レビュー

“推し”を責めるのも愛!?「魔法少女にあこがれて」性癖まで強さに変わる異色の魔法少女モノ【レビュー】

(キウィちゃんはかわいい)

【魔法少女にあこがれて】
著者:小野中彰大
媒体:竹コミ!
初掲載日:2019年3月30日
最新刊発売日:2026年9月16日予定
既刊:12巻
1巻表紙

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 魔法少女に憧れる少女が、なぜか「悪の女幹部」に――。

 小野中彰大氏による「魔法少女にあこがれて」は、そんなひねりの効いた設定から始まる魔法少女コメディ。2019年に「まんがライフSTORIA」で連載を開始し、現在は「竹コミ!」にて連載中。9月16日には単行本第13巻が発売される。また、2024年にはTVアニメも放送され、現在は第2期の制作も決定するなど、今後が楽しみな作品だ。

 そんな本作は、魔法少女が悪役に「責められる」大胆な描写が目を引くが、クセの強いキャラクターたちの関係や、性格・性癖まで絡むバトルも大きな魅力だ。第13巻の発売を機に、改めてその面白さを振り返っていきたい。

 本稿では、TVアニメ第1期で描かれた範囲までの内容に触れており、物語のネタバレを含むためご留意いただきたい。

【【【魔法少女にあこがれて】TVアニメ第2期制作決定特報映像】】
最新13巻 書影

「魔法少女になれる!」と思ったら悪の女幹部に……

 本作の主人公・柊うてなは、魔法少女に強い憧れを抱くごく普通の少女。街で活躍する魔法少女チーム「トレスマジア」を熱心に応援し、グッズも集める筋金入りの魔法少女オタクだ。普段は内気でおとなしいが、魔法少女の話題になると途端に早口になったり、推しを語る熱量が一気に上がったりと、好きなものには一直線なタイプでもある。

本作の主人公柊うてな

 本作の物語は、うてなが謎のマスコット・ヴェナリータと出会うことから始まる。「選ばれし力がある」といわれ、魔法少女になれると期待してその力を受け入れたものの、悪の組織「エノルミータ」の女幹部・マジアベーゼに変身。そのままトレスマジアと戦うことになってしまう。

 当然、最初は憧れていた魔法少女との戦いを躊躇っていた彼女だが、いざトレスマジアを追い詰めてみると様子が一変。魔法少女たちを縛り、お尻を鞭で叩いているとなぜか胸が高鳴り、興奮してしまう。そう、うてなは「真正のドS」だったのだ。

うてなは騙される形でマジアベーゼに変身
自身が推す魔法少女「トレスマジア」と戦うことになってしまう
トレスマジアを追い詰める中で、ドSとしての欲求が明らかに……

 こうして、自分でも知らなかったドSな一面を開花させ、憧れの魔法少女を責めることにも次第に楽しさを覚えていくうてな。半ば流されるように悪の女幹部として活動を始めた彼女だが、その周囲にも次々と個性的な少女たちが集まってくる。

 エノルミータ側では、マジアベーゼとの戦いをきっかけにうてなへ強烈な好意を寄せるようになる阿良河キウィ(レオパルト)や、ぬいぐるみを操る幼いメンバー・杜乃こりす(ネロアリス)が仲間入り。さらに物語が進むとロード団として登場する阿古屋真珠(ロコムジカ)と姉母ネモ(ルベルブルーメ)も加わるなど、エノルミータはより賑やかになっていく。

レオパルトに変身する阿良河キウィ。かわいい
杜乃こりすが変身した姿・ネロアリス

 一方、うてなの憧れの存在であるトレスマジアは、マジアマゼンタ(花菱はるか)、水神小夜(マジアアズール)、天川薫子(マジアサルファ)の3人組。実は彼女たちとうてなは同じ学校に通っているものの、互いに正体を知らない。

左から水神小夜、花菱はるか、天川薫子。変身していないときは普通の中学生

 学校では普通の友人や知人として言葉を交わし、一緒に補習をうけたりもするが、変身すれば敵同士として全力でぶつかり合う。このすれ違いも本作の面白いところだ。

魔法少女を責めるのも“推し活”!?

 「魔法少女にあこがれて」を象徴するもののひとつが、マジアベーゼと魔法少女たちのちょっと(?)Hな攻防だ。

 ベーゼが使う武器は、触れたものを魔物へと変化させる鞭。植物や玩具などさまざまなものを操り、相手を拘束したり、くすぐったり、恥ずかしい格好に追い込んだりと、多彩な“責め”に活用される。

 恍惚とした笑みを浮かべながら魔法少女たちを追い詰める姿は、もはや憧れのヒロインを前にした内気な少女の面影なし。話数を重ねるごとに自分の欲望を自覚し、責め方もどんどん大胆かつ過激になっていく。

 とはいえ、彼女は別に悪の組織のメンバーとして世界征服をしたいわけでも、無差別に街の住民を苦しめたいわけでもない。ベーゼが興味を向けるのはあくまで魔法少女たちだ。追い詰めたときにどんな表情を見せるのか、どんな反応を返してくれるのか。そして、その窮地をどう乗り越えるのか。それを見ること自体が彼女の楽しみで、悪として活動する目的にもなっている。彼女にとって魔法少女たちとの戦闘は「推し活」そのものなのだ。

マジアベーゼ流「推し活」の一例。あくまで推し活
魔法少女への想いをレオパルトに語るマジアベーゼ。「クソヤバ女」という表現は実に的確

 ただし、推しなら何をしても喜ぶわけではない。うてなにとっては、自分の抱く「魔法少女像」と解釈が一致しているかどうかもかなり重要だ。相手を追い詰めたい。でも、簡単に屈してほしいわけではない。苦境に立たされても立ち上がり、こちらの期待すら超えてくる――。そんな姿こそ、うてなが憧れてきた魔法少女なのである。

 このスタンスが特によく表れているのが、水神小夜(マジアアズール)とのエピソードだ。ベーゼとの戦いを重ねるなかで、小夜は自分の中に芽生えた「責められたい」という感情に戸惑い、次第に魔法少女としてどう戦えばいいのかを見失っていく。そんな彼女の姿は、うてなにとって“解釈違い”で、一度は失望されかけてしまう。

 しかし、そこで終わるのではなく、自分なりの答えを見つけて再び立ち上がり「真化(ラ・ヴェリタ)」に到達。そんな姿を目の当たりにしたベーゼは、(吹っ飛ばされながら)誰よりも喜ぶのである。

ときには推しを叱責するのもファンの役目
マジアアズールが「真化」した際は誰よりも喜んでいた

 もちろん、本作はHな魔法少女コメディとして見ても十分に面白い。しかし、その過激なやりとりがキャラクターの意外な一面を引き出し、ときには成長のきっかけにもなっている。

 ベーゼが魔法少女たちを翻弄する一方で、彼女自身もまた、魔法少女たちの抵抗や変化に感情を大きく揺さぶられていく。「正義VS悪」「責める側と責められる側」という単純な構図に収まらないせめぎ合いがあるからこそ、「魔法少女にあこがれて」のバトルには、ちょっとHなだけでは終わらない面白さが生まれているのだ。

 もちろん、そんなことを考える前に、まずは目の前のちょっとHな展開に目を奪われてしまうのだが……。

Hなだけじゃない! 意外と熱い本格魔法少女バトル

 Hな攻防やコメディが目立つ本作だが、戦いそのものもしっかり面白い。キャラクターごとに異なる能力が用意されており、その応用や相性を生かした勝負はもちろん、チーム戦での連携も展開される。

 本作らしいのは、キャラクターの性癖も戦いに影響してくることだ。先ほど紹介したマジアアズールは「真化」に到達して以降、痛みを快楽として受け入れると同時に、「愛」としても受け止め、力に変えることができるようになった。また、阿古屋真珠(ロコムジカ)は歌を音波攻撃として放つのだが、恥ずかしい姿を見られながら歌うことでその威力を高めることができ、本人も次第に露出することへの快感に目覚めつつある。

マジアアズールは責めを「愛」として受け入れ、「愛」を返すという境地に辿り着いた
ロコムジカは恥ずかしいと上手く歌えるようになり、攻撃力がアップする

 そもそも主人公のうてな自身、魔法少女に興奮し、「もっと見たい」「もっと責めたい」と気持ちが高ぶるほど戦いにも熱が入るタイプで、逆に好みじゃないシチュエーションではうまく力を発揮できないこともある。

敵対したロードエノルメが推せず、やる気がでない

 このように、普通なら弱点になりそうな恥ずかしさや欲望さえ、場合によっては“バフ”になるのが「まほあこ」らしい。王道の能力バトルに性格や性癖まで組み込んでしまうところも、本作ならではの面白さだ。

日常パートで深まるキャラクター同士の関係も魅力

 本作に登場するキャラクターは誰もが個性的で魅力的だが、バトル以外の日常パートや、そこで描かれる人間関係も大きな見どころだ。

 たとえば天川薫子(マジアサルファ)は花菱はるか(マジアマゼンタ)に特別な想いを寄せるようになっていき、普段の強気な姿とは違う一面を見せることも。また、阿古屋真珠(ロコムジカ)と姉母ネモ(ルベルブルーメ)は強い絆で結ばれており、不器用ながらに互いを想う姿を見せてくれる。

 その一例として、筆者が特に推したいのが、うてなと阿良河キウィ(レオパルト)の関係だ。

 キウィは、エノルミータのメンバーで、初登場時はうてなに対して悪印象を抱いていた。しかし、彼女と戦い、電撃で「お仕置き」され、甘い言葉をかけられたことで強い好意を抱くようになる。その後はうてなをホテルに連れて行こうとするなど、積極的にアプローチをする。

 自分より魔法少女たちがちやほやされることを面白く思わず、彼女たちを目の敵にしている。が、うてなの魔法少女への憧れと、そこからくる趣味嗜好については「クソヤバ女」と呆れながらも理解があり、落ち込んだときには支え、悩んだときには強く背中を押してくれる。かといって「都合のいい女」で終わるわけではなく、ケジメをつける必要があるときには、しっかり態度で示す。

 うてな自身がまだ答えを出せていないため関係は“恋人未満”だが、うてなにとってキウィは、憧れの対象である魔法少女とはまた違う、身近で特別な存在だ。だからこそ、2人のやりとりは見ていて微笑ましいし、今後の発展を応援したくなる。

キウィは最初、うてな(マジアベーゼ)に反感を抱いていたが、“わからされた”結果ぞっこんに。推せるっ!

 もちろん、2人だけでなく、上述したようなほかのキャラクター同士の関係も見どころだ。性格だけでなく、ときには性癖まで含めて相手を知っていくことで、それぞれの距離感や関係性も深まっていく。バトルの合間に挟まれる、いわゆる「日常系」的な楽しさも、本作ならではの味わいになっている。

真珠とネモは「魔法少女狩り」をしていたことに対するケジメをとらされるが、これが2人の仲を深くすることに……

魔法少女への“憧れ”はまだまだ続く

 ここまで紹介してきたように、「魔法少女にあこがれて」はHなコメディとしてのインパクトだけでなく、個性的なキャラクター同士の関係や、それぞれの性格・性癖まで反映されたバトルなど、さまざまな楽しみ方ができる作品だ。

 物語が進むにつれて新たな勢力や仲間も登場し、エノルミータやトレスマジアを取り巻く状況も少しずつ変化していく。キャラクター同士の関係がこの先どう進展していくのかはもちろん、うてなを悪の女幹部へと変えたヴェナリータの目的など、まだまだ気になることも多い。

 アニメ第1期でも、原作のかなり攻めた表現を映像化しつつ、キャラクターたちの掛け合いやバトルの楽しさまでしっかり描かれていた。原作とはまた違った形で「まほあこ」の魅力を味わえたので、アニメ2期も楽しみだ。

 そして、どれだけストーリーが広がっても、中心にいるうてなの原動力は変わらない。彼女は何よりも魔法少女が大好きなのだ。

 そもそも「憧れ」とは、相手と同じものになることだけを意味するわけではない。少し離れた場所から相手を見つめ、「こうあってほしい」と願い続けることもまた、憧れのひとつの形だろう。うてなは魔法少女になれなかったからこそ、その敵として彼女たちを誰より近くで見つめ、時には試し、その成長を喜ぶことができる。

 魔法少女に憧れた少女が、自ら魔法少女になるのではなく、その敵になることで誰よりも深く彼女たちと関わっていく。「魔法少女にあこがれて」というタイトルの通り、その少し歪んだ、しかし一途な“憧れ”こそが、本作を唯一無二の魔法少女マンガにしているのではないだろうか。

 今後、うてなの「推し活」がどんな「魔法少女」の姿を見せてくれるのか楽しみにしたい。