レビュー

今すぐ紅茶が飲みたくなる「猫と紳士のティールーム」!人見知りのイケオジ紳士と看板猫がいる紅茶専門店

【猫と紳士のティールーム】
著者:モリコロス
連載:月刊コミックゼノン(2022年~)
既刊:5巻

 「猫と紳士のティールーム」は、タイトル通り“猫と紳士”がいる喫茶店が舞台のマンガだ。第3次紅茶ブームが到来している今にぴったりの作品で、楽天Kobo電子書籍Award2025<ネクストブレイクコミック部門>でも大賞を受賞している。

 イケオジだが極度の人見知りである紳士が、豊富な知識と確かな技術で、訪れる客に合わせて美味しい紅茶を淹れ、スイーツ等のフードも一緒に提供する。客にふさわしい一杯に秘められた紅茶の奥深い世界に引き込まれること間違いなしの、麗しいティー・ストーリーとなっている。

紅茶とフードの食べ合わせで、紅茶の味が進化する!

英国ビクトリア朝の邸宅のような店内と、執事のような瀧(画像は第2話「アールグレイとザッハトルテ」より)

 人通りの少ない商店街の片隅にひっそりと佇む紅茶専門店「CAMELLIA TEA ROOM」は、紅茶オタクでイケオジの瀧静(たきしずか)、身長180cm、52歳の独身男性が1人で営んでいる。

 店内は英国ビクトリア朝のアンティーク家具や調度品で彩られ、看板猫のキームンくんが人懐っこく歓迎してくれるおしゃれな喫茶店だ。高級感溢れる内装と、瀧の執事のような装いとは裏腹に、グランドメニューは700円で紅茶2杯とケーキなどの菓子がセットになった破格に安い「本日の紅茶」だ。

優雅なティーセット。茶葉はダージリンのセカンドフラッシュ、スイーツはアップルパイ。700円は安い(画像は第1話「ダージリンとアップルパイ」より)

 ほとんどの客が注文する「本日の紅茶」は、客の雰囲気やちょっとした言動から、瀧がぴったりの茶葉とティーカップ、スイーツを選び、優雅なティーセットで提供する。ティーセットは、ティーポット、シュガーボウルとミルクジャグ、そしてティーカップと菓子の小皿をプレースマットに載せた、本格的なものである。

雨に濡れ寒さに震えていた女性には、温かいトフィーソースのかかったプディングを(画像は第18話「ジンジャーミルクティーとスティッキートフィープディング」より)

 例えば、落ち込んでいる客には幸せが訪れるようにと、四つ葉のクローバー柄のカップに、ディンブラという茶葉にマドレーヌという、口の中で美味しさがじゅわっと広がる多幸感の強い組み合わせを選ぶ。また、雨で寒さに震える客には、体が温まり、元気が出るようにとルフナという茶葉のジンジャーミルクティーと、甘くて刺激のあるスティッキートフィープディングでもてなしたりする。紅茶好きでなければ聞き慣れない茶葉の名前だが、瀧の細かすぎるが具体的な説明が毎回あるので、マンガを読んでいるだけで、味や香りが想像できてしまう。

 なお、ディンブラは「紅茶らしい紅茶」と称される、香り・コク・渋み・色の美しさまでバランスの良い茶葉。ルフナは甘い香りが鼻腔に籠るような感覚があり、長めに風味が持続して味わいに深みを感じる茶葉となっている。瀧によれば、産地や農園、収穫時期に寄っても、味や香りに違いがあるそうだ。

チョコレートケーキを食べた後にアールグレイを飲んで、進化した紅茶の味に叫ぶコーヒー党の客(画像は第2話「「アールグレイとザッハトルテ」より

 そして、特筆すべきは、紅茶とスイーツなどの組み合わせ、いわゆるフードペアリングにも瀧の強いこだわりがあることだ。紅茶そのものでも十分美味しいが、スイーツと食べ合わせることで、紅茶がよりいっそう美味しく感じるという。

 それはコーヒー党も唸るほどで、アールグレイとザッハトルテというチョコレートケーキを提供された客は、ザッハトルテを食べた後に飲んだアールグレイのあまりの美味しさに店内に響き渡る声で叫んでしまうほど。瀧いわく、アールグレイとはベルガモットというミカン科の果実の香り着けをしている茶葉のことで、ザッハトルテのチョコレートの濃厚な甘みの間にあるオレンジピールやアプリコットジャムの爽やかな風味と、アールグレイのベルガモットの凛とした香りが相まって鼻腔の奥に華やぎを感じさせるという。この客は以降、店の常連になり、ザッハトルテとアールグレイのペアリングをずっと注文し続けるほど気に入るのだ。

ルフナのティーウィズミルクとスコーンのペアリングの瀧の解説(画像は第5話「ルフナのクリームティーセット」より)

 紅茶とスイーツなどのペアリングは毎話登場し、瀧がその場に合わせて考える食べ合わせは相性抜群、客はその最高のマリアージュに感動し、束の間の豊かな時間を過ごし、心を解けさせる。

 カーカスウォード農園のディンブラには甘い玉子焼きのサンドイッチを合わせ、ヌワラエリヤのアイスティーにはスフレチーズケーキを合わせる。瀧の細かい解説や、客が新鮮に感激する反応を見ていると、読んでいるだけでヨダレが出そうになり、同じペアリングで全て食べてみたいと思わされるのだ。

人見知りイケオジ紳士・瀧と看板猫・キームンくんのコンビが可愛い

何度も来店している優しい常連客でも目が合うとすごい勢いで顔を背ける瀧(画像は第5話「ルフナのクリームティーセット」より)

 紅茶専門店の経営者にふさわしく、紅茶と食べ合わせに詳しい瀧だが、瀧の人物そのものと、看板猫のキームンくんも、本作の大きな魅力の1つである。

 瀧はいわゆる“イケオジ”で、鼻筋が通った端正な顔にすらりとした長身、話し方や身のこなしがとても上品だ。ソファ席に座る客に話しかける時は、ひざまずくほどのきめ細かい接客をする。

 瀧のジェントルマンぶりにときめいてしまう客も多いが、実は瀧は極度の人見知りで、人と目を合わせることがほとんどできないのである。客と自然と目が合ってしまうと、その瞬間、バッと顔を伏せたり後ろを振り向いたりするほどなのだ。接客業として致命的な欠点だが、伊達メガネをし、客の顔をどうしても見なければならない時は、相手の眉間を見つめることでなんとかしのいでいる。

紅茶を語り出すと止まらない瀧を制止する、賢いキームンくん(画像は第8話「アイスレモンティーとクランペット」より)

 そんな瀧は、目線を合わせることに怯え、常に緊張しながら応対しているためか、初対面の相手からは、よそよそしいと思われることもある。だが、紅茶に関する質問をされると瞬時にその緊張から解き放たれ、頬を紅潮させて満面の笑みでまくしたてるように、紅茶について延々と語ってしまう。

 そのギャップが意外と可愛くてクセになるぐらいなのだが、紅茶愛が止まらないオタク的トークに客が困惑していると、看板猫のキームンくんが瀧に飛びついたり、咎めるような鳴き声を出したりして、瀧の長話を制止するというのが毎回のお約束である。

 人の言葉がわかるのではないかと思うほどに、キームンくんが割って入るタイミングはいつも完璧で、客からも賢い猫だとよく思われている。キームンくんに注意されてハッとして落ち込む瀧もまたチャーミングで、ずっと見ていられる名コンビだ。

勉強会中の高校生に語り始めた瀧を、体を張って止めるかっこいいキームンくん(画像は第13話「サモワールとクッキー」より)

 キームンくんは黒の長毛種の可愛い元野良猫だが、看板猫というだけあって人懐っこく、一部の客には、腹を出して撫でてもらうほど懐いていたりもする。ティーテーブル席横の出窓スペースがお気に入りの場所で、そこでよく寛いでいるのだが、通りがかった人がキームンの可愛さに引き寄せられて入店することもあり、招き猫のような役割もこなしている。

さらには、店に押し入ろうとした強盗を追い払ったり、瀧がダイエット中に間食しようとするのを止めたりする頼もしさもあり、瀧にはなくてはならないパートナーなのだ。

真似をして美味しい紅茶を自宅で淹れたくなる不思議

ホットのレモンティーを美味しく飲むにはコツが必要(画像は第8話「アイスレモンティーとクランペット」より)

 本作は、紅茶とスイーツなどのマリアージュや、瀧とキームンくんの名コンビぶりが読者を魅了し、読むだけで「CAMELLIA TEA ROOM」に行きたくなるような素敵なお話である。だが、この作品が愛される理由は他にもあると筆者は思っている。

 それは紅茶初心者が最初にぶつかる素朴な疑問に、丁寧に向き合ってくれていることだ。たとえば、レモンティーは何故苦くなってしまうのかとか、ミルクティーとロイヤルミルクティーは何が違うのかとか、ティーカップとコーヒーカップは何が違うのか、などなど。

ティーカップの使い方の説明。テーブルの高さで、ソーサーを持つかどうかが決まる(画像は第17話「カメリアのアフタヌーンティーセット」より)

 中でも筆者が印象的だったのは、世間でもまだまだ流行中のアフタヌーンティーの食べ方の話である。三段のティースタンドで、下の段から上の段に順番に食べる、のは少し調べればわかることだが、紳士の瀧は、膝の上に置くナプキンの使い方まで優しく教えてくれるのだ。「ナプキンは二つ折りにして、折り目を自分側に向けて使う」というのは筆者はこの話で初めて知った。そしてティーポットからティーカップに紅茶を注ぐ作法や、ティーカップの持ち方まで、わかりやすい解説がある。お茶を飲むテーブルの高さでティーカップの使い方も違うといい、これもまた初心者には大変ありがたい話なのだ。

マサラチャイの作り方。小鍋一つあればいいので、自宅でも作れそう(画像は第10話「マサラチャイとカレー」より)

 そして、初心者がつまずきやすい問題を解決してくれるだけでなく、自宅でもすぐに真似できるような紅茶の楽しみ方も、紅茶愛に溢れた瀧が嬉々として教えてくれる。家にティーポットがなくても、カップにソーサーで蓋をしてティーバッグで淹れる方法や、マサラチャイを家庭にあるような小鍋で作るレシピなど、特別なことをしなくても麗しいティータイムが過ごせるようなエピソードが随所に散りばめられている。ただマンガとして面白いだけでなく、紅茶が飲みたくなる、紅茶が好きになることが必然の、ハートフル・ティー・ストーリーなのだ。

摘む時期で色や味わいが違うダージリンの飲み比べもできるようになるかも(画像は第12話「ダージリンとモンブラン」より)

 是非「猫と紳士のティールーム」を読んで、紅茶とフードのマリアージュや、優雅で心が豊かになるティータイムとは何なのかを、体感してほしい。そして、実際に自宅や喫茶店で、茶葉から淹れた紅茶を飲んでみてほしい。きっと、本作を読む前とは違った味わいを感じることができるようになっているはずだ。

 それほどまでに、本作は読む者の紅茶の世界を広げてくれると、筆者は確信している。