レビュー

「ALL OUT!!」が教える“入部”の意味──高校ラグビーを泥臭く描いた名作

【ALL OUT!!】
著者:雨瀬シオリ
連載:月刊「モーニング・ツー」(講談社 2013年1号 - 2020年1号)
既刊:全17巻
コミックス1巻表紙

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 間もなく新年度がやってくる。新しい年度が始まると、多くの新中学生、新高校生、新大学生が誕生する。そして多くの生徒・学生たちが期待に胸を躍らせながら部活やサークルに入ることだろう。

 そんな光景を想像するたびに、筆者は「ALL OUT!!」を思い出す。部活に「入部」するとは一体どういうことなのかを教えてくれた作品だ。

 「ALL OUT!!」は2012年11月から2019年11月まで月刊「モーニング・ツー」で連載されていた高校ラグビーを題材としたマンガだ。身長にコンプレックスがある高校1年生の主人公が、ラグビーというスポーツに出会い成長していく物語で、2016年10月には「史上初ラグビーテレビアニメ!」という触れ込みでアニメ化された。

【【10/6 放送開始!! TVアニメ 「ALL OUT!!」 PV】】

 また、2016年9月には秩父宮ラグビー場で行なわれたジャパンラグビートップリーグのパナソニック対NTTコミュニケーションズ戦で、本作に関するトークショーが行なわれ、さらに2017年には舞台化もされている。

 ラグビーと聞くと、暑苦しく泥臭いイメージがあるが、本作はまさにそれを体現したようなマンガだ。全編通してキャラクターたちが熱くがむしゃらにぶつかっている姿が描かれている。本稿では、そんな「ALL OUT!!」の魅力を、主人公・祇園の成長やチームメイトたちのドラマを通して紹介したい。

主人公の成長に、入部するとはどういうことなのかを教えられた作品

 背が低いことに強いコンプレックスを抱く神奈川高校(神高)1年生の祇園健次は、入学式当日、高身長ながら気の弱い性格の石清水澄明と出会う。石清水の中学時代の先輩・八王子の勧誘でラグビー部の見学に行くことになった祇園は、そこでラグビーが体の大きな者だけが活躍する訳ではなく、自分のような背の低い者も活躍できると聞き、入部を決意する。

 神高ラグビー部は、圧倒的な実力と威圧感を持つ主将・赤山濯也や、面倒見がよく優しい副主将・八王子睦を中心に、懸命に練習をしていたが、指導者不在のために公式戦では勝てない「弱小校」だった。しかし、元日本代表の籠信吾がコーチに就任したことで、チームは厳しい練習を経て、確実に強くなっていく。

 そんな本作のストーリー最大の見どころは、主人公・祇園の成長だろう。年の離れた兄にあまり遊んでもらえなかった祇園は、みんなでわいわいやる団体スポーツに憧れていた。しかし小さい頃から背が低く、高校生になっても159cmしかない祇園は、小学生の頃から中学にかけてバレーやサッカー、バスケ等の部活に入ろうとしても「小せぇのがチョロチョロしていると邪魔」とか「その身長でほんとにバスケやる気なの~?」と身長のことをからかわれ、その度にケンカして部を追い出されていた。

 拒まれるたびに「みんなで楽しく活動する部活」に対する渇望は強くなり、自分を“チビ”扱いする相手への反発心も募っていた。そんな祇園が、体格に恵まれていなくとも活躍できるラグビー、なかでも小さい自分が体の大きな相手を倒せる「タックル」に一気に魅了されてしまったのは必然だった。

 序盤は、そんな祇園の高揚感に満ちている。初心者でありながら、他校との練習試合で突破口として起用され活躍する姿は魅力的に描かれており、読んでいてわくわくしたし爽快でもあった。だが、コーチに就任した籠は、タックルばかりに執着し、他の練習を蔑ろにする祇園に「タックルさえ出来ればそれでいいのか」「こんな独りよがりのプレーをしているんじゃ、どこでもやってけるわけがねぇ」と辛辣な言葉を投げつける。

 そこからの祇園の描かれ方は実に素晴らしい。籠の言葉をきっかけに、これまで自分を受け入れなかった数々の部の中には、自分とさほど変わらない身長の部員たちがいたことを思い出し、祇園は「チビだったから」ではなく、「自分が悪かったから」受け入れてもらえなかったのだと自覚する。

 それまでの祇園は、元気いっぱいで、小生意気で、喧嘩っ早く、わがままいっぱいに描かれ、紙面からもその騒がしさがあふれ出していた。しかし、籠の言葉を浴びたその瞬間から、絶望に満ちた表情を浮かべ、以降一言も話さなくなる。ほかの部員たちが練習している横で、無表情のまま淡々と雑用をこなす姿は、まさに青菜に塩といった状態で紙面は静寂に満ちていた。この激しい落差が祇園の自省の深さを見事に物語っていた。

 その後、石清水の言葉やプレーをきっかけに祇園はチームの為のプレーをすることができるようになる。その姿に籠は「一人、部員が増えた気がするな」と部員たちに向かって言い、祇園は先輩から笑いながら「入部オメデトー」と声をかけられたのだが、この一連の流れは筆者にとっては衝撃的であった。

 それまで筆者にとって「入部する」とは、単に入部届を出して部活動の練習に参加するという意味合いでしかなかった。しかし、本当に「入部する」というのは、そのチームの一員として、チームの為に懸命にプレーできるようになることなのだ。それはこれまで団体スポーツの経験のなかった筆者には思ってもいなかったことで、団体スポーツを始めるとはどういうことなのかということを教えられた。

コミックス8巻表紙 祇園健次

心に響く部員たちの懸命な姿

 このマンガで描かれているのは祇園の物語だけではない。祇園を取り巻く部員たち一人ひとりにも、それぞれ抱えている苦しさや成長のドラマがある。

 祇園がラグビーに出会うきっかけとなった石清水澄明は、祇園とは対照的な身長190cmを誇る長身の選手である。彼はその体格のよさゆえに、中学時代、全国大会をかけた決勝戦直前の練習で、親友にタックルをした際に怪我をさせてしまう。その結果、石清水の中学は決勝で敗退し、以来石清水はラグビーができなくなってしまっていた。

 自分という存在が、いつ人を傷つける加害者になってしまうかわからない。それはとても恐ろしいことだろう。けれど、祇園がそんな石清水のタックルを受け、吹き飛ばされ痛がりながらも、満面の笑みを浮かべながら「楽しい!」「ラグビーって楽しいじゃねェか!」と言う姿に、かつて怪我をさせてしまった親友も同じようにラグビーが楽しいと語っていた姿を石清水は思い出し、再びラグビーを始める。その後も、中学時代の関係者が現れる度に石清水の心を萎縮させるが、その度に祇園が「気弱な態度だからいけないんだ!」「もっと偉そうな態度を取れ!」などと無茶苦茶な指示を出しながらも、その明るさに支えられ過去を乗り越える心を持てるようになっていく。

コミックス6巻表紙 石清水澄明

 祇園や石清水と同じ1年生の大原野越吾は、小学生の頃からスクールに通っている経験者で、優れた才能の持ち主だ。神高ラグビー部の試合ではキーマンになることが多く、先輩に対しても上から目線の生意気なキャラクターとして描かれている。

 けれど、大原野はもともと、大好きな弟と同じことをして遊びたかっただけで、決してラグビーが好きだった訳ではなかった。彼は弟が何かを始めるたびに後を追って同じことを始めるのだが、そのすべてにおいて才能を発揮し、あっという間に弟以上に上達してしまう。チームの中心として活躍する一方で、兄の才能に耐えきれなくなった弟は習い事をやめてしまうということを、繰り返していた。

 ただ弟と一緒に遊びたいだけなのに、突出する才能故に弟とぎこちない関係になってしまう大原野であったが、祇園や他の部員たちとの交流を経ていつしかラグビーと神高ラグビー部が好きになっていく。

コミックス9巻 大原野越吾(左)

 恵まれた体格とカリスマ性を備えたキャプテン・赤山濯也は、ラグビーを愛し、練習熱心で礼儀正しく仲間思い、実力も神高一で誰もが頼れる理想的な主将に見える。だがコーチとして籠が現れた時、彼の厳しい指導に対し「あんな風に教えられたことがなかった」「嬉しい」と同級生に語る。そこで初めて、赤山も今まで必死に背伸びして頑張ってきた子どもであると気付かされる。

コミックス3巻表紙 赤山濯也

 段々と心が強くなっていく石清水、神高ラグビー部に愛着を持つようになっていく大原野、正しい指導のもとで強くなっていくことに喜びを見出す赤山。彼らの成長や変化は読んでいて心が温まる。

 もちろん、この3人以外の部員たち1人1人が、それぞれ異なる悩みや苦労を持っている。いくら頑張ってトレーニングを重ねても筋肉がつかず、恵まれない体格に悩む者、家族がラグビーをやることに反対している者、家族が倒れたことでラグビーを諦めなければならない者、同級生たちに反発し、部活に出ず陰で練習をしている者、1年生にレギュラーをとられ焦っている2年生たち、自分の弱点に向き合おうとする者たち。

 そんな彼らが仲間たちと問題を乗り越え、籠の指導の下、ラグビー選手としても、人間としても成長していく。その成長の過程での仲間たちのやり取りがとても楽しいのだ。少年たちらしく口げんかしながらスコップで砂をかけ合ったり、夜の自主練でかち合って悩みを語ったり、癇癪をぶつけあったり。そんなやり取りを見ていると、彼らをどんどん好きになっていく。そして心から応援したくなってくる。

 けれど、それは神高だけではない。対戦相手として現れる学校の部員たちにもそれぞれに背負った過去と負けられない事情が描かれる。だからこそ、試合は単純に神高を応援するだけのものではなくなり、緊迫し、心情的にも苦しいものになっていく。ときには、相手チームにも勝って欲しかったという思いも抱かされるほどだ。

 その一方で、試合外では他校の部員たちと合同練習をしたり、コツを教えてもらったりといった交流も描かれ、微笑ましい場面が多い。ここでもまた、気づけば相手校の選手たちにも好意を抱いてしまう。そんな若者たちの織りなす世界に、心惹かれずにはいられない。

【【丸裸!? 「ALL OUT!!」 スペシャルPV~第一クールとキャラクターの魅力を振り返り!!~】】

子どもたちの成長を支える大人たちの存在の大きさ

 そして、子どもたちが強くたくましく成長する姿に胸を打たれる一方で、彼らを取り巻く大人たちの存在も重要だ。神高ラグビー部は、最初は赤山を中心とする部員たちの力だけで成り立っていたが、それだけではチームとして結果を残すことはできなかった。

 そこへ、元日本代表選手の籠信吾がコーチとしてやってきて、状況がガラッと変わる。それまでの、長時間ただがむしゃらに走り込み、ぶつかり合うだけの練習は、きちんと休憩を挟みながら行なう、理にかなったものに変わっていった。私立高校と違い設備がないと言われれば、グラウンドに高さ150cmのロープを張ってランニングパスをさせたり、海岸で手押し車をさせたり、スコップで穴を掘らせたりと、設備がなくても低いパスができ、戦える体を作るための練習を部員たちに課していく。また、フィジカルの違いで負けたと話す赤山に、そうではないことを体感させ、頭を使えと諭すなど、意識面でも指導を施していく。

 そんな籠の指導に部員たちは強くなっていくが、籠が行なっているのはそれだけではない。祇園に対して行なったように、時には厳しい言葉を投げ、褒める時には褒める。中でも印象的だったのは、ガムシャラにやることしか知らず、それでも強くなれなかったことで、今まで通りではダメだと語る赤山に、「お前をそこまで育てたのはそのガムシャラだったんだろう」「俺はお前のそのガムシャラが好きなんだ」「そのままでいい」と語りかけた場面は赤山だけでなく読んでいるこちらの胸にも響き、目頭が熱くなった。これまで必死に部を支え、なのに結果を残せずにいた誰より責任感の強いキャプテンにとって、これほど報われる言葉があるだろうか。籠はそんな風に、部員たちが必要としている時に、必要な言葉をかける。そんな彼の指導で、生徒たちは人間としても成長していく。

 そして、顧問の吉田諭志も部員たちを支える大人の1人だ。吉田はラグビー部の顧問になった当初は、ラグビーの本をたくさん集め、部員たちを支えようと懸命に関わっていた。しかし、当時のラグビー部は楽しさ優先で、負けても悔しさをみせず、練習もどこか気の抜けたものだった。そんな空気の中で、吉田の熱さは邪魔にしかならず、邪険に扱われていくうちに、彼はラグビー部に失望し、離れていったという過去がある。そのため、物語の序盤、吉田は部活に全く顔を出さず、むしろラグビー部に対し嫌悪感を抱いていたくらいであったが、赤山たちの試合を見て心を動かされ、改めて部のために尽力するようになり、神奈川一の高校と練習試合を組んだりするなど、彼なりのやり方でチームを支えていく。

 ほかにも、部員の保護者達も合宿のご飯を作ってくれたり、試合の応援に来てくれたりと、さまざまな形で子どもたちを支えている。そんな中、懸命に戦う子どもたちに資金を出し合って、部員全員のウィンドブレーカーを作ろうという意見があがった。完成したウィンドブレーカーを着てはしゃぐ部員たちの様子に、保護者たちの贈り物が温めたのは体だけではなく、心もだったのだと伝わってくる。

 そんな大人たちがいたからこそ、部員たちは困難を乗り越える力をつけていくことができたのだろう。技術だけ教えていては、部員たちの成長はなかったはずだ。人を教える、支えるということは、心身共に導いていくものだと実感させられる。本作は、大人が正しく豊かな土壌を用意すれば、子どもたちは正しく、真っすぐに成長していけるのだと教えてくれる。同時に、それだけ大人たちの責任は重く、だからこそ、その役割は魅力的であることも気付かされる。1人の大人として読んでいて、何度も身が引き締まる思いをさせられた。

これから何かを始めようとする人たちに

 物語の冒頭でも語られているように、ラグビーは背の高い人も低い人も、足の速い人も遅い人も、太っている人も痩せている人も、どんな人にも活躍するポジションがあり、誰もが輝けるスポーツだ。この「ALL OUT!!」という作品は、そんなラグビーを題材として、すべての少年たちが成長し、輝ける人間になっていく様子を見事に描き出している。

  同時に、最終巻で祇園が石清水に語る言葉が印象的だ。ネタバレになるため詳細は伏せるが、かつては「相手をぶちのめしたい」と思って始めたラグビーが、いつしか「みんなでボールをつなげられたことがうれしい」という感情へ変わっていた。こうした彼の言葉に、団体スポーツの真髄とは何か、その答えが凝縮されている。これから新たに部活やサークル、習い事を始める人たちに、ぜひ読んでもらいたい作品である。