特別企画

わずか7%に4年の歳月を費やしたゼブラ「サイドスプリング機構」開発秘話。「サラサクリップ2+S」ではシャープも搭載

【サラサクリップ2+S】
2月2日発売予定
価格:550円
「サラサクリップ2+S」シリーズ。昨今人気の”くすみカラー”もラインナップされており、内部機構が見えるので「透明も非常にオススメ」とのこと

 ゼブラは、ジェルボールペン「SARASA」シリーズの多機能ペン「サラサクリップ2+S」を2月2日に発売する。価格は550円。

 「サラサクリップ2+S」は、さらさらとした書き心地に定評のある「SARASA」のジェルインクを用いた黒と赤のボールペン2本(ボール径0.4mmもしくは0.5mm)と、芯径0.5mmのシャープペンシルが1本にまとめられた筆記具だ。使用頻度が特に高い2色と、シャープペンシルが1本で使えるため、メモに予定に、となにかと書きものが多い新社会人をターゲットとした商品となっており、2024年に発売された3色ボールペン「サラサクリップ3C」のボディ・機構をベースに、ボールペン1本とシャープペンが入れ替わった構成になっている。

 ……と聞くと、ごく普通の3in1多機能ペンだと思うかもしれない。それは確かにそのとおり。ただし、本製品が凄いのはイチから開発された全く新しい内部機構「サイドスプリング機構」を搭載することで、従来製品比で7%のスリム化と8%の軽量化を成功させたことにある。これもまた数字で見ると小さな違いに感じるかもしれないが、実際に手に持ってみると、一般的な多機能ペンより明らかに細く感じる。そして何より、従来の多機能ペンの構造に馴染みがあるからこそ、新機構にはガジェットとしての面白さを強く感じる。

 今回は新製品の発売にあわせ、改めてコアとなる「サイドスプリング機構」についてゼブラのプロダクト&マーケティング本部宮下沙理氏と、研究本部 研究部の佐野葵氏に話を聞いてきた。そこではバラバラにしたメカパーツや試作品、ガジェット好きにはたまらない仕掛けを実際に見せてもらうことができたほか、開発秘話を続々と聞くことができたので、早速その内容をご紹介したい。

ゼブラ プロダクト&マーケティング本部の宮下沙理氏
ゼブラ 研究本部 研究部の佐野葵氏

「サイドスプリング機構」にシャープもON!「サラサクリップ2+S」

 そもそも「SARASA」とは、独自開発のジェルインクを使用したボールペンのシリーズだ。「サラサ」は2000年頃から販売されており、当時ジェルインク製品としては他社を追いかける形での後発商品であったが、初代「サラサ」は当時キャップ式が主流だったところ、ノック式を取り入れたことで差別化を図った。

 その後、現在「SARASA」シリーズの看板商品とも言える、大きく開く「バインダークリップ」を搭載した「サラサクリップ」を発売。こちらの大ヒットを受け、元々評価されていた書き心地と本体の利便性から、「SARASA」はジェルインクボールペンのシェアを拡大していくことになる。

ゼブラ本社のエントランスに展示されている「SARASA」シリーズのプロダクト。お馴染みの「サラサクリップ」や高級ラインの「サラサグランド」などが美しくショーケースに収められていた

 「サラサクリップ2+S」はもちろんその名の通り上記「サラサクリップ」の流れを汲む商品だが、「サラサクリップ3C」で初めて搭載された「サイドスプリング機構」を搭載した上、シャープペンシルを組み込んだ点が新しい。

 では、核心の「サイドスプリング機構」とは一体なんなのか。それはボールペンの軸そのものではなく、文字通り”芯の横”に細いスプリングを搭載することで、使用感は従来のまま、スリム化に成功したという機構なのである。マルチペンを分解してみたことのある方も多い(?)のではないかと思うが、従来こうした多機能ペンには、芯に巻き付くような形でスプリングが配置されているのが常だった。

 スリム化という目的だけで考えれば、中芯を細くしてしまうのが手っ取り早くはあるが、そうするとインクの容量自体が減って筆記距離が短くなってしまう。さらに太さをそのまま、中芯同士を寄せるように内径を小さくすると、今度はスプリング同士が干渉してしまい、マルチペンとして様々なペンを出し入れする、という機能面で支障が生じてしまう。そもそもジェルインクの芯は油性に比べて太いため、ペン本体も太くなってしまうという構造的なジレンマもある。そこで、「スプリングを中芯の横に移し、スプリングそのものを細くする」という発想の転換で解決を図ったわけだ。

「サイドスプリング機構」では中芯を通す形ではなく、独立して中芯の横にスプリングが配置されている
ノック部分の部品は中芯受けとスプリング受けと一体となっている
上記部品と中芯、スプリングを組み合わせるとこのような形になる。製品では破壊しない限り機構を取り出すことができないので、これを見てテンションがにわかに上がる
「サラサ3」(画像上)と比較すると、「サラサクリップ2+S」(画像下)は確かに細い
中芯を保持するパーツとスプリングを取り出してみると、構造とスプリングのサイズの違いに驚く。画像右に向かって伸びる足のような部分にスプリングをはめ込む形になるが、「サラサクリップ2+S」の受け部分はスプリング径にあわせ細く、そして長くなっている
「サラサ3」(画像左)と「サラサクリップ2+S」(画像右)の中芯保持部分。仕切りがあるとリボルバーのようでカッコいいのだが、「サラサクリップ2+S」は仕切りを廃することで中芯同士を寄せ、スリム化を図っている。
ジェルインク(画像上)と油性(画像下)の中芯。ジェルインクのほうが少し太く、これを複数本束ねて内蔵するとなると、本体の太さに大きく影響する

 実際に触ってみると、スプリングが細くなったことによるものか、ボールペンもシャープペンも軽い力で繰り出せるように感じる。ペンの切り替えの際も引っかかりを感じることはなく、極めてスムーズだ。

 「サラサクリップ3C」に向けた「サイドスプリング機構」の開発当初、ゼブラでは無数の試作が行なわれた。その繰り返しの中で、スリム化の完成形となる「サイドスプリング機構」のアイデアが浮かぶまではかなりの紆余曲折があったという。この形に繋がる原案が出てからの進行はスムーズだったと言うが、全体の開発期間としてはなんと延べ4年。わずか7%のスリム化のために、凄まじい執念を燃やした。関連する内部機構もスリム化のために強度の限界ギリギリまで攻めた結果、軽量化にも成功する。ちなみにこの「サイドスプリング機構」はゼブラの独自技術であり、名実ともに多機能ペンの最先端機構だと言える。

開発段階の試作品と完成品の「サラサクリップ2+S」。一番上は”とりあえず組んでみよう”という段階のもので、スプリングはサイドにあるがまだ太いものが使われている。中段はかなり完成品に近い形になっているが、よく見ると極わずかに短い。この段階でもう少し長くしないとペンの切り替えの際に干渉してしまうということが発覚し、完成品では全長を伸ばすことにしたのだという

 そもそも何故ここまでの執念を燃やして細くする必要があるのか。それは細さが持ちやすさや持ち運びやすさに直結するためだ。「サラサクリップ」には多くのファンがおり、学生の頃から使い始めるユーザーも多いという。社会人になると多機能ペンが欲しくなるシーンも多いが、それを求めるとペンそのものが太くなってしまう。ゼブラは「社会人になっても『サラサ』の書き心地を使い続けてほしい」という想いから、長い年月をかけて多機能ながらスリムにできる機構を開発。そこに多様なシチュエーションに対応できるようシャープペンシルを搭載し、3色ボールペンに続くプロダクトとして生まれたのが「サラサクリップ2+S」なのである。

 なお、「サイドスプリング機構」にはここまでの苦労があれど、「サラサクリップ2+S」はそれでも価格は手に取りやすいよう、低価格であることにもこだわった。これを実現するためには替芯や機構など、先達の「サラサクリップ3C」の部品を可能な限り流用する必要がある。新たな機能となるシャープペン軸も既存のものを流用するのが前提だ。

 実はシャープペン軸はボールペン軸と比較すると若干全長が長い。これも機構側の長さを切り詰めると芯が入り切らなくなるなどの弊害が出てしまうため、元々は可能な限り機構も流用する予定であり「『サラサクリップ3C』と同じメカを使用する」ことも目的の一つだったものの、作りながら「やはり全部同じというわけにはいかない」という結論に至る。結果本体側の設計でその長さの違いを吸収することにしたのだという。

シャープペン軸(画面下)は先端のみを取り外して芯の補充を行なう。本体組付けの軸と組み合わせると、ボールペン軸よりわずかに長くなる

1本3役の”ガジェット”をとくと見よ

 ペンの命はその書き味であることは疑う余地もない。あとはそれを収める機構がどのようなもので、どのようなデザインで、かつ自分の使い方に合うものかどうかと言うのが選び方のポイントになるように思うが、「サラサクリップ2+S」は1本でマルチに活躍してくれるだけでなく、定評のある「サラサ」インクで書き味の良さは折り紙付き。本体軸の実際のメリットとしては細く軽量、取り回しのよさが向上したプロダクトであり、そして何より4年の歳月をかけて開発されたというロマンあふれる新機構がガジェットとして深く心に刺さる。

 実用品としてはもとより、ガジェットとしても大変に面白いプロダクトであると思う。本日世に放たれる「サラサクリップ2+S」を是非一度手に取ってみてほしい。