特別企画

ジミヘンが現代に蘇る!? 「SHIORI EXPERIENCE」は読めば読むほど熱くなるバンド漫画

ジミな高校教師とヘンな天才ギタリストが新たな伝説を起こす!

【SHIORI EXPERIENCE】

2013年連載開始

 バンドというと、どのようなイメージがあるだろうか。青春、友情、成功、はたまた方向性の違いから解散など、多くの人間ドラマを想起させる言葉が挙がるかもしれない。

 実際、「QUEEN」を題材にした映画『ボヘミアン・ラプソディ』が世界的大ヒットを記録したように、バンドをエンタメとして取り上げられることも多い。それは、漫画も例外ではない。最近では、『ぼっち・ざ・ろっく!』がアニメ化に伴い若者を中心に大人気を博した。そう、今“バンドもの”ともいうべきジャンルが盛り上がっているのだ。そこで、筆者イチオシのバンド漫画「SHIORI EXPERIENCE(シオリエクスペリエンス)」(長田悠幸作画、町田一八原作、スクウェア・エニックス刊)について紹介したい。

「SHIORI EXPERIENCE」ってどんな漫画?

 「SHIORI EXPERIENCE~ジミなわたしとヘンなおじさん~」は長田悠幸(作画)と町田一八(原作)のタッグにより、月刊ビックガンガンにて2013年から連載中の漫画。単行本は2024年現在、21巻まで発売されている。

【SHIORI EXPERIENCE】

【あらすじ】
ある日、地味で取り柄のない27歳の高校教師、本田紫織にギターの神様とも称されるギタリスト、ジミ・ヘンドリクスの霊が取り憑き彼女の生活は一変した。ジミとの出会いによってかつて失った音楽への情熱を取り戻したのも束の間、「27歳までに伝説を残せなければ死ぬ」という呪いをかけられてしまったことが発覚。紫織は自身の勤める学校の生徒を中心にバンドを結成し、日本一のバンドを決めるコンテスト「Bridge to Legend」で優勝することで伝説を作ることに。果たして紫織は27歳が終わるこの1年で伝説を残せるのか?

 高校生たちと仲良くバンド活動をしていくだけのお話と侮るなかれ。音楽の“産みの苦しみ”や本気で頂点を目指すための努力など、バンドというものに対して真摯に向き合う主人公たちの姿勢こそが本作の魅力だ。

 その泥臭いとすら思えるストーリーは、どこかスポ根漫画のような熱をも感じさせる。「もし“ジミヘン”が現代にいたら?」というブっとんだ設定もさることながら、そのインパクトに負けない主人公たちの活躍から目が離せない。

作品を彩る登場人物たち

 バンドで大事なのは、やはりバンドメンバーだろう。ここでは主人公である紫織とその個性豊かな仲間たちについて簡単に紹介する。

・本田紫織(ほんだ しおり)

【本田紫織(ほんだ しおり)】

本作の主人公。高校の英語教師をしている。元々ギターを弾いていたがバンド活動をしていた兄の出奔を機に音楽をやめ、平凡な暮らしを送っていた。ひょんなことからジミ・ヘンドリクスの亡霊と共に、27歳が終わるまでに伝説を残すという目標を持ちバンドを結成。一見ただの地味なアラサーだが、時に大胆な行動で人を惹きつける。愚直なまでに己の筋を通そうとするロック精神に、読み進めるほど痺れること間違いなし。

・ジミ・ヘンドリクス

【ジミ・ヘンドリクス】

 言わずと知れた伝説的ギタリスト。本作では「超絶的な演奏技術を得る代わりに、27歳までに伝説を残せないと死ぬ」契約を課す“CROSS ROAD”の番人として登場する幽霊。死後もギターが弾けるというだけで番人になるほどのギター好きで、所構わず紫織の体を乗っ取り演奏しようとする。紫織からはヘンなおじさんと呼ばれるも、バンド活動を通してギターの深みにハマっていくにつれ、彼女から師事されるように。特徴的なシルエットとコミカルな言動、そして時折見せるミュージシャンとしての真剣な表情が魅力のキャラクターだ。

・井鈴茜(いすず あかね)

【井鈴茜(いすず あかね)】

 サックス担当。吹奏楽部の落ちこぼれで、部を追われ音楽を諦めようとしていたところを紫織に救われてバンドに加入。一人目のメンバーとなった。バンド活動をするために創設した軽音部では部長に選ばれ、まとめ役として奮闘する。明るく温和な人柄方仲間に慕われているものの、周囲の顔色をうかがう癖、他のメンバーに比べ演奏技術が低いことを気にしている。その苦悩はバンドの一大事に発展し…

・台場初範(だいば はつのり)

【台場初範(だいば はつのり)】

 ドラム担当。野球部の主将で4番と学校のヒーロー的立ち位置にあり、ドラム演奏やジミの曲が好きなことを周囲に隠していた。野球部の監督でもある父に将来を期待されていたものの、全力で好きなことをやる紫織たちのバンド活動に感化され、軽音部へと転部する。元野球部らしくガッツの効いた言動でメンバーを焚きつける姿が魅力。

・川崎忍(かわさき しのぶ)

【川崎忍(かわさき しのぶ)】

 キーボード担当。オカルト好きで変わった言動が特徴の女子高生。契約者以外には見えないはずのジミのことが見える。後にメンバーとなる五月とは小学校からの付き合いで、ある事件を境に疎遠となってしまったが、彼女のことを気にかけていた。作中ではトリッキーな動きが多く、読んでいて楽しいキャラクター。

・目黒五月(めぐろ さつき)

【目黒五月(めぐろ さつき)】

 ボーカル担当。元々は学外で別のバンドを組んでいたが、忍との和解をきっかけに紫織たちのバンドに合流。その歌唱力の高さはジミをして「COOL」と言わしめるほど。素直になれない性格で、周りと衝突することも少なくないが、内に秘めた情熱は誰にも負けない。

・プリンス / 八王子 茂(はちおうじ しげる)

【プリンス / 八王子茂(はちおうじ しげる)】

 ベース担当。井鈴に次ぐ三人目のメンバーとして軽音部に入ったものの、初舞台で逃げ出してしまう。その後しばらくしてから太った姿で再登場し改めてバンドメンバーになった。ふざけた言動と派手な服装をしているが、根は繊細。

「SHIORI EXPERIENCE」の魅力を語る上で欠かせない3つのポイント

ポイント1:音楽×人間ドラマ

 音楽を題材にしている本作では、エピソードごとにテーマとなる曲が存在する。その曲と登場人物たちの織りなす人間ドラマがこの漫画の魅力の一つだ。

 例えば、3巻に収録されているボーカルの目黒五月とキーボードの川崎忍の確執を描いた話では、『デイ・ドリーム・ビリーバー』がキーとなる。この曲はセブンイレブンのCMにも使われるなど、誰もが一度は耳にしたことのある名曲だ。それを二人の関係性にうまく当てはめて作中に登場させている。

 昔は親友同士だった二人だが、暴力事件を起こして以降、五月は忍から離れてしまった。しかし、忍は五月を待ち続け、思い出の曲である『デイ・ドリーム・ビリーバー』をバンドで演奏することを決める。「もう今は 彼女はどこにもいない」と幸せだったあの頃に想いを馳せるこの曲の歌詞は、そんな二人のすれ違いや思い出と絶妙にマッチしているのだ。

筆者お気に入りの第3巻。メンバーが揃って物語が本格的に動き出す

 『デイ・ドリーム・ビリーバー』はその後も紫織たちの十八番カバーとして度々登場する。その度にこのエピソードを思い出し目頭が熱くなってしまう。原曲ではなく「ザ・タイマーズ」の和訳盤というのもニクい演出だ。子供の頃から慣れ親しんだフレーズで、ここまで心を掴まれるとは思わなかった。

 他にも作品オリジナルの曲や洋楽・邦楽問わず様々な楽曲が話の軸となり物語が展開する。読後はそのシーンを思い浮かべながら登場した楽曲を実際に聴いてみるのも面白いだろう。筆者はこの作品を読んだ後しばらく、ジミヘンの『Purple Haze』ばかり聴いていたとかいないとか。

マンガUP!では一部のエピソードと楽曲を掛け合わせた特別読み切りが掲載

ポイント2:音楽を絵で伝える力

 ここまでの紹介を読んでいて、このように感じた人はいないだろうか。「漫画から音は出ないのだから、作中の音楽がどれほど素晴らしいかは想像するしかない」と。実際その通りではある。しかし、『シオリエクスペリエンス』は、“音楽を聴いた時の感動”を絵で表現しようとするのだ。

 音楽を聴いた時、「鳥肌が立った」「視界が一気に開けるような感じがした」「何かに打ち抜かれるような感覚に陥った」といった具合に、その感動や衝撃を言葉で表すことはできる。だが、それだけではまだまだイメージがつきにくいだろう。これを本作ではド迫力の絵によって、よりリアルに感じさせてくれる。

聴衆一人一人に刺さるような音のイメージをプラグに準えて表現している

ポイント3:ジミヘンだけじゃない!伝説のミュージシャン大集合

 本作ではメインとなるジミ・ヘンドリクス以外にも著名なミュージシャンたちが“CROSS ROAD”の番人として登場する。

 その中の一人が大人気ロックバンド「NIRVANA」のボーカル、カート・コバーンだ。二人目の番人として現れた彼はなんと、ジミとライブハウスでセッションをすることに。お互いの代表曲である『Smells Like Teen Spirit』と『Purple Haze』を披露し、親睦を深めるエピソードは必読。

 世代を越えて世界中から愛されるロックスターたちの、本来叶うはずのない夢の共演。「あわよくば実際に聴いてみたい」と思ってしまうが、これは漫画でしか描けない最高のエンタメだろう。「織田信長が現代に生き返ったら」、「ウルトラマンと仮面ライダーが一緒に戦ったら」のような、誰しもがつい一度は考えてしまう笑い話。そういう想像を全力で描こうとするのも、漫画の醍醐味ではないだろうか。

ジミ・ヘンドリクスとカート・コバーンの初対面

 この他にも「The Rolling Stones」のブライアン・ジョーンズや「The Doors」のジム・モリソンなども参戦。「27歳の若さでこの世を去った」という共通点に持つ彼らを集め「The 27 Club」なるドリームバンドの結成を目論む謎の老人も登場し、物語は加速していく。

 連載10年を越えても、ますますボルテージを上げ続ける「SHIORI EXPERIENCE」。最新21巻では、さらなる超展開が。自身のつくったバンド「シオリ・エクスペリエンス」を脱退し「The 27 Club」のメンバーとして活躍し始める紫織を描く世界編と、紫織の兄・譲治と秋田出身の青年ギタリスト・松田小宇宙を加えた“新生”「シオリ・エクスペリエンス」がコンテストの優勝を目指す日本編が交互に描かれている。

 続々と現代に蘇る伝説のスター、今を生きるバンドメンバー、それぞれの願いや苦悩が交差し物語は深みを増すばかりだ。ジミな高校教師とヘンな天才ギタリストの伝説は、まだまだ広がりを見せていくことだろう。この先にどんな漫画体験が待ち受けているのか、筆者も楽しみでならない。友情・努力・勝利などというフレーズはもはや時代遅れかもしれないが、夢に向かって全力でひた走る人々の姿はいつの時代も色褪せることはないはずだ。もしこの紹介で興味を持った方がいれば、これを機に是非一度読んでみてはいかがだろうか。