特別企画
ラノベ出身の「薬屋のひとりごと」マンガ版2作の違いとは?
描かれる表現の違いで魅力倍増。アニメ2期も決定している息の長い話題作を紹介
2024年8月31日 00:00
「薬屋のひとりごと」は2011年から日向夏氏によって連載されているミステリーライトノベル。小説投稿サイトの「小説家になろう」にれ連載され、現在ではイマジカインフォスのヒーロー文庫よりライトノベルとして単行本が発売されている。中国に似た国「茘(りー)」の王宮にある後宮を舞台に、薬屋の主人公「猫猫(マオマオ)」が事件を解決へと導いていく物語だ。
本作は2種類のコミックスも連載中。小学館の「月刊サンデーGX」で倉田三ノ路氏によって「薬屋のひとりごとー猫猫の後宮謎解き手帳ー」、スクウェア・エニックスの「月刊ビッグガンガン」でねこクラゲ氏によって「薬屋のひとりごと」としてコミカライズされている。
2023年には日本テレビ系列にてアニメ化もされ、2025年にはアニメ2期の放送が決定している。アニメ化が発表された際にはどちらのコミカライズ作品がメインになるのかでも話題となった。
今回はライトノベルが話題となり、コミカライズ作品、アニメも話題の息の長い「薬屋のひとりごと」の2作品のコミカライズ作品について少し紹介したい。マンガとして連載される2作品の違いについても言及していく。
なお、本記事では「月刊サンデーGX」で連載中の「薬屋のひとりごとー猫猫の後宮謎解き手帳ー」を サンデー版 、「月刊ビッグガンガン」で連載中の「薬屋のひとりごと」は ガンガン版 として記載する。
人攫いに合い後宮に売られた猫猫による謎解き物語
「薬屋のひとりごと」は身売り商人に拐かされた花街出身の猫猫(マオマオ)が、売られた先の王宮の後宮でさまざまな出来事に巻き込まれていく物語だ。
猫猫が後宮で起きた妃や御子の謎の体調不良の原因を突き止め、忠告文を妃の部屋に投げ込む。この事実を後宮の管理者「壬氏(ジンシ)」に知られたことから、後宮の下女だった猫猫が、皇帝の寵妃玉葉(ギョクヨウ)妃の侍女に抜擢される。
ここから後宮で起こるさまざまな事件に巻き込まれていくことになる。
・ 猫猫(マオマオ)
本作の主人公で後宮に売られた下女。元々は城下町の花街で養父とともに薬屋をしていた。薬と毒に目がなく、自身でさまざまな毒を試すマッドサイエンティストのようなことを繰り返していた。
花街で暮らしていたため、そばかすなどを書き、見た目を醜女にして襲われないようにしていた。年齢の割に性格が達観しており、人付き合いも最低限というドライな一面もある。頭もよく自身の立場や周りのこともよく見えている。
・ 壬氏(ジンシ)
後宮の管理をしている宦官。見目麗しい姿が後宮でも人気であり、中級妃、下級妃、侍女、下女だけでなく文官や武官からも誘われる。猫猫の聡明さを買って、玉葉妃の侍女にする。
・ 玉葉(ギョクヨウ)妃
猫猫のおしろいの忠告を受け入れた寵妃。猫猫に自身の子ども共々救ってもらったという恩を感じ、侍女に迎え入れる。
・ 梨花(リファ)妃
猫猫の忠告を侍女により握りつぶされ、子を亡くし自身も命の危機に瀕した寵妃。その後、猫猫の賢明な看病により回復したことで、猫猫に恩を感じている。
・ 高順(ガオシュン)
壬氏に仕える宦官。とても宦官とは思えない体格の良さが際立つ男性でもある。猫猫を小猫(シャオマオ)と呼んでおり、手のかかる子どものように見ている節がある。
・ 羅漢(ラカン)
猫猫の実父。とても優秀な軍師で人材の発掘に長けているが、少し人とズレており不可思議な言動をする。人の顔の区別がつかない。
同じストーリーでも見え方が少しずつ違うおもしろさ
コミカライズ作品が2作同時に進行している「薬屋のひとりごと」。原作にあたるライトノベルがあるためストーリーに対して大きな差異はなく、キャラクターデザインもライトノベルのイラストを担当するしのとうこ氏のイラストを基に作画されているためあまり違いはない。もちろんコミカライズ版の作画を担当する倉田三ノ路氏、ねこクラゲ氏それぞれの色はあるものの猫猫はどう見ても猫猫で、壬氏や妃たちも大きな見た目の違いはない。
ただ、小説の中から物語を切り出し決められたページ数の中で作品を作り上げる以上、ストーリー上の見せ方や大筋以外のところでピックアップされているシーンが異なることはある。例えば、序盤の玉葉妃と梨花妃が揉めている場面も、大衆の前で揉めているのか、庭の片隅で侍女たちの前で揉めているのか、といった形で異なる。
また、おしろいに含まれる鉛中毒に苦しむ梨花妃を治療するために、サウナを使うくだりのあるなしなど、物語の筋は変わらないものの少しずつ違いがあるのが読み比べていても楽しい。
ちなみに猫猫の性格も2作品で少しだけ違うように見えるのも楽しいと筆者は感じている。同じく梨花妃の鉛中毒のエピソードの中で、病床の梨花妃に禁止されているおしろいを使い続けた侍女を責め立てる猫猫は、ガンガン版では侍女の愚かさに対する怒りが強く感じられ、サンデー版では猫猫の治療するものとしての怒りが強く感じられる印象を受ける。
他のキャラクターたちについても、2つの作品でほんの少しだが印象が違うように感じる。壬氏はガンガン版の方が少し幼い印象があるが、その分人間臭い。サンデー版では隙が無い印象だが、従者の高順や猫猫の前で見せる姿のギャップが物語をおもしろく感じさせてくれる。
猫猫から垣間見える人間臭さがくせになる
筆者が好きなエピソードはいろいろあるが、序盤では梨花妃の鉛中毒の治療から園遊会の辺りのエピソードが好きだ。
ここでは猫猫の感情や考えというものがとてもよく描かれており、特に怒りや自身を含む側仕えの立場に対する思いがよくわかる。
先述したようなおしろいを使い続ける侍女に対する怒りのほかに、園遊会では他の妃の侍女たちが主に対するいじめを遠回しにたしなめることで、命までは取られないように気を使っている。それが猫猫の優しさであり、自分たちがどういう立場にいるのかわきまえている頭の良さも感じられる。何事も深入りせずに、程よい距離感を保とうとする猫猫から強く人間臭さを感じた瞬間でもある。
彼女の中にある薬や毒といった興味、探求心、知識以外のところでの感情が出るのが、壬氏に対する表情以外にもこんなにあるのかと感じられたエピソードだ。
同じ物語で2作品があるが、どちらもオススメだ。同じ内容であっても読み比べてみると表現が違っていたり、切り取られ方が異なるので、それぞれおもしろい。原作の小説に則りつつも漫画家それぞれの色が出ているのもいい。それぞれの作品が物語やキャラクターたちを強烈に感じさせてくれるので、その違いを楽しむのもいいと感じる。
もちろんどちらか気に入った方を読み進めるのもいい。筆者も最初はサンデー版から読み始め、途中で違いが気になりガンガン版にも手を出した。そして迫力満点の猫猫に驚いた。
来年にはアニメ2期もあり、まだまだ話題に昇ってくる本作なので、興味がある方はぜひ手に取って読んでみてほしい。
(C)日向夏/イマジカインフォス