特別企画

影の薄い“持たざる者”が光と出逢い、唯一無二の天才たちとぶつかっていく「黒子のバスケ」1巻発売より本日で15周年

【「黒子のバスケ」第1巻】

2009年4月3日 発売

 2009年4月3日にコミックス第1巻が発売された「黒子のバスケ」が、本日15周年を迎えた。本作は集英社の刊行する「週刊少年ジャンプ」にて、漫画家の藤巻忠俊氏のデビュー作として2009年から2014年にかけて連載されたスポーツマンガ。その名の通りバスケットボールを題材にしており、中学バスケット界にて伝説的に語られた超強豪校・帝光中学で幻の6人目(シックスマン)と呼ばれた黒子テツヤと、彼とタッグを組む才能の原石・火神大我の2人を主人公として物語を展開する。

 黒子と火神は日本一になることを目指し、帝光中学を伝説たらしめた5人の天才・キセキの世代を擁する各高校との対決に臨んでいく。連載当時から読者人気の高かった本作は2012年からTVアニメシリーズがスタートし、2015年にかけて第3期を制作。また、本誌連載の後日談となる「EXTRA GAME」の内容が劇場作品として公開された。

【「劇場版 黒子のバスケ LAST GAME」ロングPV】

それぞれが無敵の技を持つ作品の中核“キセキの世代”

 本作の数多ある魅力をあえて一言で表すなら、やはりキセキの世代の強固なキャラクター性が挙がる。物語の中核には常に彼らの存在があり、帝光中学の関係者には名前に色が使われて(“黒”子テツヤ、“青”峰大輝など)いて、作品を読んでいくと直感的にスペシャルな存在であることが理解できるようになっている。

 その強烈なキャラクター性を支えているのが、それぞれが身につけた必殺技とも言える無敵の個人技。「どんな距離からもスリーポイントシュートを外さない」、「並外れた身長とパワー、恵まれたフィジカルによるアドバンテージを押しつけるようなプレー」など、バスケットボールという競技の特性上「それができたら最強じゃん」という要素を盛り込んだものとなっている。ここからは、そんなキセキの世代を含むメインキャラクターたちを紹介しよう。

黒子テツヤ

 新進気鋭のバスケ部がある誠凛高校に入学した1年生。優れた身体能力やセンスを持つことなく、ミスディレクションという技術を活かしたパス回しを極めたことで「帝光中学幻の6人目」として活躍し、キセキの世代の5人からも一目置かれる存在。普段から影が薄く、目の前にいるのに他人に気づかれないということもしばしば。物静かで大人しい印象だが、その内には誰よりも強い闘争心を秘めている。

火神大我

 黒子と同じ誠凛高校1年生。ポジションはPF(パワーフォワード)。バスケの本場・アメリカからの帰国子女で、物語当初はレベルの低い日本のバスケに飽き飽きしていた。キセキの世代と比べても遜色のない才能の持ち主であり、自身が全力でぶつかっていける彼らとの試合を経て、その可能性を開花させていく。大雑把な性格で、アメリカ暮らしの影響もあり敬語が苦手な一面も。育ち盛りの大食漢で、山盛りのハンバーガーを食べるシーンが印象的。

黄瀬涼太

 神奈川の強豪・海常高校に入学したキセキの世代のひとり。ポジションはSF(スモールフォワード)。中学2年生からバスケを始めたにも関わらず、キセキの世代に名を連ねるセンスの持ち主。そのポテンシャルの高さにより、一度見た相手の動きや技を即座に自分のものとする「模倣(コピー)」を武器としている。ファッションモデルとしても活動しており、オープンで人懐っこい性格。

緑間真太郎

 秀徳高校に入学したキセキの世代のひとりで、帝光時代は副主将を務めていた。ポジションはSG(シューティングガード)。「シュートはより遠くから決めてこそ価値がある」という美学を持ち、スリーポイントシュートに絶対の自信を持っている。「人事を尽くして天命を待つ」が座右の銘で、バスケ中以外は常にバンテージで指を保護するなど徹底している。また作中のテレビ番組「おは朝」の占いを欠かさずチェックし、ラッキーアイテムを持ち歩くといったお茶目な側面も。

青峰大輝

 桐皇学園高校に入学したキセキの世代のひとり。ポジションはPF。元々は純粋にバスケを楽しむ性格だったが、キセキの世代ではいち早くその素質を開花させ、自身のあまりの強さに対戦相手がやる気を失ってしまったことがきっかけとなり、練習や試合をサボるようになった。ストリート仕込みの「型のないバスケ」が持ち味で、ディフェンスをものともせずどんな体勢からでも点を取ることができる。帝光時代は黒子の相棒とも言える存在で、黒子と火神にとっては特別な意味を持つライバル。

紫原敦

 秋田の陽泉高校に進学したキセキの世代のひとり。ポジションはC(センター)。208cmという恵まれた体格と、その長身から生み出されるパワー、また瞬発力や敏捷性までも備えており、バスケプレーヤーとして絶対的なフィジカルを有する。マイペースな性格で、間延びした喋り方や子どもっぽい言動が目立つ。お菓子が好きで常に携帯している。

赤司征十郎

 インターハイとウィンターカップ、高校バスケ界の全国大会で最多優勝数を誇る京都の古豪・洛山高校に進学したキセキの世代のひとり。ポジションはPG(ポイントガード)。

 帝光時代は主将を務めた。日本屈指の名家に生を受け、父親から苛烈な英才教育を受けるなかで、別人格とも呼べる存在が芽生えつつあったなか、とある出来事をきっかけにその別人格が確立してしまった。対戦相手の呼吸や筋肉の動きに至るまであらゆる情報を把握し、また圧倒的な視野の広さも備えた「天帝の眼(エンペラーアイ)」の持ち主。自身の判断力や反射神経とあいまって、まるで未来を見通しているかのようなゲームメイクを武器とする。

作品を一貫する命題「才能の肯定と否定」

 紹介したように、本作におけるキャラクター性はバスケプレーヤーとしての才能と密接な関わりを見せる。事実、バスケは「個人技の競技」と言われることもあるほど、選手個人のフィジカルや運動能力が強さに直結しやすいスポーツだ。類まれなる才能が突如覚醒し、その大きさに翻弄されながら何かがこじれてしまったキセキの世代たち。そこに勝利を至上とする帝光中学の方針が組み合わさり、生まれてしまった悲劇が本作のオリジンとしてある。

 黒子はそんなキセキの世代や帝光中学の方針に異を唱え、彼らに勝つことでその間違いを証明しようとする。本作のテーマは、「才能の肯定と否定」にあると筆者は思っている。それを描くうえで、学校での体育の授業や部活動などで、絶対的な体格や運動能力の差を感じたことのある人が多いと思われるバスケというスポーツは物語を描く上で最適ではないだろうか。

作中では、中学時代に燦然と輝くキセキの世代と渡り合いながら、その光の強さに霞んでしまった天才たち「無冠の五将」も登場する。誠凛高校にはボールを鷲掴みできるほどの大きな手によって、相手の動きを見てからパスルートを変更できる「後出しの権利」の持ち主・“鉄心”木吉鉄平が所属する

「黒子のバスケ」が生み出した説得力と新しさ

 ここからは、マンガ表現として筆者がユニークだと感じた要素について言及したい。まずはなんといっても、黒子が駆使する技術・ミスディレクションについてだ。作中でも説明されているように、そもそもミスディレクションとは手品などに用いられる手法。目立つものや動くもの、人間がつい目で追ってしまうものを利用して視線を誘導し、ひいては人の意識が向く先に指向性を与えるといったものになっている。

 バスケという競技において、プレーヤーが最も注目するのはボールだ。そのボールを利用して相手の視線を誘導し、いつの間にか効果的なパスを通しているという黒子の技には一定の説得力と新しさがある。また、確かに強力なスキルではあるものの、ひとりで強敵に太刀打ちできるものではないという塩梅も、読者の共感や感情移入を誘うのではないだろうか。火神という相棒との密接な関係性が構築できる点でも、人気の高いバディものとしての側面を引き立てている。

 また、筆者の印象に強く残っているのは、黄瀬の有する能力「模倣」の扱いだ。この手のコピー能力を持つキャラクターは、その特性的に主人公たちが超える壁として終始する例が多く、また強く描きにくそうなイメージがある。事実、本作においても黄瀬は、当初キセキの世代の技をコピーすることはできないという制限がかけられていた。自身の身体能力や技術を超えるコピーはできないというものだったが、例えば青峰の敏捷性を再現するために黄瀬は緩急を駆使し、体感的にほぼ同等の技を再現する「完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)」を生み出した。またキセキの世代のなかでも黄瀬は経験が浅く、「完全無欠の模倣」は負荷がかかるため使える時間に限りがあるという点もスポーツマンガならではのバランスの取り方だったように思う。

 そのほか、色と関連付けてキャラクターのイメージを確立する手法の妙や、スポーツ選手がパフォーマンスを最大限に発揮できる状態の「ゾーン」に突入した際の目に稲妻が宿ったような描写など、いち読者として唸らされたユニークポイントは数多くある。「黒子のバスケ」を読んだことがある方も、まだ読んだことがない方も、この15周年の節目にぜひ触れてみてほしい。