特別企画

「ぐりとぐら」を筆頭に作品や”仕事場”を味わえる「山脇百合子の仕事部屋」展がジブリ美術館にて開催!内覧フォトレポート

【「山脇百合子の仕事部屋」展】
会期:2025年11月19日~2027年5月(予定)
会場:三鷹の森ジブリ美術館
料金:
大人・大学生 1,000円
高校・中学生 700円
小学生 400円
幼児(4歳以上) 100円
4子未満 無料

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 三鷹の森ジブリ美術館は、2025年11月19日より2027年5月(予定)までの間、三鷹の森ジブリ美術館企画展示として「山脇百合子の仕事部屋」展を開催する。

 山脇百合子さんは「ぐりとぐら」の絵本を手がけた、絵本作家であり挿絵画家、翻訳家だ。この企画展示では、そんな彼女が手がけてきた数多くの”仕事”の世界を垣間見ることができる。

 この展示会では、山本百合子さんの仕事部屋を事細かく再現したスペースのほか、「ぐりとぐら」を始めとした山本百合子さんが手がけた作品が見られるだけでなく、膨大な数のスケッチや手紙魔だった山本さんが友人や知人とやりとりを繰り返した数百にものぼる手紙の一部公開、さらには子供のために作成した時間割といったものなどが飾られている。その種類や量が非常に多いため、他の展示会と比べてスペースは少々狭いものの内容的には引けを取らないものとなっていた。

 開催に先駆けて11月18日にメディア向け内覧会が行なわれたので、内覧会で実施された会見の模様と、展示内容を紹介していこう。

「山脇百合子の仕事部屋」展開催のきっかけは、「となりのトトロ」だった

 会見に参加したのは三鷹の森ジブリ美術館 館長の安西香月氏と、協賛各社として招かれた日清製粉グループ本社執行役員総務本部広報部長の安達令子氏、ローソンエンタテインメント代表取締役社長の野口透氏、日本テレビ放送網取締役専務執行役員の澤桂一氏。

フォトセッションでは、安西氏ほか協賛各社の3名が揃ってオープニングを飾った

 壇上に立った館長の安西さんは、スタジオジブリが山本百合子さんとお付き合いするきっかけとなったことについて、「となりのトトロ」制作時に子供が歌えるうたが欲しいという思いから彼女の姉である中川李枝子さんに作詞をお願いしたことが最初だったと説明。それ以降、百合子さん李枝子さん姉妹とは長きに渡り親交が続いていたが、ジブリ美術館建設中の2000年に山脇百合子さんの自宅を訪問し、そこで仕事部屋を見せてもらったことが今回の展示会に繋がったと安西さん。このときに、いつかはこの部屋を飾れると良いかもと思っていたのが、今回山脇家の方々の協力を得ることができて展示会が実現したとのことだった。

開催理由や見所を語ってくれた、三鷹の森ジブリ美術館 館長の安西氏

山本百合子さんの世界が凝縮された展示内容は、一度では満足できないほどの量に

 展示会は展示物が非常に多岐にわたるため、館内全体を使用しての展示となっている。置かれている作品や資料なども膨大な数に上るため、一度で見切るのはほぼ不可能なほど。以下では、それら展示物の中から注目したい部分を中心に写真で紹介してみた。入りきっていない作品なども数多いが、それらに関してはぜひとも現地を訪れて眺めてみてほしい。

 展示室第1室では、山本百合子さんが実際に使用していた仕事部屋を再現。愛用品や蔵書、机の上の道具といったものまで、そっくりそのままになっている。机上スペースが一見すると狭そうだが、ここは作業内容に合わせて周りを片付けるなどして広さを変えていたそうだ。

それほど広くない部屋スペースに、さまざまな道具などがみっちりと詰まっている山本百合子さんさんの仕事部屋。飾ってある本や資料なども、当時の部屋そのままとなっている。実際に目にすると、筆者と同じくその圧倒的な物量に驚かされる
蔵書に関しては、古いものは中学時代の頃に読んでいたものもある。“我が最高の書”と書かれて額縁内に展示されていたのは、「ハイジ」だった
同室には、かの絵本「ぐりとぐら」の展示や、姉の中川李枝子さんが書いた「いやいやえん」に描いた挿絵も。また、山本百合子さんの生い立ちからデビューまでが綴られた資料も掲示されている

 展示室第2室では、仕事の絵だけでなく子供たちのために描いた絵や、自身の趣味で取り組まれた作品、心を込めて書いた手紙などの、人柄が感じられる多数の絵などが紹介されている。なかでも友人や知人、家族などとやりとりした手紙の多さに驚かされたが、山本百合子さんは手紙や連絡があると、それを“借金が来た”と表現し、早く返さないといけないから即座に手紙での返信が届くんです、と館長の安西さんが解説してくれた。

こちらは、文通相手とやりとりしていた手紙の一部で、取り上げられているのは友人代表の横溝みさ子さん。2人の間には、お互いにしか見えない“イマジナリーきつね”が登場し、さまざまに話を盛りあげていた。やりとりした手紙の数は、500通を超えるとのこと
月間の育児雑誌「クーヨン」の付録“すくすく身長計”のために描かれたイラストや、日本交通公社が毎月発売していた時刻表の宣伝広告イラストなども展示されている。展示期間が1年以上に及ぶことから、資料のほとんどは複製を作って飾っているそうだ
子供時代に描いたイラストも多数展示されている。ちょっとしたコメントが裏に書かれているため、当時の情報も得ることができる貴重な資料だ。これも、複製を作ることで両面を見せることができたとのこと
子供のために、カレンダーや時間割なども描いてあげていた。時間割には、山本百合子さんの絵にいつも登場するうさぎやねこ、いぬがランドセルを背負った姿で登場している。「スヌーピー」や「のらくろ」といったキャラクターも見えるが、それらも上手で思わず感心のため息が出たほど
完成した絵を見るとサラリと描いていそうだが、実はそこに至るまでに数多くのスケッチなどを行なっていたことがわかるコーナーも。これに関しては、以前に中川李枝子さんと宮崎駿監督の対談時に、李枝子さんが「百合子は絵を描くときにスケッチを毎回丹念に行って絵本を描くんですよ」と発言したところ、監督は「あの絵で!?」と失礼ながら言ったそうだ。「あの絵で」とは裏腹なくらいにスケッチの量がたくさんあり、スケッチも非常に上手だと、館長の安西さんが教えてくれた。
山本百合子さんが自ら製作したステンシルやはんこ、版画、編み物、刺しゅう、パッチワークキルトといった手芸作品なども展示されている
並べられたイラストを見ると、子供の感覚や行動をとても良く理解して絵に起こしているのが分かる。子育てをした人ならば、彼女の絵に子供時代とは違った理解を示すことができるだろう
通路には、年代別に分けられた仕事の歴史が綴られている。これを見ても、多数の仕事を引き受けてきたのがわかるというもの

 絵本作家として有名な山本百合子さんだが、それ以外の仕事や趣味の世界、筆まめな性格など、絵本を読んでいるだけでは知ることができない一面を改めて発見することができる今回の展示会。展示されている物量もすさまじく、そのほとんどに解説も書かれているため、ジックリ見て回るのであれば何度も現地へ足を運ぶ必要があるだろう。シンプルな絵に見えるが、それを描くために多数のスケッチを重ねているなど、あまり表からは見えない部分などを知ることができるのも良き部分だ。

 展示会場へと赴き山本百合子さん独特の感性に触れることで、絵を描くことが好きな人であれば一皮むけるかもしれない。そうではなくても、絵本「ぐりとぐら」などで興味を抱いた人なら、一日中展示物を見て回っていても間違いなく楽しめる。開催期間も長いので、都合の合うタイミングで何度も訪ねてみるのがオススメだ。