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同じ題材でこうも違う!夏の終わりに楽しみたい「都市伝説」のマンガたち【夏休み特集】

てけてけの足に手がついていたり、花子さんが男の子だったりする新解釈が面白い

 夏は様々なホラーマンガやホラーゲーム、お化け屋敷、ホラー映画、怪談話などで涼をとる方もいるのではないだろうか。ホラーといえば幽霊や妖怪やUMA、都市伝説などなど、人間に恐怖を与えるものは様々なものがあり、色々な形で物語となったり、作品の題材として描かれている。

 中でも都市伝説はアメリカで提唱された概念であり、「現代発祥で、根拠が曖昧・不明な噂話」と定義されている。日本では古くはトイレの花子さん、こっくりさんや人面犬に始まり、現代では異世界にエレベーターで行く方法やきさらぎ駅などが挙げられ、”現代発祥”という意味では古い時代の妖怪譚や怪談話より馴染みのあるものが多く、日常生活で思い出すとヒヤッとしてしまうようなものが多いように思う。

 都市伝説はマンガの題材として取り上げられることも多いが、作品ごとに違った解釈が取り入れられていたり、ストーリーは伝説そのままでも絵で恐怖を覚えさせるような作風となっていたりと、同じ都市伝説でも作品によってこうも違うのか!という楽しみがある。そこで今回は都市伝説と、それが題材となっているマンガ・エピソードを紹介していく。なお、それぞれの作品については一部ネタバレを含むので、ご注意頂きたい。

トイレの花子さん

 学校のトイレに現われる赤いスカートを履いたおかっぱ頭の女の子の幽霊。メジャーな出現方法は校舎3階のトイレ、3番目の個室で「花子さんいらっしゃいますか?」と3回ノックすると現われ、トイレに引きずり込まれるというもの。1950年代から存在した現代に繋がる息の長い都市伝説でもある。1980年代から全国的に広まり、1990年代のオカルトブームでさらに人気になった。

 トイレの花子さんはルーツが諸説あり、学校にやってきた変質者にトイレの3番目で殺害された説、汲み取り式のトイレに転落して死亡した女の子が元になった説などがある。都市伝説一般に言えることではあるが、花子さんも地方や時代によっても伝承が異なるケースも多々ある。

「地獄先生ぬーべー」#9「散歩する幽霊」

「地獄先生ぬーべー」(1巻)

 地獄先生ぬーべーは恩師の遺志を継ぎ、童守小学校に赴任してきた鵺野鳴介(ぬーべー)が児童のために妖怪や悪霊などの怪異と戦っていくという作品。本作においては平成の小学生たちの花子さんへの反応が新鮮だ。

 本作の花子さんは各学校を転々としているためどこの学校にも現われるという設定がなされている。ちなみに本エピソードの”オチ”は2段階で、単なる花子さんと出会ってしまった、という恐怖だけでは終わらない。ラストの衝撃的な絵には、当時漫画を読んでいたり、アニメを見ていた小学生はトラウマになった人もいるのではないだろうか。ホラー展開はもとより、胸が痛くなるような描写もあり、非常に印象的なエピソードとなっている。

ヤンジャン!「#9 散歩する幽霊の巻」のページ

「地縛少年花子くん」

「地縛少年花子くん」(1巻)

 本作では基本的な伝承はそのままに、トイレにいるのは男の子の”花子くん”であるという斬新な設定が採用されている。花子くんは学校の怪異でありながら、学校で起こる怪異の異変について、ヒロインで助手の八尋寧々とともに原因を追究していく。

 トイレの花子さんという都市伝説、学校の七不思議が題材だが、花子くんは特に序盤ホラー的な要素は感じられず、逆に無邪気でどこかつかみどころのない性格が印象的。一方で立ち向かう怪異についてはイラストの迫力もあり、恐怖やホラー的な要素も感じられる作品となっている。

月刊Gファンタジー「第一の怪 トイレの花子さん」のページ

「オカルトちゃんは語れない」第4話~第5話「トイレの花子さん」

「オカルトちゃんは語れない」(1巻)

 「亜人ちゃんは語りたい」のスピンオフとなる本作。「亜人ちゃんは語りたい」の主人公・高橋鉄男の姪、陽子が主人公で、異空間の亜人絡みの問題に関わっていくという作品だ。

 本作で登場するトイレの花子さんは、怪異の中でもかなり人間臭い怪異(亜人)たちの集まり、という描かれ方をしている。姿はおかっぱ、白ブラウス、赤いスカートといかにも花子さんらしい容姿で、一見次々とターゲットをトイレに攫っているように見える。しかし、その実は確固たる目的があって行動しており、単なる誘拐犯ではないことが後にわかる。物語の組み立てが巧みで、思わず引き込まれるエピソードだと言えるほか、作品世界に則った形の花子さん像が描かれているのが面白い。

口裂け女

 大きなマスクをした若い女性が「私、綺麗?」と尋ね、「綺麗」と答えるとマスクを外し、耳まで裂けた口を見せるという都市伝説。否定すると刃物で口を切られてしまうが、刃物はハサミだったり鎌だったりと諸説ある。口裂け女に出会ったら「無視する」、「甘い声で『綺麗だよ』と言い続ける」、「ワサビを口に入れる」、「ポマードと3回唱える」などいくつか方法がある。急いで逃げても異様な俊足で必ず追いつかれるといわれており、1979年春から夏にかけて広まった。

口裂け女伝説

口裂け女伝説(1巻)

 「口裂け女伝説」はホラー漫画家の犬山加奈子氏による作品で、犬山氏の作風も相まってかなり不気味な口裂け女が登場する。

 設定はクラシックな「口裂け女」そのもの。口伝で聞いたことのある姿のままの姿で、当時から彼女がどういう風に伝えられていて、子どもたちに怖がられていたかというのを感じることができる作品だ。怖さというより不気味さが強く、1度読むと口裂け女がどういうものかがしっかり印象に残る作品となっている。

スキマ「口裂け女伝説」のページ

「僕が死ぬだけの百物語」第四十五夜「口裂け女」

僕が死ぬだけの百物語(5巻)

 クラスで自殺してしまいそうな少年「ユウマ」に、彼を引き留めるためにクラスメイトの少女が百物語を教えるところから本作は始まる。ユウマは百個の物語を終えたときに本物の幽霊に会える、と少女が教えてくれたことを信じて、毎晩1つずつ物語を語っていく。

 そのうちの一編として「噂の経つところに口裂け女が出る」という都市伝説が語られ、ふいに口裂け女の名前を口に出してしまった男性のもとに赤いコートを着たマスク姿の女性が現われる。時代設定は現代で、行動自体は基本的な伝承通り。ただし、本作の口裂け女は口が裂けているわけではなく、口が3つあるという特異な描かれ方をしており、それがまた新しい形で恐怖を掻き立てる。

「テラーナイト」

「テラーナイト」(1巻)

 本作ではヒロインとして口裂け女が登場する。本作の世界では恐怖(テラー)と呼ばれる怪現象が存在し、ヒロインもそのテラーの1人。口裂け女の彼女が主人公の遠野セイにナンパされたと勘違いして付きまとうようになったことから物語は始まる。

 普段はとてもかわいらしい女性だが、感情が高ぶると口が裂けてしまう。また女心や容姿をけなされると狂暴化し、武器を出して襲い掛かってくる。その後口裂け女は遠野セイに憑りつき、2人はテラーの異能バトルへと巻き込まれていくことになる。

 本作ではヒロインとして描かれているということもあり、口裂け女がとてもかわいらしい。容姿をけなされると襲い掛かってくるという点は都市伝説のままだが、恋する普通の女の子、といった側面が強く描かれているのも特徴的で、都市伝説の怪異でありながらかわいらしさを感じられるのが魅力となっている。

裏サンデー「テラーナイト」cut.1 恐怖のページ

てけてけ

 下半身だけの女性の姿をした幽霊で、手で地面を叩きながら高速で移動し、その音が「てけてけ」と聞こえるという都市伝説。遭遇すると体を真っ二つに切られる。一説によれば女性が雪国で電車にはねられて体が真っ二つになってしまったものの、寒さによって出血が止まってしまったことで苦しみぬいて亡くなる。その際に助けを求めた人たちに手を差し伸べてもらえなかったことに恨みを抱いて現われたものだという。彼女は下半身を求めて体を真っ二つにしているのではなく、単に自分を助けてくれなかった人たちに自分と同じ目に合わせることが目的とされる場合もある。こちらは2000年代以降にインターネット上で広まったとされる。

「僕が死ぬだけの百物語」第三十夜「テケテケ」

「僕が死ぬだけの百物語」(3巻)

 本作で登場するてけてけは、都市伝説として伝えられた姿とは少し違う。子どもたちが描いているてけてけはなぜか手が無く、足があるというものだ。それを見た先生はその姿に違和感と興味を持つが、その夜先生の前に現われたのは手を下半身につけたてけてけだった……というものだ。

 絵面として、手が下半身についていることで一層怖さが増し、不気味さや生理的な嫌悪感も増している。新しい解釈により、これまでと違ったてけてけの恐怖が味わえるエピソードとなっている。

「地獄先生ぬーべー」#17「てけてけの怪の巻」

「地獄先生ぬーべー」(2巻)

 本作で描かれているてけてけは、基本的な伝承通り、列車事故によって胴体を切断されその後しばらく生き続けた女性。その女性は中学生の少女だったが、現世に現われ、異様に大きな口でニター……と笑う姿はもはや人ならざるものだ。

 ただ、本作のてけてけは無差別に足をもぎ取っていくような存在ではなく、とある理由で現世に縛り付けられている「念縛霊」であるということがポイントで、攻撃的な存在というよりむしろ可哀想な霊といった描かれ方は珍しい。一方でこの”とある理由”を面白半分で軽んじた登場人物が伝説通りの無惨な結末を迎えることになるというのも、いい意味で後味の悪さがある。

ヤンジャン!「#17 てけてけの怪の巻」のページ

「ごめんねオカルト遊ばせて?」第二説「テケテケの肘、同じ時速百キロでも口裂け女の足には勝てないんじゃね?」

「ごめんねオカルト遊ばせて?」(1巻)

 京都にある女子大に入学した有名なお寺の娘「千朶乙姫」が主人公の本作。有名な寺の娘という噂を聞いた学生が彼女にいわくつきのものを渡し、処分に困った彼女がオカルト研究サークルにそれを持ち込むことから物語は始まる。それぞれに特殊能力を持ったオカルト研究サークルのメンバーたちは、検証という名目で「こっくりさん」や「人面犬」といったオカルトをを次々とおもちゃにしていく。

 第二説では下半身がないため肘で走るてけてけと、先述の通り足が早いと言われる口裂け女のどちらが早く移動できるか、というあまりに罰当たり(?)な検証企画が行なわれる。本作で描かれるてけてけは半ば虫のような姿をしており、触覚のようなものが生えた極めて不気味な存在となっている。怪異というより化け物に近いような形で、伝承通り女性であるのかどうかすら判別がつかない。

 ちなみに口裂け女も爛々と輝く大きな目と不揃いな歯、そして目尻まで裂けた口を持つ恐ろしい姿で描かれているが、これらの化け物たちを手玉に取るかのようにオカルト研究サークルのメンバーたちは企画を遂行。恐怖の都市伝説もコメディとして扱われてしまうのが本作の見所だ。

くねくね

 くねくけはその名の通り遠くの田んぼや草原で不自然にくねくねと動く白い人型。近づいたり正体を見極めようとすると精神に異常をきたすという。この都市伝説は2000年に怪談投稿サイトに投稿されたものが2ちゃんねるに転載されたことで広まったとされる。大本の話としては兄がくねくねの姿を見てしまい、精神に異常をきたす様を弟が見てしまうというものだ。

「裏世界ピクニック」第1話~第2話「くねくねハンティング」

「裏世界ピクニック」(1巻)

 現実と隣り合わせながら謎だらけの<裏世界>に、鳥子と空魚が研究とお金稼ぎ、そして大切な人を捜すため足を踏み入れるという物語。裏世界は現実の常識は一切通通じず、様々な怪異たちが出没する世界となっている。裏世界は裏世界に繋がっている扉から入ったり、エレベーターで行くなど様々な方法で辿り着くことができる。様々な怪異と対峙しながら、それぞれの目的のために裏世界を冒険していく。

 主人公2人が裏世界の草原で出会う最初の相手がまさにくねくね。白く細い人型のものが精神攻撃を仕掛けてくるという、元の都市伝説に乗っ取った形で描かれているが、その姿はなかなかにおぞましく、見つめることで正気を失っていくさまはかなり恐ろしい。倒すためにはくねくねを見つめる必要があるという逆説的な打開策に2人が気づくというのも、ストーリーと都市伝説が上手く融合していて面白いエピソードだ。

ガンガンONLINE 「第1話-1 くねくねハンティング」のページ

「ごめんねオカルト遊ばせて?」第四説「くねくねの正体、羽虫の大群がくねってるだけじゃね?」

「ごめんねオカルト遊ばせて?」(1巻)

 本話ではくねくねの正体が小さな羽虫の大群であるという説が提唱され、それを検証することになる。確認しにいったところくねくねと出くわし、その正体は羽虫の群れだったが、その虫たちは普通の虫ではなかった……という描かれ方をしている。

 実際くねくねは虫を見間違えたものなのではないか、とも言われている説を採用しているのがまず面白いが、その上で実は……という構成が新しい描写だと感じる。また、お約束のようにオカルト研究サークルのメンバーたちにあっさりと退治されてしまい、怖いはずのものが面白く見えてしまう、というのもポイントだ。

きさらぎ駅

 2004年に巨大掲示板「2ちゃんねる」の中にあるオカルト板「身の回りで変なことが起こったら実況するスレ」に投稿された架空の鉄道駅の名前。投稿者のはすみ氏が電車で帰宅中、見知らぬ駅「きさらぎ駅」に降り、そこからどんどん怪奇現象に巻き込まれていく様が4時間に渡って投稿され続けた。その後幾度となくきさらぎ駅に行ったという投稿が行なわれ、中には写真を投稿後に消息を絶った者もいる。この都市伝説はインターネットでインターネット上で瞬く間に広がったほか、漫画に限らずゲームや映画といった作品の題材として扱われた例もある。

「オカルトちゃんは語れない」第14話、第15話「きさらぎ駅」

「オカルトちゃんは語れない」(4巻)

 本作ではきさらぎ駅から生還するとどうなるのか、というところにフォーカスが当てられている。都市伝説ではきさらぎ駅こそが都市伝説そのものだったが、本エピソードでは「帰ってきた人間が周りの人間から忘れ去られていく」という新しい解釈が加えられ、従来の都市伝説とストーリーが絡み合った構造になっている。

 きさらぎ駅に行ったのは榊の妹、珠希。さらりと行ってさらりと帰ってきたまではいいものの、その後は兄にすら徐々に存在を忘れ去られていく……というのがじわりとした恐怖を感じさせるとともに、問題解決のため再度向かったきさらぎ駅では直接的に怖い描写もある。もともとの話を活かした上でさらにストーリー上の設定が練り上げられており、印象的なエピソードだと言える。

「裏世界ピクニック」7話~13話「ステーション・フェブラリー」&25話~31話「きさらぎ駅米軍救出作戦」

「裏世界ピクニック」(2巻)

 本作ではきさらぎ駅が2回登場。1度目は裏世界で2度目の怪異「八尺様」と対峙し生還したあと、すぐに2人は夜の裏世界に引き込まれる。夜の裏世界は昼間の裏世界よりも危険な世界となっており、急に引き込まれた2人は怪異から逃げながら出口を探す。その際に見つけた線路を怪異に追いかけられながら走っていくと、アメリカ軍の兵隊たちと出会う。彼らは隊全体で裏世界に迷い込み、線路の先にある「ステーション・フェブラリー」に滞在しているというが、彼らの言う「ステーション・フェブラリー」は都市伝説にでてくる「きさらぎ駅」だった……というストーリー。2回目はそのアメリカ軍の兵士たちを救出するため、「きさらぎ駅」を再び訪れるというものだ。

 今回のきさらぎ駅は異世界にある駅であり、人が猩々のような怪異に殺されていく、列車が止まる駅として登場する。きさらぎ駅の周辺は怪異たちがたくさんおり、本来の都市伝説よりも直接的な危険や恐怖といった描写に重点がおかれているという点で、元ネタとは異なるテイストが味わえる。

ガンガンONLINE「裏世界ピクニック」のページ

「トシサンー都市伝説特殊捜査本部第三課ー」12話~13話

「トシサンー都市伝説特殊捜査本部第三課ー」(2巻)

 都市伝説を調査する警視庁の部署「都市伝説特殊捜査本部第三課」が題材となっている本作。「都市伝説」を追いかけ続ける男「死郎都市(しろうとし)」と オカルトマニアの新米警官「宮園希美」が令和の都市伝説を追いかけるというストーリーだ。

 本作の中では「きさらぎ駅」に関する新しい噂が入ってきたが、この噂は検証しないと死郎は断言。しかし、宮園はきさらぎ駅に興味を持ち、後輩の警察官を連れてきさらぎ駅へと出発してしまう。無事に2人はきさらぎ駅に到着し、都市伝説としての筋書き通り、駅の外で男性に車に乗せてもらい山中へ向かうが、そこには2人を埋める穴が用意されておりピンチを迎える。宮園は脱出するために後輩を穴に避難させ、男を倒す。

 ここで描かれている「きさらぎ駅」は「駅を出て知らない人に車に乗せてもらったら、山中へと向かった」というところまで元ネタに忠実だ。それが「山に掘られた穴に入るかどうか」で、その選択によって生還後の明暗が分かれる、という新たなホラーテイストを感じられるものになっている。

夏の終わりに色々な形の”都市伝説”を楽しもう!

 今回紹介した都市伝説とそれを題材にした作品たちは、都市伝説を忠実に再現するもの、都市伝説の設定のみを使って新しいストーリーとして作り上げられたものまでさまざまだ。怖さのポイントや筋書きもそれぞれに異なり、受ける印象もかなり異なる。

 今回ピックアップしたのは昭和から平成の半ば程度に流行った都市伝説となっているが、都市伝説はその性質上、これからも新しい都市伝説が登場するのかもしれないし、あるいは既にしているのかもしれない。夏の終わりに、マンガという形で都市伝説を楽しんでみてはいかがだろうか。

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