レビュー

趣味を隠したいおじさんの奮闘!「おじさんはカワイイものがお好き。」

カワイイもの大好きおじさんが、「普通」を装う日常コメディ

【おじさんはカワイイものがお好き。】
著者:ツトム
連載:COMICポラリス(フレックスコミックス)
既刊:12巻

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 10月からアニメがスタートする、「おじさんはカワイイものがお好き。」は、ファンシーで可愛らしいものが大好きなおじさんが、その趣味を周囲に隠しながら生活する、奮闘記である。推し活という言葉が知られるようになって早数年。幅広い世代で好きな物を大事にする文化が広まったが、それでも、年齢や職業などさまざまな理由で、趣味を隠している人もまだまだ多いことだろう。

 このマンガは、そんな秘密を抱える人たちに、エールとユーモアを贈ってくれる、おじさんハートフルコメディである。

【2026年10月4日より放送開始!TVアニメ「おじさんはカワイイものがお好き。」】

カワイイもの大好きおじさんの、趣味を隠す葛藤が健気でコミカル

 ツトム氏による「おじさんはカワイイものがお好き。」(以下「おじカワ」)は、COMICポラリスにて連載中の作品。10月4日からはTOKYO MXほかでアニメの放送が開始される予定で、声優には、興津和幸、富田美憂、江口拓也、梶裕貴など豪華な面々が名を連ねる。

 作中のキャラクター・パグ太郎は絵本も出版、大手スーパーでバレンタインチョコレートが販売されるなど、多彩な盛り上がりを見せている。

推しキャラのラッピング車両を見るだけで笑顔になる主人公(画像は1巻4ページより)

 そんな本作が描くのは、中年にさしかかった主人公の小路三貴(おじみつたか)が、「カワイイものが大好き」という秘密を周囲に隠しながら、その趣味を生き生きと満喫する日常である。小路の秘密主義は徹底しており、結婚生活の中でさえ妻にバレないよう過ごすほどだった。

 だが、その頑なな姿勢が災いして離婚にいたり、現在は独身。その後、大学進学のために上京してきた甥の仁井真純(にいますみ)と同居を始めるのだが、彼に対してもやはり趣味はひた隠しにしている。

お気に入りのキーホルダーを慌てて隠す秘密主義(画像は1巻9ページより)

 推し活やキャラクター文化が幅広い世代に浸透してきた今でもなお、ここまで小路が世を忍んでいるのには深いわけがある。小路は、幼い頃、本作オリジナルキャラクター「パグ太郎」のぬいぐるみを姉にもらったことで、カワイイものにドハマリした。

 だが、中学生の時、カバンに付けていたぬいぐるみを同級生にからかわれて強いショックを受け、趣味を一切公言せずに生きていくことを決めたのだ。

中学生で抱えたトラウマは、小路にとって根深いものになっている(画像は1巻10ページより)

 ただ、推しキャラのラッピング電車を見るだけで笑顔が弾ける小路にとって、趣味を隠しながら楽しむというのは骨が折れる。特に、同居の真純に隠すのは苦労が絶えない。こっそりぬいぐるみを飾っているスペースを見られそうになっては慌てて隠したり、グッズの小包を真純が受け取ってしまい言い訳に窮したりと、小路は何度も危機に直面している。

 だからこそ、真純が実家に帰るなど数日いない時は、その反動でリビングでパグ太郎のぬいぐるみと一緒に過ごしたり、たくさんグッズを買ってきて机に並べたりして趣味を心行くまで満喫するのだ。

同居の真純に気付かれないようにするのは一苦労だ(画像は6巻104ページより)

 ほかにも、おもちゃ屋へファンシーなグッズを見に行く際には「家族へのプレゼントを探している」という設定を装い、スマホの壁紙をあえて3歳当時の真純の写真に変えるほど念を入れる。

 またある時は、可愛いスイーツのキッチンカーに並ぶため、「会社の部下たちへの差し入れを買う」という、行く理由をわざわざ作ってから出かける徹底ぶりだ。

パグ太郎のチョコを見かけただけで、この喜びよう(画像は11巻129ページより)

 趣味を満喫したいと思いつつ、自分がカワイイもの好きであるとバレてはいけない、という葛藤。だが、そんな葛藤を抱えつつも、おもちゃ屋で見つけたグッズに声を弾ませ、ショッピングセンターのパグ太郎チョコのコーナーを見かけただけで魂が抜けそうになるほど歓喜する。

 そんな小路の姿からは、隠しきれない「カワイイものが好き」というピュアな想いが溢れている。彼の必死でどこかコミカルな奮闘を見守るうちに、読者はいつの間にか、小路を全力で応援したい気持ちにさせらてしまうだろう。

キャラクター愛を隠すコワモテ男性や、猫に嫌われる猫好きの同僚も、大奮闘

 小路の奮闘が笑いを誘う「おじカワ」だが、他にも、趣味と自分の見た目のギャップや、「大好きな猫に嫌われてしまう」という悲しい現実に悩む同僚たちが登場し、その奮闘ぶりもまたおもしろい。

意地悪く煽ってくる隣の課の鳴戸は、こう見えて大の猫好き(画像は1巻39ページ)

 小路と同じ課長で、小路をやたらとライバル視している鳴戸渡(なるとわたる)は、気難しい性格で常にピリピリしているのだが、無類の猫好きである。だが、四角四面の気質が災いしてか、肝心の猫にはあまり好かれていない。それどころか、猫カフェの猫にすら威嚇されたり、引っかかれたりするほどだ。

猫カフェの猫に距離を置かれる鳴戸(画像は3巻26ページ)

 それでも鳴戸は猫が大好きなので、へこたれない。猫じゃらしを持ち歩き、お気に入りの猫がいる公園に通っては距離を置かれ、行きつけの猫カフェでは推し猫に全く懐かれない。猫関連の書籍もチェックし、常に情報はアップデートを心がけるも、初来店の猫カフェでは店員が心配になるほど猫に寄りついてもらえない。

 こんなに猫のことばかり考えているのに、肝心の猫からは見向きもされない鳴戸に、いっそ猫のことが嫌いになったりしないのだろうかと心配なほどなのだが、鳴戸はそれでも猫一筋。同情してしまうほどの健気さが、癖になるほどおもしろいのだ。

小路の初めての趣味の友達ケンタも悩みが絶えない(画像は2巻53ページより)

 そして、小路と同じく、カワイイものが大好きだがそれを周りに隠している、コワモテの河合ケンタの悲喜こもごもも大きな見どころだ。小路は、職場と同じビルで働く、一回り年下の彼のことを、「ケンタくん」と呼び、とりわけ仲良くしている。小路は、40年以上、同じ趣味の友人などいなかったのだが、カプセルトイコーナーでケンタと偶然知り合い、意気投合した。

 ケンタは小路に比べると若い世代だが、顔に迫力があり、真純からも最初は借金取りだと勘違いされるほどだ。大好きな「くまちゃんのようちえん」のぬいぐるみを持ち歩いているときに、警察から職務質問されたこともある。小路と同じように、趣味が原因で恋人と破局した苦い経験を持ち、周囲にカワイイ物好きであることを隠している共通点から、二人は急速に仲を深めていった。

ケンタの自宅で人目を気にせず盛り上がる二人(画像は3巻125ページより)

 同じ趣味を持つ者同士でファンシーショップを巡ったり、ラブリーなカフェに行ったり、自宅でぬいぐるみを見せ合ったり、小路とケンタはお互い初めての経験を共有し合っている。そして何より小路にとって大切なのは、一人では挑戦できなかったことに、二人でなら一歩踏み出せたことにある。

 キャラクターとコラボしたカラオケルームを満喫したり、二人からのプランしかないホテルのコラボルームに宿泊したりして、二人はこれまで得たことなかった、仲間と趣味の喜びを分かち合う幸せを噛み締めている。

周囲の目は気になっても、好きを貫く小路たちの小さな勇気

おもちゃ屋に行くのにも、スマホの壁紙まで変えてカモフラージュする(画像は7巻6ページより)

 ここまで紹介してきたように、「おじカワ」は世を忍ぶ小路たちが、影に日向に趣味を満喫する姿がユーモアあふれるテイストで描かれている。それ自体がそもそも面白いのだが、本作の真の魅力は、単に「推し活をしてハッピーになろう」という推し活推奨マンガにとどまらない点にある。

 アニメ化されるほど多くの人の心を掴むのは、主人公の小路やケンタたちが、周囲に趣味を隠しながらも健気に満喫している、その「世を忍ぶ姿」が、強い共感を呼んだり、あるいは新鮮に映ったりするからだろう。

 小路と同じ世代の筆者にとって、人に言えない趣味を持つ葛藤というのは痛いほどよく分かる。筆者が学生の頃は、マンガやアニメが本気で好きなどと公言しづらかったのだが、小路が中学生の頃にからかわれ、以来ずっと世を忍んできたというのも共感しかない。今でこそ、多様なカルチャーが受け入れられる時代になったが、それでも、小路やケンタのように、今もなお、ひっそりと趣味を隠している人も多いのではないだろうか。

 ことさらに趣味を強調する必要はもちろんないが、色々な事情で、隠さざるを得ない人は小路やケンタに共感できるだろうし、常にオープンな人にとっても、彼らの隠し通そうとする必死な姿が「新鮮な面白さ」として映ると思う。

居酒屋でも話を聞かれないように気を付ける小路とケンタ(画像は10巻71ページより)

 居酒屋で店員に察されそうになると慌てて話題を変えたり、可愛いドーナツを買うのに部下の差し入れを装わなければ買えなかったり、言い訳用に甥の幼い頃の写真を待ち受けにしたり。小路がそこまで徹底するのは、過去のトラウマや、大人の社会にある周囲のちょっとした否定的な空気を察しているからだ。しかし、小路は、ケンタという同志を得たことで、少しずつ日常は変わり始める。

コラボホテルでの記念写真でケンタの有難みにしみじみする小路(画像は8巻133ページより)

 かつては「いつか行けたらいいな」と願うだけだったキャラクター施設に行ったり、コラボホテルに泊まったり、カフェに出かけたりする。周囲の目を気にしながらも、勇気を出して少しずつ趣味の世界を広げ、楽しむ小路の姿は、自分の好きなことに突き抜けきれず、後ろめたさや気後れを感じているすべての人へのエールだ。

パグ太郎のテーマパークのアトラクションについて熱弁する小路は本当に生き生きしている(画像は12巻39ページより)

 世を忍ぶ小路の健気な奮闘に共感し、応援しているうちに、いつの間にか、小路のパグ太郎への純粋な想いと、趣味を楽しもうとする姿に、読者のほうが励まされ、前を向く勇気をもらっている。本作は、そんな心地よい温かさとエネルギーを届けてくれる傑作なのだ。