レビュー

完璧淑女が貴族社会を生き抜く!「華麗に離縁してみせますわ!」

異世界系恋愛ジャンルに現われた、新しい風

【華麗に離縁してみせますわ!】
アルファポリスにて連載中
漫画:あばたも 原作:白乃いちじく

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 「華麗に離縁してみせますわ!」は、漫画・あばたも氏、原作・白乃いちじく氏の異世界ジャンルのマンガだ。コミックシーモア開催の「みんなが選ぶ!! 電子コミック大賞2025」では、「異世界部門賞」を受賞、現在4巻まで出ているが、シリーズ累計40万部を突破している。いわゆる中世ヨーロッパ風の異世界の貴族社会で、美貌の令嬢が政略結婚させられて、とテンプレート的に物語は始まる。だが、実は王室を取り巻く陰謀に立ち向かうという、スペクタクルなストーリーへと発展していく、今おすすめの異世界系作品だ。

政略結婚させられた令嬢、離縁を目指して孤軍奮闘!

【結婚初夜での第一声】
エイドリアンはローザを最初は拒否する

 中世ヨーロッパ風のとある王国で、主人公のローザは父親の命令で、没落しかけの伯爵家に嫁ぐこととなった。相手の名はエイドリアン・バークレア。顔はイケメンだが、前当主の兄がギャンブルで多額の借金を抱え込んだまま亡くなった、後ろ盾のない貴族だった。ローザの父、ドルシア子爵は、裏社会を牛耳る血も涙もない男で、バークレア伯爵家の借金を肩代わりして娘を嫁がせたのだ。ローザはこの政略結婚を、父親が伯爵家を乗っ取るためのものだと考えていた。肝心のエイドリアンは、もともと別に結婚を誓い合った恋人がいたのだが、ドルシア子爵の根回しで別れを余儀なくされ、不本意のままローザと結婚したのだった。

 互いに望まない結婚とはいえ、エイドリアンは夜の貴公子、ローザは夜会の薔薇と称されるほど共に容姿端麗である。しかし、エイドリアンは元恋人のことが忘れられず、ローザを初夜から拒否し、寝室もずっと別で、まさに形だけの夫婦だった。

【伯爵令嬢主催のお茶会】
良い商売相手を探すため、ローザは積極的に動く

 エイドリアンは、没落しかかっていたにも関わらず、貴族社会で想い人と結婚できると思い込んでいたほど、おめでたい頭の持ち主で、軟弱で甲斐性なしの、ローザいわく「地位と顔だけ男」である。対して、ローザは、父であるドルシア子爵に熾烈な淑女教育を施され、素性を隠して出場する剣術大会では王太子すら退け優勝するほどであり、貴族の令嬢でありながら掃除も料理も畑仕事も何でもこなしてしまうスーパーウーマン。ローザは、金の亡者で強欲と恐れる父親の管理下から逃れ、好意を抱いていないエイドリアンと離縁するために、お金を貯めて自由を手に入れようと奮起するのだ。

【領地でのワイン醸造】
逃亡資金のためだが、使用人たちからも慕われる

 金を稼ぐために、ローザは邸宅の広大な庭を一人で耕し芋畑にし、領地内のワイン醸造に力を入れ、貴族達のお茶会や夜会にも積極的に出席して人脈を作るなど、逞しく奮闘する。そんな規格外で頭の切れるローザは、使用人たちにも慕われ、伯爵夫人としても申し分のない勤めを果たす。エイドリアンは最初こそ悪態を吐いたものの、一本芯の通ったローザに徐々に惹かれていき、最終的には愛情を抱くようになる。

【猛者の護衛を鍛えるローザ】
強さも超一流の規格外令嬢

 ここまでは、最近の異世界系恋愛ジャンルならよくある展開で、ある種のテンプレート通りなら、この後ローザとエイドリアンは本当の夫婦になるのだろう。だが、この作品が爽快なのは、ローザがエイドリアンの好意を知っても、離縁の意志が変わらないことだ。タイトル通り「華麗に離縁してみせますわ!」と高らかに宣言するローザは、竹を割ったような高潔さと眩しさを合わせ持つ。

父親の本当の目的はローザを女王に据えること!

【ローザに誕生日プレゼント】
貧乏貴族だが、愛するローザのために頑張るエイドリアン

 ローザの離縁の意志は固かったが、エイドリアンのローザへの気持ちも強くなっていく一方だった。なんとか離縁しないで済むように、エイドリアンは、頭脳明晰で社交術に長けた非の打ち所がないローザに見合う男になるよう決意を新たにする。記憶力が悪くて、思慮も浅い、社交も荒事も苦手で軟弱な、欠点ばかりのエイドリアンだったが、誠実で素直という長所があり、ローザは、その点は好ましく思っていた。逃亡資金を貯めるまで、後2年の間に、エイドリアンが「父にとって役立つ男」だと示すことができれば、離縁を考え直してもいいと猶予を与えるのだ。

【ドルシア子爵】
常に仮面をしており、仮面卿という二つ名がある

 そもそも、ローザは父親のドルシア子爵を、極悪人だと思い込んでいた。生まれてすぐ母親と死別したローザは、幼い頃から父親に剣技や学問を厳しく教えられて育った。一度教えられた内容を間違うことは許されず、剣の稽古は衝撃で腕が折れるほどで、出来て当然だと言わんばかりの冷酷な眼差しと態度に、自分は愛されていないのだと思っていた。抱きしめられたことも、愛していると言ってもらったことも、一度もないのだ。娘の自分も、父に歯向かえば命はないと考えていたローザは、エイドリアンとの間に子供が生まれれば、エイドリアンは殺され、子供を伯爵に仕立て上げて父は伯爵家を乗っ取る計画なのだろうと予想していた。それを避けるためには、離縁して逃亡するか、あるいはエイドリアンが父親にとって利する人物になるか、どちらかしかないと考え、エイドリアンに2年の猶予を与えたのだ。

【ドルシア子爵に殴れたエイドリアン】
義父とはいえ子爵に殴られる伯爵

 かくしてローザとエイドリアンは、それぞれの目的のために、協力して夜会や晩餐会に出席しては人脈を広げ、領地やワイン醸造の改革に乗り出していく。だが、とある夜会でローザを気に入った王太子から、ローザを側室にするという横暴な打診を受けてしまう。絶対王政の社会で、王太子の命令に背くことは不可能だったが、これに激怒したドルシア子爵が、毒物で秘かに王太子を不能にし、廃嫡させてしまう。側室の話は立ち消えとなり、結果的には良かったものの、王太子に毒を盛るという、尋常ならざる手段を取ったこの事件をきっかけに、ローザとエイドリアンは謎めいたドルシア子爵の素性を少しずつ知っていくことになる。

【エイドリアンの父の死】
ドルシア子爵が生きているのは、エイドリアンの父のおかげ

 その中で重要なことが3つある。1つ目は、ローザのことを娘としてちゃんと愛していること。2つ目は、ドルシア子爵とは仮の姿で、本当は、前国王の殺害という無実の罪で処刑された元王太子であること。3つ目は、身代わりに断頭台で処刑されたのは、エイドリアンの父であったことである。

 ドルシア子爵がローザを大切に思いながらも敢えて厳しく育てたのは、どんな状況でも生き残らせるためであり、決して愛がないわけではなかった。唯一無二の宝だと称するローザを、バークレア伯爵家に嫁がせたのは、伯爵家の乗っ取りが目的などではなく、自分の代わりに処刑されたエイドリアンの父に報い、伯爵家を復興させるためだったのである。

【ドルシア子爵は元王太子】
暗躍は全て、ローザを女王にするため

 そして、前国王を殺したのは第一王子であったドルシア子爵ではなく、現国王の第二王子である。それを、ドルシア子爵ははっきりと現場で目撃しているが、無実の罪を着せられてしまった。ひとえに王国に伝説として伝わる「滅びの魔女の秘薬」に、周囲の者が操られていたからだとドルシア子爵は語る。「滅びの魔女の秘薬」については、分からないことが多いが、いずれにせよ、ドルシア子爵は冤罪を晴らして王室に返り咲き、娘のローザを女王に据えることが、最終的な目的であると、ローザに伝えるのだ。

賢く強く美しいローザは、異世界系恋愛ジャンルの新しい風だ

【絵になる二人】
ローザは伯爵夫人として振る舞っているにすぎない

 予想だにしなかった真実をドルシア子爵から告げられ、驚愕するローザだったが、過酷な環境で育て上げられた胆力は伊達ではなく、その日のうちに女王になると覚悟を決める。ドルシア子爵は、現在の国王が王室を私物化し、国民に圧政を強いている現状を、ローザなら建て直せると確信しているのだ。

 ということは、もし離縁しなければエイドリアンは王配になるということだ。伯爵家を復興するだけでなく、王国を導く立場になるかもしれないということで、エイドリアンも戸惑いはするものの、ローザと離縁したくない気持ちが強いため、腹を括る。とはいえ元々の能力が低く、知識も社交も前途多難なエイドリアンは、ドルシア子爵から特別な指導を受けることになる。だが切れ者のドルシア子爵は、エイドリアンの基礎能力を「蟻」と評価するほど手を焼いていて、今後どうなるのか、結局離縁ということになるのか、まだまだ先が読めない展開となっている。

【隣国の皇帝に会うローザ】
物語は隣国まで巻き込む展開に

 ほかにも、ドルシア子爵がどうやって冤罪を晴らすのかも詳細はわからないし、伝説と言われている「滅びの魔女の秘薬」の実態も、謎が多い。今後の展開から目が離せないわけだが、ここまで読んでもらえればわかるとおり、最初の異世界系恋愛ジャンルのテンプレート的なスタートからは想像もできないぐらい、話がスペクタクルな方向に舵を切っているのだ。

 中でも、筆者が特筆したいのは、賢く強く美しいローザの新しさである。もちろん、これまでにもさまざまな異世界系作品が世に放たれており、白い結婚に満足したり、お一人様を満喫したりする令嬢など、色んなタイプの主人公が存在した。だが、ローザの異彩はそれらとも一線を画すと筆者は思う。

【賭博場に潜入するローザ】
何に対しても物怖じしない令嬢だ

 そもそも、異世界系恋愛ジャンルは、1960年代に端を発する少女マンガの系譜に連なると筆者は考えていて、基本的には当時まだ難しかった、自分の意志で自由に恋愛するという憧れから始まっている。時代を経るにつれ、その自由な恋愛はより少女が主体的に行動するように変化していったわけだが、2010年代ごろから、今度は逆に、現実社会で自由に選択できることに疲弊したのか、政略結婚など、誰かに勝手に決められた人生で偶然素敵な人と恋愛できるといった、自由ではないが決められたレールの上でたまたま幸せを掴む、というパターンが飛躍的に増えた。異世界系恋愛ジャンルはこの、「命令に従っていたら偶然運命の人と幸せな恋愛をする」パターンが多いのが特徴である。

 「華麗に離縁してみせますわ!」も、筆者は最初、そのような「選択の自由はないが偶然幸せな恋愛をする」よくある作品なのだろうと高を括っていた。しかし、ローザはそのような主人公ではない。選択の自由はなく、父親の意向通りに人生を進め、政略結婚相手のエイドリアンから愛されはするものの、ローザに恋愛感情はない。とはいえ大嫌いということもなく、無下にはしないが袖にするという、ある意味贅沢で新しい形のラブロマンスであるように筆者は思う。ローザはその、新しいラブロマンスの旗手として、貴族社会を賢く生き抜く、強くて美しい主人公の姿を見せてくれるのだ。是非「華麗に離縁してみせますわ!」を読んでみて、異世界系恋愛ジャンルに現われた、この新しい風を感じ取ってほしいと筆者は思っている。