特別企画

平成オタクが令和のコミケに参加して感じた変化と変わらない楽しさ。コミックマーケット107レポート【C107】

コミックマーケット107
2025年12月30日・31日開催
会場:東京ビッグサイト

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 「東から行く?」

 「いや、南に頼まれてるとこあるから、そっちから」

 国際展示場行きの電車に乗っているとそんな会話がどこからか聞こえてきた。平成時代と変わりないコミケの朝の風景だ。今年はコミックマーケット(以下、コミケ)が始まって50年の節目に当たる。そんな記念すべき「コミックマーケット107」が2025年12月30日と31日の2日間に東京ビッグサイトで開催された。

3万以上のサークルが参加する世界最大の同人誌即売会

 筆者は平成の頃せっせとコミケに通っていた平成オタクだが、今回久しぶりに2日間にわたり全館を回ってコミケを堪能してきた。

 このレポートでは、筆者が見た令和のコミケを、平成時代の思い出話なども交えつつお伝えしたい。面白そうなサークルや50周年記念企画など現地で見かけた最新情報に加え、昔参加していた人にとっては新鮮な、いつかは参加してみたいと思っている人にとっては役立つ、現在のコミックマーケットの姿をお届けしたい。

会場に掲載されている広告にも50周年を祝うメッセージが添えられたものが多かった

変わったこと、変わっていないこと

 “コミケにはお客様はいない”。この言葉はずっと変わらないコミケの理念だ。コミケでは全員が「参加者」と呼ばれる。スペースで作品を頒布する人はサークル参加者、買いに来る人は一般参加者、企業も企業参加者と呼ばれ、全員が「コミケ」というイベントを支えているという考え方が、冒頭の言葉に現れている。

 2020年に新型コロナウイルス感染症により大規模なイベントが次々と中止される中、コミケも2020年ゴールデンウィークに開催予定だったC98が中止になり、冬は見送り、翌年のC99はゴールデンウィーク開催予定が冬に延期された。

会場の外に並んだ入場待機列
整然と行列を作って入場していく人たち

 このC99ではコロナ対策として人数を制御しやすい新たな入場方法が導入された。現在は、事前に予約抽選販売が行なわれる「アーリー入場チケット」、事前販売される「午前入場」と当日会場でも購入できる「午後入場」のリストバンド型参加証。このほかにコスプレをする人向けに更衣室先行入場チケットがある。

 この入場方法は賛否あるが、もともとの目的だった混雑対策や入場時の混乱抑制にはかなり効果を上げている印象を受けた。転売対策など課題もあるが、物価が高騰を続ける中、巨大イベントを安定開催していくためのコストをこういった形で全員が負担するのは、コミケという場所を存続させるためには必要なコストということだろう。

 思えば、初めて企業ブースが始まったのも、そもそもは開催費用を捻出するためだった。当時も同人文化の総本山的なコミケに企業が入ることについて多くの議論が交わされた。だが、今となっては企業ブースもまたコミケに欠かせない要素となっている。

 コミケでは一般入場が始まることを告げる館内放送に合わせて、全員が拍手する。それまでは静かだった会場の空気が一気に華やぎ、お祭りムードが最高に高まる瞬間だ。それはメディアとして参加した今年も変わらず感じることができた。

Wacomのブース。新製品「MovinkPadPro」も並んでいた

筆者が見つけたお気に入りサークルを紹介!

 コミケC107の参加サークルは、コロナ禍以来最高の2日間で約23,700サークル。なんの下調べもなく行っても、その巨大さに圧倒されるだけに終わるだろう。そんなコミケを乗り切るために欠かせないのがカタログだ。現在はWebカタログが主流になっているが、当日会場で冊子のカタログを購入することもできる。

 検索やソートができる電子版は非常に便利で携帯性にも優れているが、参加者が寄せた前回のレポートをまとめた「マンガレポート」通称「マンレポ」がないことだけが残念だ。コミックマーケット公式サイトには過去の一覧があるので、そこから読むことができる。多くの人が寄せた感想からコミケの空気感を感じることができるのでぜひ読んでみて欲しい。

会場の企画として展示されていたマンレポ

□マンガレポートコーナー

 今年の冬コミでは、アニメやマンガ、ゲームなどの版権もの。VTuberとオリジナルのカードゲームなど、そしてオリジナルの雑貨などのサークルが1日目に、同人ゲームやオリジナルマンガ、文芸と一部のゲームなどが2日目に配置されていた。

 コミケというと男性向けのエロマンガというイメージがあるかもしれない。確かに大盛況で、2日目の男性向けエリアなどは朝の通勤電車並みの人口密度の中を前進していく必要があるほどの混雑ぶりだった。だがそれはコミケの一面に過ぎない。

 この場所は、おそらくここでしか出会えないモノとの出会いの場であり、驚くような財宝を見つけることができるダンジョンでもある。ここからは筆者が出会ったモノのごく一部を紹介したい。

 ここで出会えるモノたちは全てがオンリーワンなので、これを紹介すればそのジャンルを俯瞰できるようなサークルは存在しない。今回紹介するのは、あくまでも筆者が「スゴイ!」と思ったサークルさんだ。それでもコミケが包含している多様性を感じてもらえるのではないかと思っている。

【迷子通信】
「アトリエ」シリーズなどを手掛けるイラストレーター、岸田メル氏のサークル。コンセプトカフェ「IDOLY」の合同誌を頒布していた。本人も在席しており、サインや記念撮影に応えていた
【ゲーム電源不要「波間のかけひき」】
カードゲーム用の様々なダイスを販売しているサイト。アニメやゲームなどジャンルが書かれた「カラオケ用ジャンルダイス」と、年代が書かれた「カラオケ用年代ダイス」など汎用性の高そうなものも
【ゲーム電源不要「アイハラワークス」】
とにかく長い駅名を作るゲーム「光り輝く高輪アンリミテッドエターナルゴールデングレイテストスーパーストロンググローバルゲートウェイ2025(仮称)」
【ゲーム電源不要「Pelican Popcorn」】
立教大学シューズルゼミのゼミ生が制作した就職活動をモチーフにしたカードゲーム。先生と生徒が一緒に販売していた
【VTuber「実在しない切り抜きチャンネル」】
400年間活動しているVTuberなど、実在しないVTuberの活動記録を綴った本や、実在しないVTuberの切り抜き音源のCDなどを販売していた
【オリジナル雑貨「地図パズル屋」】
全国の都道府県の詳細なパズルを販売。一度崩すと二度とは復元できなさそうな北海道のパズルは圧巻だった
【創作(少年)「グンバイヒルガオ」】
可愛らしい絵柄で綴られる少しフシギなファンタジーマンガのサークル
【キロロとあずき】
今回が初めてのサークル参加で、版組に関するハウツー本を販売していた。LaTeXを使った論文版組を確認するためのスクリプトなどニッチな内容が興味深い
【同人ソフト「おうちPOS部」】
Stripeという決済サービスを実装するためのエンジニア向けハウツー本を頒布。スペースには各種決済に対応した本格的なPOSレジが置いてあり、本の決済に使われていた
【鉄道・旅行・メカミリ「鉄道被服研究会」】
制服の研究書などを販売。鉄道やメカミリ分野には制服姿の人を数多く見かけた
【マンボウなんでも博物館】
マンボウで博士号を持つガチ研究者のスペース。マンボウに関するディープな本が並んでいた。本物のマンボウの干物も飾られていた

懐かしいカタログ表紙やスタンプラリーなど50周年記念企画が開催

 会場のあちこちでは、50周年記念企画が開催されていた。50周年記念グッズには、50周年のロゴが入ったトートバッグやわたあめなどのほか、パイプ椅子やイスカバーなどコミケならではの思い入れを感じるグッズも用意されていた。ちなみにパイプ椅子は早々に売り切れたようだ。

記念グッズのお品書き。午後にはほとんどが売り切れていた

 エントランスの近くには多くの人から寄せられた50周年記念メッセージが掲示されていた。印刷所や企業からのメッセージだけではなく、一般の人からの匿名メッセージも掲示されており、全員がコミケの参加者という理念がここにも表現されているように思えた。

【50周年お祝いメッセージ】

 50周年記念寄せ書きコーナーには、付箋を使ったメッセージが寄せられていた。50周年記念スタンプラリーは、4人の作家が描いたイラストのスタンプを、会場の4カ所を巡って集めるというもの。ほかに歴代のカタログ表紙や企業ブースカタログの表紙の展示や、マンレポの抜き出し掲示なども行われていた。

【寄せ書き】
【スタンプラリー】
【カタログ表紙展示】

ここに来れば何かに出会える。そんなかけがえのない場所

 久しぶりのコミケでは、色々な変化にも驚かされた。女性向けはオンリーイベントなどへの棲み分けが進んだ結果、女性向けとして人気のあるマンガやアニメ作品のサークルが少なく思えた。

 例えば「鬼滅の刃」や「ブルーロック」、「チェンソーマン」など、もし平成のコミケであれば大きなジャンル(コミケにおけるサークル配置の大きな枠組み)を形成していたであろう作品がマンガという1つのジャンルに収まっているのは不思議な気がしたが、今はネットでの発表の場や通販など同人誌を発表、販売するチャンネルは多彩に存在しているため、大手ジャンルほど混雑するコミケ会場に来る理由は少なくなっているのかもしれない。ただ、だから女性が少ないというわけではなく、女性の一般参加者もサークル参加者も多く見かけた。あるいは、単に楽しみ方が変化しているのかもしれない。

 男性向けで1作品でジャンルを形成している作品は、「ウマ娘」や「アズールレーン」、「ラブライブ!」、「東方project」などゲームが圧倒的だ。だが、1つのジャンルといっても、中は数多くのキャラクターで細分化されている。これはVTuberも同じで、1つのジャンルといっても机ごとに違う全く違うキャラクターのサークルが並んでいる。

 巨大な会場に多くの人が集まっているが、訪れている理由は千差万別。特に今回紹介した、オリジナル系のジャンルや評論・情報ジャンルなどはまさに1スペース1ジャンルといえるほどの多様性に満ちている。

 世界各地の旅行記や事件のドキュメンタリー、専門性の高そうな歴史の研究書、高速道路をモチーフにしたグッズ販売、オリジナルレシピ本、カメラの使用レポートに張りぼての作り方を解説したハウツーなどなど、オリジナルジャンルがコミケの神髄と言われるのも納得できる幅の広さだ。きっとここを訪れた誰もが、何かしら自分に刺さるものを見つけることができる。

 そして、平成時代のコミケと比べた、もう一つの大きな違いが外国人の多さだ。「少年ジャンプ」が日本と同じタイミングで世界に配信される時代、日本のサブカルチャーはオンタイムで海外でも楽しめるコンテンツとなった。西ホールアトリウムには、世界のどこから来たのかをシールを貼って主張するコーナーがあった。筆者が見たのは初日の朝なので、まだ貼られているシールはそれほど多くなかったが、それでもアジアはもちろん、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカまで世界中の場所にシールが貼られていた。

 そしてもう1つ、多様性を感じたのは年齢層だ。若い人たちはもちろんだが、筆者よりも高齢の方も来場者やサークルスペースで多く見かけた。50周年記念のメッセージボードでは、「ガメラ館から参加しています」というメッセージを見かけた。ガメラ館とは1995年までコミケが開催されていた晴海の東京国際見本市会場にあった東館の通称だ。建物の形が亀の甲羅のように見えるため、こう呼ばれていた。

 自分の好きなものが好きな人に囲まれ、お互いの成果物を交換しながら過ごす時間はオタクでよかったと感じる至福の時間だ。ここに来れば仲間に会える、欲しかった本あるいは驚くような本と出会える、多様性にあふれた場所。

 何時間も寒い場所で待機し、ぎゅうぎゅう詰めの人込みを押しのけて、足が痛くなるまで行列に並び、そんな状態の中からでも「これ来年ガチ参加しようか」、「え、コスプレする?」と楽し気な声が聞こえてくるのはこの場所が誰にとってもかけがえのない居場所になっているからだろう。

 この記事を読んでコミケに興味を持ち、今年の夏コミに行ってみようかなと思った人はぜひ、歩きやすい服装で無理なく世界最大の同人誌即売会の凄さを体験して欲しい。

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