レビュー

完結直前! 「MFゴースト」レビュー

骨太のレースに、群像劇、謎解き、女の子としげの氏の“描きたい”を詰め込んだ作品

【MFゴースト】

週刊ヤングマガジンにて連載中

2月17日 完結

著者:しげの秀一

「MFゴースト」1巻

 マンガ「MFゴースト」がいよいよ完結となる。アニメも好評で3rd Seasonの製作が決定、アオシマのプラモデルや京商のRCカーなど関連商品も続々発売され盛り上がるこの機会に、講談社の週刊ヤングマガジンにて連載されてきた「MFゴースト」の魅力を語りたい。

 「MFゴースト」は大人気となった「頭文字D(イニシャルD)」と世界観を共通した作品で、日本の公道を舞台としたレースが描かれる。主人公・片桐夏向(かたぎりかなた、英名:カナタ・リヴィントン)は「頭文字D」の主人公・藤原拓海(ふじわらたくみ)の弟子であり、拓海以外にもたくさんの「頭文字D」のキャラクターが登場する。

 「MFゴースト」はカナタ以外のドライバーにもスポットが当てられ“群像劇”の要素が強い。またレースのショーとしての会場を彩る“MFGエンジェルス”の存在など、作者であるしげの秀一氏が楽しそうに、のびのびと描いている雰囲気も大きな魅力だ。しげの秀一が手掛ける「MFゴースト」はどんな作品なのか、紹介していきたい。

「MFゴースト」は2月17日に最終回を迎えることが決定し、現在ラストに向かって進んでいる
【TVアニメ『MFゴースト 』第三弾PV |2023年TVアニメ放送開始!】

多数のスーパーカーが参戦する公道レースに、天才ドライバー・カナタが挑む!

 「MFゴースト」は202X年という“近未来”を舞台としている。時代設定は現代に近いのだが、この世界では自動運転機能を備えたEV(電気自動車)とFCV(燃料電池自動車)に地上のモータリゼーションは占拠され、内燃機関を動力とする自動車の生産は中止となっており、エンジン車は絶滅危惧種となっている。

 そんな世界でエンジン車によるモータースポーツが日本で生まれた。その名を「MFG(エムエフジー)」。MFGは公道をクローズドレース場にし、数日の予選の後上位15台によるレースが行なわれる。1位の賞金は1億円という大きな賞金を手に入れることができる。出走者には自動制御のドローンが追随し迫力の中継を行なう形でレースの模様が全世界に配信され、「MFG」は契約視聴者数3,000万人というビックコンテンツになっていた。

 「時には整備不十分な公道を高速で走る」という前提と、車の重量に応じてタイヤのトレッド幅を規定するという「グリップウエイトレシオ」というレギュレーションにより、これまではポルシェやフェラーリ、ランボルギーニといったヨーロッパ製のスーパーカーを駆る優れたドライバーが上位を占め、「リッチマンズレギュレーション」と揶揄される一面もあった。予選では300台以上の出場者が参加するが、高級車がクラッシュするのを楽しみにする視聴者もいる。

主人公の片桐夏向、英名はカナタ・リヴィントン。行方不明になった父を探すため、父方の姓・片桐を名乗りMFGに参戦する

 このMFGにイギリスから来た1人の青年が参加する。彼の名は片桐夏向。カナタはイギリスの名門レーシングスクール「ロイヤルドニントンパークレーシングスクール(RDRS)」を首席で卒業した輝かしい経歴を持つが、イギリス人の母を亡くしてからスランプに陥っていた。彼は突然家庭を捨て行方不明になった日本人の父を探しに日本にやってきた。MFGに参加し、自分の存在をアピールすることで父の手がかりを探そうとしているのだ。

 彼をバックアップするために紹介されたのが自動車整備工場「緒方自動車」を経営する緒方。元走り屋の彼は自分がMFGに出場した際に乗った「トヨタ86」をカナタに提供する。カナタの日本での居候先は父母の友人であった西園寺家。西園寺家の1人娘・西園寺恋(れん)はカナタに一目惚れする。2人の距離は近づいていくものの、恋は自分がMFGのレースクィーン・MFGエンジェルスをやっていることを告白できない。

ヒロイン・西園寺恋はアルバイトでMFGエンジェルの"ナンバー7"をやっているが、濃いメイクなためカナタは彼女が恋であることに気がつかない

 「MFゴースト」の最大の魅力は“公道レースマンガ”としての面白さだ。”リッチマンズレギュレーション”と呼ばれるこれまでのMFGではパワーとバランスを兼ね備えた車が強かった。「フェラーリ・488GTB」、「ポルシェ・911 GT3」、「アウディ・R8 クーペ V10 Plus」、「ランボルギーニ・ウラカン LP610-4」などなど超高級のスーパーカーたちが上位で競っているのである。

 カナタの乗る「トヨタ86」はバランスのいいスポーツカーだが、スーパーカーと比べれば排気量はずっと小さい“非力なマシン”だ。しかしカナタは参加第一戦の「小田原パイクスピーク」で本戦出場の上位15位、「神フィフティーン」入りを果たす。記録は16位だったが、1台のレギュレーション違反が発覚したための滑り込みの入賞だった。

 しかしその予選の走りがMFGでの注目を集める。予選、本選での走行はAIの判定による「注目フラグ」と呼ばれる独自のシステムが用いられており、カナタの走りにそのAIが反応したのだ。予選の初参加のドライバーに注目フラグが立つことはほとんど例がないことだった。カナタは“下り坂”で神がかったドライビングテクニックを発揮し、他のパワーに勝る車を抜き去るスピードをたたき出す。その走りが非力な86で予選通過を果たしたのだ。

 このテクニックこそ「伝説のダウンヒラー」と呼ばれた藤原拓海直伝のものであった。拓海は「頭文字D」の戦いの後単身イギリスに渡りラリーでその頭角を現した。しかし彼はマシンテストのトラブルで大けがを負い、引退せざるを得なくなってしまう。「悲運のラリースト」として表舞台から去った拓海だったが、カナタのドライビングスクールRDRSの講師として活躍しており、カナタは正規の授業だけでなく、休日にラリーのテクニックまで学んでいたのだ。その“藤原拓海のDNA”が、カナタの優れた才能をさらに磨き上げていたのである。

ライバルのスーパーカーに比べカナタの「86」は非力なマシンだが、カナタの天才的なドライビングテクニックでその存在感を増していく(コマの画像は公式Xより)
特に優れているのがラリーストばりのドリフトテクニック。「伝説のダウンヒラー」と呼ばれた藤原拓海直伝のものだ

 優れたテクニックに加え、車の操作可能なバランスのギリギリまで攻める強い精神力、チャンスには理性を超え飛び込んでいく野性的な勘の良さ、そういったレースドライバーの高い資質をカナタは持っている。加えてカナタには常人離れした“記憶力”があった。一度見た映像をそのまま記憶できるのだ。「小田原パイクスピーク」の本戦では視界が全く効かない霧が立ちこめる「デスエリア」を”コースの記憶”だけでトップスピードで走り、ライバル達をごぼう抜き、驚きの9位入賞を果たす。

 「非力な86で、スーパーカー達に挑み、勝つ」というのが「MFゴースト」の大きな面白さだ。まともに直線を走ればあっという間に抜かれるパワー差を、コーナーで抜いていく。カナタのレーサーとしての資質と、常識離れのテクニック、それは「頭文字D」で非力で古い「トヨタAE86」で性能の優れたライバル社達を抜き去っていった藤原拓海を彷彿とさせる。

 そしてこの第一戦の活躍でカナタに心強い味方がつく。「足の魔術師」とも呼ばれているチューニングのスペシャリスト奥山広也によってトヨタ86はパワーアップしていく。その方法も徹底した足回りの強化という、単純なパワーではない強化方法なのが面白い。

 カナタの常識離れの活躍にはMFGの主催者リョウ・タカハシによる、謎めいたMFGのレギュレーションに大きく関わってくる。パワーでコースを攻略するという従来の戦い方は、実はMFGの攻略法として間違っているのだ。MFGは「頭文字D」でも触れられた「公道最速理論」に基づいたレギュレーションが仕掛けられており、この謎の正解を探るという要素も「MFゴースト」の面白さである。カナタはこの正解に近づきながらMFGで大きな存在感を示していく。

「足の魔術師」とも呼ばれているチューニングのスペシャリスト奥山広也は、「頭文字D」でも登場したキャラクターだ
奥山により86はレースごとにパワーアップしていくが、エンジンよりも足回りやエアロパーツの強化など、カナタのテクニックを活かす方向で進められていく

天才サイボーグにカミカゼヤンキー、ドライバー達の群像劇も魅力

 「トヨタ86のパワーアップと片桐カナタのレースドライバーとしての覚醒」が最大のポイントである「MFゴースト」だが、しげの氏はほかにも様々な魅力をこの作品に盛り込んでいる。「頭文字D」になかった要素として他のドライバーの成長を描く「群像劇」としての側面が強くなっているのだ。神フィフティーンはその実力とパワーのあるマシンでメンバーが半ば固定されており、愛車と共にその個性を読者にしっかり記憶させる。彼らも様々な葛藤を抱えて戦いを繰り広げていく。

 「ミハイル・ベッケンバウアー」はレース参戦2年目、白いポルシェ・718ケイマンSを操る天才ドライバーで、前年までトップを走っていた「石神風神」をロートルと軽蔑し、第一戦である小田原パイクスピークでの一位を皮切りに、不動の一位に居座り、巨大な壁としてカナタの前を走り続ける。その走りは「サイボーグ」と呼ばれるほど冷静で計算高く、勝負のための危険を冒さないものだった。しかし彼の高いプライドにライバル達がひびを入れ始める。

天才ドライバー・ミハイル・ベッケンバウアー。サイボーグとも評される冷静なレースを展開するドライバーだったが、カナタや沢渡からのプレッシャーに絶対王者と言われた地位を脅かされる
沢渡光輝は17歳の彼女への金を稼ぐためにレースに参加していたが、ライバル達に刺激され闘争心と、ドライバーとしての真の実力をむき出しにしていく

 第2戦から存在感を示していくのが「沢渡光輝」だ。マリンブルーのアルピーヌ・A110を駆るドライバーで、17歳の女の子しか相手にしない「セブンティーンコンプレックス」を持ち、女の子のためにレースの賞金を稼ぐ男だが、カナタとベッケンバウアーへの敵愾心がその才能を開花させていく。勝利に対して貪欲になり、上位に食い込む存在となる。

 GTRのドライバー「相葉瞬」は“カミカゼヤンキー”としてそのキャラクターがファンにも愛される存在だが、アグレッシブな性格でコーナーを攻めすぎるため、後半戦ではタイヤが消耗し上位に食い込めないところがあった。しかしカナタを意識し研究することで成績を上げていく。“兄貴分”としてカナタに助言や日本の食文化の紹介もする気持ちのいい男でもある。

カミカゼヤンキー・相葉瞬。その積極的な姿勢は、後半でグリップ力を失うような稚拙さがあったが、カナタを研究することでグリップウェイトレシオの謎に迫っていく。カナタの先輩として、気持ちのいい男である

 「MFゴースト」ではカナタだけでなく多くのドライバーにスポットが当てられる。新進ドライバーの台頭に必死に食らいつこうとする「石神風神」。フェラーリで実力者らしい走りを見せる「赤羽海人」。スポンサーの金にものを言わせてランボルギーニを駆るがドライバーとしての腕は上位に及ばないところがある「大石代吾」。兄妹のコンビネーションを活かす「八潮翔」と「北原望」。

 彼らは第2戦、第3戦と勝負を重ねる中で、カナタに抜かれその実力に舌を巻いたりするだけでなく、ライバル達とギリギリの戦いの中上位を目指し、あるものは成長し、あるものはミスを犯す。最初はカナタのみを追いかけていた読者も、「あのドライバーはどうだなった?」、「今はこいつとこいつが戦うのか」、といったように興味を広げていく。車とキャラクターに大きな特徴があり、覚えやすいところもいい。

 「頭文字D」では藤原拓海と高橋啓介が様々なライバルと戦っていくというストーリー展開だった。しかし「MFゴースト」ではカナタだけでなく他のキャラクターもレースを重ねていく。もちろんドライバー同士の戦いも描かれる。カナタやベッケンバウアーの走りを見て著しく成長する妹・望に対し、スランプになってしまう兄・翔など、行く末が気になるキャラクターも多い。色々なキャラクターのドラマが描かれるのも「MFゴースト」の面白さだ。

「ヤジキタ兄妹」と呼ばれる妹・北原望は上位陣との戦いを目にし目覚ましい成長を遂げる。兄・翔はその姿に焦りを隠せない

 さらにMFGのコースは富士山の火山活動の再開やその後の大規模停電で大きな被害が出た地域が中心で、レースには復興支援の側面もある。この被害によって変わった地形、火山灰が降り積もる地域や、崩れた道を飛び越えるジャンプ台、突発的に噴き出す間欠泉などコースには現実離れしたギミックがあり、これら驚異のギミックに対し、各ドライバーがどう反応するかも見所。群像劇ならではのキャラクターの深掘りが魅力だ。

 加えて「頭文字D」ファンには解説者として登場するかつてのドライバー達の姿も興味深い。ラリーストの息子という拓海と似た境遇を持つている「小柏カイ」がレーシングチームの監督になっていたり、啓介と霧の中で戦った「池田竜次」がモータースポーツによる青少年育成スクール「ゼロ・アカデミー」の主宰者となっていたりと彼らの成長が見ることができる。「『頭文字D』のキャラクターのその後」が描かれているというところで、ファンには特に楽しい作品となっている。

女の子も多数登場! しげの氏の“描きたい”が詰まった作品

 もう1つ「MFゴースト」で忘れていけない魅力が「女の子の魅力」だ。MFGではレース中に車を抜く「オーバーテイク」が行なわれ、順位が入れ替わるたびにMFGエンジェルスがボードでドライバーの順位を入れ替える。エンジェルのコスチュームは露出度が高くセクシーで、カメラはボードを交換するエンジェルス達の肢体をじっくり写した後、質問担当の上原がメンバー達に質問をする。この質問の反応で、エンジェルスの個性がピックアップされる。

 「頭文字D」だけでなく、しげの氏の作品からはレース描写、公道レース理論、深い車への知識を感じさせるが、同時に女の子のかわいらしさ、気ままさ、葛藤といった描写にも強い情熱が感じられる。「MFゴースト」はこの「女の子へ向ける視点」がさらに強められている。何しろドライバー達の迫力のオーバーテイクが展開した後は、必ずエンジェルスの質問タイムが挿入されるのだ。この独特の流れをフォーマットにしているところもしげの氏の巧みなところ。「レースと女の子」が並列して描かれるのだ。

 姉御肌で男勝り、突っ込みもキレキレな「京子」。故意にパンツからお尻をはみだたせる積極的なアピールをするハミケツの「真美」。あざとさナンバーワンの「蒔絵」。そして回を追うごとに太り、コメディリリーフとしての存在感を増していく「まりえ」など、エンジェルスは面白キャラばかり。彼女たちがインタビュアーである上原の質問にどう答えるか、MFGの視聴者がどんなツッコミを入れるか、ちょっと気の抜けたふんわりした演出も面白い。

エンジェルスのリーダー的な存在の京子はキレキレのツッコミも魅力
回を追おうごとに太っていくというまりえはコメディリリーフ。エンジェルスとしては異色の存在だが、一時のハプニングで大人気に

 カナタと恋の恋愛も進展していく。カナタは天才的なドライビングテクニックと獰猛な勝負魂を持っているのにもかかわらず、普段の彼は礼儀正しく謙虚で、ちょっと天然ぼけもある青年だ。恋はサバサバしたところはあるものの、恋愛に対しては臆病でカナタに惹かれていても自分から積極的には出られない。初々しい恋愛ドラマをしげの氏は丁寧に描いている。

カナタと恋の恋愛ドラマも見所の1つ

 「MFゴースト」はしげの氏独特の“公道最速理論”を大きな謎として、そこに迫るドライバー達の試行錯誤をメインストーリーとして展開している。スーパーカーがその性能を活かして走る中、独自の理論と超人的なテクニックで非力な86を操りライバルを抜き去るカナタ。そのカナタの走りが通常のレースとは理屈の異なる、公道レースという新しい世界を提示していく。

 「MFゴースト」はこの「独自のレースマンガ」としての面白さを根本に置きながら、様々なキャラクターの群像劇、アイドル番組さながらの女の子達のドラマ、ラブコメのようなカナタと恋の恋愛と、いくつもの要素が絡まっている。これはマンガ家として様々な作品を手がけてきたしげの氏だから描ける作品だ。どの要素にもしげの氏が楽しそうに描いているのが伝わってくるのだ。

覚醒したカナタは最終戦に貪欲にトップを狙う。最終戦カナタはどうなるのか、物語はクライマックスを迎える

 それでも最大の注目ポイントはカナタの活躍である。第4戦、カナタはついに首位に手が届くところまでたどり着いた。母を失ったことで眠ってしまっていたドライバーの本能はMFGで完全覚醒し、最終戦では明確にトップを狙ってカナタは勝負を挑む。迎え撃つベッケンバウアー。追いすがる沢渡。高橋啓介の愛弟子「諸星瀬名」など魅力的なキャラクターも加わり、戦いの行方はわからない。

 マンガ最終回は2月17日発売の「週刊ヤングマガジン 12号」に掲載される。カナタのMFGでの戦いは、恋との恋愛はどうなるのか、ぜひ見届けてほしい。そして「MFゴースト」はまだまだ終わらない。アニメは第3シーズンの発表がされ、関連商品も多数販売。マンガ本編も「MFゴースト2」があるんじゃないか、というくらいクライマックスに向け、新キャラまで現われて盛り上がっている。

 繰り返すが「MFゴースト」はこれまでのしげの氏が描いてきた様々な要素を詰め込んだ多彩な魅力を持った作品だ。独立した作品としてはもちろん、「頭文字D」の続編としても面白い。まだ触れたことがない、という人はこの機会にぜひ手に取ってほしい。

【TVアニメ『 #MFゴースト 3rd Season』制作決定!ティザーPV】
第3シーズンの製作が決定したアニメPV
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