特別企画
「コミックシーモア」20周年記念! NTTソルマーレ主催の「電子書籍事業戦略」発表会をレポート
「想いとテクノロジーにより、マンガ熱を拡げていく」事業戦略とは
2024年9月5日 22:23
- 【エヌ・ティ・ティ・ソルマーレ 電子書籍事業戦略発表会】
- 9月5日 開催
- 会場:ベクトルスタジオ(赤坂ガーデンシティ18F)
エヌ・ティ・ティ・ソルマーレ(以下、NTTソルマーレ)は電子書籍サイト「コミックシーモア」のサービス創立20周年を記念して、電子書籍事業戦略発表会をベクトルスタジオ(赤坂ガーデンシティ18F)にて9月5日に開催した。
本発表会では、NTTソルマーレ代表取締役社長・朝日利彰氏が登壇し、「コミックシーモア」のこれまでの事業の変遷と戦略、今後の展望について語った。
また、NTTソルマーレから電子書籍事業部の炭田真也氏とライツビジネス部門部長の平井雅人氏、KADOKAWAからはデジタル営業局局長の芦尚文氏とグローバル電子書籍事業室室長の栗本直彦氏が登壇し、両社のビジネスにおける関係性や協業事例について語るトークセッションも設けられた。本記事ではその様子をレポートしていく。
「想いとテクノロジーにより、マンガ熱を拡げていく」電子書籍事業戦略
まずは、NTTソルマーレ代表取締役社長の朝日利彰氏による主催者挨拶がなされた。朝日氏はNTTソルマーレがNTT西日本の子会社から始まったことに触れつつ、電子書籍事業の中心となる「コミックシーモア」を支えているユーザーへの感謝を述べた。
それとともに、これまでは子会社として事業にまつわる具体的な数字を公表していなかったが、今後はメディアと関係性を深く持ち透明性を高め、業界の発展と自社の成長に繋げていきたいと本発表会を開催した意図について言及し、開会の挨拶とした。
本題となる事業戦略発表では、スライドを交えながら昨今のコミック市場の動向や「コミックシーモア」の実績が語られた。スマホの普及に伴い右肩上がりで拡大している電子書籍市場において、電子コミックはその中でも特に好調である。朝日氏は“異世界もの”に代表される多種多様なジャンルの発展や“推し活”文化の普及などから、日本のマンガを「ネオガラパゴス」化しているとし、コミック市場の盛り上がりに言及した。
また、初公開の数字として、「コミックシーモア」を含む電子書籍事業が2024年度3月期に売り上げ812億円を達成したことを発表した。ケータイの黎明期からトップランナーとして電子書籍業界を牽引してきたと自負するNTTソルマーレは、全米最大級のデジタルマンガストア「Manga Plaza」を開設するなど、海外発信にも意欲を見せている。
電子書籍事業への取り組みについても言及された。「コミックシーモア」では顧客と作品とのマッチングとパーソナライズ、それに合わせたプロモーションの最大化が重視されているという。朝日氏は施策の1つとして、特集「あなたの青春タイムマシン」を例示。本企画についてマンガに対する思いや当時の思い出を吐露するユーザーの反応を受け、マンガを読むだけでなく作品と出会う楽しさを伝える重要性を再確認できたと語った。
そのほか、「電子コミック大賞」や「オウンドメディア」といった書店の枠を超えユーザーにマンガ熱を広げる施策や、マンガ「家政夫のナギサさん」、「デブとラブと過ちと!」のような幅広いジャンルの創出など、多角的な取り組みが紹介された。
さらに、今後の展望について、「増えていくマンガとの出会いを創出」するためのマッチング強化や“異世界もの”のような新ジャンルの発掘をするといった「電子書店ならではのマンガトレンドの開拓」、「マンガの新たな楽しみ方」としてアニメ・ドラマ化以外のメディア展開の推進をするなど、日本のマンガを世界のメインカルチャーとするための事業展開が提示された。朝日氏は最後に「想いとテクノロジーにより、マンガ熱を拡げていく」を使命とし、これからも邁進していきたいと意気込みを語り、事業戦略発表を締め括った。
NTTソルマーレ×KADOKAWAトークセッション! 出版社と書店の協業によるメリットとは
続くトークセッションでは、NTTソルマーレから電子書籍事業部の炭田真也氏とライツビジネス部門部長の平井雅人氏、KADOKAWAからはデジタル営業局 局長 芦尚文氏と グローバル電子書籍事業室 室長 栗本直彦氏が登壇。「NTTソルマーレとKADOKAWAの関係性」、「出版社と書店の協業」、「海外展開」と大きく分けて3つのテーマについてトークが行なわれた。
まず、「NTTソルマーレとKADOKAWAの関係性」については、炭田氏から「コミックシーモア」サービス開始当初にKADOKAWAより2万冊の許諾を得たことや全巻半額キャンペーンなどの施策がユーザーに好評であったことが語られた。芦氏は、すでに市場では大きなシェアを得ていた「コミックシーモア」との提携に期待が大きかった反面、営業としてはプレッシャーがあったと当時を振り返った。そして大きな取り組みを良いスタートで始められたと当時の喜びを伝えた。
また、炭田氏は近年力を入れている先行配信についても言及。書店販売に先駆けてマンガ作品を「コミックシーモア」で先行配信するというものだが、これは非常に上手くいっているという。その裏付けとして「先行配信によって売り上げが伸びているか」のアンケート結果を提示し、その好調ぶりを明らかにした。
芦氏も、“異世界令嬢もの”など先行配信によって売り上げの出ているものがあるとしつつ、特に大きな効果のあった施策として「コミックシーモア」の特集について触れた。「シーモアスタッフ全力推し!!」特集にラインナップされた「死に戻りの魔法学校生活を、元恋人とプロローグから」は元々ランキング圏外の作品であったにも関わらず、特集の後ランキング1位を獲得したという。また、他書店でも上位にランクインするなど、書店員の情熱が読者に伝わる施策として取り上げられた。
続いて、「出版社と書店の協業」について、NTTソルマーレとKADOKAWAの協業作となる「拝啓見知らぬ旦那様、離婚していただきます」を例に、そのヒットの理由などが掘り下げられた。はじめに芦氏より「悪女の汚名を着せられたヒロインと愛を知らないヒーローの物語」と作品紹介がなされた。女子向け異世界ものを中心としたKADOKAWAのコミックレーベル「FLOS COMIC」はシーモアでも人気ジャンルであったため、親和性があると見込み協業を行なったという。期待通り、本作は連載開始からすぐに総合ランキング1位を記録するなどヒット作となった。
平井氏は協業について、マンガづくりの大部分はプロであるKADOKAWAにまかせつつ、書店としての広告宣伝のノウハウを作品にフィードバックする形で協力したと語った。具体的にはキャラクターの表情を広告映えの良いものにしたり最終ページに次回予告を入れたりするなど、書店の観点からアドバイスをしたという。
これについて、芦氏は宣伝部分までは出版社だけでは追いきれないため「コミックシーモア」のユーザーの近さによるアドバイスは参考になるとし、第2弾「軍神の花嫁」や第3弾「だって望まれない番ですから」に続く第4弾以降についても意欲的な姿勢を見せた。
そして、「海外展開」についてはKADOKAWAの栗本氏が中心となってセッションが進行した。栗本氏は、海外の出版社に翻訳や流通を任せるライセンスアウトだけでなく、自分たちで翻訳した作品を出版したり一部のチャプターを電子書籍のみで先行して配信したりといったデジタルファーストの施策をKADOKAWAで行なっているとした。
それらの取り組みについて、最初は同社の「BOOK☆WALKER GLOBAL」にて展開していたが、次第に「Manga Plaza」をはじめとした電子書店でも展開していったという。先述の「拝啓見知らぬ旦那様、離婚していただきます」の英語版も好調な売れ行きを記録しているとのことで、それを受け炭田氏もKADOKAWAの期待に応えたいと語った。
また、今後の海外展開の展望について、栗本氏は従来のライセンスアウト事業と並行してボーンデジタル作品の国内外でのヒットに期待していると語った。それにより、海外でアニメが受け入れられ原作のコミックが売れるのではなく、「マンガ発のブーム」が国内外で起きることに注目しているとのこと。さらに、その実現のためには日本のマンガの特性に合わせたプラットフォームが必要だとした。
それを受け、炭田氏は「我々も一緒にその流れをつくっていきたい」と協調に前向きな姿勢を見せるとともに、日本の文化をより多くの人に広げていく意気込みを語って、トークセッションを締め括った。
質疑応答では、朝日氏が再び登壇。弊誌からは、既存の客層や今後力を入れていきたいターゲット層についての展望を伺った。朝日氏は、既存の顧客に対しては元々好きなジャンル以外の作品にも触れられるようマッチング・パーソナライズの強化を推進したいとしつつ、新規のターゲット層については若年層のマンガ文化への浸透を課題とし、業界としても重要なテーマとして積極的に取り組んでいきたいと語った。
20周年を迎えた「コミックシーモア」。その節目に行なわれた本発表会では、書店としてのユーザーとの距離の近さを武器に、国内外問わず電子書籍事業に取り組んでいくNTTソルマーレのマンガに対する熱い意気込みを垣間見ることができた。「想いとテクノロジーにより、マンガ熱を拡げていく」をスローガンにこれからもマンガ文化の発展と自社の成長に邁進する、NTTソルマーレの今後の動向が楽しみである。
【9月6日編集部追記】
記事掲載当初、「NTTソルマーレがNTT東日本の子会社から始まった」と記載しておりましたが、正しくは「NTT西日本」でした。ここにお詫びして訂正致します。
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