インタビュー
BLウェブトゥーン「変態ストーカーに狙われてます」作者みん未氏インタビュー
「BLアワード2024」webtoon部門で第3位に選ばれた人気コミック
2024年4月12日 10:00
縦読みマンガが読めるコミック配信アプリ「comico」で連載中の「変態ストーカーに狙われてます」が、BL商業サイト・ちるちるが主催する「BLアワード2024」のwebtoon部門で第3位に選ばれた。7月25日には初の単行本化となる1・2巻の同時発売も予定されている。
今回は、本作の作者みん未氏から話を聞くことができた。「変態ストーカーに狙われてます」はいわゆるウェブトゥーンと呼ばれる、スマホでの閲覧に特化した縦スクロールのカラーマンガ。ウェブトゥーンが生まれた韓国では、アメコミと同じように作画や着色のスタッフがチームを組んで制作に当たることが多いが、みん未氏は毎週の連載をすべて1人でこなしている。
インタビューでは、作品に関することや、制作に関することなどを直接聞くことができた。ぜひ作品ともども楽しんで欲しい。
□「comico」の「変態ストーカーに狙われてます」のページ
ピアスショップに勤める立花竜胆(たちばな りんどう)は、ストーカーに狙われているのを感じている。そんなある日、竜胆はドストライクの女の子から告白され、喜び勇んでデートに応じる。が、実は男で、しかも竜胆を狙っていたストーカー・天音隆弦(あまねりゅうげん)だった。
マンガを描いたのはウェブトゥーンが初めて
――最初に、作品が生まれたきっかけから教えていただけるでしょうか。
みん未氏:あんまり覚えてなくて(笑)。大きなきっかけはないんですが、マンガを描き始めてみようかなと思って。頭に思い浮かんだものが、ちょうどこの作品のもとになる話だったんです。comicoさんには「チャレンジ」という誰でも投稿できる場があるんですが、それをそこに投稿して、今に至る感じですね。
――もともとマンガを描いていたわけではなくて、ウェブトゥーンが初めてだったんですか?
みん未氏:そうです。まともにマンガを描いたのは初めてですね。
――どうしてcomicoに投稿しようと思ったんですか? もともと読者だったとか?
みん未氏:それもあったし、カラーのほうが描きやすかったんです。
――マンガを描くのが初めてということで、ウェブトゥーンで作品を作っていくうえで、苦労したことはありますか?
みん未氏:カラーでの表現は普通の見開きのマンガとはまた異なると思うので、うまいこと表現できるよう探り探りです。
――BL作品を描こうと思ったのは?
みん未氏:その時の気分なんですけど、たぶんその時BLを描きたいなとなったんだと思います(笑)。
――マンガを描くうえで影響を受けた作品はありますか?
みん未氏:この作品という具体的なタイトルは思い浮かばないんですが、ホラーは好きですね。暗い雰囲気の作品を見たり、読んだりするので、それはエッセンスとして入っているかなと思います。
――もともとイラストは描かれていたんですか?
みん未氏:そうですね。ちょいちょい絵は描いていたんですが、マンガを描こうとは思わなかったので、どちらかというとマンガよりもイラストを描いていました。
――それが漫画家になろうと思ったのはどうしてですか?
みん未氏:絵を描くときに、頭の中でその人物のストーリーが一緒に思い浮かんだんです。それでちょっとそのストーリーを形にしてみたいなと思って。
竜胆は可愛く描けないことがあって意外と難しい
――主人公立花竜胆はピアスショップに勤めていますが、これはみん未さん自身がそういった経験があるからなんですか?
みん未氏:自分が働いていたわけではないんですが、そういう知り合いが何人かいて、可愛いなと思っていたので、面白いかなと思って。私自身がいっぱい穴を開けているわけではないんですが、周りを見て思いついたという感じです。
――第1話の、女装している男に襲われるというのは、なかなか衝撃的な展開かなと思いますが、そこはどういったことがきっかけで思いついたんですか?
みん未氏:欠陥人間が好きなので、普通でない人間を描きたかったというのがありますね。欠落した人間を描くのに、ストーカーはわかりやすいかなと思ったので。
――ストーカーとの恋愛を描きたいというのがきっかけということですか?
みん未氏:ストーカーからしか生まれないものもあるだろうなと思って(笑)。
――キャラクターを作るうえで、重視したことなどはありますか?
みん未氏:金髪と黒髪がわかりやすかったのでこの髪色にしたのと、あとは手くせで描きやすかったのでこの造形にしたんだと思います。
――天音と竜胆のどちらが描きやすいですか?
みん未氏:天音の方が描きやすいですね。竜胆は描いていて、あんまり竜胆ぽくないなと感じることがけっこうあるので、あまり描きやすくないのかなと。自分の手にあまりなじんでないのかもしれないですね。竜胆は描いていて、これ顔が可愛くないなと思うことがけっこうあるので。竜胆は可愛く描かなきゃという思いはあるんですが。でも締め切りは待ってくれないので、ブスいまま出してしまうこともあります。
――では竜胆は描き直しも結構あるんですか?
みん未氏:ありますね。作業が終わって見直した時に。もったいないからこのまま行こうかと思いますが、やっぱり没にしちゃったり。私はネームと下書きが一緒なんですが、下書きでいい顔が描けたのに、本番ではぜんぜん違ってしまったり。たぶんあるあるだと思うんですが、それはショックですね。
――天音は過去のあるキャラなので、掘り下げていく楽しさがありますね。
みん未氏:天音がああいった行動をするに至る理由を描くのは楽しいですね。そういうことしちゃダメでしょ、ってことをするに至る心情などを描いていくのは楽しいです。もちろんハッピーも描いてて楽しいですけど、そこに至るまでの過程も楽しいですね。
――BLならではのいちゃいちゃシーンもたくさんありますね。ああいったシーンは描いていて楽しいですか?
みん未氏:Hなシーンは楽しいというよりも、綺麗に描かなくちゃという気持ちが先行するので、時間がかかりますね。同じような体勢ばかり描いていてもつまらないし、2人にはいろんなプレイをして欲しいので、構図だったり、今までやったことがないことを描くのは楽しいけれど、やはり時間がかかります。
――最初は2人で抱き合っているだけで幸せだったのに、だんだん過激になってきていませんか?
みん未氏:そうですね、でもずっと一緒にいたらそういう雰囲気にもなるでしょうし天音は変態なので(笑)。
――いつもとはちょっと違う感じにやってみようか、とか。
みん未氏:そうそう。いろんなことをしてもらおうかなと。
――読者さんから、こんなことをして欲しいという要望が届いたリしますか?
みん未氏:最近、コスプレをさせたんですが、それは以前、コメントで「こういう格好をして欲しい」というのを覚えていたからで、割と要望は目にしますね。コスプレはちゃんとできてよかったです。
――主人公以外で、お気に入りのキャラクターはいますか?
みん未氏:基本的に全員好きです。2人の障壁になるキャラが結構いて、そういったキャラは読者さんには人気がないと思いますが、そういうキャラも結構好きです。あんまり死ぬほど嫌いな性格のキャラクターは描いていないということもありますが、どのキャラもみんなどこか欠落している部分があるけれど、まっとうから完全には外れていないようには描いているので、嫌いなキャラクターはいないですね。関わりあいになりたくないキャラはたくさんいますけどね(笑)。
――登場人物のなかで、自分に近いと思うキャラクターはいますか?
みん未氏:あまり誰も近くはないですね。自分で描いていますが、あまり考え方が理解できないなということがほぼ全員にあるので。倫理観はだいたい近いですが。
椿編は辛かったけれど想いが詰まっていて描いていて楽しかった
――ストーリーについてお伺いします。本作はシリアスなパートもありますが、ギャグも結構きいていますよね。
みん未氏:基本はコメディです。人生といっしょですね。いいこともあれば、悪いこともあるという感覚で。
――ほんわかパートとシリアスなパートで、描きやすさの違いはありますか?
みん未氏:完全に気分ですね。あー、でも暗いのを描いている時の方が筆がのっているかも。キャラクターが苦しいめにあっているのが好きではないけれど、自分としては楽しんで描いている部分もあります。
――いままでの連載でお気に入りのエピソードやお気に入りのシーンはどこですか?
みん未氏:みんなが辛がっている椿編には、私の想いもたくさん詰まっているのであの辺りは描いていて楽しかったです。
――読者からの反応はいかがでしたか?
みん未氏:90話くらいから100話くらいまでの椿編の話なんかは、あからさまに暗くて重かったと思います。あの辺りの導入部分では、読者さんからの反応が興味深かったです。あとはいつもコメント欄を見ていて、こちらの仕込みに気づいてもらっていると「おお!」と思いますね。
――毎週カラーで描くのは大変だと思いますが、何かモチベーションにしていることはありますか?
みん未氏:完全に締め切りですね。
――2021年から連載を開始して、もう3年くらい経つわけですが、やはり一番大変なのは締め切りを守ることですか?
みん未氏:まあそうですね。後は、ちょっと座っている時間が長すぎるという問題があって、お尻が痛いなあと。
使い慣れたMacと板タブで描いています
――普段はどんな道具で執筆されているんですか?
みん未氏:いつ買ったかわからない化石のような板タブ(ペンタブレット)と、あとはクリスタ(CLIP STUDIO PAINTの略)です。一度PCもタブレットも壊れたんですが、新しいのを購入した後にいつの間にか直っていたので、使い慣れたほうをずっと使っています。
――液晶タブレットより板タブの方が使いやすいですか?
みん未氏:たぶんちゃんと使えば液タブのほうが使い勝手がいいんだろうなという感触はあるんですが、ずっと古い板タブです(笑)。
――ウェブトゥーンは縦に読んでいくのが特徴ですが、こういった媒体だからこその制作の工夫はありますか?
みん未氏:見開きのマンガだと次のコマや次の展開が少しは目に入ってくると思うんですが、ウェブトゥーンだとスクロールしないと次に何が描いてあるのかわからないので、スクロールしてもらうことを気にしながら描いたりはしています。
――紙のマンガだと、ページをめくる区切りを演出に使ったりしていますが、ウェブトゥーンではそういうメリハリをどのようにつけているんですか?
みん未氏:めちゃスクロールできるので、めちゃ間を空けたりとか。自分の手でスクロールすることでシーンの間を体感できるのは利点じゃないかと思います。ページを開くと見開きの大ゴマというほうが迫力はあるかもしれないですが。
――マンガだとページごとに描いていくイメージですが、ウェブトゥーンの場合はどういった描き方になるのですか?
みん未氏:私はちょっと特殊だと思うんですが、縦に長く描くのではなく、個別に1コマずつ描いて、最終的に長いところにパズルのように組み立てていくような描き方です。たぶんめちゃ面倒くさいことをやっているんじゃないかと思います。
基本的には上から順番に描いてはいきますが、横幅が決まっているじゃないですか。だからどうしてもそこに入れると切れちゃう部分がでてくるんです。全体を描いた方が自分としてもやりやすいので、全体を描いて、それを長いページにはめ込んでいっています。使わない部分がもったいないなとは思いますが、それでやっています。
――ウェブトゥーンでは何人かの分業で、彩色は別の人がやっている場合もありますが、みん未先生はすべて自分で色も付けられていますね。大変ではないのですか?
みん未氏:面倒くさいですね(笑)。ただ、メリットはたくさんあるんです。人を介すとやりづらくなりそうだという懸念もありますし。ただ、面倒くさいです(笑)。
――すべての作業を自分でこなされているのは、そこにこだわりがあるからですか?
みん未氏:1人の方が作業しやすいというのはあるんですが、とはいえそろそろ誰か入れたほうがいいかもとも思っています。下塗りだけでいいからやってくれないかな、と。
――今はどんなPC環境を使っているのかもお伺いできますか?
みん未氏:MacのノートPCなんですが、Gmailが送れないんですよ。これはサポートが終了しているから送れません、って出て。それを延々と使っていますね。まあ新しいPCはあるので、こっちでできないことは、新しい方でしています。古い方に慣れているというのもあるし、素材がそちらにいっぱい入っているので、古い方をずっと使ってますね。
――タブレットもですが、使い慣れたものがお好きなんですね。
みん未氏:そうですね、新しいことを始めるのに気合がいるというか、覚えて使えるようになるまで時間がかかるじゃないですか。めちゃ時間があって、休みがあるならやろうと思いますが、いまはとりあえずいいかなと。もし完全にぶっ壊れたら液タブに替えると思います(笑)。
受賞は読んでくださった方と、編集さん皆さんのおかげです
――「BLアワード2024」の3位を受賞されたことの感想を教えてください。
みん未氏:一言でいうと感謝ばかりですね。いつも応援してくださる皆さんの声が結果になったことが嬉しいです。全然読まれていないのかも、と思うこともあったので、受賞と聞いて本当に嬉しいです。皆様のおかげです! 読んでくださった方はもちろんですが、comicoさんや編集さん全員のおかげです。
――初単行本化ということで、7月25日にはいよいよ紙になって書店に並びますね。
みん未氏:並んでいる本を見たときにどう思うかはまだ想像がつきませんが、単行本が、まだ2人を知らない人への窓口になればいいなと思います。単行本化を待ってくださっている人の声がたくさん届いてはいたので、喜んでもらえたらいいなと思います。
――もう表紙は描かれたんですか?
みん未氏:まだなんです。ラフを描いてだんだん形は決まってきているんですが、まだ清書まではできていないです。
――まだしばらくはこの作品が続いていくでしょうが、その先で何か描いてみたいものはありますか?
みん未氏:葬式を描きたいですね。ただ葬式だと誰かを殺さないといけないので、「変スト」で死者はちょっと気まずいなと。死人が出ない方向では行きたいので。だからそれ以外で葬式を描きたいですね。
――ホラーがお好きだということなので、ホラーものとか?
みん未氏:そうですね。メインがホラーというよりは、ホラーのエッセンスが入ったものを描きたいなと。
――漫画家になってよかったと思うのはどんな時ですか?
みん未氏:続けさせてもらっていることが何よりよかったと思います。あとは好きだと言ってもらえる声に励まされています。SNSを始めてわかりやすく声が届くようになったので、本当にありがたいです。
――これから漫画家を目指す人へのアドバイスをお願いします。
みん未氏:私もまだ勉強中なので、偉そうなことは何も言えないんですが、描き続けることと、何か1本描いてみて描き切ることが大切だと思います。1本描き上げるだけでも相当すごいことだと思います。
――みん未さん自身は、最初の1本を描き上げたときに、将来漫画家になることが想像できましたか?
みん未氏:全然思っていませんでした。こんなことを言っておいてなんですが、最初に3話くらい投稿したものは、ちゃんと最後まで描けていなかったんです。せっかく描いたのにどこにも出さないのはもったいないなと思って出して、選ばれるなんてまったく考えていなかったので、声をかけていただいた時には嬉しかったです。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
みん未氏:何度も言っていますが、皆様がいるから「変スト」があるので、描かせていただいてありがとうございます。皆さんの応援がこういうインタビューにもつながっていますということを、皆さんに知ってもらいたいです。ありがとうございました。
――ありがとうございました!