インタビュー

「マキバオー」作者・つの丸氏が9年ぶりカムバック! 最新作「ドッグファーザー」は“しゃべらない動物”とのリアルな暮らしを描く

「もうこれ以上の幸せはない」……一緒に暮らす愛犬たちへの想い

【「The Dogfather ドッグファーザー」1巻】
8月4日 発売
価格:990円

 「マキバオー」シリーズなどで知られる漫画家・つの丸氏の新作エッセイマンガ「The Dogfather ドッグファーザー」。そのコミックス第1巻が、8月4日に発売となる。

「The Dogfather ドッグファーザー」1巻書影

 本作は前作「たいようのマキバオーW」から9年ぶりの長期連載として、「マンガSPA!」で発表されている作品。現在保護犬のフレンチブルドッグたちと一緒に暮らしているつの丸氏が、日々の生活についてリアルに綴った内容となっている。
 今回はコミックスの発売に合わせて、つの丸氏にインタビューを実施。愛犬たちへの想いや休筆期間の暮らしぶり、今後の予定などについて語ってもらった。

久しぶりの長期連載はなぜ始まった? 過酷な漫画家生活から解放された9年間

──今回つの丸先生はかなり長い休筆期間を経て、「The Dogfather ドッグファーザー」の連載を始められたと思うのですが、そのあいだどんな生活を送っていたのでしょうか?

つの丸氏:全く仕事をせず、犬を撫でて、ただただ昼寝しているという生活をずっと送っていました(笑)。たまにサーフィンをしたりキャンプに行ったりしながら、一切ストレスのない生活を送っていましたね。

──そんな生活のなかで、本作を執筆することになったのは何がきっかけですか?

つの丸氏:ずっと犬をかわいがっていたので、いつか犬の話を描きたいなという気持ちはありました。試しにネームを切ってみたこともあります。それでも仕事をする気にはなれなかったのですが、9年くらい経った頃、休みがあまりにも長いので、うちの妻と税理士が「いい加減働いたらどうだ」というプレッシャーをかけてきたんです(笑)。

 そうしたタイミングで、ちょうど「マンガSPA!」さんから「連載どうですか?」と声をかけていただいたので、「犬の話であればやります」と答えました。ただし犬との生活はこれまで通り続けられるように、「絶対に週刊連載は嫌だ」、「紙媒体も嫌だ」、「勝手に休む」といった条件を飲んでもらった上で、執筆を始めることになりました。

──作中でも週刊連載をしていた頃の大変さに触れられていますが、当時はどのような生活を送っていたんですか?

つの丸氏:ずっとマンガのことしか考えられませんでした。とくに「マキバオー」のようなストーリーマンガを描くというのは、今生きているこの世の中とは別の世界を行き来するような作業なんです。その世界を一回抜けてしまうと、また入るのが大変なので、なるべくそこに居続けようとするんですよ。

 だから話を描き始める時は、地下の仕事場にこもるんです。ご飯食べに帰ってはくるものの、なるべく妻と会話せず、テレビも観ないようにしていました。現実の生活に戻ると時間をロスしてしまうので、なるべく自分が作り上げた架空の世界で生活するようにしていましたね。

──かなり負担が大きそうな生活ですね……。

つの丸氏:締め切りへのプレッシャーや睡眠時間がないということもあり、身体がボロボロになっていました。

過酷だった週刊連載を終えて、愛犬を大切にする生活へ

同じフレンチブルドッグでも個性は色々……3匹の愛犬たちへの想い

──現在つの丸先生は3匹のフレンチブルドッグと暮らされていますが、愛犬と一緒の生活はどんなところに幸せを感じますか?

つの丸氏:シンプルに、かわいいものがずっといることですよね。それまではずっとストレスを抱えて漫画家生活を送っていたので、健康状態も良くなかったんです。仕事をしないだけでもストレスがないので健康になったのかもしれませんが、それにプラスして犬というやさしい生き物に囲まれて癒やされたことで、本当に健康になりました。もうこれ以上の幸せはないなと思っています。

──つの丸先生は元々動物好きのイメージがありますが、そのなかでも犬は特別にお好きだったんですか?

つの丸氏:どの動物も好きですよ。でも身近に暮らすことを考えると、選択肢はそれほどないじゃないですか。たとえばパンダと暮らすのは難しいですし……(笑)。そういう意味で犬がよかったんですよね。

──犬といっても犬種によって色々な性格があると思いますが、フレンチブルドッグにはどんな特徴がありますか?

つの丸氏:好奇心旺盛で、わりと我慢強いし、愉快な犬ですよね。個体によって神経質な子もいますが、それほどやかましく吠えることもないし、楽しい犬です。あとは色々なことに興味津々で、すごく人懐っこいですね。

──今一緒に暮らしているピート、ロッコ、チッチはそれぞれどんな子なんですか?

つの丸氏:ピートはとにかく人懐っこくて、知らない人でも寄って行って、ずっと撫でられていたいタイプ。散歩している時も、通りすぎる人に誰でもかわいがってもらいたがるような性格ですね。

 2番目に来たロッコは、僕以外は近寄らせないくらいの怖がりです。慣れれば大丈夫なんですが、慣れるまで時間がかかるし、家に誰かが入ってくるとしばらく吠えていますね。でも慣れれば一番言うことを聞きます。

 新入りのチッチは気難しくて、一番我慢強いんですが一番怒りっぽいですね。耳掃除や爪切りなどの嫌なことを我慢できるのはこの子なんですが、怒ると噛んだりします。怖いもの知らずな性格なんでしょうね。

「マキバオー」との違いは? “しゃべらない動物”を描く上でのこだわり

──愛犬たちとの生活をマンガ化するにあたって、あらためてじっくり観察するなど、違う目線で見るようなことはありましたか?

つの丸氏:マンガを描くからといって注意深く見るという作業はとくになかったですね。9年間ずっと一緒にいて全部知っていたから、あらためて何かをするようなことはありませんでした。とにかく日常をそのまま描くというのを意識しています。

──本作を読んで、犬たちがふとした時に人間の目を見るような描写があり、犬と人間の信頼関係を感じてほっこりしました。そうした仕草についても、普段の生活で自然に見ている光景ということでしょうか?

つの丸氏:そうですね。犬たちは僕の行動を逐一見ていて、「遊べるんじゃないか」、「食べ物をくれるんじゃないか」、「どこかへ出かけちゃうんじゃないか」というのをつねに気にしているんですよね。だからそういう意味で言えば、信頼関係はあると思います。

──「マキバオー」を始めとしたこれまでのつの丸先生のマンガと比べて、「ドッグファーザー」が何か異なっている点や新しい点はあると思いますか?

つの丸氏:デビューしてからずっとみんなに指摘されてきたのは、僕の作品では「動物がしゃべる」ということでした。でも今回、初めてしゃべらない動物を描いています。

 そこで犬の感情や思っていることなどを、勝手に想像して描かないように気を付けていますね。僕自身は犬の気持ちが分かっているつもりではありますが、実際には分からないので。とにかく目に映った様子だけを描くようにして、「犬がこう思っていた」みたいな風に都合よく解釈しないようにしています。

一番大切なのは愛犬との生活……今後の活動について考えていること

──本作の連載を続けていくにあたって、「これは描きたいな」と思っているエピソードなどはありますか?

つの丸氏:まだほとんど作中に出てきていないロッコとチッチの話ですかね。今では慣れてきましたが、元々みんな保護犬だったので、最初の頃は色々なことがありました。だからロッコとチッチについても、それぞれうちにやってきた時の話をしっかり丁寧に描きたいなと思っています。すべての保護犬たちのためにも。

第1巻ではピートがやってきた頃のことが描かれる

──これからも愛犬との生活を第一にして執筆を続けていくと思うのですが、本作以外にも何か漫画家として活動することを考えていますか?

つの丸氏:ほかの取材でも聞かれているんですが、ずっと「ない」って答えています(笑)。この9年間、さしたる事件があるわけでもなく、ただ生きてきただけなので、今は日記を書いているような気分です。今後描きたい作品があるわけでもないし、仕事以外でしたいこともありません。何も欲がないので、ただ平和に、幸せに……。このまま健康的で幸せな生活を続けたいだけですね。

──最後になりますが、今までつの丸先生の作品を読んできたファンの方々に向けて、何かメッセージがあればお願いします。

つの丸氏:過去の作品と比べると、「ドッグファーザー」はただ事実を描いているだけなので、意図的に盛り上げるような演出や読者を泣かせるような構成があるわけではありません。だから感動とかそういうことはあまり期待しすぎないでください(笑)。しみじみとリアルな犬との暮らしを描くだけの変わったマンガですが、僕の生活を覗き見るような気持ちで読んでもらえればと思います。

──「マキバオー」もそうですが、つの丸氏先生の作品は動物の生命力や愛らしさが詰まっているのがやはり魅力だと思います。そうした意味では、きっと今作もファンの方々に刺さるのではないでしょうか。

つの丸氏:そうだといいですね。今回はあまり演出を過度にしないようにしているので……。

──そこを意識して描かれているんですね。

つの丸氏:「ここをこうすればもっと面白くなるんだろうな」と思うことはあっても、事実から逸れるのは嫌なので、グッとこらえて淡々と事実を描くようにしています。

──本日は執筆の裏側が分かるお話を色々と聞かせていただき、ありがとうございました。