特別企画

「幽☆遊☆白書」のコミックス第1巻発売から今年で33年!

「HUNTER×HUNTER」で知られる冨樫義博の名を世に知らしめた少年ジャンプの代表作

 集英社のマンガ「幽☆遊☆白書」の単行本が世に送り出されてから今年で33年になる。

 「幽☆遊☆白書」は同じく集英社の「HUNTER×HUNTER」や「レベルE」などで知られる冨樫義博氏が連載していたオカルトファンタジーマンガ。ケンカ好きな不良少年の主人公、浦飯幽助(うらめしゆうすけ)が交通事故で死んでしまったことをきっかけに、霊界探偵となって妖怪たちを相手に事件を解決していく物語を描いた作品。1990年から1994年にかけて集英社のマンガ雑誌「週刊少年ジャンプ」にて連載された(単行本は全19巻(全175話+外伝1話)、完全版は全15巻)。本作の人気は凄まじく、コミックスの累計発行部数は2020年12月時点で5,000万部を突破し、テレビや劇場アニメ、ゲーム、舞台、そして2023年12月にはNetflixで実写ドラマが展開されるなど連載が終了したあともその人気が続いている。

バトルとは無縁なコメディーヒューマンドラマからスタートした作品

あらすじ

 不良少年の浦飯幽助は子どもを助けようとして交通事故に遭い、死んでしまう。予定外の死によって幽霊となってしまった幽助に、閻魔大王は生き返るためのチャンスとして試練を与えた。その申し出を受け入れた幽助は、数々の試練と共に霊界犯罪人を捕らえる「霊界探偵」として活動することになる。

 「幽☆遊☆白書」は今でこそバトルマンガのイメージが強いが、連載当初は主人公の幽助が幽霊の状態で困っている人を助けるというオカルト要素を取り入れたコメディーヒューマンドラマ作品としてスタートしている。登場人物の人間関係や葛藤を中心とした内容が深く描かれており、どの話もどこか考えさせられる少年マンガとしては珍しい部類のものとなっている。

 なかでも幽助の葬式シーンは自身の死が周りの人にどのような影響や想いを与えているのかなどがリアルに描かれており、読んでいた筆者も死というものについて改めて考えさせられた。作中で最初は生き返ることに乗り気じゃなかった幽助が涙する母親や担任、幼馴染の姿、そして自身が助けた子どもの言葉から少しずつ心変わりしていく様に惹きつけられて、この作品に引き込まれた人も多いのではないだろうか。

 このヒューマンドラマ路線は幽助が生き返る単行本第2巻の終盤まで続く。どのエピソードも派手なアクションこそ無いものの、ストーリーを通して幽助の真っ直ぐさや、登場人物たちの人柄や葛藤など、様々な感情に触れることができる話だ。コミックス1巻収録の第7話「約束!!」では、後の主要キャラクターの一人である桑原和真 (くわばらかずま)のエピソードもあり、桑原の仲間思いな一面をみることができる。印象的なエピソードを紹介しよう。

第7話「約束!!」(コミックス1巻)

 桑原と一緒につるんでいる大久保がケンカを原因に担任からバイト許可の取り消しを告げられる。それを阻止しようとする桑原に対し担任は1週間ケンカをしないこと、さらに次のテストで全員50点以上を取るという条件を出す。この条件達成のため、桑原は他の不良たちにケンカを売られても一切手を出さずに相手の気が済むまで殴られたり、前回7点だったテストを条件の50点にするために猛勉強を行なう。そんな桑原の仲間思いで全力な漢気を感じることができる話だ。

 もちろん作中にはオカルト寄りなエピソードもしっかりとある。それが2巻の第11話「ひび割れた友情!!」だ。この話では呪符や悪霊によって他者を呪う話が描かれており、心霊表現や周囲の大人たちの声によって変わっていく登場人物の心理描写などから、霊体編のなかでは一際恐いエピソードとなっている。

第11話「ひび割れた友情!!」(コミックス2巻)
 二人の女子中学生の友情を描いたエピソード。学業というプレッシャーのなか、親友同士だった二人は気がつけば進学を賭けて争うライバルとなっていた。そんな時、図書館で見つけた「ライバルに勝てるまじない」を試してみた結果、二人は怪奇な減少へと巻き込まれていく。この話では人間関係をベースとしつつも、オカルト要素が色濃く現われている。

 そんな「幽☆遊☆白書」がバトルマンガとしての転機を迎えることになったのは第18話、単行本にして第3巻に差し掛かった頃だ。「霊界探偵」としての幽助の物語がはじまり、ここから幻海(げんかい)師範による修行編や、戶愚呂(とぐろ)兄弟と戦う暗黑武術会編といった、バトルマンガ路線へと舵がきられていく。

【「幽☆遊☆白書」第3巻】
3巻では幽助のトレードマークでもある必殺技「霊丸(レイガン)」や、人気キャラクターの飛影(ひえい)や蔵馬(くらま)が初登場する

思わず真似したくなるキャラクターたち

 バトルマンガ路線になってからの「幽☆遊☆白書」はとにかくすごかった。個人的には序盤に繰り広げられたヒューマンドラマ路線も好きだったが、バトル路線になってからはキャラクターたちのインパクトあふれる展開から目が離せなくなる。幽助の必殺技「霊丸」や飛影の「邪王炎殺黒龍波(じゃおうえんさつこくりゅうは)」、蔵馬が相手にとどめを刺す時に放ったセリフ“皮肉だね悪党の血の方がきれいな花がさく…… ”、邪王炎殺黒龍波を放つ際に腕の封印を解いた飛影の“もう後もどりはできんぞ巻き方を忘れちまったからな”など、中二心をくすぐるキャラクターたちの設定や作中での展開に魅了された読者も多いはずだ。

浦飯幽助(うらめしゆうすけ)

 本作の主人公。飲酒、喫煙、万引き、ケンカにカツアゲなど、主人公とは思えないような行為が大好きなザ・不良少年。正直ろくでもない奴なのだが、自分にバカ正直に生きており、作中では最後まで変わることのないどこまでも真っ直ぐなところに作中キャラクターたちや読者は惹きつけられた。

手を銃の形にして放つ幽助の必殺技「霊丸」のポーズは簡単に真似できることから筆者を含め多くの子どもたちが「霊丸」を放つ練習をしていた

 余談だが、アニメやゲームで幽助のキャッチフレーズとしてよく耳にする「伊達にあの世は見てねぇぜ!」の台詞はマンガでは登場していない。もとになったのは「第8回キャッチフレーズグランプリ」に一般読者(17歳の女性)が応募した「ダテにあの世は見ちゃいねぇ!!」と言われている。

桑原和真 (くわばらかずま)

 リーゼントがトレードマークで、何かと幽助にケンカを吹っかけては返り討ちにあうライバル的存在。幼い頃より霊感が強く、それがきっかけで霊界探偵としての幽助の手伝いをするようになる。自身の霊力を剣の形にする技「霊剣」を扱う。

単行本第4巻27話「闇の中の死闘!!」では桑原がはじめて「霊剣」を発現させる

 お調子者で喧嘩っ早いが、情に厚く仲間思い。不良ではあるが、性格は真面目で強い正義感があり、犯罪には手を染めないというポリシーをもっている。「不良」と「正義」という一見すると矛盾しているこの二つが見事に合わさったキャラクターで、仲間のためなら身を犠牲にすることもいとわない漢の中の漢だ。不良な見た目とは裏腹に作中では高校に進学するために猛勉強する姿や猫好きな一面が描かれるなど、一番人間味を感じられるキャラクターだ。

飛影(ひえい)

 初登場時は蔵馬と共に敵として登場した盗賊の妖怪。幽助に敗れて霊界に捕まるが、免罪を条件に幽助に協力することになる。

 世に中二病をバラ撒いたのはコイツだと言っても過言ではないだろう。初回から「邪眼師」というインパクトのある響きで登場し、額には第三の目。だが、この時点では敵として登場しているのでまだ傷は浅い。しかし、第34話「裏切りの門!!」で突如味方として再登場。かつての敵が味方になるという少年マンガの王道的展開へと発展していき、ここから飛影の本領が発揮されていく。

 仲間になってからはスピードを活かした剣捌きによる圧倒的強さをみせる。また、今で言う「ツンデレ」を感じさせる台詞をときおり挟み、クールな性格で徐々にファンを増やしていく。その人気が第57話「恐怖の炎熱地獄!!」で爆発する。

 第57話「恐怖の炎熱地獄!!」は暗黒武術大会の話だ。飛影が決勝トーナメント第1回戦の相手是流(ぜる)を相手に魔界の黒い炎を使う技「邪王炎殺拳」を初披露する。「邪王炎殺拳」の名前と黒い炎の時点でもヤバイのに、そこから飛影の「右腕だけで十分だな」という台詞。そして続く「くらえ!!炎殺黒龍波!!」の声と共に放たれる黒い龍。最後には壁に影だけを残して消え去った相手に「全て焼きつくしてやった……この世に残ったのはあの影だけだ」の台詞で戦いに勝利する。この戦いの結果、飛影は連載中に行われた第1回キャラクター人気投票で1位を獲得する。

 その後も飛影の暴走は止まらない。第80話「無敵・武獣装甲!!」では魔界の炎を剣にを纏う「邪王炎殺剣」で相手を打ち破り、さらには第98話「鎧の理由!!」では世の中二病アイテムを決定づけた、“忌呪帯法(いじゅたいほう)”という禁忌な巻き方をした包帯を右腕に纏って登場する。

 包帯を解き放って圧倒的パワーで相手を屠る飛影の姿は読者を魅了した。これ以降、世間では黒い衣服を好み、腕に包帯を巻き、眼や腕がうずく少年少女たちが増えていった。

 そんな飛影だが、中二病要素だけが魅力ではない。実は妹想いなところや、蔵馬だけには心を許しているというギャップ性が多くの女性読者を虜にした。結果、「幽☆遊☆白書」が週刊少年ジャンプ連載時に行なわれた2度の人気投票では堂々の1位に君臨し続けた。

蔵馬(くらま)/ 南野秀一(みなみのしゅういち)

 初登場時は飛影と共に敵として登場した元妖狐。妖怪だが登場時は南野秀一という人間として人間界で生活している。敵側ではあるが幽助と戦うことはせず、むしろ信頼関係を構築する。その後、「暗黒鏡」を奪った罪の免罪を条件に幽助に協力する形で仲間となる。

 飛影に続き、絶大な人気を誇ったキャラクターが蔵馬だ。ビジュアルはもちろん、冷静沈着で植物を武器に華麗に戦う姿や、もとは銀髪に白い耳をした「妖狐蔵馬」という設定、母親思いで身内にはとことん優しいが敵には容赦ないなど、どこをみてもかっこよさしかないところに多くの女性は胸を射抜かれた。

【「幽☆遊☆白書」第7巻】
第7巻の表紙にもなっている二人の物語「TWO SHOTS」

 そんな蔵馬の人気を支えている要素の一つに飛影との関係性がある。作中では蔵馬と飛影が長い付き合いであることを示唆するシーンがあり、まるで蔵馬が保護者のように飛影をフォローしたり解説する姿が度々みられる。また、単行本第7巻では本編とは別に外伝として二人の出会いの物語「幽☆遊☆白書外伝TWO SHOTS」が収録されている。

 ちなみに飛影は蔵馬のことを「なぜオレがヤツと組んだか教えてやる。敵に回したくないからだ。自分に危害を加えようとする者に対する圧倒的な冷徹さはオレ以上だぜ」と第34話「裏切りの門!!」で言っているが、それはしっかりと本編でも描かれている。

 それを垣間見えるのが蔵馬の名言でもある「皮肉だね悪党の血の方がきれいな花がさく……」が登場した第56話「血染めの花!!」だ。この話では対戦相手である呂屠(ロト)が蔵馬の母親を人質にとることで戦いを優位に進めようとする。だが、蔵馬は隙をみて「シマネキ草」という魔界植物の種子を相手の身体へと植え込む。最後は命乞いする相手に一言“死ね”と告げ、相手の全身を「シマネキ草」が突き破るかたちで絶命させる。作中では他にも相手を捕らえて死ぬまで幻覚を見せ続ける魔界植物「邪念樹」なども登場しており、蔵馬が操る魔界植物たちはどれも絶対に体験したくないジャンプキャラ屈指のエグい攻撃方法ばかりとなっている。

人気を加速させたTVアニメ

 「幽☆遊☆白書」を有名にした要因の一つにアニメ版の存在がある。

 アニメ板はスタジオぴえろ制作で、1992年から1995年にかけて土曜日の夕方に全112話が放送された。TV放送ということもあり、アニメ版では一部設定や表現などがマイルドになるよう変更(未成年者の飲酒・喫煙表現のカット、怪我の演出など)されたほか、「霊体編」の初期エピソードや「魔界統一トーナメント編」終了後のいくつかのエピソードが省略されている。

 また、上記以外にも「ジョルジュ早乙女」という青鬼のアニメオリジナルキャラクターの追加や、ストーリーの展開が一部改変されている。だが、原作では省略されていた場面や、語られていなかったキャラクターたちのバックストーリーが追加されたり、アニメオリジナルにも関わらず作中でのフィット感がすさまじい「ジョルジュ早乙女」によって視聴者からは高い評価を得ている。

こちらはKLabの「幽☆遊☆白書~100%中の100%バトル~」の画像。一番右下にいるのがアニメオリジナルの「ジョルジュ早乙女」だ

 そしてアニメといえば忘れてはいけないのが声優だ。浦飯幽助役は佐々木望さん、桑原和真役は千葉繁さん、飛影役は檜山修之、蔵馬役は緒方恵美さんが声を担当。今や超人気声優と呼ばれるベテランから駆け出しまで、多くの声優たちが参加しており、なかでも、「幽☆遊☆白書」のアニメ板は「新世紀エヴァンゲリオン」の碇シンジ役や「呪術廻戦」の乙骨憂太役で有名な緒方恵美さんが声優デビューした作品としても有名だ。

「幽☆遊☆白書」では蔵馬役を緒方恵美さんが担当した(画像はBreathe Artsのもの)

 主人公たち以外にも作中では幽助が助けた少年「マサル」をピカチュウ役(ポケットモンスター)で有名な大谷育江さん、コエンマ役を田中真弓さん、累中不良リーダー役を子安武人さん、剛鬼(ごうき)役を若本規夫さんが担当するなど、名だたる声優たちがラインナップしている。

 最後にもうひとつ注目して欲しいポイントがある。それが名曲揃いのオープニングとエンディング曲だ。

 オープニング曲は「2つマルをつけて ちょっぴり大人さ」や「ア・リ・ガ・ト・ウ・ゴ・ザ・イ・ます!」などの歌詞で有名な馬渡松子さんの「微笑みの爆弾」。この曲は放送開始から終了まで変わることなく、最後まで「幽☆遊☆白書」を支え続けた。

【【『微笑みの爆弾』OP映像】 幽☆遊☆白書 25th Anniversary Blu-ray BOX PV】
2018年にTVアニメ25周年を記念して完全新作アニメーションを収録した「幽☆遊☆白書 25th Anniversary Blu-ray BOX」全4巻が発売された

 曲自体が素晴らしいのに加え、その歌詞やリズム、雰囲気などが全て「幽☆遊☆白書」の世界にマッチしている。今も曲のイントロを聴くだけでオープニング映像が鮮明に脳裏に浮かぶ。

 もちろんエンディング曲も忘れてはいけない。エンディング曲は馬渡松子さんの「ホームワークが終わらない」、「さよならbyebye」、「デイドリーム ジェネレーション」、高橋ひろさんの「アンバランスなKiss」、「陽がまた輝くとき」の5曲。いずれも素晴らしい曲で、「幽☆遊☆白書」のセンチメンタルな世界観にマッチしたエモいメロディが心に来る曲となっている。

マンガともアニメ版とも違うもう一つの「幽☆遊☆白書」

 マンガ、アニメ以外で世間を賑わせた作品がもう一つある。それが実写ドラマで展開されたNetflixシリーズ「幽☆遊☆白書」だ。

 Netflixシリーズ「幽☆遊☆白書」は2023年12月14日にNetflixで全5話の実写ドラマとして配信された。内容の方は原作1話の幽助が死亡するところから111話の戸愚呂を倒すところまでをまとめたもので、幽助復活から霊界三大秘法の奪還、そこから左京が開こうとしている魔界の穴を阻止しに行くというのがおおまかな内容だ。全5話ということもあってストーリは大幅に改変されており、原作の霊体編、四聖獣編、暗黒武術会編などは全てカットされている。また、設定や展開の多くがドラマオリジナルになっているので、どちらかといえば「幽☆遊☆白書」の設定をもとに新規に書き下ろされた作品といえる。

【『幽☆遊☆白書』ティザー映像 | Netflix Japan】

 オリジナル脚本だけあってファンからは賛否両論の作品ではあるのだが、アクションシーンのスピード感や迫力、幽助役の北村匠海さんをはじめとしたキャストたちの演技は素晴らしく、知らない人にも「幽☆遊☆白書」の雰囲気が感じられる作品になっている。全5話の実写ドラマとしては良くできているので、興味がある方は原作とは別物であることを踏まえて視聴してほしい。

 30年以上経った今も人々を魅了し続けている「幽☆遊☆白書」には色褪せない確かな魅力が詰まっている。マンガ、アニメ、ドラマなどが気軽に触れられる今こそ、あらためて多くの人々に影響を与えたこの作品をみて、冨樫義博氏の世界を感じてみてほしい。