レビュー

「老境博徒伝SOGA」連載3周年! 麻雀の闇を操る西の怪物・僧我三威、そのあまりにも充実したセカンドライフを見よ!!

【老境博徒伝SOGA】
著者:三好智樹・瀬戸義明・福本伸行(協力)・T.I.Corp.(原作)
連載:近代麻雀
既刊:全4巻
6月12日発売の「老境博徒伝SOGA」4巻

 麻雀や競馬、じゃんけんにゴルフ、果ては命を賭けたサバイバルからデスゲームまで、さまざまな勝負の形を描いてきた福本作品。それは熱き闘いの軌跡であると同時に、数々のスピンオフの源泉にもなった。そのなかでも「賭博黙示録カイジ」のキャラクター大槻太郎を主人公にした「1日外出録ハンチョウ」(以下、「ハンチョウ」)は異例の大ヒットを記録。2014年の連載開始から10年以上が経った現在でも、その人気は衰えを見せない。

 が! その「ハンチョウ」さえも凌駕しかねない怪物スピンオフが現われた。その名も「老境博徒伝SOGA」。麻雀マンガの最高峰と呼び声も高い「天 天和通りの快男児」(以下、「天」)のX年後を描いた物語である。そして主役を張るのは、あの僧我三威だ。

 本作は森橋ビンゴ氏/T.I.Corp.が原作を、三好智樹氏と瀬戸義明氏が作画を担当している。さらに協力として福本伸行氏が加わり、2023年の「近代麻雀」(竹書房)6月1日号から連載開始。今回は連載開始3周年と、4巻の発売を記念して本作をより多くの方々に知っていただくべく、その魅力を紹介していきたい。

「老境博徒伝SOGA」1巻。“関西の伝説”とまで言われた西の怪物は、その不敵な笑みを第2の人生でも保つことができるのか!?

その男、僧我三威! 彼はどのような雀士だったのか?

 僧我は、同じく「近代麻雀」に連載されていた「天」のキャラクター。1990年に東西の裏プロたちが火花を散らして闘った“麻雀東西戦”で、西軍最強の打ち手として登場した。その実力は、東軍のメンバーをして「(僧我に勝つのは)赤木しげるでも難しい」「(僧我と赤木をくらべると)僧我有利の声が多い」と言わしめるほど。とくに東西戦の中盤あたりまでは「東軍の主砲・赤木 VS. 西軍の主砲・僧我」といったライバル的な立ち位置で描かれている。

麻雀東西戦では、関西有数の暴力団組長にして現役最強と謳われた原田克美とともに赤木や天と激突。幾度となく東軍を死線に追いやった

 赤木と僧我は、麻雀における戦略も対照的。変化を好み華やかな活躍を見せる赤木に対して、僧我は地味でしぶとい。リスクを度外視して敵からロン牌を引き出す異端の闘牌を得意とする赤木とは正反対に、僧我は手堅く慎重な打ち回しを好む。赤木のような派手さはないものの、静かに確実に勝利を積み上げる闘牌で、十数年のあいだ一度も敗れたことがなく最強無敗の代打ちとして裏の麻雀界に君臨していた。性格的にも陽気で自由奔放な赤木にくらべて、僧我はどこか生真面目で融通が利かない一面を持つ。

平打ちでも屈指の実力者だが、「キャタピラ」「ブッコ抜き」「スリ替えツモ」などの裏技(イカサマ)も自在に使いこなす。通常の牌を積む麻雀ではまず負けない

 そんな僧我の“その後”を描いているのが、この「老境博徒伝SOGA」だ。完全なパラレルワールドではなく「天」完結後の物語なので、ある意味では「天」の続編と言えるかもしれない。それでは、さっそく本作の見どころを紹介していこう。

有料老人ホームから始まるセカンドライフ! 果たして僧我は静かな余生を過ごせるか!?

 長く熱かった東西戦から十数年、齢80才を超えた僧我は代打ちを引退。東西戦をともに戦った盟友・原田のツテで介護付き有料老人ホームへ入居する。かつて見た赤木の透明な死にざまに密かな憧れを抱いていた僧我は、そこを終の棲家として静かな余生を送るつもりでいた。

 が、いざ老人ホームへ入居した僧我は驚愕する。彼が目にしたのはパチンコやスロット、そして麻雀に興じる入居者たちの姿だった。それもそのはず、そこはボケ防止のためにギャンブルを推奨するカジノ型ホーム「マノワ・ド・ボヌール」。フランス語で“幸運の館”を意味する介護施設で、僧我の第2の人生が始まる。

パチンコ台、スロット機、雀卓がズラリと並んだマノワ・ド・ボヌールの遊技場。事情を知らない者が見たら「カイジ」シリーズの裏カジノと勘違いしても不思議ではない

 本作は基本的にはギャグ・コメディに分類されるが、劇中のギャグは僧我の麻雀と同じで派手さは微塵もない。もう少し具体的に言うなら、読者を笑わせようという意図が見えず気負いも感じさせないのだ。「自分は笑っちゃったけど、これギャグじゃなくて真剣なシーンなのか?」とさえ思ってしまうほどである。

 実際、劇中に登場するキャラクターも、1人として無理にボケたり誰かを笑わせようなどとは考えていない。みな真剣に話したり遊んだり、あるいは麻雀に没頭している。にもかかわらず、それが真剣であればあるほど逆に笑えてきてしまう。これは、同じく福本作品を源流とする「ハンチョウ」にも共通する特徴だ。

 しかし、両者には明確に異なる点が1つある。「ハンチョウ」の主人公である大槻太郎は、もともとユーモアのあるキャラクター。原作の「賭博破戒録カイジ」はともかく、「ハンチョウ」では小粋なギャグで自ら笑いを取りに行くことも珍しくなかった。

 一方、僧我三威は頑固一徹。ギャグはもちろんのことだが、軽い冗談を言う姿さえも想像できない。だからこそ、真剣ながらも荒唐無稽・平穏ながらも波瀾万丈な老人ホームでの日々に笑いが生まれるのだ。本来なら笑いとは無縁な僧我をあえて主人公に選び、ハイセンスなコメディ作品に昇華したセンスには脱帽してしまう。

高レート麻雀で僧我と勝負する権藤(Gondo)、戸塚(Tozuka)、陸岡(Rikuoka)の3人。読者からはギャグにしか見えないかもしれないが、もちろん本人たちは大真面目だ
よく言えば実直で生真面目、悪く言えば融通が利かずノリが悪い僧我。老人ホームでのボケ防止体操も気恥ずかしく感じてしまう。ちなみに、このとき着ているホーム指定のジャージが原因で物語はさらなる広がりを見せる

 それでは、その本質が描かれているシーンを3つほど紹介しよう。なお、できるだけネタバレにならないようにエピソードを丸ごと取り上げるのではなく、一部のシーンにのみ的を絞ってフォーカスしている。本作を未読の方も安心して読み進めていただきたい。

マノワ・ド・ボヌールの洗礼! 僧我をも驚愕させる老人ホームでの麻雀とは!?

 僧我がホームに入所した初日、その歓迎会……という名目で僧我をカモろうとする者たちが麻雀勝負を挑んでくる。知っての通り、僧我は百戦錬磨・老獪狡猾な歴戦の兵(つわもの)。介護施設の老人たちが束になっても敵わないと思われたが、東1局、開幕早々から僧我に激震が走った。

南家の行動を見て激震が走る僧我。最強の雀士たちが集った東西戦でさえ、これほど驚愕したことはなかった。それを考えれば南家は赤木並の強敵!?……ではない

 老人ホームでの麻雀ゆえに卓を囲むメンツは全員老人。ということは当然老眼。つまり、自分がツモった牌の種類が分からない。見分けづらい牌を認識するために目から近づけ遠ざけ、数秒かけてピントが合う距離を探す。このあいだ、ほかの打ち手からツモった牌が丸見えなのだ。

 対戦相手たちは別にふざけているわけではない。言うまでもなく、僧我をカモるために真剣そのものだ。一方で僧我も、自分の人生を捧げてきた麻雀でふざけたりするはずがない。つまり、この卓を囲んでいる誰もが真剣なのだ。にもかかわらず、このシーンは読者からすると笑わずにはいられない。

 平成版「まんが道」とも言える「バクマン。」ではそれを"シリアスな笑い”と表現したが、まさに本作にはその原理が息づいている。大袈裟なギャグシーンもなければ仰々しいリアクションもない。いい大人(と言うより老人)である僧我たちが淡々と麻雀を打っているからこそ、彼らの言動が笑いにつながるのだ。シリアスな笑いをこれほど体現した作品が他にあろうか。

現実世界なら炎上必至のクソアプリ! 最近のスマホゲームあるあるを見事に体現!

 本作の面白さの一翼を担っているのが、僧我が購入したスマホにプリインストールされていた「雀天」だ。これは実在する麻雀ゲーム「雀魂」を元ネタにしたスマホアプリだが、本家とは異なり、レビュー★1.1という屈指のクソゲー。このクソゲーに四苦八苦する僧我の一挙手一投足が、これまた面白い。そもそもアナログ世代の僧我にスマホというデジタル機器を持たせ、あまつさえゲームアプリに興じさせるという発想が天才的だ。これによって本作の笑いの幅は確実に広がった。

「雀天」が登場するエピソードは、とにかく面白いものが多い。というか、僧我を知る者なら僧我がスマホでゲームをしている図だけで笑わずにはいられない

 プレイを始めた僧我がまず最初につまづいたのが、老眼による見間違いやスマホ初心者にありがちなタップミスである。老眼はともかく、タップミスはスマホを使っている者なら誰もが一度は通る道。僧我のもどかしさが手に取るように分かるはずだ。

 初プレイ時のデビュー戦では二萬・三萬・五萬・六萬と持っているところに、南家が四萬を打牌。チーを申告して「三萬・五萬でなくアホはおらんやろ」と言いつつスマホをタップしようとしたが、自室のドアが激しくノックされ……。いや、あるよね、スマホでゲームしていると。笑うと同時に、僧我が我々の住んでいるデジタルの世界に来てくれたようで微笑ましく感じたシーンだった。

 また、現実のクソゲーにありがちな「先へ進むと難易度が急に爆上がりして勝てなくなる」というクソ仕様。これもしっかり実装されており、連戦連勝だった僧我が中級ランクに昇格したとたん、まったく勝てなくなってしまう。並みいる代打ち・裏プロ・雀ゴロをものともせず十数年も無敗だった僧我が惨敗する麻雀ゲームとは、クソゲーにもほどがある。

西家が白と発を続けてポンし、大三元のテンパイが濃厚という状況で、クソゲーゆえのガバガバCPUがノンストップで中を打牌。これにはさすがの僧我も呆れるしかない

 ちなみに「雀天」の驚異的なクソゲーっぷりに閉口した僧我は、のちに本家の「雀魂」をインストール。その良心的な作りに感動し、気持ちよく遊ばせてもらったお礼として課金するエピソードも存在する。このあとも「雀魂」はときおり劇中に登場するので、プレイしたことがある人なら該当エピソードをより深く楽しめるのではないだろうか。

銀我ミツコ、衝撃的デビュー! 「雀魂」実況配信で掴め、万バズの星!!

 最後に紹介するのは、筆者がもっとも好きなエピソード。「天」における東軍の最高戦力は言うまでもなく赤木しげるだが、もう1人、決勝リーグまで西軍を苦しめ続けた兵(つわもの)がいた。至高の職人芸・ガン牌を駆使して西軍総大将の原田をあと一歩というところまで追い詰めた“三色銀次”こと浅井銀次である。

銀次が得意とするのは、キー牌となる3・7牌のガン(目印)を活かした三色手。かつては「天」の主人公・天貴史をも下したほどの実力者だ

 本作では僧我に遅れること数ヵ月、この銀次も同じくマノワ・ド・ボヌールに入所してくる。お互いの名前をど忘れした2人が繰り広げるリメンバーレースもなかなか面白いが、それを上回る面白さなのが僧我と銀次の「バズりへの挑戦編」だ。

 じつは銀次は、孫娘のカナちゃんにせがまれてチックタック(ショートムービーをメインとした架空のSNSアプリ)に週1で動画をアップしていた。が、再生数は平均で10回程度と、お話にならない。銀次の「普通は『死』までに、その地点(=バズること)に辿り着けない」というセリフが、また笑いを誘う。

かつて「天」の赤木の通夜編で銀次が赤木に言った名ゼリフをこの場面で使うか!? 作者たちの底知れぬセンスには、驚嘆のほかない(褒め言葉です)

 そんな銀次の起死回生を狙った一手が”バ美肉”(=バーチャル美少女受肉。おもに男性が美少女アバターの姿で動画配信やVTuber活動などを行なうこと)での麻雀配信。そして、中の人は西の怪物・僧我三威っ! 見た目は美少女ながら口調は老人という、異様なVTuber銀我ミツコ誕生の瞬間である。常人には想像の及ばないガン付け技術を持った銀次ゆえに舞い降りた悪魔的閃きと言えよう。

理想(上段)と現実(下段)のギャップが凄い(笑)。しかし、美形アバターになることを想像しながら就寝とは、僧我も意外とミーハーな一面があるようだ

 いや、僧我にスマホで麻雀ゲームをやらせるという発想も天才的だった。それは「雀天」の項でも触れた通りだ。しかし、このエピソードではそれをさらに一歩推し進めて、僧我が受動的な参加者(配信されているゲームをプレイする側)ではなく能動的な参加者(自らが動画を制作し発信する側)になっている。古色蒼然とした僧我が最先端のデジタル技術を使い、老人ホームから動画を配信する……そのギャップが、本作の笑いに大きく寄与していることは間違いあるまい。

3つの要素を融合させて怪物的コメディに仕上げた傑作! 福本作品が好きなら是が非でも読んでおきたい逸品!

 ここまで本作の笑えるポイントについて語ってきたが、もう1点ふれておきたい要素がある。それは、随所に散りばめられたパロディの数々。とくに福本作品の「天」や「カイジ」シリーズを元ネタにしたセリフや設定は、どれも素晴らしいクオリティである。

 たとえば、僧我が入居している老人ホームではボケ防止のために施設内通貨システムを採用しているのだが、その単位は「ペリカ」。通常の通貨(日本円)を使いたい場合は施設の外に出なければならないのだが、そのためには有料の1日外出券が必要となる。価格はもちろん、50万ペリカだ。

1日外出券は言うまでもないが、マッサージ30分で1万5000ペリカとかなり高額。そのほか、羊羹が1万ペリカだったり単なるジャージが3万~10万ペリカだったりと、ぼったくり具合は地下施設に負けていない

 また、先述した「雀天」では、プレイヤーの分身として美少女アバターが用意されている。このキャラクターデザインがこれまた秀逸。例をあげると、「恐ろしいアル。博打は本当に恐ろしいアル。」とほざく、チャイナ風の大槻花。あるいは「ところがどっこい! 夢じゃありませんわ。現実ですわ、これが現実っ」とのたまう、お嬢様風の一条聖子。あげくの果ては「一生迷ってろにゃ! そして失い続けるにゃ、貴重なチャンスを」と説教してくる猫耳メイド・利根川ユキ。ちなみにガチャでSSRの利根川ユキを引いたときのボイスは「点棒は命より重いにゃ♪」である。

 言うまでもなく、彼女らは「カイジ」シリーズの登場人物を模したアバターだ。このチョイス、このアレンジ、そして僧我の状況とリンクしたセリフを持ってくるセンス。出版社の垣根を超えた奇跡のコラボレーション……とまで言っては褒め過ぎだろうか。

「雀天」アバターの1人・利根川ユキ。本家「雀魂」の一姫に利根川成分を注ぎ込んだため、こんな可愛らしくも辛口なキャラクターが生まれてしまった(笑)。このほか、「甘えるにゃ! 世間はお母さんではないにゃ!」というセリフも秀逸。ぜひ「生涯、地を這う」というセリフも聞かせてほしい

 生真面目な僧我が醸し出すシリアスな笑い。80才を超えた老人たちと最先端のデジタルカルチャーが織りなすギャップ。そして、さまざまなジャンルから抽出したパロディ群。それら3つの要素が混然一体となり、本作を素晴らしいコメディに仕上げている。「天」を知っている方は、絶対に読むべきだと自信を持って断言しよう。

ドリフト走行を駆使してGTRの面々を抜き去る、僧我乾物店の軽トラック。言うまでもなく、藤原とうふ店のハチロクのオマージュである。これだけ見ると、もはや何のマンガなのかすら分からない

 もちろん「天」を読んだことがなくても福本作品が好きなら十二分に楽しめるだろう。さらに「カイジ」が好きな人や「雀魂」をプレイしたことがある人にもオススメ。西の怪物・僧我三威が紡ぐ老いてなお滾る博徒譚、とくとご覧あれ!