特別企画

よみがえれ──霊がテーマでもホラーではない「シャーマンキング」が誕生26年

ユニークな設定を王道マンガの手触りで楽しめる異色作。8月24日からは続編の連載が再開

【シャーマンキング】

1998年7月13日 連載開始

 漫画家・武井宏之氏の代表作「シャーマンキング」が、7月13日で連載開始から26年を迎える。本作は集英社の「週刊少年ジャンプ」にて1998年から2004年にかけて連載された後、本誌掲載後のエピソードが大幅に追加され、真の完結を迎えた完全版を2008年3月よりリリース。2018年からは講談社へと権利が移り、以降は「SHAMAN KING」と英字表記のタイトルで関連作品が展開されている。

 タイトルにあるシャーマンキングとは、全知全能の霊・グレートスピリッツを手にした地球の王を指す。幽霊や精霊など、霊的な存在と交信することのできる人間=シャーマンたちが、歴史の裏で地球の王を決めるための戦い・シャーマンファイトを開催していた。本編では、主人公の麻倉葉を始めとするシャーマンたちが、その500年に一度訪れるシャーマンファイトへと臨む姿を描いている。

 本作は週刊少年ジャンプという媒体にありながら、霊能力を持つシャーマンといういわばアウトサイダーな存在を取り扱った異質性が際立つ作品だ。その上でホラーテイストの作風ではなく、さらにひと捻り加えて王道のバトルものとして成立させている。またシャーマンとしての強さは心の強さに起因することが描かれており、各キャラクターの深堀りエピソードが展開される際には、作者の武井氏が作品を通じて訴えかけるメッセージを感じることができる。他作品ではなかなか味わうことのできない、独自の深みがある作品ではないだろうか。

 8月24日からは、一度連載がストップしていた「シャーマンキング」直流の続編「SHAMAN KING THE SUPER STAR」の連載再開が控えている。この記事では、そんなタイミイングで誕生26周年を迎える原点「シャーマンキング」について振り返ってみたい。

【完全新作 放送決定! 特報 PV | SHAMAN KING | 放送開始 予告】
2021年には完全新作のアニメが放送された

異色の雰囲気を持つ主人公・麻倉葉をはじめとした「シャーマンキング」の登場人物

 連載当時の筆者は小学校高学年頃で、初めての出会いは、親に連れられて通っていた床屋の本棚に備えられていたジャンプ本誌だったことを覚えている。主人公・麻倉葉のパーソナリティや醸し出す雰囲気、「ウェッヘッヘ」という独特な笑い声など、とにかく他のジャンプ作品の主人公とは一線を画す彼の存在が目に留まった。以降、本作は筆者の生き方にも影響を与えるほど心に刻まれた作品になっている。まずはそんな本作に登場する主要キャラクターたちを紹介したい。

麻倉葉
 シャーマン界では日本を代表する大家・麻倉家出身の主人公。常に身につけているヘッドホンや熊の爪の首飾り、便所サンダルがトレードマークとなっている。500年に一度のシャーマンファイトに参戦するため、実家のある島根から彼が単身上京してくるところから物語は始まる。「なんとかなる」が口癖で人当たりも柔らかく、「ウェッヘッヘ」とよく笑う。作中でも「ユルい」と評される人物だが、時折人を寄せつけないような寂しげな表情を見せることもある。

阿弥陀丸
 葉たちが暮らす地・ふんばりヶ丘に縁の伝説を持つ侍の霊。生前に刀鍛冶の親友・喪助と交わしたある約束を果たすため、丘の上から頑として離れず地縛霊となっていた。切れ味鋭い真空派を飛ばす「真空仏陀切り(しんくうぶっだぎり)」に代表される我流の剣術・阿弥陀流を操り、一騎当千の強さを持つ。喪助との約束を果たすため働きかけた葉のことを主と認め、ともにシャーマンファイトへと挑む。

画像はTVアニメ「シャーマンキング」の公式ページより

恐山アンナ
 青森のイタコ能力を身につけたシャーマンで、麻倉家が定めた葉の許婚。葉の戦いをサポートするため、彼を追う形で上京してきた。容姿端麗な美少女だが傍若無人な態度と、葉には常に厳しい修行を課すことで鬼嫁として恐れられている。シャーマン的な素質は作中登場キャラクターのなかでも随一で、そんな彼女が自ら戦うのではなく、葉をシャーマンキングにするための行動にはある理由がある。その顛末が描かれたエピソード「恐山ル・ヴォワール」はファンから高い評価を受けている。

小山田まん太
 葉が転校してくる学校のクラスメイトであり、葉にとって初めての“人間の”友達となるキャラクター。元々シャーマンとは関係のない一般人だったが、葉と関わりを持つことで霊を視ることができるようになり、以降は語り部的な立ち位置となっている。世界的な電子機器メーカーの御曹司で、いわゆるガリ勉。葉と出会ったのも、塾の帰りが遅くなりすぎたため、墓地をショートカットしようとしたことがきっかけだった。身長が低く、万辞苑(いわずもがな広辞苑のもじり)という辞書を常に携帯している。

道 蓮(タオ レン)
 葉のライバルとなる、中国出身のシャーマン。中国の長い歴史の影で暗躍してきたシャーマン一家・道家の長男坊で、短気でイライラしやすく、気に入らないものは破壊しようとする性格。それは人間に対しても例外ではなく、当初は家の教えにより殺人をも厭わない人物として描かれていた。シャーマンファイトが始まる前から葉と出会い、ぶつかりあうことで心境の変化が生まれ、憎しみが連鎖する世界を作るためシャーマンキングを目指すようになる。

ホロホロ
 北海道のアイヌ民族にルーツを持つシャーマン。常にヘッドバンドやバンダナ、タオルなどを頭に巻いており、水色の髪をツンツンに逆立てた風貌をしている。でっかいフキ畑を作ることが夢で、その実現のためシャーマンファイトへと参加する。葉とはシャーマンファイト予選の対戦相手として出会い、正々堂々とした戦いを経て互いを認め合った。戦闘ではフキの下に住むという精霊・コロポックルの力を利用して、氷の力を操る。

リゼルグ・ダイゼル
 葉たちがシャーマンファイトを通じて出会う、イギリス出身のシャーマン。ロンドンにてダウジング能力を駆使し活躍していた探偵、リアム・ダイゼルを父に持ち、温かい家庭で育つが、幼少期に起きたある出来事によって両親を殺害されてしまう。見た目は女の子と間違われるほどかわいらしい男の子だが、両親を殺された復讐を遂げるためシャーマンファイトに参加していた。

チョコラブ・マクダネル
 コメディアンを自称するアフロヘアーで陽気な黒人といったキャラクターだが、元はアメリカ・ニューヨークで殺人鬼と恐れられていたギャング。幼い頃のクリスマスに強盗に遭い、両親を殺害されてしまったことがきっかけとなる。自身も同じように強盗をし、子を持つ父親を容赦なく射殺するようにまでなっていたあるクリスマスの日に、「笑う」ことの大切さを説く年老いたインディオのシャーマン・オロナと出会ったことでシャーマン能力に目覚める。

ハオ
 シャーマンファイト本戦前、突如として葉の前に姿を見せた人物。葉と瓜二つの容姿をしており、その存在は本編中盤の最大の謎となっていた。正体は平安時代に生まれた大陰陽師・麻倉葉王で、麻倉家の始祖。人の心が読める霊視能力を持ち、その結果人間に失望。人間を滅ぼし、優れたシャーマンだけの世界を作ることを目指すようになる。

 閻魔大王と契約する陰陽道の秘技・泰山府君の祭によって自身の輪廻転生を意のままにすることができ、本編より500年前のシャーマンファイトにも参加していた。今生は葉の双子の兄として転生を果たしたが、生まれた瞬間にハオを殺そうと待ち構えていた麻倉家当主・葉明と葉の父・幹久の包囲を突破して逃走した。

霊がテーマでもホラーではない、ユニークな設定を王道マンガの手触りで楽しめる異色作

 本作の大きな特徴は、何といってもそのテーマの独自性だ。霊能力を持ったシャーマンという存在をメインとしながら、ホラーではなく他のジャンプ作品と比べても遜色のない少年バトルマンガとなっている。シャーマンファイトが始まる前は「憑依合体」という、阿弥陀丸のような侍や、銀幕カンフースターの師匠である拳法家など、ある技術に特化した故人の霊を自身に憑依させ、そのスキルを引き出すという戦い方を描いていた。

 シャーマンファイトでは自身が扱う人間霊や精霊=持霊(もちれい)を、武器や霊に縁のある物体に憑依させ、それをシャーマンの能力で具現化する「オーバーソウル」という手法を用いて戦うようになった。霊をテーマとするマンガ作品は数あれど、この設定のユニークさは他に類を見ない。少し見方を変えればシャーマンと霊のバディものとしての側面もあり、これは同じく人間と異なる存在の友情や絆を描くことが多いホビー系作品に造詣が深い、武井氏ならではのアイデアなのではないかと思わされる。

 前述の主人公らしからぬ主人公・麻倉葉のパーソナリティを含め、それまでありそうでなかった唯一無二の設定を散りばめた物語を、王道少年マンガの手触りで楽しめる……この一風変わった魅力が「シャーマンキング」という作品の醍醐味だろう。

「やったらやり返される」憎しみの連鎖を断ち切るためのメッセージ

 冒頭にも記した通り、筆者の生き方に影響を与えた本作の魅力は数え切れないほどあるのだが、その中でも特に言及したいのは「やったらやり返される」という本編中盤あたりから登場したメッセージだ。

 シャーマンファイト本戦もひと段落着いた頃、殺人という罪を犯した過去を持つ蓮やチョコラブが、そのツケを払わされるようなエピソードが連続する(これらの出来事をきっかけに“死後の世界”についても物語が展開していくのだが、それはまた別の話)。その解決のため動いた葉がたびたび発していたのが、この「やったらやり返される」というセリフである。

 その機微についてはぜひ本編を読んでいただきたいところなのだが、ざっくり言い表すと「目には目を、歯には歯を」の応酬が続く世の中で、憎しみの連鎖を断つにはどこかで誰かがこらえるしかない……といった意味合いだ。これが連載当時、ひとりのファンとして本作に触れていた筆者の心に強く刺さった。マンガの紹介記事でこういう話をするのもどうなのかと我ながら思うのだが、「シャーマンキング」という作品を読む上で、このように武井氏が作品を通して読者に伝えようとするメッセージの数々を理解・共感できるか否かにより、評価が大きく変わるところはあるだろう。ともすれば、そういう意味でもちょっと“スピリチュアル”な作品なのである。

葉とアンナの子・麻倉花を主人公とした続編が8月24日から連載再開

 本作は完全版で葉たちのシャーマンファイトを描き切った後、葉とアンナの子ども・麻倉花を主人公とする続編「シャーマンキングFLOWERS」が集英社「ジャンプ改」にて月刊連載されていた。しかしジャンプ改は2014年10月に休刊し、それにともなって同作も一旦は連載が終了する形となった。

 講談社に移籍してからは2018年に「シャーマンキング20周年記念サイト」がオープンし、シリーズの新章となる「SHAMAN KING THE SUPER STAR」が同社の「少年マガジンエッジ」にて連載開始。以降は人気キャラクターたちを主軸とした外伝「SHAMAN KING レッドクリムゾン」、「SHAMAN KING マルコス」、「SHAMAN KING &a garden」、「SHAMAN KING FAUST8 永遠のエリザ」が講談社の各媒体にて発表された。

 「シャーマンキング」直流の続編となる「SHAMAN KING THE SUPER STAR」は、掲載雑誌の少年マガジンエッジが残念ながら2023年11月で休刊となったことで連載がストップしているが、2024年8月24日からマンガアプリ「マガジンポケット」にて再開の予定となっている。新たに武井宏之ワールドに触れるにはキリのいいタイミングなので、気になった方はこの機会にぜひチェックしてみてほしい。