特別企画

「BLACK LAGOON」コミックス発売から22周年。アウトロー達の楽園で繰り広げられるスリルある日常!

裏社会のシビアな描写も魅力的! アウトロー達が自由に暴れるクライムアクションマンガ

【「BLACK LAGOON」第1巻】

2002年12月12日 発売

コミックス1巻

 本日12月12日、「BLACK LAGOON(ブラックラグーン)」のコミックス第1巻の発売から22周年を迎えた。

 「BLACK LAGOON」は漫画家の広江礼威氏によるクライムアクション・ガンアクションマンガ。小学館の「月刊サンデージェネックス(サンデーGX)」2002年5月号より連載がスタートし、休載を挟みつつも現在も連載中。コミックスは現在までで13巻が刊行されている。

 ストーリーはタイにある架空の都市「ロアナプラ」を舞台とし、アウトローたちの日常が描写される。アウトロー達が主役であるため、猥語や俗語、過激な暴力描写や、戦争や社会的問題などを皮肉った言い回しなどが飛び交う、まるで激しいアクション映画のような展開が楽しめることが魅力の作品だ。今回はそんな節目のタイミングに合わせて本作について紹介していきたい。

【【スタート20周年記念】ブラック・ラグーンPV】

「BLACK LAGOON」で躍動する主要人物たちを紹介

 ストーリーへの掘り下げの前に、主要なキャラクターたちを紹介していく。どのキャラクターもバックボーンを持った顔ぶれが揃っている。

ロック(岡島緑郎)

ロック

 本作の主人公。日本企業に勤めるごく普通のサラリーマンだったが、会社が裏で行っていた非合法ビジネスの口封じのために命を狙われる。ラグーン商会と協力してそれらを撃退し、会社や今までの日常から決別。名前を岡島緑郎からダッチが彼をあだ名で呼んでいた「ロック」に改め、ラグーン商会に身を置くことになる。

 ラグーン商会では語学力を活かした交渉事、水夫見習い、商会の応接などを行なう実質使いっ走りである。ストーリー初期ではアウトローの世界にはまだ馴染んでいないことや、日本で生まれ育った環境のためか、倫理観や正義感を重視する行動をとりロアナプラの住人、特にレヴィとは衝突することも多い。

レヴィ(レベッカ・リー)

レヴィ

 本作のヒロイン。本名はレベッカ・リーという中国系アメリカ人。ラグーン商会のメンバーで、トゥーハンド(2挺拳銃)の名を持つ凄腕のガンマン。性格は瞬間湯沸かし器とも言えるほど非常に気が短く、トラブルメーカーとなることも。ラグーン商会での荒事はほぼ彼女の担当。作中でもトップクラスの戦闘力を誇る。

 幼い頃からありとあらゆる犯罪に関わりながら生きてきたことが示唆されており、そのため平和主義的な行動を重視したり、見返りのない人助けをしようとするロックとは性格が合わず対立することもしばしば。

ダッチ

ダッチ

 ラグーン商会のリーダーであり、商会の所有する船「ブラックラグーン号」船長。スキンヘッドとサングラスが特徴の黒人男性。基本的には操舵を行うが、時には銃器を扱い戦闘もこなす。元米兵でベトナム戦争に従軍していたと本人は語るが、後のエピソードにてその経歴に嘘や不審点が多く含まれていることが明かされており、非常に謎の多い人物。

ベニー

ベニー

 いかにもギーク(パソコンオタク)といった外見のラグーン商会のメンバー。メカニック、情報収集などを主とする。また、自動車などの運転技術も高い。

 電子機器の扱いに長けている凄腕のハッカーで、大学在学中に行なった過ぎたハッカー行為のためにFBIやマフィアから追われる身となり、ダッチらに助けられ、そのまま流れでラグーン商会で働くこととなった。思考や行動理念は理知的でロアナプラの人々の中では比較的ロックに価値観は近いが、ロアナプラで生き抜くために過剰に人々に干渉をしないようにするように行動している点で差異はある。

バラライカ

バラライカ

 世界各地に支部を持つロシアンマフィア「ホテル・モスクワ」の大幹部。体のありとあらゆるところに大きな火傷痕を持ち、敵からは「フライフェイス」(火傷顔)と呼ばれることも。元軍人で、組織のメンバーには軍人時代からの部下も多く含まれており、その絆は深い。

 ロアナプラを代表する大勢力の1つをまとめ上げる人物であり、普段はキャリアウーマンのように穏やかに話すが、激昂したときは側近と話す際は元軍人らしく冷徹な話し方へ変化する。時にラグーン商会にクライアントとして依頼を出し、エピソード「Fujiyama Gangsta Paradise」では、ロックを日本語通訳として雇う。

張 維新(チャン・ウァイサン)

 中国の大マフィア三合会(トライアド)タイ支部の長。飄々とした性格で、センスの悪いジョークを言いつつ策謀を巡らせる。立場上、基本的には裏方に回ることが多いが、戦闘での強さも本物。2丁拳銃の使い手で、その腕前はレヴィをして「敵わない」というほどで、過去にバラライカと痛み分けの死闘を繰り広げていることからも伺える。実は元警官という異色の経歴を持つ。

エダ

エダ

 ロアナプラにある教会・リップオフ教会(別名・暴力教会)のシスター。教会はバチカンから認められた正規の教会でありながら、ロアナプラにおける武器の販売を唯一許される中立の組織である。サングラスをしているときのエダはレヴィのよき喧嘩、呑み友達といった関係。

 その正体はアメリカの諜報組織CIAの工作員。このときはサングラスを外すか、メガネをかけている。ロアナプラを拠点に工作活動を行い、アメリカにとって利益になるよう暗躍している。

ロアナプラを舞台に悪党たちの活躍を描く本作のストーリー

 「BLACK LAGOON」は主人公の岡島緑郎がサラリーマンだった頃から物語が始まる。彼がロアナプラへの出張中、まだこの頃は知り合ってもいなかったラグーン商会に誘拐されてしまう。そんな矢先、味方かと思っていた自身の務める会社は口封じをすべく彼もろとも殲滅しようとする。彼はラグーン商会のメンバーと協力してなんとか生き延び、これをきっかけに”ロック”と名乗り個性的なレヴィたちとの活動がスタートする。

 基本的には運び屋ラグーン商会に持ち込まれる様々な依頼をロック達がこなしていく過程を描く。運び屋稼業なので、物品の回収や人物を特定の場所まで送り届けるのが基本だが、あるときは人物を護送し、別のエピソードでは違った依頼主から物品の回収を依頼されることもある。

 ただ、一癖も二癖もある依頼主により、情報を正しく伝えられず、これが大きなトラブルに発展したりと一筋縄ではいかないことが多い。そんな中でも、アウトローかつ腕利きのメンバーによってなんとか依頼をこなしていくといった緊張感あふれる展開が魅力であり、さらに表面的な部分だけでなく、ロックの葛藤も描かれるなど各々の心の移り変わりの描写も魅力の作品となっている。

ラグーン商会の4人

独特の言い回しも魅力の「BLACK LAGOON」の名ゼリフ!

 本作の魅力としてウィットに富んだセリフの数々が挙げられると筆者は考える。独特の言い回し、皮肉った言い方がこのアウトロー達の世界に合うスパイスになる。本記事ではその中でも印象的なセリフをピックアップしていく。そのセリフに対する解説や感想も述べているが、言い回しが独特であるが故、読み手によって解釈の異なる部分もあると思うが解釈の1つとして読んでいただければ幸いだ。

一ついいことおせえてやるよ。こんなもんはな、撃てて当たりゃいいんだよ。(レヴィ・コミックス2巻)

コミックス2巻

 ラグーン商会が依頼を受けて第二次世界大戦中に沈んだ絵画を回収しようとした際、同じく絵画を狙う「白人社会主義団結党」の行動隊長、ブリッツ・スタンフォードと対峙。ブリッツは自身の愛銃の性能を長々と語ったのち、いざ勝負と動こうとしたが、レヴィが「うるせぇ」と不意討ちの1撃で撃退。その後のセリフがこれである。

 ちなみにレヴィはこのセリフを吐く前に前述の部隊の非戦闘員を虐殺しており、その事をダッチにガンマン稼業と乱射魔は違う、お前がトチると俺が死ぬと咎められている。その件を含めると、このセリフはレヴィ自身がラグーン商会の「ガンマン」でなければならないと己を戒めているようにも筆者には感じられた。

でも、そうはならなかった。ならなかったんだよ、ロック。だからーーーこの話はここでお終いなんだ。(ベニー・コミックス3巻)

コミックス3巻

 ホテル・モスクワの構成員の弔いのため、バラライカが賞金をかけたお尋ね者の2人の幼き殺人鬼「ヘンデル」、「グレーテル」。ロアナプラの住人たちがその首を狙う中、その片割れをラグーン商会はロアナプラから逃がすことになった。護送する中、ロックは彼女(彼?)と心を通わせる中、「お礼」として局部を見せられたロックはダニーの前で大人たちの歪んだ欲望のために2人の人生が狂ったことに怒りをぶつける。それに対してダニーがロックにかけた言葉である。

 ラグーン商会の面々では、ダニーの考え方の価値観はロックに近い。その彼がロックに共感しつつも、ロアナプラで生きていくにはこのような理不尽な物事も受け入れなければならない、ということを近い価値観を持つからこそ教えているようなセリフだ。

貴方はそうやって……ずっと夕闇に留まっているから! だからッ、言えるんです!!(コミックス5巻・鷲峰雪緒)

コミックス5巻

 ロックはバラライカの商談の通訳として、日本に帰国することになる。商談の内容はヤクザ組織、鷲峰組若頭・坂東の依頼で、鷲峰組の親組織にあたる香砂会への攻撃。それにより不当に虐げられている鷲峰組の立場を改善することが彼の狙いだ。

 しかし、バラライカの真の目的はホテルモスクワの日本進出の足がかりを得ることで、坂東の想定を超えた彼女らの過剰な攻撃は鷲峰組の内部分裂をも引き起こす。更に鷲峰組13代目の忘れ形見、鷲峰雪緒が離反した組員によって誘拐されてしまう。ロック、レヴィ、雪緒のお目付け役銀次の3人が協力し、雪緒の奪還に成功する。救出後、ロックは雪緒本人から鷲峰組の総代を継承したことを知らされる。このクーデターは皆が雪緒が闇の世界で生きることが無いように行なったことであることを知るロックはこの行為に反論するが、そこで雪緒から突きつけられたのがこの言葉。

 雪緒からすればロックは今までロアナプラで闇と光の世界の間で生きているように見えた。その中途半端さが許せないというニュアンスが感じられる。これにより、ロックは今まで善意で行なっていたロアナプラでの人助けについて迷いを抱えることになる。そしてこの言葉により、後に「悪人」となるロックの覚悟が覚醒するきっかけとなる。雪緒を救うためにバラライカに手段を提案。1度目は彼女に前述の夕闇の住人としての考えがベースになっていたためか拒否された上に、命の危機にも陥った。覚悟を決めた2度目の交渉では今までのロックとは思えない非情な手段を提案。それを聞いた彼女は「いい悪党になるぞ、……お前は。」と彼の提案を呑むのであった。

 余談ではあるが、彼女はただ事態に流されており、選択しているフリをしていたことをこのエピソードの後半でロックから看破されている。傍観していただけであったのはロックではなくむしろ彼女の方で随分と皮肉めいたセリフなのでは? と筆者は考えこのセリフをチョイスした。

我々はこの世界で、「唯一」、「最たる」---そして「最強」だ。だからあまり、私の会社を舐めるなよ?チンピラ。(コミックス8巻・エダ)

コミックス8巻

 1巻で出てきたメイド、ロベルタのバックボーンが明らかになるEl Baile de la muerte編。ロベルタのが仕えるラプレス家の当主が殺害され、ロベルタは突然消息を絶ち、ロアナプラに再び降り立つ。その影響で新たなトラブルの種がロアナプラに撒かれてしまう。その問題を取り除くために三合会幹部、張は暴力教会の懺悔室にある電話で米国の人物と接触する。その人物はなんとエダだった! 張はその中で顎で使われることに不快感を示す言葉を放つ。それの返しがこれだ。今までレヴィの悪友ぐらいにしか描かれてなかったエダの正体が明らかになる衝撃のシーン。そして彼女のバックに居るのが超大国アメリカであることも驚きだ。

 アウトローの楽園を統べる大勢力の1つであり、戦闘力も策謀にも長ける張すらただのチンピラ呼ばわりできるほどの圧倒的な力を表すのにこれほどの言葉はないだろう。

運以外のあらゆることを塗りつぶすのは定石だ。そうして隙間を埋めていって、運だけが純粋に残った時――最高の賭になるのさ。(コミックス9巻・ロック)

コミックス9巻

 前述のエピソードでバラライカから「いい悪党になる」と言われたロックが明らかに変化したと思われるセリフ。張との会話でロックは人助けをするのは趣味だと言ってのけたのも含め、雪緒との出会いがロックの生き方に変化を与えたのは間違いない。そしてその手段も大きく変化している。今までのロックは基本皆が傷つかずに解決する方向で動いていた。が、今回ロックが行った手段は一歩間違えば様々な人々が傷つくどころか、命を失う危険性も十分にあった。ロックの変化がわかる作中でも重要なセリフであると筆者は考える。

メディア展開が豊富な本作。今からでも充分間に合う刺激的な世界を追いかけろ!!

 何度かの長期休載はあったが、現在も「サンデーGX」にて隔月連載を行なわれている本作。ガルシア、ロベルタ共に最良の結果となる人助けをしたにもかかわらず、ラプレス家のメイド、ファビオラからは「悪党」と告げられたロックの苦悩が描かれる。彼の行為は本当に正しかったのか? 彼が「悪党」と向き合うエピソードが単行本10巻、11巻で描かれるThe Wired Red Wild Cardだ。また最新刊にあたる12巻からはダッチの謎にも触れていくエピソードが展開されていく。

コミックス10巻

 なお、2006年にはアニメも放送た。激しいガンアクションの数々がアニメーション映像として描かれている。その後OVAも販売されている。アニメはAmazonなどで配信が行なわれているほか、OVAを含むこれら作品を収録したBlu-rayが2016年に発売されているため、こちらでアニメ映像を一気に復習することもできる。

 映像化やパチスロ、ゲームとのコラボレーションなど様々なメディア展開が行なわれているため、「BLACK LAGOON」の名前だけは知っている人々という読者も多いだろう。是非、この危険な闇の世界の楽園を訪れてほしい。

2016年にアニメやOVAをまとめて収録したBlu-ray BOXが発売された