レビュー

これぞ”読むプロテイン”「ダンベル何キロ持てる?」!笑えて学べる筋肉ストーリー

【ダンベル何キロ持てる?】
原作:サンドロビッチ・ヤバ子
作画:MAAM
連載:「裏サンデー」「マンガワン」(小学館 2016年8月~)
既刊:既刊20巻(裏少年サンデーコミックス)

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 2016年、「裏サンデー」「マンガワン」にてとんでもない筋肉コメディマンガ「ダンベル何キロ持てる?」の連載が開始された。

 本作では体重増加をきっかけにジム通いを始めた女子高生・ひびきが、一見まともに見えても実は脳まで筋トレに染まったような狂気的なキャラクターたちに囲まれながら、心身ともに成長していく。そこで描かれるものは筋肉・筋肉また筋肉。キャラクターたちの筋肉に偏った発想の数々と、筋肉に傾倒しすぎた突飛な設定で一気に読者を惹きつけた。そして若干のお色気を交えつつ、様々な筋肉とその鍛え方・運動のやり方が楽しく明るく描かれるこのマンガは、いつしか「読むプロテイン」と呼ばれるようになった。

 また、2019年7月にはアニメ化し、筋肉アイドルの才木玲佳氏と現役ボディビルダーの横川尚隆氏が出演しているOPテーマのMVは当時2億超え、現在は2億8千万を超える驚異の視聴数をたたき出している。同年9月には「ダンベル何キロ持てる?」特番ラジオ〜聴くプロテイン!マッスルラーニング!〜というタイトルでラジオが開始され、それぞれ「見るプロテイン」「聴くプロテイン」と呼ばれている。

【TVアニメ「ダンベル何キロ持てる?」OPテーマ Muscle Video】
筋肉アイドル・才木玲佳氏と現役ボディビルダー・横川尚隆氏が出演

 コメディ要素も強く読んでいて楽しくて、溢れる筋肉に思わずツッコミ入れつつも無性にトレーニングをしたい衝動に駆られてしまう。そんな「ダンベル何キロ持てる?」が連載開始されてから10年経った今、その魅力を改めて語りたい。

ツッコミどころ満載の個性的なキャラクターたちが織りなす筋肉と笑い

 「ダンベル何キロ持てる?」は高校2年生の主人公・紗倉ひびきを筆頭に女子高校生たちがジムに通い、様々なトレーニングを行っていく物語である。皇桜女学院2年生のひびきは、食べることが大好きな女の子だ。しかし最近体重が増え気味で、友人・上原彩也香に体型のことを指摘され、新しく出来たシルバーマンジムに通うことになる。しかしダイエットを目的に軽い気持ちで入ったシルバーマンジムは、現役ボディビルダーやプロ格闘家が在籍している世界一の設備を誇るトレーニングジムであった。

 ジムの中に充満しているマッチョたちの筋肉の迫力に帰ろうとするが、ジムのトレーナー・街雄鳴造の爽やかイケメンっぷりにときめき入会を決める。そして、そこで出会った同じ学年の奏流院朱美や教師の立花里美、友人の上原彩也香、ロシアからの留学生であるジーナ・ボイド、プロコスプレイヤーの坂口めいたちと共に、様々なトレーニングを通して成長していく。

シルバーマンジム
シルバーマンジムに通う人たち

 そんなストーリーであるが、その面白さはなんといっても主人公・ひびきをはじめとする登場人物の個性と彼女たちのかけあいだ。登場するキャラクターたちは皆、とんでもない独特の個性を持っている。

 主人公・ひびきは、朱美や彩也香と共に日々トレーニングを続け運動がちゃんと日常の中に入り込む生活を送るようになるが、体重は全く減らない。なぜならその食欲は旺盛で、暇があれば菓子やホットスナックを口に運び、日に5~6回も食事をとり、昼食の弁当に揚げ物がみっしり入った重箱を持ってくるなどフードファイターさながらの量を食べている。

 食費を少しでも浮かそうとするが、そのバイト先もまかないで肉が存分に食べられる焼肉屋という食べ物の誘惑には逆らえない女の子なのだ。なのになぜ自分の体重が減らないのか理解していないちょっとおバカなところもある。

 運動・ダイエットという面では一番一般人に近いひびきであるが、実はけた外れのパワーの持ち主で、ボクシンググローブをつけてサンドバッグを殴ればサンドバッグは吹っ飛び、パンチングマシンは破壊するという人外な一面も持っている。

サンドバッグを吹き飛ばすひびき
パンチングマシンを粉砕するひびき

 ひびきと共に入会した奏流院朱美は、黒髪ロングの清楚な美人。品行方正で成績優秀スポーツ万能。超お金持ちの家の令嬢で豪邸に住んでおり、筋トレが大好きでトレーニングに関してもかなりの知識を持ちひびきにも色々なことを教えてくれる。完璧な、非の打ち所がないお嬢様であるが、とんでもない筋肉フェチで見事な筋肉を見る度に瞳がハートになり呼吸が乱れとろけてしまう誰よりも危険な一面を持っている。

完璧なお嬢様・朱美
筋トレに対する姿勢を語る朱美
鍛えられた筋肉を目の前にした朱美

 シルバーマンジムのトレーナー街雄鳴造は、ジャージを着ている時はひびきや立花を一目惚れさせジムに入会させるくらいの爽やかイケメンである。ひびきが、トレーニングが上手くいかず落ち込んでいたり、リレーに出るけど自信がないと悩んでいたりする時には優しい言葉をかけたり適切なトレーニングを教える等、トレーナーとしても優秀で信頼できる人格者である。

 しかし、会話の中で「再度(サイド)」や「ます」「トライ」等の単語が出てきた途端、それまでの会話は放棄し「サイドチェストぉぉぉぉっ!」「マスキュラーぁぁぁぁっ!」「サイドトライセップスぅぅぅっ!」とポーズの名前を叫びながら着ている服を弾き飛ばし、優し気な面差しに似合わない筋肉隆々のゴリマッチョな体を露にし、ポーズを取り始める筋肉バカなのである。

 そして実家の神社では神主もしているが、そこでは「マッスル大明神」と呼ばれており数多くのマッチョたちが参拝に来たり、ボディビル大会では会場中の人々をひれ伏させるなど、かなりのカリスマ性も持ち合わせている。

服を着ている時の街雄
服を脱ぐとその肉体美が露になる
後ろ姿も見事な筋肉

 ほかのキャラクターたちもひと癖ある、個性的な面々ばかり。

 例えばひびきの友人・彩也香の自宅は世界チャンピオンも生み出しているボクシングジム。腹筋は見事に割れており、女子高校生でありながらドラゴンフラッグも難なくこなすほか、ずば抜けた格闘センスと動体視力を持っている。

 ひびきたちの世界史の教師・立花里美は学校では大人しめの容姿で普通の教師の体裁を保っているが、実は人気のお色気系コスプレイヤーである。ひびきをライバルと認め、ロシアからやってきた銀髪のボブカットでクールなイメージのジーナは実は思い込みの激しい性格で、アニメやアニメのコスプレイヤーが大好きで自分自身はアイドルになることを夢見ている。

 ひびきの兄・紗倉伊吹は美形の有能な青年実業家であるが凄まじい中二病である。プロコスプレイヤーの坂口めいは他のキャラクターたちと違いツッコミを入れたりせず、内心ではひびきたちの騒ぎに毒づくというこの作品の中では珍しいキャラクターだ。

コスプレ姿を披露する立花
立花のコスプレ姿に夢中になるジーナ
中二病丸出しの伊吹
ブラックなことを考えているめい

 このようにみんな可愛く微笑ましい性格なのだが、皆、どこかおかしな思考回路をしており突拍子もない言動をとる。その方向性が一人一人微妙に違っているため、あるときはツッコミ役だったキャラクターが別のエピソードではツッコまれる役になるといったように、全体的に和気あいあいとしたドタバタ劇を繰り広げる。この全員がボケであり全員がツッコミに回ることもあるというキャラクター構成のバランスとストーリー運びのウマさは素晴らしい。

 例えばアイドルに憧れるジーナがアイドルオーディション出たいと言ったら立花以外はみんなノリノリで、水着姿でオーディションに出るが、正体がバレたくない立花だけはなぜか頭に剣道の面の防具をつけて参加した。

 この”首から下は水着姿なのに首から上は防具”という姿はアイドルのオーディションという舞台ではあまりに異様で、かなりのインパクトがあった。しかもその姿で彩也香たちと格闘技や筋トレを披露したりするのだからおかしくて堪らない。

 他にも、山で遭難したときに「身を軽くするため」と突然服を脱ぎだしたりと信じられない行動をとったり、ジムのビンゴ大会ではビンゴ機を使わず、街雄が筋肉で服をはち切れさせながら自身の体に書かれた数字を次々と露わにしていくなど、思わず「そんなバカな!」とツッコミを入れたくなる設定が多々ある。

 そんなハイテンションで可愛くにぎやかな世界が広がっている中、体重が減っていなかったり、信じていたダイエット法の間違いを指摘されたり、ひびきが驚異のパワーでアームレスリングで相手をねじ伏せたり、自分がコスプレイヤーだとバレそうになったりと、衝撃的なことが起こると勢いのある話の中で、さらにダメ押しのように劇画調になるシーンがあって思わず笑ってしまう。

あまりの出来事に劇画風な顔になってしまう面々

 そんなコメディの中で、街雄に惹かれてシルバーマンジムに入ったがあまりの筋肉バカっぷりにいったんは冷静になったひびきであったが、指導を受けているうちにその誠実さに本気で惹かれていく恋愛的な要素もあり、その想いから自分の進路のことを真剣に考えるようになる。

 ほかにも、過去にアイドルやグラビアにチャレンジが芽が出ず、コスプレ路線でようやく人気が出ためい。マルチタレントを目指し、シルバーマンジムの常連であるTVディレクターに取り入る為にジムに通いだしたものの、いつしか真剣に筋トレに取り組むように。その後も向上心を持って芸能界での地位を固めていくなど、人との出会いと成長を描いた物語でもある。

街雄に本気になっていくひびき

トレーニングの圧倒的な知識が盛りだくさん

 そしてこの作品が「プロテイン」と呼ばれているのは、作中の1話1話に実践的で正しいトレーニングやダイエットの解説があるからだ。

 ひびきたちはシルバーマンジムでラットプルダウンやレッグプレス、チェストマシンを、ダンベルやバーベル等のマシンや器具を使ってトレーニングをするが、それらすべてに正しい使い方、それを使うとどの筋肉が鍛えられるのか、そしてその筋肉が鍛えられるとどのような効果があるのかが丁寧に描かれる。

 さらにひびきたちの悩みに合わせたトレーニング、例えばリレーで速く走りたいなら「アクセル筋」と呼ばれるハムストリングを鍛えるべきで、同じ足の筋肉でもスクワットで鍛えられる大腿四頭筋は「ブレーキ筋」と呼ばれ逆の作用があるからレッグカールをやるといいといったことを、キャラクターと一緒に学べる。

 ほかにもバーベルのバーだけを持ち上げるトレーニングも正しい姿勢のスクワットも最初はとてもキツイことや、筋肉痛がある時のトレーニングの仕方など、基本的なことが初心者のひびきや立花からの視点で描かれるというのも、初心者にとってはわかりやすくてイメージがしやすい。

 読んでいると自然と知識が入ってくるので筋トレをしてみたくなるし、自分が気にしているところを改善するにはどんなトレーニングをすればいいのか具体的なイメージが湧く、実用書としての側面もある。

正しい器具の使い方を説明してくれる
それぞれの筋肉の役割の解説
街雄は会員たちの悩みに合わせた助言をしてくれる

 ジムでのトレーニングはもとより、ジムを利用しない運動の知識も満載。ジムに行かない時に、ひびきたちは自分たちで朱美やジーナから得た知識や筋トレの本を参考にトレーニングを行う。家で、プールで、公園の鉄棒で、初詣の神社に向かう階段で、砂浜で、キャンプで……日常生活の中でも出来る運動も、わかりやすく解説されている。これもまた、気軽に筋トレにチャレンジしてみようかという気持ちを沸き起こさせる。特に家や階段で出来るものは、実施のハードルが低いこともあって、読み終わってすぐに試してみたくなる。

家でひびきにプランクを説明する彩也香

 また、トレーニング以外の知識も多い。プロテインの飲み方や効果、調理方法によるカロリーの違い、トレイニーたちの食事の摂り方、チートデイの説明、静的ストレッチと動的ストレッチ、アクティブレスト(積極的休養)とパッシブレスト(消極的休養)の違い。

プロテインとサプリメントの違いの解説
ストレッチの解説をする朱美

 本当にたくさんの知識が詰め込まれており、これらを読んでいると、自分もちょっとジムに行ってみようかな、スクワットしてみようかな、食事に気を付けてみようかな、という気分になってくるのだ。

 くわえて、食いしん坊のひびきが何気なく口にする飴やアイス、チョコレート等の菓子やホットスナック、食事のご飯や揚げ物や肉のカロリーが口にする度に表示されており、自然と自分が食べてしまう菓子のカロリーを意識するようになってしまう。

アニメでよりトレーニングしたくなる!

 「ダンベル何キロ持てる?」は、前述した通り2019年にアニメにもなっているが、こちらも原作の良さを存分に活かしたものであった。

 ひびきたちの言動が生き生きと魅力的に描かれており、会話のテンポも軽快で見ていてとても楽しい。そしてなにより、実際にキャラクターたちが動くことによって、どんな運動をしているのかがよりわかりやすくなっている。

【『ダンベル何キロ持てる?』本PV】

 そしてエンディングの後に、「街雄の筋肉講座」として街雄の「筋肉のお兄さんだよー」の挨拶から始まり、筋肉の説明とともにその筋肉を鍛えるトレーニングを教えたり、スクワット10回やダンベルカール15回、リバースプッシュアップ20回と家で気軽に出来るトレーニングをキャラクターたちと一緒に行うコーナーがあったりと、より積極的に筋トレの世界に入りやすくなっているのだ。

 加えて筋トレのことしか歌っていないオープニング「お願いマッスル」、筋肉のことしか歌っていないエンディング「マッチョアネーム?」は歌詞のインパクトと軽快なリズムで、放送当時一躍話題をさらった。

【TVアニメ「ダンベル何キロ持てる?」OPテーマ 試聴動画】
【TVアニメ「ダンベル何キロ持てる?」EDテーマ 試聴動画】

 暑い夏が終わり体を動かしやすくなったこの季節、「ダンベル何キロ持てる?」を読んでおかしな筋肉の世界に笑いながら、ぜひキャラクターたちと一緒に楽しい筋トレ生活を始めてみてはいかがだろうか。