レビュー
若者たちの羅針盤となるか?女流プロマンガの最新作「セトマイ」連載開始の狙いを読み解く
2026年1月22日 00:00
- 【セトマイ】
- 著者:富士見倫/協力:瀬戸麻衣
- 連載:近代麻雀2025年7月号に読み切り、後に2026年1月号から連載開始(竹書房)
2025年12月、「近代麻雀」で、日本プロ麻雀連盟に所属する瀬戸麻衣プロをモデルとしたマンガ「セトマイ」の連載が開始された。
これまで「近代麻雀」では、女流プロをモデルとしたマンガがいくつか連載されている。しかし、これまでモデルとなったプロはいずれもすでに有名かつ、実績もあり、活躍しているプロばかりだっただけに、2024年に19歳でプロ入りしたばかりの瀬戸プロが主人公に抜擢されたことには正直驚かされた。
もちろん、現役女子大生かつ“強くて可愛い女流雀士”として、瀬戸プロが人気と注目を集めているのは知っていたが、まだ大きな実績を残していないこのタイミングでの連載化にはどのような意図があるのだろうか。「近代麻雀」のこれまでの女流プロの作品を振り返りながら見ていきたい。
波乱万丈な人生を描いた二階堂亜樹プロの自伝的マンガ「aki」
これまでも実在の人物をモデルとしたマンガは「哲也-雀聖と呼ばれた男」や「はっぽうやぶれ」「真説 桜井章一 ショーイチ」などいくつかあったが、どれもモデルの人物のコミカライズというよりフィクションの要素が多く、しかも賭け事・イカサマといったダークな面を扱ったものがほとんどであった。しかし、近年の実在の人物をモデルとしたマンガは傾向が全く逆になったといっていいだろう。可愛く強い女流プロをモデルとし、彼女たちの麻雀に対し必死に健気に頑張る姿を青春マンガのように描いている。そんな変化の最初の作品は、二階堂亜樹プロの人生をコミカライズした「aki」だろう。
Mリーグ発足の7年前となる2011年、「近代麻雀オリジナル」で「aki」の連載が始まった。まだプロ雀士に世間の注目が今ほど集まっていなかった時代だ。
筆者自身も、麻雀を打つことは好きだったが、プロの世界にはほとんど興味がなかった。そのため、高校生と中学生の姉妹がボストンバッグひとつで東京に家出するという、突飛な展開の1話から始まり、両親の離婚後親戚宅で過ごしていたが中学で家出、麻雀の腕だけを頼りに雀荘を渡り歩く過酷な日々などが描かれる本作を、実在の人物の物語だとは気づかず、ほかのマンガ同様麻雀をテーマにしたフィクションだと思い込んでいた。
後に「aki」が女流雀士の草分けともいえる二階堂亜樹プロをモデルとしたノンフィクションのマンガだと知り、非常に驚かされた。フィクション作品と比べても遜色ない波乱万丈なストーリーが実在の人物のものだということに衝撃を受けたのと同時に、やはり麻雀プロの世界というのは、一般からはかけ離れた場所であり、プロ雀士とは特殊な存在なのだという印象を持ったのを覚えている。
華々しく活躍するMリーガーたちをより深く知ることが出来るコミカライズたち
その後、2018年にMリーグが発足したことにより、世間からの麻雀の“見られ方”は大きく変わったと思う。Mリーグとは、麻雀のプロリーグのことで、麻雀の各団体の垣根を超え、麻雀の競技性・知性・魅力を可視化、賭博イメージからの脱却、次世代への普及を理念としたものであり、なにより個人競技であった麻雀を3人1組のチームの団体戦の「チームスポーツ」にした(現在は女流プロを交えた4人で1チーム)。
それまでプロの対局はテレビ対局やネット配信を自分から能動的に探さない限り目に入らなかった。しかし、Mリーグの発足以降は名場面の切り抜き動画がYouTubeに大量に投稿され、麻雀に興味のある人は誰でも気軽に、かつ受け身の形で対局にアクセス出来るようになった。また、テレビや雑誌でもMリーガーたちが取り上げられる機会が増え、結果、Mリーガーを中心とするプロ雀士の存在が多くの人に認識されていく。多くのドラマが展開され感情移入しやすいチーム戦であることも相まって、その人気は拡大していった。実際、Mリーグや各チームのオフィシャルサポーター・ファンクラブや公式SNS・チャンネルのフォロワー数の増加、そしてチーム数も増えていったことからも、リーグやプロ雀士の人気の高まりが垣間見える。
私自身、Mリーグ発足当時はその存在を知らなかった。けれど、何気なく眺めていたYouTubeで、ひとりの選手の打ち筋に心を打たれ、Mリーグを見てその選手を応援するようになった。そうしているうちに、いつの間にかその選手が所属しているチーム全体が好きになり、チームが対局する日はゲン担ぎの大福を食べながら応援し、チームに関わる人や仲の良いプロ雀士のことまでも好きになっていった。
こうしたMリーグの人気の高まりの中で、次々とMリーグで活躍している女流プロをモデルとしたマンガが展開されていった。
2022年4月から、初年度のドラフトでセガサミーフェニックスから1位指名をされた魚谷侑未プロをモデルとした「泣き虫マーメイド 魚谷侑未物語」が連載された。そこにはかつては競馬の騎手を目指していたが断念せざるを得なかった魚谷プロが、麻雀という新しい夢を手に入れその道に進んでいく姿が描かれている。
同年12月には、2021年にKONAMI麻雀格闘倶楽部から指名を受け、Mリーガーとして素晴らしい成績を叩き出し、「神」「麻雀そのもの」と評される伊達朱里紗プロをモデルとした「朱色のステラ 伊達朱里紗」が連載される。そこには声優として活躍しながらMリーガーになるまでの過程、そしてMリーガーになってからの心の動きが丁寧に描かれている。
また、2024年7月からは、瑞原明奈プロをモデルとした「明け凪のメーテル~瑞原明奈物語~」が連載される。彼女はU-NEXT Piratesの一員として、自ら「ゴリラ麻雀」と名乗るほどの破壊的な麻雀をして優秀な成績を収め23-24シーズンで優勝を勝ち取り、24-25シーズンのメインビジュアルの顔となった。本作では、映画という夢を諦め、麻雀と出会いプロ、そしてMリーガーになりチームの敗退やポストシーズンでの下振れに悩みながらも活躍していく様子が結婚・出産を経ての家族との絆と共に描かれている。
マンガのモデルとなったのは、いずれも女流プロの中でも“強くて可愛い”とされ、多くのファンを持つ人気のプロだ。コミカライズでは、そんな彼女たちのプロになる以前のことから麻雀との出会い、Mリーガーとしての苦しみなど、あまり知られていなかった側面を描いており、ファンたちの心をより沸き立たせ、その熱量を高めていったはずだ。
新たに麻雀を始めようとする若者たちの羅針盤
瑞原プロのコミカライズの翌年となる2025年6月、近代麻雀に瀬戸麻衣プロをモデルとした読み切りのマンガ「セトマイ」が掲載され、更に12月からは連載することが発表された。前述したように瀬戸プロは人気はあるがMリーガーではないし、プロとなって1年しか経っていないこともあって大きな実績も残せていない。麻雀最強戦2025・女流下克上決戦に優勝しファイナル進出を決めたが、「強いけれど、まだまだこれから」といったプロである。
そんな瀬戸プロのマンガ「セトマイ」を読んでみると、読み切りで載っていた1話は瀬戸プロがプロになる前のエピソードが語られていた。プロテストに臨む前、チンイツの待ちをすぐに判断出来ない瀬戸プロが、その欠点を補うために、バイト先の雀荘の人たち相手に特訓するという内容だ。チンイツとは、筒子・萬子・索子のどれか1種類の牌だけであがる役である。6翻ないし5翻になる高い手であるが、あがりのバリエーションが多くなりがちなのでどの牌であがれるのかの待ちを考えるのが難しい。テンパイした時にこれを正確に把握していないとあがり逃しやフリテン、チョンボになってしまう可能性がある。そしてその難しさからプロ試験の筆記試験に出されるので、瀬戸プロにとっては克服しなければならないものだ。
そのチンイツの待ち問題を克服するためのチンイツ麻雀の存在と待ちの考え方と共に、2日間、開店から閉店まで16時間打ち続けてもなお、もっと打ちたいと駄々をこねる瀬戸プロの姿が描かれている。その姿に、瀬戸プロの強くなりたいという思いの熱さがこれでもかと伝わってくる。
そして読切から連載となった2話から現在の最新話となる3話では桜蕾戦 第8期の様子が瀬戸プロと、ライバルとなる鴨舞プロの2人の視点から描かれていた。
私は瀬戸プロの麻雀を実際に見たことはなかったし、鴨プロに至っては不勉強で申し訳ないがこのマンガで初めて知った。けれど、必死に自分の麻雀を信じて打とうとする瀬戸プロと、瀬戸プロの才能に圧倒されながらも懸命に負けまいとする鴨プロの姿には思わず見入ってしまった。特に鴨プロの、追い詰められながらも必死な姿は思い切り共感し、まだ全く知らないというのに鴨プロに対して好感を抱いた。
また、3話のラストでは、2位に終わってしまった瀬戸プロが会場で泣く姿が描かれた。しかし、それで終わる瀬戸プロではなく、負けたその日のうちに次を見据えて麻雀を打ってくれる人をXで募集する姿勢も描かれており、1話同様、彼女の麻雀に対する情熱を感じずにはいられなかった。
もっと公式ルール打ちたいです。
— 瀬戸麻衣🎶せとまい (@Setomaic)November 1, 2024
セットたくさん誘ってください。大体予定空いてるし空いてなくても本気で時間捻り出します。もっと麻雀と向き合う時間が欲しいです
対局当日の夜、瀬戸プロが行なった実際のポスト
今後の展開は、鴨プロとのライバル関係を中心に進んでいくのか、それともほかのプロとのやり取りが進んでいくのかわからないが、今後「セトマイ」を読むことによって、瀬戸プロの人柄や、彼女と卓を囲むであろう、まだ知られていない多くの若手プロの存在を知っていくことができるだろう。それが今から楽しみだ。そして、それこそが瀬戸プロの連載が始まった狙いなのではないかと筆者は考える。
これまでMリーグやMトーナメントといった舞台が注目を集めてきた麻雀界だが、2025年は日本で世界麻雀が行なわれ、そして高校生を対象とした第1回全国高等学校麻雀選手権大会が開催された。また小学生を対象とした「Mリーグキッズ麻雀フェスティバル」という小学生麻雀大会も行なわれ、一気に麻雀界の裾野が表立って広がった年だった。
いま、これから麻雀に興味を持ち始める若者たちにとっては、「若くプロになりたてでこれから道を切り開いていく存在」とその周辺の人間関係が身近に感じられるような、そんな物語が必要なのではないだろうか。そう考えると、瀬戸プロはまさにうってつけだ。
Mリーグ以前の時代、まだ麻雀にまだ「健康」や「頭脳スポーツ」といったイメージがなかった時代には、二階堂プロのようなアウトロー的で波乱万丈な生き様が人気を集めた。そして、Mリーグがチーム数・試合数も増え、順調に人気が出た段階では人気の女流プロたちを題材に、彼女たちの麻雀を始めてからMリーグで活躍していくまでの人生を描いた作品が注目された。そして若者たちを中心に麻雀が広がっていく今、その指針となるような若手の瀬戸プロを題材にした近代麻雀には敬服してしまう。
初めて瀬戸プロの存在を知った時、瀬戸麻衣という名前は本名ではなく、憧れの瀬戸熊プロの名前からとったものだということもあわせて知った。微笑ましいと思う一方で、老婆心ながら、憧れの人の名前を名乗るということ自体、後にプレッシャーになってしまうのではないかと案じてしまった。
今回の連載開始を知った時にも同じことが頭をよぎった。だが、「セトマイ」の中の瀬戸プロは、辛いことがあっても歯を食いしばって前に進んでいた。そんな姿に触れて、これからは迷いなく、純粋に応援していこうと決めた。将来、プレッシャーもあるだろうが気にせず伸び伸びと打って欲しい。瀬戸プロのこれからの活躍に期待したい。そして麻雀とその頂を目指す人々の魅力を、各種配信や「セトマイ」を筆頭としたコミカライズを通じ、より多くの人に知って欲しいと心から願っている。
(C) 2024 takeshobo Co.,ltd.
























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