特別企画
「はじめてのBLビジネス」市場規模からタイBL、同人事情までを俯瞰する【IMART2025】
2025年12月3日 12:30
- 【国際MANGA会議 Reiwa Toshima(IMART2025)】
- 11月12日開催
- 会場:アニメイトシアター(アニメイト池袋本店B2F)
男性同士の恋愛を描くBL(ボーイズラブ)は、愛好者以外、特に男性からは実態が見えにくい世界かもしれない。そんなBL業界の最前線を知る3名の女性が登壇し、ビジネス視点で語り合うセッションが「IMART2025」の配信セッションとして11月12日に開催された。
「はじめてのBLビジネス~数多の沼を俯瞰でとらえる」というタイトルのセッションには、商業BL、同人BLの両界隈の視点を持つ3名の女性が登壇した。
モデレーターの一般社団法人MANGA総合研究所所長の菊池健氏は、ビジネスとしてBLに男性が関わる時、BLとは何かを理解して意思決定するのが難しいことを個人的な経験として実感している、と言いそんな意思決定に貢献できればという気持ちでこのセッションを組んだのだという。
パネリストとして参加したのは、BLコミックや小説のレビューサイト「ちるちる」を運営しているサンディアスの平野あんり氏。俳優や声優、イベントプロデューサーなど幅広く活躍している松崎亜希子氏。「DLsiteがるまに」などを運営しているviviONのコンテンツ部サブマネージャー斉藤由香里氏。3名ともBL業界をそれぞれの角度から知り尽くしている。
このレポートでは、BLに詳しくない人に向けた基礎知識を説明しつつ、セッションで語られたBLの現在地について解説したい。
腐女子・やおい・カプなど基礎用語を解説
セッションの冒頭では、BLにあまり詳しくない人に向けての基礎知識や用語解説が行なわれた。BLという単語に定まった定義はないが、おおむね「男性同士の恋愛や親密な関係を描く、主に女性の読者を対象とした表現または作品の総称」という意味合いで使われることが多い。とはいえ、近年は愛好者の大衆化や作品の多様化も進んでいるため一概に定義するのは難しいのが実際だ。
特に商業出版されるBL作品について、平野氏はかなり狭義の解釈ではあるとしたうえで「サンディアスではBL専門のレーベルから出版されている作品や自らBLを謳っている作品だけを商業BLだと呼ぶことが多い」と言う。ただし、これはあくまでも商業出版物をジャンル分けするうえでの便宜的な定義づけにすぎず、例外もかなり多い点には注意が必要だ。「BL」と一口に言っても、そこには一次創作、二次創作、商業、同人などさまざまな種類があるため、実際にどんな場面でなにをBLと呼ぶかは個々人によってかなり感覚が異なり、必ずしも明確な区分があるわけではない。
また、男性同士の恋愛を描く作品の宣伝の一環として、「この作品はBLではなくヒューマンドラマ/純愛だ」など「BLではなく〇〇である」といった文句が使用されることがあるが、多くの場合は「BL」に対する偏った認識に基づいているのだという。
他にもBLにおいてペアとなる2人を指す「カップリング(カプ)」や、「攻め×受け」という表記方法、BLが好きな女性を意味する「腐女子」や、日本ではあまり使われなくなった古典的なBLジャンルの呼び方である「やおい」という用語についても説明していった。
例えばBL小説のことをかつては日本でも「耽美小説」と呼ぶことがあった。中国ではこの単語がいまでも「ダンメイ(耽美)」というジャンルとして残っているのだそうだ。ちなみに「魔道祖師」や「天官賜福」などの中華BLは日本でも人気を博している。
また「腐女子」という呼称については、本来はBLが好きな女性を表す単語だが、オタク女性全般を表すために使われることもある。ややネガティブなニュアンスを含んでおり、そう呼ばれることを好まない女性もいることからサンディアスでは「BLファン」という言い方を使っているのだそうだ。
大衆的になったBL。現在はコミックスがけん引
かつては一部の女性たちが内輪でひっそりと楽しんでいたBLだが、現在は1つのジャンルとして確立した感がある。小説とマンガだけではなく、アニメやボイスドラマ、ゲーム、ドラマ、映画と多彩なメディアで展開している。その中でも現在業界を引っ張っているのはマンガである。
商業BLマンガの刊行数は年々増加しており、2024年には約1400作品が出版された。菊池氏によれば、紙のマンガ単行本の発刊総数が約15,000冊で、更にデジタルのみの作品も多数ある。少なくとも10%以上をBL作品が占めていると見ることができる。
BL作品は1巻完結のものが多いため、作品数としてはかなり多いと平野氏。「ちるちる」が毎年行なっているBLアワードの投票者数も毎年増えており、2024年には2万人を超えた。
また最近は映像作品が盛り上がっており、2024年には19本が放送された。これはコロナ禍辺りからの傾向で、2020年頃から商業BLが急速に盛り上がっているのがグラフからも分かる。
要因の1つとしてTVドラマ「おっさんずラブ」のヒットや、タイや中国のBLドラマが世界的に大ヒットしたことなどの影響も考えられる。タイのBLドラマは当初日本からでもYouTubeで無料で見ることができたこともあり、2016年頃からじわじわと人気が高まった。日本以外の国のBL文化は基本的に小説がベースになっていることが多いが、特にタイの場合は原作者などBL文化に精通した人物が作品をプロデュースする事例もあり、BLファンが喜ぶツボを押さえた作品作りになっているのが特徴だ。また、タイでは街中にBLドラマの主演2人の広告が貼られたりと国民的な人気を獲得しているのだそうだ。
世界中の人が書き、世界中の人が読むBL同人文化
同人BLマンガについては、viviOnの斉藤氏が解説した。viviOnが運営しているDLsiteは、1996年にサービスが始まった、来年で30周年を迎える老舗の同人販売サイト。その中で女性向けを扱っているのが「DLsiteがるまに」だ。
女性向け同人誌のサイトとしては世界トップのアクセス数、作品数、ユーザー数を誇っている。アクセスのうち37.57%は海外からのもので、特に近年は韓国からのアクセスが174%増と2倍近い伸びを見せている。
中華圏からのアクセス数も伸びている。海外ではその国のレギュレーションの関係でBL作品を出版するのが難しい場合もあり、日本のBL作品を読みに来る人が多いのではないかと斉藤氏。
また、斉藤氏が台湾の同人即売会に参加して、イラストを描ける人は多いがマンガをかける人は少なく、グッズが中心だったという印象を語った。しかし全体から見ると決して多くはないが、海外のクリエイターも作品を登録しており、それを別の国のファンが読む。がるまにはそんなふうに多くの国の人たちが交流する場としても機能している。
BLビジネスの成功パターンと失敗パターン
知らない人からは分かりづらいBL業界。しかし、盛り上がっているなら参入したいと考える人は必ずいる。その時に、成功と失敗を分けるものはなんだろう? そんな問いに平野氏は「あまりBL文化に親しんでこなかったような方の参入は最近特に増えてきている」と感じている。平野氏がBL作品を取り扱いたいという相談を持ち掛けられた相手に「なぜBLをやりたいのか?」と尋ねると「色々なジャンルの作品を出した中で、BLジャンルは特に反応が良かった。だから次もBLをやりたい」と答えが返ってきた。
だが、こうして入ってくる中にはBLに関する十分な基礎知識を持たない人も多く、うまくBL好きのツボを押さえられないということもある。特に原作つきの作品を制作する場合は、現実的に考えて原作の解釈を十分に行なえるレベルにまでBL知識を底上げするには時間が足りないこともある。
BLを原作としたメディアミックスを成功させるには、「作家の先生がメディアミックスに対して前向きに取り組んで、SNSなどで積極的に発信してくださる」ことが重要だ。作家が発信することでファンも安心して作品を見ることができる。作家とのコミュニケーションが十分取れていないと、作家自身も不信感を持ってしまい、なかなか積極的にお勧めできないという状況になり、プロモーション全体が微妙になってしまうこともある。
ドラマなどの制作者がBLのことをよくわかっていない場合、ピンとこない配役をしてしまうこともある。「作る側が受け攻めという概念を十分理解できていないのか、とにかくかっこいい男の子2人をいちゃいちゃさせることだけに注力してしまっているように見えることもある。BLでは2人の関係性に独特な力学があるので、それがちぐはぐになってしまっていると、何に集中してみればいいのか分からなくなってしまうこともあります」と平野氏。
松崎氏はこの力学について「見た目だけの話ではなく、性格とか性質とか、2人の関係値によってこの2人ならこうだろうなと見抜く感じ」と言う。「思っていたのとは逆のカップリングだったとしても、これはこれでいいなと思えることもあるんですが、そうならないこともあります」と平野氏も続ける。どちらが攻めで受けなのかということに決まったフォーマットはなく、感性によるところが大きいので、確かにBLに詳しくない人がこれを決めるのは至難の業かもしれない。
斉藤氏は同人BLの場合は少し状況が違うという。がるまにのBLでは受けがどのくらいいい目を見るかにフォーカスされがちで、2人の関係性はあまり重要視されていない。受けだけがひたすら可愛くて、攻めは顔のないモブである場合もあるそうだ。「同人ならではの尖った表現だと思います」と、2人がハッピーエンドになることが好まれやすい商業BLとの違いを語った。
BLビジネスで成功するには「マスを狙いすぎない」ことが大切だと平野氏。BLを好む人はそれぞれに「これが好き」という要素を持っており、BLという大きな枠で考えすぎるとかえってどこの層にも刺さらないものになってしまう。そのパターンの失敗例は意外とあるという。
アングラから成長ジャンルへ。熱量を帯びて拡大し続けるBL市場の可能性
今回のセッションでは、BLという大きな枠組みでの傾向が話し合われた。セッションの最後には各人が、次回があればもう少し踏み込んだ話もしてみたいと話をしていた。
やはりBL業界の話は男性にとっては理解しづらいものなのだろうか、唯一の男性であるモデレーターの菊池氏は、話が盛り上がってくるとそこに割り込むことができずにいた。しかし最後には「今回のセッションを男性陣や女性陣に見せて、来年やるとしたらどんな形がいいのか研究していきたいと思います」とさらなる意欲を見せていた。
同人業界の創成期から存在し、長い歴史のあるBL。当初はマイナーでアングラな世界だったが、それが次第に受け入れられ、広く多くの人が楽しめるマンガの1ジャンルにまで成長してきた。その裏には、真摯に作品に向き合い、質の高い作品を世に送り出してきた幾多の人の熱意と、支え続けてきたファンの声援がある。
今回登壇した3人もそれぞれ立場は違えど、BLというジャンルへの深い造詣と愛を発言の一つ一つからひしひしと感じることができた。今後、BLというジャンルへのさらなる理解が進むことで、世界中の人を楽しませるような作品が生み出されていくことを期待したい。
(C) アイマート実行委員会 2020-2025



















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