特別企画
「バクマン。」が16周年! 二人の少年がコンビを組んで漫画家を目指していく物語と純愛が織り成す青春マンガ
2025年1月5日 00:00
- 【「バクマン。」1巻】
- 2009年1月5日 発売
2025年1月5日、マンガ「バクマン。」の単行本1巻の発売日から16年が経った。
原作・大場つぐみ氏、作画・小畑健氏というタッグの作品で、同タッグはマンガ「DEATH NOTE(デスノート)」に続く2作目となる。
本作が連載されていたのは、集英社のマンガ雑誌「週刊少年ジャンプ」。主人公は、絵の才能を持った真城最高(ましろもりたか・通称サイコー)と、学年1位の優等生である高木秋人(たかぎあきと・通称シュージン)というふたりの少年が、コンビを組み漫画家を目指していくまでと、漫画家デビューしてからの物語を描いている。
単行本は全20巻で、全世界累計発行部数1,500万部以上を売り上げた。2010年10月にはテレビアニメが、2015年10月には佐藤 健さん・神木 隆之介さんのW主演で実写映画化が、2021年5月には鈴木 拡樹さん・荒牧 慶彦さんのW主演で「『バクマン。』THE STAGE」と多方面にメディア展開している。
リアリティをとことん追求したマンガに
ジャンプで連載するための過程や読者アンケートに関することなどが、実際のジャンプ編集部をモデルに描かれているのが、本作の一番の特徴だ。
例えばセリフの中でも、集英社の「週刊少年ジャンプ」、「ONE PIECE」、「銀魂」、「BLEACH」、「NARUTO」、「ドラゴンボール」などと多くの作品名がそのまま登場している他、「巨人の星」(講談社)の「男なら死ぬときはたとえドブの中でも前のめりに死ね」という台詞や、「あしたのジョー」(講談社)の矢吹丈の名シーンなど、他社のマンガ作品のタイトル名も多数登場している。
さらに本作では、週刊少年ジャンプ特有のシステムである読者アンケートの話や、読者からの評価による打ち切り、専属契約制度についても詳しく説明されており、週刊少年ジャンプの話が忠実に描かれているのだ。
忠実に描かれているとは言っても、最高と秋人の物語は比較的順風満帆に進んでいく。高校受験を間近に控えた中学3年生のふたりが、いくら絵がとてもうまく、文才に長けていようと、そんなすぐに漫画家デビューして、同年代のライバルが現われ週刊少年ジャンプ紙面上で切磋琢磨して、テレビアニメ化して……と、そんなにうまくいくはずはない、というツッコミはもちろんあるのだが、本作は週刊少年ジャンプのターゲットである小中高生はもちろんのこと、大人にとっても「夢を与える」作品だったと思う。
最高と秋人は、ペンネーム「亜城木夢叶(あしろぎむと)」として漫画家デビューを果たすが、同じく大場つぐみ氏と小畑健氏がタッグを組んで連載された「DEATH NOTE」の時と同様に、デビューを果たすまでの過程、デビューしてからの苦悩など、非常に各話の密度が高く、テンポ良く展開していき、なんとなく展開は見えていつつも、グイグイと引き込まれてしまう強さがあった。
最高のおじさんが週刊少年ジャンプでかつて連載していた売れない漫画家で(故人)、そのおじさんの仕事場をそのままもらってマンガの勉強を重ねていく、という序盤の展開などは、前述の通り、ややできすぎ感はあるのだが、そういった境遇も含め、最高はおじさんの背中を見て漫画家の苦労を知っているからこそ、「本気で漫画家を目指す」と覚悟を決めるシーンも熱かった。
絵は、小畑氏が得意とするリアリティのある画風だが、「DEATH NOTE」の時に比べると若干画風がマンガ寄りになっている。しかし小畑氏の美麗な作画は素晴らしく、最高と秋人というふたりの主人公以外のキャラクターたちも、実に丁寧に描かれていた。物語はもちろんのこと、小畑氏の絵に心を掴まれて最後まで読み進めた、という人も多かったのではないだろうか。
筆者のお気に入りは、ヒロインの亜豆美保(あずきみほ)。最高が想いを寄せている最高と秋人の同級生だが、「こんな可愛い子が現実にいたらみんな好きになっちゃうよ」というくらいに可愛い。最高の目から見た時の亜豆はとてもキラキラとしていて、これはまさに小畑氏の作画ならではのヒロインだと感じられる。
もちろん性格や見た目など、「いや、俺は見吉派だった」など各読者によって色々あるとは思うが、筆者はやっぱり女の子の中でもひときわ輝いている亜豆が大好きなのである。
最高と亜豆のウブすぎる純愛もよかった
「バクマン。」は、基本的に漫画家の物語ではあるが、その裏で最高と亜豆の恋愛ストーリーも進行していた。
……いや、正確には進行はあまりしていないのだが、常にお互いにお互いを想い合う恋心があった。
亜豆は、とても恥ずかしがり屋で、基本的に常に女子と一緒にいるようなタイプの女の子だが、実は声優を目指していて、ボイトレやダンス教室などに通っている。
最高がそっと誰にも気づかれないように亜豆のことを好きだったように、実は、亜豆も最高に惹かれていた。……教室でもまともに会話すらしたことがないのに裏で想い合っていたというのはこれまたできすぎ感があるが、ふたりが互いに惹かれ合っているだろうことに気付いていた秋人によって、ふたりは半ば強引に互いへの想いを告白しあい、「最高と秋人が描いた漫画がアニメ化したら亜豆がそのヒロイン役を担当して、その時に結婚する。結婚するまではメールだけで励まし合い、一切会わない」という約束を交わし合うのだが……、いやいやいや、どんな純愛か。(裏手ツッコミ)
このふたりの純愛、本当に純粋すぎて、筆者の穢れた心では「あるわけないでしょ」とも思うのだが、マンガだからこそこんな純愛が貫かれてもいいのではないかと思ってしまう。
もちろん、ふたりの純愛の裏には、お互いが「漫画家になる」、「声優になる」という通常ではなかなか成し得ない大きな夢があり、「恋愛に現を抜かすことで夢がかなわないなんてことだけは避けなければならない」、つまりは“恋より夢”ではあるのだが、実際に夢を持ってこうして物書きなんていう仕事に就いている筆者からすると、「わからなくないんだよな~」という思いに駆られてしまうのだ。筆者はこんなストイックにはなれないですが。
ちなみにこの純愛、最高が過労で倒れて入院した時と、共通の友人である見吉香耶と秋人の結婚式を除いて、本当に中学を卒業した後、ふたりが直接会う事は無かった。
なお、声優デビューを果たした亜豆は人気声優となるが、その結果が最高との仲をスクープされてしまい、ファンから盛大に叩かれてしまう。それでも「恥ずべきことはしていない」と最高との純愛を自らの口から語った亜豆の姿には、「立派に成長したね……」と涙ぐんだものだ。
最終話で最高からのプロポーズを受け入れ、これからはずっと一緒にいることを誓ったふたり、というエンディングはある種「バクマン。」が始まった時から見えていたものだったが、本作は終わりを見るマンガではなく過程を見るマンガだったと思っている筆者には、無事大団円で終わったことに、ほっとした。
様々なメディアミックスも話題に
2015年10月には佐藤 健さん・神木 隆之介さんのW主演で実写映画化が公開された本作だが、キャストが発表された時、誰しもが神木さんが最高役で、佐藤さんが秋人役だと思い込んでいた。しかし、よくよくリリースを見てみると、神木さんが秋人役で、佐藤さんが最高役だったことから、SNS上などでは「配役が逆では!?」と話題になった。
実際筆者も「これは神木さんが最高役でしょ……」と思ったのだが、意外と実際に見てみると「この配役はこれはこれで良かったかもしれない」という感想を持った。
早口で漫画家を目指す夢をまくしたてる秋人の姿を見事に演じてくれた神木さん、そんな秋人に冷たい態度を取るちょっとクールぶっている佐藤さんのコンビが、とてもうまく噛み合っていて、当初疑いながら見ていた原作ファンも、どんどん引き込まれていったのではないだろうか。
実力派俳優ふたりがW主演ということもあり、ふたりが描くコントラストにすっぽりハマってしまった人もいるはずだ。
そして2021年5月には鈴木 拡樹さん・荒牧 慶彦さんのW主演で舞台「『バクマン。』THE STAGE」も行なわれた。
鈴木さんは「舞台『刀剣乱舞』虚伝 燃ゆる本能寺」にて主演の三日月宗近役など、荒牧さんは舞台「憂国のモリアーティ」シリーズにて主演のウィリアム・ジェームズ・モリアーティ役を務めるなど、ふたりとも超人気の2.5次元を中心に活躍する俳優だ。こちらも演技力には折り紙付きのふたりとあって、実に良い最高と秋人のふたりを見せてもらった。(ちなみに舞台版のほうは亜豆が登場しないのは残念だった……一応居るには居るのだがキャスティングはされていない)
最初から最後まで「最高と亜豆が結婚するために、全員で全力で夢を叶えに行く」というスタンスの作品だが、根底にあるのは努力と根性で、「やっぱり夢を叶えるために必要な現実ってこれなんだよな~」としみじみ実感させられる作品となっている。逆に言うと、叶えたい夢があったのに叶えられなかった人にとっては少々酷な内容ではあるかもしれないが、「バクマン。」の連載が始まってから週刊少年ジャンプへの持ち込みに若者層が増えたという事実もあるため、夢を追い求める人にこそ、この作品に触れてみてほしい。