特別企画

従来のスポーツマンガと一線を画す、ツイスト(捻くれた)な主人公が巻き起こした一大旋風!「テニスの王子様」第1巻発売から25周年

【「テニスの王子様」第1巻】

2000年1月7日 発売

「テニスの王子様」第1巻

 集英社の「週刊少年ジャンプ」に掲載された「テニスの王子様」が、本日1月7日をもってコミックス第1巻発売から25周年を迎えた。本作は漫画家の許斐剛氏による、その名の通りテニスをテーマとしたスポーツマンガ。伝説的なプロテニスプレーヤーだった父を持つアメリカ生まれの主人公・越前リョーマが、テニスの強豪校・青春学園中等部(略称:青学)に入学することから物語は始まる。

 「週刊少年ジャンプ」では1999年から2008年まで連載された長寿人気作であり、その影響力は今日においても様々な分野に及んでいる。なかでも、本作を舞台化した「ミュージカル『テニスの王子様』」は、いわゆる“2.5次元”文化の先駆けとなった。なお、2009年からは同じく集英社の「ジャンプスクエア」にて、続編「新テニスの王子様」が今も連載中であり、その勢いは衰えることを知らない。この記事では、そんな「テニスの王子様」の記念すべき25周年の節目にあわせて、本作の見どころの1つである必殺技を中心に、その概要を振り返っていきたい。

【ジャンプキャラクターリミックス【テニスの王子様】PV】

チビなのに強い?テニスの常識を覆した生意気主人公

 まずはなんと言っても、主人公・越前リョーマのユニークさに言及しなくてはならない。そもそも本作の題材であるテニスに限らず、球技全般にも言えることだが、多くのスポーツというものは身長が高く、筋肉量があるプレーヤーが有利だ。なかでもテニスはサーバーとレシーバーが1ゲームごとに切り替わっていく球技で、自分の意のままにゲームを始めることができるサーバーが圧倒的に有利なスポーツ。プロの世界では高身長から叩き込むサーブを武器にしている選手も多く、往々にしていかに相手のサービスゲームを崩すかということがポイントになる。

 そんななか、本作の主人公である越前リョーマは中学生になったばかりという点を差し引いても、身長は物語開始当初で151センチと小柄だ。身長が低いというハンデを覆すべく、彼が習得した代名詞的な必殺技こそがツイストサーブ。ボールに回転をかけることで、通常のサーブよりも高くバウンドするため返球がし辛いというロジックだ。

 しかも、本来左利きであるリョーマがツイストサーブを打つと相手からは逃げるようにバウンドするはずが、相手の顔面目がけてボールを跳ねさせたいがため、わざわざ右手でテニスをしているという生意気っぷり。「あんなに小柄なヤツが利き手も使わずにテニスが強い」という、まるでツイストサーブそのもののように、ひと捻りもふた捻りも加えられたキャラクター造形になっており、素直で純粋なキャラクターが多かったスポーツマンガの主人公像に一石を投じた。

主人公の越前リョーマ

キャラクターのパーソナリティと結びついた“必殺技”

 前段でツイストサーブの話題が出たので、本作の花形とも言える“必殺技”についても触れたい。スポーツマンガにおける必殺技といえば、「巨人の星」(講談社)の大リーグボールや「キャプテン翼」(集英社)のドライブシュートなど古くから馴染みがあり、試合中の逆境を跳ね除けるシーンなどで使用され、読者の記憶に強く残りやすい手法だ。作劇的には、その必殺技から受ける印象がキャラクターのパーソナリティとも密接に関わっていることも少なくないため、まさに花形的な見せ場を演出するためのツールとなっている。

 例えば、竹を割ったような清々しい性格の青学2年生・桃城武のダンクスマッシュは、常人離れした跳躍力を活かして高い打点から叩き込むというシンプルで豪快な技だ。一方、スタミナを武器に持久戦を得意とする青学2年・海堂薫は、コート上の相手を左右に走らせるよう回転がかけられた球・スネイクを、底の知れない天才・青学3年の不二周助は相手の攻撃をいなして自身の得点にしてしまう三種の返し球(トリプルカウンター)を、そして絶対的な実力を持つ青学部長・手塚国光はバウンドしないドロップショットである零式ドロップなど、本作には各キャラクターを象徴する様々な必殺技が登場する。

それぞれが個性豊かなな必殺技を持っている

 軽く紹介したこれら個々の必殺技のほかにも、作中終盤には「無我の境地」と呼ばれるパワーアップ状態が登場する。己の限界を超えることで立ち入ることができる、一時的な覚醒状態……ゾーンという言葉にも言い換えることができる、こちらもスポーツマンガのお約束だ。「テニスの王子様」では、その「無我の境地」をさらに「百錬自得の極み」、「才気煥発の極み」、「天衣無縫の極み」と3つに細分化していた点も新しかった。

 なかでも「天衣無縫の極み」は、かつてその扉を唯一開いたと言われるリョーマの父・越前南次郎いわく、純粋にテニスを楽しむ心の状態を指すという。南次郎以外には長らくその扉を開ける者がいなかった「天衣無縫の極み」に、生意気で捻くれ者と見られがちだが、誰よりテニスを楽しむ心を持っていたリョーマがたどり着く……非対称的な構造に思えて実は一本の芯が通っている、このエピソードが個人的にはお気に入りだ。

コミックス42巻でリョーマは「天衣無縫の極み」にたどり着く

「孤独なスポーツ」を逆手に取ったオールスター戦略

 スポーツマンガにおける必殺技とは前述の通り古くからあり、すっかりお馴染みな手法となっているが、「テニスの王子様」ではそこからさらに捻りが加えられている。それはテニスが「孤独なスポーツ」であることと、「主人公が強豪校に所属している」ことだ。

 スポーツマンガの王道といえばサッカーや野球、バスケットボールなど、チーム対チームで競う構造になっているものが多い。必殺技はキャラクター性の確立や掘り下げの補助として非常に有効的だが、サッカーであれば11人、野球であれば9人、バスケであれば5人(相手チームも含めればそのさらに倍)と、1回の試合を描くなかで、それぞれの必殺技を描写するのはなかなかに骨が折れる。従来の作品では物語のテンポや読みやすさを保つため、必殺技を放つのは各校エース級のキャラクターのみという選択がされていた。

 その点、テニスであれば基本は1対1のシングルス、多くても2対2のダブルスと、対戦型のスポーツとしてはミニマムな構造になっている。孤独なスポーツとまで呼ばれるテニスの特徴を逆手に取って、対戦する相手校も含めたオールスター的な描写に取り組んだ点が本作の特筆したいポイントのひとつであり、ここで主人公が強豪校に所属しているという舞台設定が活きてくる(そのユニークさが物語の盛り上がりによって熱を帯び、「テニヌ」と呼ばれるようになってしまった面があるのも事実だが……)。

 今ではサッカーや野球、バスケなど多人数スポーツをテーマにしたマンガでも、各々が必殺技を持っているというオールスター的な作品は少なくないが、その手法をいち早く取り入れ、多くのファンに支持されたのが「テニスの王子様」だったと記憶している。

「もしもを見たい」ファンの要望を叶えたメディアミックス

 そんな個々のキャラクターが際立っていた「テニスの王子様」は、今では当たり前となったメディアミックスとも相性が良かった。TVアニメ化を経て各キャラクターを担当する声優が決まってからは積極的にキャラクターソングが展開。ゲーム化された作品においてはプレーヤーが青学の一員となって全国大会優勝を目指す王道的なものから、原作では実現しなかったカードでの試合をシミュレーションできる対戦ゲーム、自分の好きなキャラクターを集めてチームを作ることができるゲームなど、「イフ(もしも)を見たい」というファンの要望を満たしてくれるものが多かったように思う。

 原作から生み出された多種多様な魅力を持つキャラクターたちは、その露出機会を増やすことができるメディアミックスで相乗効果を生み出した。その最たるものが、美形揃いのキャラクターたちを舞台上の現実とする“2.5次元”「ミュージカル『テニスの王子様』」だろう。「原作に登場するキャラクターたちを現実で見たい」という要望を叶える、その走りとして新たな文化を確立させたのが本作なのだ。

 そんな本作は、「ジャンプスクエア」にて連載中の続編「新テニスの王子様」のコミックス最新第43巻が発売中。「テニスの王子様」では全国制覇を目指す物語が展開されていたのに対し、「新テニスの王子様」では中学生・高校生をひっくるめたアンダー17の選手たちによる世界代表戦を描くストーリーが展開されている。

 国の代表選抜として世界と戦っていく続編「新テニスの王様」では、青学メンバーはもちろん跡部景吾擁する氷帝学園や、曲者揃いな関西の雄・四天宝寺、全国大会決勝で激戦を繰り広げた立海大附属など、前述したゲームのようにこれまで登場してきた強豪校のキャラクターたちとチームになっていく。「あのキャラクターの活躍がもっと見たい」という願望を叶えてくれるだけでなく、ファンなら誰もが思ったであろう「これで中学生なら高校生はどうなっちゃうの??」という疑問にも期待以上のスケールで応えてくれるほか、名前のみが明かされていた先輩キャラクターも登場するなど、どんちゃん騒ぎのボーナスディスクみたいな内容だ。

 そんなファンの「見たい」に応えてくれる本作だが、「新テニスの王様」ではなんと手塚が日本代表ではなく、作中の世界ランキング1位であるドイツ代表として名を連ねている。果たして日本勢は、手塚とどのように戦うのか。その激戦の模様が描かれるTVアニメ最新シリーズ「新テニU17W杯セミファイナル」が、2024年10月からテレビ東京ほかにて放送中だ。

リョーマとリョーガが表紙のコミックス43巻