのだが、名前にしても最初は「尻キャノン砲」や「尻ギロチン」、「旋風尻」といったシンプルなもの。
後半になるにつれて強烈な回転とひねりでかまいたちを発生させる「真空烈尻」や尻で相手の急所を突き相手を快感に導く「天国直行尻急所(ヘヴンズ・ヒップ・スポット)」、自我を捨て、すべてを尻に委ねることによって、 尻が敵に向かい自動追尾するようになる 「超尻覚醒(シリミットブレイク)」、軽やかに回転しながら尻技を繰り出す「回転敵兎尻打(スピニング ラビット ヒップ)」、相手の攻撃を乳で挟んで受け止める「真乳白刃取り」、空中からのヒップアタックで、くらった者は尻星が見えるらしい「流星残輝尻(りゅうせいざんこうけつ)」、尻に吸収した衝撃を一気に解き放つ「残光宝影尻(ざんこうほうえいけつ)」、尻が鋼のように固くなる「金剛尻」など、一体どうやったら思いつくのかというものになっていく。
また、名前だけではない。その技の理屈もツッコミどころ満載だ。のぞみの親友・宮田さやかの技「K-acceleration」のKは食い込ませの意味で、水着を食い込ませ肌の露出面を大きくすることで股関節の可動域を滑らかにし、スピードをアップさせるという原理の技である。他にも乳首で相手の秘孔を突くことによって、 その相手を超回復&アドレナリンを大量分泌させて運動機能を 活性化させる「乳秘孔」。そして乳首を限界まで捻り、それを解き放つことによりその反発力でドリルのような攻撃をしてくる胸技「パイ・パイル・パイパー」と、これも枚挙にいとまがない。そんな理屈を見る度に、そんなバカな!と言いながら笑ってしまう。
さらに、パロディ技もあちこちに見られる。「尻散泥(しりさんでー)」は明らかに掲載誌をもじっているし、「斬尻剣」や「デンプ尻ロール」はきっとあの漫画から来ているのかな……と想像できるし(ちなみに空詠氏曰く宮田さやかの名前は「はじめの一歩」からとっているそうである)、「進撃の巨尻」や「尻の財宝(ヒップ・オブ・バビロン)」「加護を得た尻の槍(ネイト・ケツ・ボルグ)」に至っては、オタク文化に造詣が深ければ絶対と言えるほど見覚えのある光景である。加えてプロになってからの姉妹(スール)制度は乙女の嗜みのあの少女小説を思い起こさせる。
筆者は特に某英雄王の必殺技を彷彿とさせる「尻の財宝(ヒップ・オブ・バビロン)」の光景を見た瞬間涙が出るほど爆笑したと同時に、これが原因で連載が打ち切りになったらどうしようと不安になったほどだ。ちなみに「尻の財宝」は、触っただけでその情報を自分のものに出来る「知りつくす右手(スキャニング・ハンド)」の持ち主青葉風音が、同じ瀬戸内校40人分の尻を触ったことによりいつでも40人分の技を好きに使用することができるという技である。
レースがひとつ行なわれ、新しいキャラクターが出てくる度に登場する技が増えることから、空詠氏はきっと毎回悩みに悩んで技を生み出しているのだと思っていたが、アニメ化の際の監督・高橋秀弥氏との対談によれば技のアイデアはメモ用紙にストックしてあり、いつでも出せる状態にしてあるのだという。常人では思いつかないような技をストックするほど思いつける空詠氏は、まさに鬼才と呼ぶに値する漫画家であると思う。
物語の本質はお色気でもギャグでもない、熱い友情と熱血スポ根!
ここまで競女の内容と、どれだけ笑えるマンガかを語ってきたが、本作の面白さの本質はあくまで友情を軸としたスポーツ漫画だということは強調しておきたい。水着を着た女性たちが水上で激しく胸と尻をぶつけ合い、時には水着が破けたり肌が露出したりもするが、決してこの作品はエロマンガではない。そして散々笑いっぱなしにはなるが、決してギャグ一辺倒のマンガでもない。
本作はあくまでも競女のプロを目指す少女たちが互いに切磋琢磨しながら鍛錬を重ね、技を磨いていく熱血スポ根漫画なのである。だからこそこの漫画はただ笑えるだけではなく、心を熱くさせ、時には涙させる感動を我々読者に与え、そして自信を持って人に薦めることができる作品となっている。
正直、この作品は入学試験編を飛ばして養成学校編からアニメ化されているように、劇的に面白くなるのは養成学校編からであると言っていい。とはいえ入学試験編は柔道から競女へ転身を決意したさやかの経緯と苦悩、そしてのぞみとの友情が生まれていく様子が丁寧に描かれており、アニメしか知らない人たちにもぜひ最初から読んでもらいたい。この土台があってこそ、養成学校編・プロ編での2人の親しいけれど決して馴れ合わず、時には敵として戦いながらも決して絆は壊れない、そんな関係に納得がいくことだろう。
そして養成学校で出会った同期生たちとの関係性もいい。最初は同じ養成学校の中での順位を争うライバル同士であるが、それが最後は仲間となりかけがえのない存在となっていく。プロとしてバラバラの支部に所属することになっても互いの活躍を聞いては喜び、奮起し、再会すれば喜び助け合う。そんな彼女たちを見ていると心が温かくなる。そしてプロとして活躍していくと共にのぞみとさやかはトラウマ・挫折・故障等の困難と、そしてそれらを乗り越えていく競女への熱い想いに出会っていくが、このスポーツ漫画の王道と言える流れがまたいいのだ。
読んでいていつの間にか「競女!!!!!!!!」の世界に夢中になってしまうのだが、その現象は日本だけに留まらないようだ。世界各国で放映された「競女!!!!!!!!」のアニメは、特にヨーロッパで人気を博したようで、なんとポルトガルのスポーツ団体から空詠氏の元に「競女を本当のスポーツ競技にしないか?」という話がきていた(空知氏のブログより)というから驚きだ。
そして実際、ポルトガルの女性たちが競女を行なっている動画をいくつかYouTubeで見ることが出来るが、彼女たちは実に楽しそうにプールの上や砂浜で競女に勤しんでいる。
このように、多くの人を魅了し、夢中にさせる「競女!!!!!!!!」は読んでいてとても明るい気持ちになれる漫画である。何かへこむことがあって、何も考えず頭を空っぽにしてただひたすら笑いたい時に私はこの作品を手に取ることが多い。そしてあまりの内容にひとしきり笑っていると、心が軽くなり元気になれる。
もし何か落ち込んだり嫌なことがあったなら、この「競女!!!!!!!!」を読んで欲しい。きっと明るく前向きな気分になれるだろう。
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